本格参入1年、「楽天モバイル」が犯した失態とこれからの課題|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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本格参入1年、「楽天モバイル」が犯した失態とこれからの課題

本格参入1年、「楽天モバイル」が犯した失態とこれからの課題

三木谷浩史楽天会長兼社長(左)、増田寛也日本郵政社長(3月12日の提携会見=東京都千代田区)

楽天モバイルが「第4の事業者」として携帯通信サービスに本格参入してから1年となった。低料金を武器に当面の目標だった契約申し込み数300万回線を達成した一方、自社回線エリアは大都市圏に集中し、都心でも屋内や地下ではつながりにくいなど通信品質に課題を残す。2年目は基地局建設を急ピッチで進めつつ、楽天グループの他サービスとの連携を強化し、通信料値下げによる収益面への影響を補えるかが問われる。(苦瓜朋子)

物流・金融強みに販売・サポート拠点増

「日本の産業界にとって歴史的な1ページになる」―。3月、楽天グループ(当時は楽天)の三木谷浩史会長兼社長は胸を張った。日本郵政が楽天の第三者割当増資を引き受け、約1500億円を出資する資本業務提携に合意。両社は物流や金融などで相乗効果を追求する方針だ。

楽天グループにとっては、携帯通信事業への波及効果も期待できる。郵便局の屋上などに通信の基地局を設置するほか、郵便局内に楽天モバイルの申し込みカウンターを設置する計画。楽天モバイルの店舗数は1月時点で全国約600にとどまるものの、郵便局は全国に約2万4000局ある。楽天モバイルは出店コストを抑えつつ、販売やサポートの拠点を増やせる。

折しも、楽天モバイルは料金面での攻勢もかけていた。1日から、使ったデータ量に応じて課金する「楽天アンリミットVI」を投入。月間データ量1ギガバイト(ギガは10億)までは無料とした。同20ギガバイトならば、携帯大手3社の割安な新プランより500―700円程度安い1980円(消費税抜き)。1月に楽天アンリミットVIを発表した三木谷楽天グループ会長兼社長は「全国民に最適なワン・プランだ」と豪語した。

この新プランは話題を呼び、3月には楽天モバイルの累計契約申込数が300万回線を突破。2020年末までに300万回線という従来の目標は未達に終わっていたが、巻き返した格好とも言え、楽天モバイルの勢いが加速する可能性もある。

通信品質向上が不可欠、“楽天経済圏”全体でもうける

一方、楽天モバイルは失態も多い。これまで通信障害や個人情報漏えいなどで総務省から7回もの行政指導を受けた。「延々と続くようであれば、通信事業者としての資格を失いかねない」(横田英明MM総研常務)。

当面の目標だった契約申し込み数300万回線を達成

今後の最大の課題は通信品質の向上だ。楽天モバイルによると、自社回線エリアは東京、大阪、名古屋の大都市圏が中心となり、地方で使えるのは県庁所在地など一部。また、エリア内でも屋内や地下でつながらない場合もある。

楽天モバイルは3月末時点で80%だった人口カバー率を今夏までに96%へ引き上げる計画。通信品質の向上や利用者増を織り込み、設備投資額は当初予定の6000億円から3―4割上振れる見通しを示す。日本郵政や中国・騰訊(テンセント)子会社などから第三者割当増資で総額2423億円を調達し、基地局投資にあてる。

大手3社並みには一層の投資が必要

楽天モバイルは携帯通信事業を23年度に黒字化する計画だが、料金引き下げで黒字化が遠のく懸念もある。ただ、三木谷楽天グループ会長兼社長は「解約率も下がるので黒字化のタイミングは変わらない」とする。

同社に求められるのは、“楽天経済圏”全体でもうける仕組みの強化だ。通信業界では通信料の値下げが進展し、非通信事業を拡充する重要性が増しつつある。電子商取引(EC)大手である楽天グループは、通信と非通信事業の融合というビジネスモデルの有用性を証明できるかも問われている。

大都市圏中心となっている自社回線エリアの地方への拡大が急務(ドローンを使った基地局検査)

【インタビュー】楽天モバイル副社長・矢沢俊介氏

楽天モバイルで基地局建設を統括する矢沢俊介副社長に、1年の総括や今後の方針などを聞いた。

―参入1年目をどう評価しますか。

「顧客獲得は順調だ。他社も魅力的な料金プランを出したが、利用者が携帯料金を意識する契機となり追い風になった。特に2020年末から21年の初めにかけてエリアを広げ、足元では1日に100局前後の基地局が開通している」

―日本郵政との協業に期待することは。

「店舗への貢献が大きい。(自社の販売チャンネルは)オンライン中心に展開していたが、顔を見て相談したいとの声も多かった。郵便局内に申し込みカウンターを設置し、専門的な説明が必要な場合は、自社社員がオンライン対応することを検討している」

―大手3社は新料金プランをオンライン専用としました。今後の販売店戦略は。

「仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスの店舗を引き継いでやってきたが、今年は積極的に増やす。直営店ならば自社社員がクレジットカードなどの案内もできる。代理店を活用しながら自前の店舗網も拡充する」

―法人向けのプランは計画していますか。

「問い合わせが多いので検討している。個人向けと同じく、わかりやすくシンプルにするつもりだ。『楽天市場』の出店者や『楽天トラベル』の宿泊施設など、中小企業にも喜ばれるものにしたい」

【私はこう見る】MM総研常務・横田英明氏

加入者数300万人を達成し、大手3社の新プランより一段と低い料金を出してきたことは評価できる。一方、屋内でつながりづらいなどネットワーク面の改善点は多く、市場への影響力は限定的だ。1年目は新参者として許されたが、2、3年で肩を並べることが求められる。また、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」を取り扱うことも重要。早ければアップルが最新モデルを発表すると予想される秋までに、既存端末の取り扱いを始めるかもしれない。ただ、この時期に親会社の楽天(グループ)が中国テンセント系から出資を受けたことには疑問が残る。米中貿易摩擦の動向を気にするであろうアップルがどう動くか注視が必要だ。(談)

SBI証券企業調査部シニアアナリスト・森行真司氏

割安な新プランにより、自社の仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスの利用者を取り込みやすくなる。加えて、キャンペーンなどの販促費を抑制でき、解約率の減少も見込まれる。こうしたメリットの方が、単価が下がるデメリットよりも大きい。そもそも楽天グループがモバイルに参入したのは、他サービスへの送客のためだ。既存顧客の多い大都市圏を中心に基地局整備を進めており、地方はそれなりだ。数年かけて大手3社並みの水準とするのだろうが、短期的には難しい。大手3社とMVNOの中間の存在として、多少通信品質が落ちても料金重視の利用者を選べばいい。目指すところが大手3社とは異なるため、別軸で評価すべきだ。(談)

日刊工業新聞2021年4月13日

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