今日まで開催「鍛圧機械の祭典」、人手不足の現場を先端技術で支える
プレス成形や板金加工といった金属加工業を取り巻く環境が大きく変化している。少子高齢化や人手不足をはじめ日本の社会問題が製造現場にくっきりと影を落とす。熟練者に頼らず経験不足や体力のない人でも安全で品質、精度、効率に優れる仕事ができる職場、技術がこれまで以上に求められる。米中の対立などに起因した景気の減速感も広がりつつある。こうした政治経済や社会の転換期だからこそ、ユーザーは鍛圧機械の技術動向をしっかりと観察する必要がある。現場で役立つ先端製品・技術を探る。
プレス機械は高生産性、工作機械は精度の高さがそれぞれ大きな特徴だ。プレス機はサーボモーター駆動のサーボプレス機の性能が高まり、高度な金型技術との融合で、工作機械を使った加工を置き換える工法転換が進んでいる。
アマダオリイ(神奈川県伊勢原市)はSUBARU(スバル)と変速機のヘリカルギア(はすば歯車)の加工時間を従来比75%削減、総コストを同30%削減するプレス工法の開発に成功した。これまでヘリカルギアは工作機械で削り出すことが多かった。
新工法「フルードパルス鍛造」は、中空円柱の材料を入れた金型内を油で満たし、「(中空部にたまった)油を金型代わりにする」(坂木雅治アマダオリイ社長)。アマダオリイのプレス機独自の振動を与えるようなパルスモーションで成形し、中空の穴径を細めることなく外周の上下端が整った仕上がりになる。
アイダエンジニアリングの精密プレス機「UL」は10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下の高精度の成形ができる。
成形後に工作機械による仕上げ加工をなくせるほどの精度の高さだ。プレス成形だけで最終製品の形状に仕上がるネットシェイプのプレス機で、ユーザーと共同で取り組んだ成果ではシートベルト部品の生産能力を月5万個から同50万個に引き上げ、材料使用量を月当たり3・8トン削減した。
ULシリーズは、2018年度の受注高が14年度比2・1倍の52億円とヒット商品に育った。加圧能力1000トン以下までの品ぞろえを中期で同2500トンまで拡充していく。
板金機械加工は工作機械の加工に比べ、人が介在する要素が多い。曲げ加工や製品仕分けなどを自動機器に置き換える技術提案も盛んだ。
三菱電機は18年にスイスの自動機器メーカーを子会社化し、レーザー加工直後の製品仕分けを自動化するスイス社製の「アステス4」の販売を始めた。材料重量2トン、板厚25ミリまでの厚板に対応する。材料取り上げ用の吸着パッド、マグネットを装備し、材料の種類や形、厚さなどからソフトウエアが適切なハンドを選ぶ機能を持つ。
アマダホールディングス(HD)は曲げ加工の自動化、省人化に向けた曲げ加工システムを開発した。曲げ加工機、自動金型交換装置と7軸多関節ロボットを融合させた。
段取りや加工をシステムに任せ、空いた時間に小寸法の精密製品を人が座ったまま曲げられる「EG4010」など3台の加工機を操れる。労働力不足の中での効率化のほか、座ったまま作業ができる曲げ加工機は働く人の負荷を軽減する狙いもある。
座ったまま曲げ加工ができる装置は欧州大手が先行し、ヒット商品になった。国内ではアマダHDのほか、村田機械が開発し1日に販売を始めた。同社の「BB306アドバンスドバージョン」は機械幅を従来機比約35%減の1515ミリメートルにし、いすに座って作業できる。材料や加工途中の製品を一時的に置ける作業テーブルを装備している。
ヤマザキマザックは小径パイプの量産加工に向けたファイバーレーザー加工機「FT―150 FIBER」を開発した。パイプ材を置くと1本ずつ機械内に投入・搬出する新開発の装置(バンドルローダー)を搭載し、長時間にわたり無人で稼働する。
生産性、省エネルギー性に優れるファイバーレーザー加工機の誕生以降、レーザーは板金機械の最重要技術の一つになった。ファイバーは薄い金属板向けとの当初の位置付けから、二酸化炭素(CO2)レーザーによる厚板加工へと領域が広がってきた。レーザー出力は上がり続け、10年頃は数キロワットが一般的だったが、現在10キロワット超も目にする。中国では25キロワットのファイバーも出現した。
高出力化がこのまま続くと見るか、ここで収れんすると見るかは国内大手で意見が分かれる。三菱電機は「ファイバーの高出力化の流れに市場を見ながら対応していく」(氷見徳昭執行役員)と今後の高出力化を意識する。一方、ヤマザキマザックは「高出力化競争は10キロワット程度で止まるのではないか」(中西正純常務執行役員)と高止まりを指摘する。
発振器開発をめぐっては、アマダHDが「(自社開発の発振器は)差別化ポイントであることが薄れていく」(岡本満夫会長兼最高経営責任者〈CEO〉)と分析する。各社の発振器技術の開発が急速に進み、成熟してきたためだ。同社は発振器そのものではなく、発振器から出たレーザー光の制御技術に重点を置くようになった。
ヤマザキマザックも「光源の進化に依存するのではなく、加工対象に合わせてビームの形状や出し方を変え、いかに加工品質を上げていくかだ」(中西常務執行役員)と、制御技術の開発を強化する考えだ。
アマダHDの最新の光制御技術が「軌跡ビームコントロール(LBC)テクノロジー」だ。LBC搭載のファイバーレーザー加工機「VENTIS―3015AJ」を国内投入した。
金属の材質、板厚に応じ、最適な軌跡を描くようレーザー光を制御する。ステンレス、アルミニウムの切断は従来比2倍を超える高速切断が可能になり、加工コストは半減するという。上面と下面にかけて傾斜が少なく、溶融物の付着のない品質の高い加工に向く。
三菱電機もこの春、人工知能(AI)を活用したファイバーレーザー加工機「GX―Fシリーズ」を発売した。同社初の自社製新型レーザー発振器を搭載。同社のAI技術「マイサート」で加工の音や反射した光などから最適な加工条件を割り出し、反映させる。これらの機能により生産性は従来機に比べ20%向上するという。
<関連記事>
●世界2位の超硬切削工具メーカーが日本市場に切り込む
●DMG森精機が中国で大型マシニングセンターの生産を始めるワケ
(文=六笠友和)
プレス機械は高生産性、工作機械は精度の高さがそれぞれ大きな特徴だ。プレス機はサーボモーター駆動のサーボプレス機の性能が高まり、高度な金型技術との融合で、工作機械を使った加工を置き換える工法転換が進んでいる。
アマダオリイ(神奈川県伊勢原市)はSUBARU(スバル)と変速機のヘリカルギア(はすば歯車)の加工時間を従来比75%削減、総コストを同30%削減するプレス工法の開発に成功した。これまでヘリカルギアは工作機械で削り出すことが多かった。
新工法「フルードパルス鍛造」は、中空円柱の材料を入れた金型内を油で満たし、「(中空部にたまった)油を金型代わりにする」(坂木雅治アマダオリイ社長)。アマダオリイのプレス機独自の振動を与えるようなパルスモーションで成形し、中空の穴径を細めることなく外周の上下端が整った仕上がりになる。
アイダエンジニアリングの精密プレス機「UL」は10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下の高精度の成形ができる。
成形後に工作機械による仕上げ加工をなくせるほどの精度の高さだ。プレス成形だけで最終製品の形状に仕上がるネットシェイプのプレス機で、ユーザーと共同で取り組んだ成果ではシートベルト部品の生産能力を月5万個から同50万個に引き上げ、材料使用量を月当たり3・8トン削減した。
ULシリーズは、2018年度の受注高が14年度比2・1倍の52億円とヒット商品に育った。加圧能力1000トン以下までの品ぞろえを中期で同2500トンまで拡充していく。
加工機3台の操作容易に
板金機械加工は工作機械の加工に比べ、人が介在する要素が多い。曲げ加工や製品仕分けなどを自動機器に置き換える技術提案も盛んだ。
三菱電機は18年にスイスの自動機器メーカーを子会社化し、レーザー加工直後の製品仕分けを自動化するスイス社製の「アステス4」の販売を始めた。材料重量2トン、板厚25ミリまでの厚板に対応する。材料取り上げ用の吸着パッド、マグネットを装備し、材料の種類や形、厚さなどからソフトウエアが適切なハンドを選ぶ機能を持つ。
アマダホールディングス(HD)は曲げ加工の自動化、省人化に向けた曲げ加工システムを開発した。曲げ加工機、自動金型交換装置と7軸多関節ロボットを融合させた。
段取りや加工をシステムに任せ、空いた時間に小寸法の精密製品を人が座ったまま曲げられる「EG4010」など3台の加工機を操れる。労働力不足の中での効率化のほか、座ったまま作業ができる曲げ加工機は働く人の負荷を軽減する狙いもある。
座ったまま曲げ加工ができる装置は欧州大手が先行し、ヒット商品になった。国内ではアマダHDのほか、村田機械が開発し1日に販売を始めた。同社の「BB306アドバンスドバージョン」は機械幅を従来機比約35%減の1515ミリメートルにし、いすに座って作業できる。材料や加工途中の製品を一時的に置ける作業テーブルを装備している。
レーザー加工、制御に重点
ヤマザキマザックは小径パイプの量産加工に向けたファイバーレーザー加工機「FT―150 FIBER」を開発した。パイプ材を置くと1本ずつ機械内に投入・搬出する新開発の装置(バンドルローダー)を搭載し、長時間にわたり無人で稼働する。
生産性、省エネルギー性に優れるファイバーレーザー加工機の誕生以降、レーザーは板金機械の最重要技術の一つになった。ファイバーは薄い金属板向けとの当初の位置付けから、二酸化炭素(CO2)レーザーによる厚板加工へと領域が広がってきた。レーザー出力は上がり続け、10年頃は数キロワットが一般的だったが、現在10キロワット超も目にする。中国では25キロワットのファイバーも出現した。
高出力化がこのまま続くと見るか、ここで収れんすると見るかは国内大手で意見が分かれる。三菱電機は「ファイバーの高出力化の流れに市場を見ながら対応していく」(氷見徳昭執行役員)と今後の高出力化を意識する。一方、ヤマザキマザックは「高出力化競争は10キロワット程度で止まるのではないか」(中西正純常務執行役員)と高止まりを指摘する。
発振器開発をめぐっては、アマダHDが「(自社開発の発振器は)差別化ポイントであることが薄れていく」(岡本満夫会長兼最高経営責任者〈CEO〉)と分析する。各社の発振器技術の開発が急速に進み、成熟してきたためだ。同社は発振器そのものではなく、発振器から出たレーザー光の制御技術に重点を置くようになった。
ヤマザキマザックも「光源の進化に依存するのではなく、加工対象に合わせてビームの形状や出し方を変え、いかに加工品質を上げていくかだ」(中西常務執行役員)と、制御技術の開発を強化する考えだ。
アマダHDの最新の光制御技術が「軌跡ビームコントロール(LBC)テクノロジー」だ。LBC搭載のファイバーレーザー加工機「VENTIS―3015AJ」を国内投入した。
金属の材質、板厚に応じ、最適な軌跡を描くようレーザー光を制御する。ステンレス、アルミニウムの切断は従来比2倍を超える高速切断が可能になり、加工コストは半減するという。上面と下面にかけて傾斜が少なく、溶融物の付着のない品質の高い加工に向く。
三菱電機もこの春、人工知能(AI)を活用したファイバーレーザー加工機「GX―Fシリーズ」を発売した。同社初の自社製新型レーザー発振器を搭載。同社のAI技術「マイサート」で加工の音や反射した光などから最適な加工条件を割り出し、反映させる。これらの機能により生産性は従来機に比べ20%向上するという。
<関連記事>
●世界2位の超硬切削工具メーカーが日本市場に切り込む
●DMG森精機が中国で大型マシニングセンターの生産を始めるワケ
(文=六笠友和)
日刊工業新聞2019年7月31日