“出戻り”社員が会社を変える!積極採用する6社はどこだ!
即戦力かつ新しい刺激
転職や出産・結婚、介護などを機にいったん退職した人材を再び迎え入れる「カムバック採用」が企業の間で広がりつつある。人手不足が深刻化する中、以前の職場を熟知した人材は即戦力。また、ほかの職場などでの経験を生かすことで、企業としての多様性や柔軟性につなげる狙いもある。導入した企業に成果と課題を聞いた。
一度は退職した人を「出戻りキャリア」として積極的に採用する方針を決めたパナソニック。特段の人事制度は設けていないが、退職時に連絡先を聞き、ダイレクトメールを送るなどして社の情報を発信し続ける仕組みを構築する。
「変化を実現するには異分子がぶつかって化学反応を起こすことが必要だ」と話す代表取締役の樋口泰行専務執行役員自身も、かつて同社の退職を経験している。日本マイクロソフトの会長・社長を務めるなどプロ経営者としての経験を積み、2017年4月にパナソニックへ戻った。
18年4月に同社が買収したシフトール(東京都中央区)の岩佐琢磨最高経営責任者も、パナソニックを退職した1人。自らを「青い血」と表現する岩佐氏は退職後、大企業のパナソニックが苦手とする迅速な開発手法を磨いてきた。
こうした外部で経験を積んだ人材は企業変革の中核を担う期待が高い。幹部以外にも広くカムバック人材を登用する考えだ。
無印良品を運営する良品計画は、16年3月からカムバック採用を導入した。店舗から「『もう一度働きたい』と言っている人がいる」という声が多く広がり、導入を決めた。
正社員、1年契約の嘱託社員、パート・アルバイトが対象で、これまで計680人が戻ってきた。パート・アルバイトが大半ではあるものの、年々利用者は増えており、18年3月から19年1月までの11カ月間に316人が戻ってきた。
同社の従業員にはそれぞれレベル1から6までの評価段階がある。レベル3で退職した人が戻った場合、1から再スタートするものの、即戦力と認められれば3まで戻る時間が早いという。
進学や留学、配偶者の転勤、出産など退職する理由はさまざまだが、「退職後に得たスキルや経験を持って帰ってきてくれるので、社として歓迎している」(高田美樹人事総務部組織開発課長)。
制度導入前は、辞めやすくなり退職促進になるのではと危惧する意見もあった。現在は「制度が知られるようになり、実力とやる気のある即戦力人材が戻ってくるようになった」(同)と手応えを感じている。
マンション管理を手がける三井不動産レジデンシャルサービス(東京都江東区)は、18年夏に「カムバック制度」を始めた。事業規模が拡大する中、ワーク・ライフ・バランスの推進と人手不足の解消を両立する施策として位置付ける。足元では数人が利用の相談に訪れており、すでに女性1人が契約社員として復職。近く選考を予定する人もいる。
正社員からパートタイマーまで、在職1年以上という条件さえ満たせば応募できる。管理人や居住者のさまざまな生活を支援する「コンシェルジュ」も対象だ。まずは社内の“元同僚”に相談する人が多いとみて、「制度の利用実績を社内に広め、スムーズな情報提供につなげたい。復職したい人の気まずさや迷いのハードルを下げたい」(人事部人材開発課の斉木佑介リーダー)と意気込む。
実は、同制度は16年に導入した「カムバックエントリー制度」を下地にしたものだ。旧制度は在職3年、離職期間8年以内で、退職理由も結婚に出産、育児、介護、配偶者の転勤に限られ「利用条件を満たせる復職希望者は少なかった」(同)と明かす。新制度はこれを踏まえ、門戸を拡大。培った知識や経験を再び発揮しようとする意欲を後押しする。
三菱ケミカルは18年10月にカムバック採用を始めた。主力の横浜研究所で実験担当の技術者が不足しており、12人の採用枠を設けて条件に合う退職者へ復職を呼びかけている。当初はグループの人材派遣会社へ登録して派遣社員として勤務してもらうが、一定期間後に正社員化する。
すでに1人が就労しており、ほかに3人が登録・所属先の調整をしているという。実験業務は責任者の指示の下で必要な実験を行い、結果のデータを出す。技術職なので過去の経験がより求められる傾向にあり、退職者の採用を強化することにした。今後は全国の事業所や本社などへカムバック採用を順次拡大していく方針だ。
同社は健康経営を掲げて、健康支援と働き方改革を両輪に据える。復職を含めて多様な働き方の選択肢を用意し、人口減少の中でも持続的な成長を目指す。同年3月には元ファイザーの中田るみ子氏をダイバーシティ推進担当の執行役員として招聘(しょうへい)している。
SCSKは、介護や配偶者の転居を伴う転勤などで退職せざるを得なかった社員を再雇用する「ジョブ・リターン」制度を13年から始めた。申請書を提出するだけの登録制。最大5年間有効であり、3年以上勤務した社員が対象だ。
戻ってくる社員は正社員として採用し、報酬水準なども考慮する。現在、登録者数は約50人にのぼる。人事企画部の酒井大介部長は、「辞めたくなくても離職せざるを得ない状況は少なからずある。安心して長く働ける環境作りの一環」と説明する。また同社では、個人的な理由で1度退職した社員の受け入れも強化している。選考プロセスは中途採用者と同じだが、企業文化や風土を理解しているほか、スキルも把握できるため成約する確率は高いという。
酒井部長は「向上心の結果、給与の高い企業に転職したものの、会社を離れてみて良さを分かる場合もある。もともと社内に人脈があるので、活躍できる可能性が高い」と期待する。同社では今後、制度化も検討し、受け入れ態勢を強化する方針だ。
(文=特別取材班)
メタウォーターは同社グループの退職者を再雇用する「ジョブ・リターン制度」を導入した。育児や介護、配偶者の転勤、通学や転職によるキャリアアップを理由に退職した正社員と契約社員が対象。在籍期間や退職後の年数は問わず、応募を受け付ける。経験者を採用して即戦力を確保する狙い。
パナソニック
一度は退職した人を「出戻りキャリア」として積極的に採用する方針を決めたパナソニック。特段の人事制度は設けていないが、退職時に連絡先を聞き、ダイレクトメールを送るなどして社の情報を発信し続ける仕組みを構築する。
「変化を実現するには異分子がぶつかって化学反応を起こすことが必要だ」と話す代表取締役の樋口泰行専務執行役員自身も、かつて同社の退職を経験している。日本マイクロソフトの会長・社長を務めるなどプロ経営者としての経験を積み、2017年4月にパナソニックへ戻った。
18年4月に同社が買収したシフトール(東京都中央区)の岩佐琢磨最高経営責任者も、パナソニックを退職した1人。自らを「青い血」と表現する岩佐氏は退職後、大企業のパナソニックが苦手とする迅速な開発手法を磨いてきた。
こうした外部で経験を積んだ人材は企業変革の中核を担う期待が高い。幹部以外にも広くカムバック人材を登用する考えだ。
良品計画
無印良品を運営する良品計画は、16年3月からカムバック採用を導入した。店舗から「『もう一度働きたい』と言っている人がいる」という声が多く広がり、導入を決めた。
正社員、1年契約の嘱託社員、パート・アルバイトが対象で、これまで計680人が戻ってきた。パート・アルバイトが大半ではあるものの、年々利用者は増えており、18年3月から19年1月までの11カ月間に316人が戻ってきた。
同社の従業員にはそれぞれレベル1から6までの評価段階がある。レベル3で退職した人が戻った場合、1から再スタートするものの、即戦力と認められれば3まで戻る時間が早いという。
進学や留学、配偶者の転勤、出産など退職する理由はさまざまだが、「退職後に得たスキルや経験を持って帰ってきてくれるので、社として歓迎している」(高田美樹人事総務部組織開発課長)。
制度導入前は、辞めやすくなり退職促進になるのではと危惧する意見もあった。現在は「制度が知られるようになり、実力とやる気のある即戦力人材が戻ってくるようになった」(同)と手応えを感じている。
三井不レジデンシャルサービス
マンション管理を手がける三井不動産レジデンシャルサービス(東京都江東区)は、18年夏に「カムバック制度」を始めた。事業規模が拡大する中、ワーク・ライフ・バランスの推進と人手不足の解消を両立する施策として位置付ける。足元では数人が利用の相談に訪れており、すでに女性1人が契約社員として復職。近く選考を予定する人もいる。
正社員からパートタイマーまで、在職1年以上という条件さえ満たせば応募できる。管理人や居住者のさまざまな生活を支援する「コンシェルジュ」も対象だ。まずは社内の“元同僚”に相談する人が多いとみて、「制度の利用実績を社内に広め、スムーズな情報提供につなげたい。復職したい人の気まずさや迷いのハードルを下げたい」(人事部人材開発課の斉木佑介リーダー)と意気込む。
実は、同制度は16年に導入した「カムバックエントリー制度」を下地にしたものだ。旧制度は在職3年、離職期間8年以内で、退職理由も結婚に出産、育児、介護、配偶者の転勤に限られ「利用条件を満たせる復職希望者は少なかった」(同)と明かす。新制度はこれを踏まえ、門戸を拡大。培った知識や経験を再び発揮しようとする意欲を後押しする。
三菱ケミカル
三菱ケミカルは18年10月にカムバック採用を始めた。主力の横浜研究所で実験担当の技術者が不足しており、12人の採用枠を設けて条件に合う退職者へ復職を呼びかけている。当初はグループの人材派遣会社へ登録して派遣社員として勤務してもらうが、一定期間後に正社員化する。
すでに1人が就労しており、ほかに3人が登録・所属先の調整をしているという。実験業務は責任者の指示の下で必要な実験を行い、結果のデータを出す。技術職なので過去の経験がより求められる傾向にあり、退職者の採用を強化することにした。今後は全国の事業所や本社などへカムバック採用を順次拡大していく方針だ。
同社は健康経営を掲げて、健康支援と働き方改革を両輪に据える。復職を含めて多様な働き方の選択肢を用意し、人口減少の中でも持続的な成長を目指す。同年3月には元ファイザーの中田るみ子氏をダイバーシティ推進担当の執行役員として招聘(しょうへい)している。
SCSK
SCSKは、介護や配偶者の転居を伴う転勤などで退職せざるを得なかった社員を再雇用する「ジョブ・リターン」制度を13年から始めた。申請書を提出するだけの登録制。最大5年間有効であり、3年以上勤務した社員が対象だ。
戻ってくる社員は正社員として採用し、報酬水準なども考慮する。現在、登録者数は約50人にのぼる。人事企画部の酒井大介部長は、「辞めたくなくても離職せざるを得ない状況は少なからずある。安心して長く働ける環境作りの一環」と説明する。また同社では、個人的な理由で1度退職した社員の受け入れも強化している。選考プロセスは中途採用者と同じだが、企業文化や風土を理解しているほか、スキルも把握できるため成約する確率は高いという。
酒井部長は「向上心の結果、給与の高い企業に転職したものの、会社を離れてみて良さを分かる場合もある。もともと社内に人脈があるので、活躍できる可能性が高い」と期待する。同社では今後、制度化も検討し、受け入れ態勢を強化する方針だ。
(文=特別取材班)
:日刊工業新聞2019年2月5日
メタウォーター
メタウォーターは同社グループの退職者を再雇用する「ジョブ・リターン制度」を導入した。育児や介護、配偶者の転勤、通学や転職によるキャリアアップを理由に退職した正社員と契約社員が対象。在籍期間や退職後の年数は問わず、応募を受け付ける。経験者を採用して即戦力を確保する狙い。
:日刊工業新聞2018年6月18日