SDGs推進で新制度、東証「プライム市場」企業に求められる情報開示の中身|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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SDGs推進で新制度、東証「プライム市場」企業に求められる情報開示の中身

SDGs推進で新制度、東証「プライム市場」企業に求められる情報開示の中身

地球温暖化で台風や豪雨が増え、洪水などの自然災害が発生しやすくなっている(19年10月、埼玉県越谷市)

2022年は持続可能な開発目標(SDGs)の達成を後押しする新しい制度が次々と始まる。ゴールの30年まで残り8年となり、制度面からも経済や社会に変革を迫る。そこで注目の新制度を3回シリーズで紹介する。初回は気候変動から受けるリスク情報の開示。22年4月、東京証券取引所の最上位市場「プライム市場」に上場する企業には気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言と同等の情報開示が求められる。

ESG(環境・社会・企業統治)情報の開示を支援するサステナビリティ日本フォーラムの会員は、TCFD提言に沿った“模擬開示”に取り組んだ。上場企業の担当者らは、高級チョコレートメーカーのDariK(ダリケー、京都市北区)の社員になったつもりで開示内容を検討。前提として産業革命前からの気温上昇を1・5度C未満に抑制できた世界、3度C以上上昇した世界の2通りを設定した。

1・5度C未満の世界では温室効果ガス排出規制が強まると予想される。チョコレート原料のカカオはバイオ燃料船や電動車両で輸送するため、調達コストが上昇する。そこで参加者は輸送を省くことが対策になると考え、カカオ産地の東南アジアに高級チョコレートの市場を創出する戦略を提案。輸送の排出削減とコスト低減を実現し、ダリケーは新市場に進出できる。3度C上昇すると天候不順となってカカオ栽培が難しくなるリスクを想定し、「代替カカオを開発する」といった対策が練られた。

企業のCSR活動を支援する川北秀人IIHOE代表は発表を見守り、「TCFD提言を道具としてどう使いこなせばよいのか。これを体感的に理解するために開いた。改善の余地を残しながらも、期待通りの成果を上げた」と評価した。

TCFD提言は企業が気候変動が進んだ将来を予測し、影響と対策を開示する枠組みだ。TCFDは、主要国の金融当局が参加する金融安定理事会が15年に発足させた作業部会。自然災害が企業経営にダメージを与えており、温暖化を放置すると経済危機が起きると懸念し、17年に提言を公表した。主に温暖化対策強化による費用負担の「移行リスク」と、自然災害被害の「物理リスク」を明らかにする。投資家は開示内容を精査し、異常気象の脅威にさらされても成長できる企業かどうかを判断する。

欧米では気候リスク情報の開示を義務化する動きがある。日本でも21年にコーポレートガバナンス(企業統治)コードが改訂され、22年春に新設される東証のプライム市場に上場する企業にTCFD提言と同等の開示を求める。気候情報開示の実質的な義務化だ。

政府の動きに先行して開示する企業が増えている。リコーは9月、「TCFDレポート」を発刊した。その開示情報によると、二酸化炭素(CO2)排出量に応じて費用負担するカーボンプライシング(炭素の価格付け)の導入によって調達コストが上昇して「中程度(数十億―500億円)」の財務影響が発生する。また、主要拠点が風水害に見舞われる財務リスクも中程度と見積もった。

旭化成の小堀秀毅社長も11月末の説明会で気候リスク情報を問われ、カーボンプライシングがコストアップになるとの見通しを示した。一方で「規制が多くなるとビジネスチャンスも増える」とし、排出を抑制する製品開発に力を入れると強調した。

経営者にとって気候リスクの検討は、長期戦略を議論する契機となる。また、対策の発信によってリスクを乗り越えて成長する姿を社会に示せる。

気候リスク情報の開示は、気候変動対策と経営戦略の一体化を進める。

インタビュー/東京海上HDフェロー・長村政明氏 ESG開示基準、集約の動き

上場企業の多くが開示の準備に追われる中でTCFDは10月、具体的な開示を求める改訂指針を公表した。TCFDメンバーである東京海上ホールディングスの長村政明フェローに開示への助言や国際動向を聞いた。(編集委員・松木喬)

―気候リスク情報は経営戦略への活用も求められています。
 「開示は大切だが、TCFD提言は経営の“構え”そのもの。しっかりと取り組むことで企業価値を高め、投資を呼び込める。サステナビリティー部門だけで対応せず経営者、あらゆる事業部門、財務部門の参加が求められる。そして、事業活動のあらゆる部分に織り込むべきだ」

東京海上HDフェロー・長村政明氏

―将来予測が難しい項目もあります。
 「開示に必要な情報を入手しづらく、フラストレーションがたまる。しかし単年度ではなく、何年もかけて完成させていけば良いと思う。情報の読む側の投資家もここ数年は“学習期間”だろう」

―国際的な動きは。
 「企業同士の比較可能な情報を求める声がある。また、ESG開示基準が無数に存在し、企業の負担が増えている課題もある。そこで国際会計基準(IFRS)財団が11月、標準基準を議論する国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を発表した。既存基準が集約に向かうとしており、地殻変動を感じる。しかもISSBは来年には基準案を発表するとしており、周到な計画で進んでいる印象を受ける」

―TCFDは開示指針が改訂され、七つの指標が出されました。
 「投資家は気候変動の財務への影響を知りたいが、すぐに開示できる企業は少ない。そこで財務影響を導く有益な項目として七つの指標が出た。この七つは業種横断であり、どの業界に属する企業でも開示する」

―指針への対応は。
 「すぐに開示の必要があるというわけではない。ただ、指針をたたき台としてISSBが標準基準を検討することになるだろう。いずれ投資家も指針に沿った開示を求めるだろうし、企業は備えておくべきだと考える」

日刊工業新聞2021年12月10日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
太陽光パネルや電気自動車を購入、ボイラーの改修など、温暖化対策を考えると出費が多いと思います。30年46%減から想定すると何をそろえたら良いのかみえてきそうです。TCFD提言は上場企業に開示を求めていますが、中小企業も使えるツールと思いました。来週はプラスチック資源循環促進法を紹介します。

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