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「酸化ガリウム」研究開発に先鞭を付けたNICTが予想する半導体デバイスの未来

「酸化ガリウム」研究開発に先鞭を付けたNICTが予想する半導体デバイスの未来

無線通信向け高周波酸化ガリウムトランジスタ実現により、IoTの普及が見込まれる極限環境の代表例(NICT提供)

酸化ガリウムは、情報通信研究機構(NICT)が2011年に電力変換を担うパワーデバイス応用に向いた材料特性に目を付け、その研究開発に先鞭(せんべん)をつけた材料である。パワーデバイス材料候補の半導体は、非常に強固な原子間の結合を有する傾向がある。

この特徴は、放射線や機械的ストレスに高い耐性を持つ堅牢な材料であるとも言える。ほかにも、数百度にもなる高温でさえ周辺環境の熱エネルギーに擾乱されることなくデバイス動作が期待できる。さらに酸化物であるため化学的にも安定である。このように、端的に言えば “頑丈”な酸化ガリウムデバイスは、パワーデバイス用途だけでなく、極限環境と呼ばれる非常に過酷な環境でも活きてくる。

さまざまな分野で活用される半導体デバイスは、著しい性能劣化が生じ、継続的な使用が不可能となる過酷な環境においても、そのニーズを高めている。航空機や自動車のエンジンとモーター周辺の高温環境で、その場で状況を判断し、制御と通信が行えれば、一層の省エネ化と信頼性向上につながる。石油化学業界では、300度C近くになる掘削装置周辺の環境を評価し、通信できるセンサーを必要としている。

また、放射線の飛び交う原子炉や宇宙空間で、遮蔽(しゃへい)不要な小型機器でのモニタリングと通信は、到来するグリーン時代と宇宙進出の喫緊の課題である。これら高温や化学物質、機械的ストレスに曝される環境でこそ、“頑丈”な酸化ガリウムデバイスの活躍が期待される。

NICTでは、20年に、酸化ガリウム高周波電界効果トランジスタが、10ギガヘルツ(ギガは10億)程度までの周波数で利用可能であることを初めて実証した。1―10ギガヘルツは、衛星放送、携帯電話、無線LANなど、現在最も広く利用されている周波数帯であり、波長が10センチメートル程度と小型のアンテナで通信が可能なため、センサーなどの小型IoT(モノのインターネット)機器の通信に適している。

この成果の更なる進展により、従来の半導体デバイスにとっての限界であった極限環境を乗り越え、新たなるフロンティアへ半導体デバイスが展開する未来が予想される。

未来ICT研究所小金井フロンティア研究センターグリーンICTデバイス研究室主任研究員 上村崇史

06年阪大院基礎工学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会PDなどを経て13年にNICT入所。14年より現職。酸化ガリウムパワーデバイス、極限環境無線通信デバイスの研究に従事する。博士 (工学)。
日刊工業新聞2022年3月29日

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