大企業を中心に広がる「ジョブ型雇用」、懸念される労使の齟齬
自己啓発の実施率低く
日本型雇用制度を見直す動きや、コロナ禍を契機としたテレワークの普及に伴って、欧米で主流のジョブ型雇用が注目されている。日本で主流のメンバーシップ型とは異なる新たな雇用形態として、大企業を中心に広がる。一方で日本生産性本部は、関連するアンケートを実施。ジョブ型の認識をめぐる労使の齟齬(そご)を懸念している。(編集委員・池田勝敏)
日本生産性本部が7月実施した「働く人の意識に関する調査」では、「同じ勤め先で長く働き、異動や転勤の命令があった場合は受け入れる」をメンバーシップ型とし、「仕事内容や勤務条件を優先し、同じ勤め先にはこだわらない」をジョブ型として、どちらを希望するか聞いた。メンバーシップ型が33・7%、ジョブ型が66・3%となり、ジョブ型希望が多数派を占めた。
次いで、働く上での三つの限定条件、(1)「仕事の内容の限定」、(2)転勤がないといった「勤務地の限定」、(3)残業や休日出勤がないといった「勤務時間の限定」について、優先順位を回答してもらった。重要度1位が最も多かったのは「仕事の内容の限定」で「勤務地の限定」、「勤務時間の限定」と続いた。
さらに、「仕事の内容の限定」を重要度1位に選んだ人に、自己啓発の実施状況を聞いたところ、メンバーシップ型希望の人で、「行っている」と答えた人は22・0%だったのに対し、ジョブ型希望の人は13・4%だった。また、伸ばしたいスキルや能力があるか聞いたところ、メンバーシップ型希望の人で、「ある」と答えた人は46・8%だったのに対し、ジョブ型希望の人は26・8%だった。
「ジョブ型希望の方が割合が多くなるだろうという仮説を立てていたが実際は逆だった」と話すのは柿岡明上席研究員。結果からは、ジョブ型希望の方が自己啓発の実施率が低く、スキルや能力を取得する意欲が弱いことがうかがえる。
調査リポートではこの結果について「『仕事内容を限定することで専門性を高めて生産性向上につなげる』という企業の期待と裏腹に、自らの能力を高めようという意欲が必ずしも高くない」と分析する。柿岡氏は「企業が期待するジョブ型の雇用者像と雇用者の意識が一致していない」と指摘した上で、「欧米型の制度をそのまま単純に導入するのは危険だということを示唆している」と警鐘を鳴らす。