ロボットと人が関わるスマートな社会の拡大に向けて|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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ロボットと人が関わるスマートな社会の拡大に向けて

生活支援ロボットの普及に向けた取り組みとその意義 #03
 本特集では、神奈川県が実施する「新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」の成果を周知し、今年度の取組内容についてお伝えすることを目的とし、全4回にわたり連載する。

 この事業は、令和3年度から開始し、令和4年度も継続して実施している事業である。事業名からもわかる通り、この事業では、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に資するロボットの実証に留まらず、実装を目的として実施している。令和3年度には、ロボット実装のモデルケースを創出することに成功し、モデルケースを創出する際に得たロボット実装の知見を手順書としてまとめて公開している。令和4年度も継続して事業を実施し、ロボットの実装と普及に継続的に取り組んでいる。

前回コラムでは、神奈川県の「令和3年度新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」から、ロボット導入の成功の秘訣、そこで生まれる人とロボットの関係性、更には人と人との関係性などを詳細に追った。ロボット導入現場では、様々な工夫や細やかな気遣いが随所に見られ、それらは全て手順書としてまとめられている。今年度は、そこで得た知見(手順書)を広く普及させていきたいと考えている。

今年度も、神奈川県では、昨年度に引き続き、実装支援事業者(NTTデータ経営研究所)とともに、「令和4年度新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」を実施している。今年度実施する事業の注目点に触れていきたい。

本事業における神奈川県の想いとは

神奈川県では、2013年から「さがみロボット産業特区」で生活支援ロボットの実用化や普及の促進に取り組んできた。現在の取組は、「さがみロボット産業特区」の第2期にあたり、2013年から2017年の第1期の取組を拡充する位置づけとなっている。

事業を推進する神奈川県産業労働局産業部産業振興課の長沢恒課長に、昨年度の成果や今年度事業に対する想いについてお話を伺った。(インタビュアー:日刊工業新聞社 青柳記者)

-新型コロナ対策として2021年度、医療機関で実施した生活支援ロボット導入実証の手応えはいかがですか。
 長沢課長 やる気のある施設とタッグを組むことができ、大きな成果があった。実証フィールドとなった徳洲会湘南鎌倉総合病院は組織全体がロボット活用に前向きだった。こうした実証事業では一部の人だけが積極的で現場に意図が浸透しきれず、成果に結びつかないケースも多い。その点、同病院は企画部門から医療従事者、バックアップ部門まで全職員が問題意識を持ち、生活支援ロボットによる院内感染防止と業務負担軽減の可能性を真剣に追い求めてくれた。

-コロナ禍で“医療崩壊”が懸念される状況もあり、医療関係者から少なからず注目を集めたのでは…。
 長沢課長 実際に県外の大学病院から依頼があり、ロボット実証の様子を見てもらった。そのほか医師が個人的に見学に来たこともある。活躍の舞台は医療機関に限らないが、湘南鎌倉総合病院で得られた成果をまとめた生活支援ロボット導入の「手順書」を、まずは医療機関に活用してもらう。県のホームページで公開するとともに、手順書に基づく医療機関向けのロボット導入セミナー開催も計画している。

-2年目の2022年度は対象を不特定多数が利用する鉄道の駅や大規模小売店、宿泊・レジャー施設などに広げ、導入実証事業を継続します。
 長沢課長 この事業は安全・安心な社会生活に役立つロボットやIoT(モノのインターネット)機器を多くの施設で活用してもらい、それによってロボット産業のすそ野を広げるのが狙い。取組を継続することが、県内中小企業にとってロボット産業参入のきっかけになっていく。コロナ禍が落ち着いてポストコロナ・ウィズコロナの時代になっても、非接触・遠隔の重要性が変わることはない。案内、移動支援、搬送、清掃、コミュニケーションなど人々の生活を支援するサービスロボットが、産業用ロボットに続く一大ビジネスになると確信している。

神奈川県 産業労働局 産業部産業振興課 長沢恒課長

ロボットの実装施設拡大に向けて

今年度も昨年度に引き続きロボット実装事業に取り組んでいる。今年度は、昨年度より更に実証施設の件数を増やし、合計10件程度の実証を行うべく、施設募集と選定のプロセスを進めている。(記事執筆時点)

コロナ対策へのロボット活用はもちろんのこと、アフターコロナを見据えると、高齢化社会を背景とする人材不足や高齢者でも働きやすい環境をロボットによって整備することは重要な課題の1つであると言える。今年度の事業では、医療機関だけに留まらず、駅や商業施設、介護施設など、多くの業種の施設で導入実証に取り組みたいと考えている。

施設の選定後は、昨年度と同様、選定した施設と相談しながら、施設の持つ課題を特定し、課題を解決するロボットやIoTの募集を行う予定である。昨年度も多くのロボット事業者に応募いただいたが、今年度も多くの事業者から応募いただき、事業を共に進めていきたいと考えている。

今年度事業における施設選定後のスケジュールやその他詳細については、現在神奈川県及びNTTデータ経営研究所のHPにて公開しており、是非ご参照いただきたい。

施設選定後のスケジュール
■神奈川県「令和4年度新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/jisso.html
■NTTデータ経営研究所「令和4年度新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」
https://www.nttdata-strategy.com/kanagawa_robot_pj_2022/

手順書の更なる普及のために

今年度は、昨年度の事業成果である手順書を広く周知していくことも重要な取組であり、ロボットの導入検討を行う施設向けのセミナーやロボット関連事業者が多数出展する展示会を有効活用していきたいと考えている。

昨年度は、2022国際ロボット展に出展することで事業のPRを行った。この展示会は、2年に1度開催される世界最大規模のロボット関連の展示会であり、2022年の来場者は約63,000人にも上った。この事業で出展したブースにも多くの方が訪れ、医療機関で働くロボットの最前線を体感していただいた。また、県内事業者振興の取組の一環として、事業に参加したロボット事業者と県内事業者の交流会も開催し、ロボット関連事業者の裾野を広げる取組も行い、こちらも盛会のうちに終了した。

2022国際ロボット展の交流会の様子

今年度も引き続き、手順書を医療業界関係者やその他多くの方に触れていただく機会を構想している。

7月には、医療機関向けロボット導入セミナーの開催を予定している。昨年度事業に参加した湘南鎌倉総合病院の方もパネルディスカッションに登壇し、ロボット導入の成功秘話はもちろんのこと、ご苦労などの本音も語っていただく機会を設けたいと考えている。また、年度末頃には、今年度事業の成果報告のためのセミナーの開催も検討している。ご関心の多くの方にご参加いただきたいと考えている。

また、10月に東京ビッグサイトで開かれるJapanRobotWeek2022(主催:日刊工業新聞社及び日本ロボット工業会)への出展も検討している。サービスロボットを中心にロボット導入に向けた商談・技術交流ができる展示会は事業の成果周知にはうってつけであろう。前述のセミナーと併せてこちらも数多くの方にご来場いただきたい。(NTTデータ経営研究所ビジネスストラテジーコンサルティングユニットシニアコンサルタント・新田 祐己)

特集・連載情報

生活支援ロボットの普及に向けた取り組みとその意義  -神奈川県がロボット導入の手順書を公開-
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神奈川県では、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に資するロボットの実装を目的とする「新型コロナウイルス感染症対策ロボット実装事業」を令和3年度より実施しています。昨年度はロボット実装のモデルケースを創出し、その際に得た知見を手順書にまとめ公開しました。本年度も、ロボットの実装と普及に向け継続的に事業に取り組みます。その動向を4回にわたり連載します。

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