紫外線で水溶化するスゴいナイロン新素材は海洋プラゴミ問題を解決するか
北陸先端科学技術大学院大学の金子達雄教授、海洋研究開発機構の若井暁副主任研究員、島津製作所などのグループは、紫外線を受けると水溶性になり微生物分解するナイロン新素材を開発し、分解特性を明らかにした。プラスチック使用時の強度は高く、原料は製紙工場の廃棄物を微生物発酵したバイオ素材だ。生態系に悪影響を及ぼす海洋プラスチックゴミ問題の解決に向けて注目される。
これは神戸大学の川口秀夫特命准教授の技術で、紙パルプの産業廃棄物を微生物発酵させて作るイタコン酸が使える。北陸先端大がイタコン酸とヘキサメチレンジアミンでモノマーを作り、五角形のピロリドン骨格を持つナイロンポリマーを開発した。射出成形でき靱(じん)性が高い。さらに今回は海洋機構が、島津製作所の質量分析などを活用して評価した。
新素材は吸水性が低く安定しているが、海水中で自然光に暴露すると2週間で水溶化した。五角形の構造が崩れ疎水性から親水性に変わり、微生物が食べられる状態になる。
さらに生物化学的酸素要求量(BOD)試験で、ポリマー水溶化後のオリゴマーが、微生物の酸素呼吸に使われてなくなり、二酸化炭素になることを確認。この分解微生物の菌株も明らかにした。
漁網や釣り糸など従来のナイロン繊維の漁具は、流出・投棄の後も強度があり水生生物に絡みつく「ゴーストフィッシング」が起こる。またポリスチレンやポリプロピレンなども水になじまず、風化で細かくなり生物が誤食する問題がある。
そのため使用後に、光や塩などの刺激に応答して分解する材料が模索されている。新素材は農業資材、被覆繊維などにも活用が期待できそうだ。
日刊工業新聞 2022年5月12日