テラドローン・徳重氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め」|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

ニュースイッチ

テラドローン・徳重氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め」

【連載#3】ポスト平成の経営者 テラドローン社長・徳重徹氏
 米テスラのような、日本発“メガベンチャー”に-。ドローンを使った測量などを行うテラドローン(東京都渋谷区)と、海外で電動3輪などを販売するテラモーターズ(同)の徳重徹社長が常々語るビジョンだ。なぜ極めて高いハードルに挑むのか。その思いと、目標への現在地を聞いた。

世界首位が見えてきた


 -海外はベンチャーにとって鬼門と言われます。
 「インターネットがここまで普及すれば、良いビジネスモデルは瞬時に世界中へ飛び散る。日本で成功した後に海外へ出ると、すでに大きな競合がいる。だから、本当に世界で勝つにはマルチプル(複数地域で同時)にやるしかないというのが私の結論だ。インドでドローンの成功モデルが見えてきた。一気に世界でマルチプルに実行していく」

 -各事業の現状は。
 「電動バイクや電動3輪のEV事業はインドやバングラデシュなどで前期3万台を販売し、今期は4万台を販売する。ドローンサービスは現在世界10位以内。合計の売上高は数十億円規模だ。ドローンは準備中のマルチプル展開が実現すれば、世界首位に立てる」

 -ドローンの成功モデルは、どうやって見つけましたか。
 「豪州のドローン事業の失敗を経て、たどり着いた。豪州事業は私が1年かけて準備し、現地に優秀な人材を2人送り込んだ。大々的に発表し、時間もお金もかけた。顧客企業を説得するために現地人材を教育したが、それが難しかった。その人が完全に技術をわからなければ、顧客を説得できない。ドローンは世界で立ち上がっているのに、豪州に2年もかけられない。そこで1年9カ月で止めた。インドで見つけた成功モデルは、この問題を解決するものだ」

失敗して当たり前


 「今は内容を詳しく言えないが、成功モデルを見つけたのは、過去にインドのEV事業と豪州のドローン事業で失敗した社員だった。インドのEVは担当が変わって伸びた。失敗と言っても、それだけ難しいことをさせていたのだが、その社員をインドのドローン担当にすると社内から疑問の声もあった。だから、その社員ははいずり回って方法を見つけた。イノベーションは理屈じゃない」

 -失敗の可能性が何割までなら実行に移しますか。
 「そう考えるのがおかしい。新事業は失敗して当たり前で、踏み込んで初めてわかることが多すぎる。豪州で再認識した。早く始めた方が成功の確率が上がり、失敗のダメージも少ない。必要なのは修正力だ。失敗はプロセス。実行段階もマーケティング費用と思えばいい」

 「私も、会社も、大きな失敗を経て今に至る。昔、シリコンバレーに行くと啖呵を切って会社を辞めた時、半年の準備をして米スタンフォード大に落ちた。かっこわるすぎて、映画『ターミネーター2』で液体窒素で凍った後にショットガンでバラバラにされたような気分だった。だが、1カ月もすれば、悔しさになり、エネルギーになった。普通の人がエネルギーを持つには大きな挫折がいる。失敗はエネルギーが溜まっていると思えばいい」

バブル知る最後の世代の責任


 

 -無謀とも思える挑戦の理由は。
 「『世界で勝つ』は会社の設立趣意書のようなもの。30代の時にシリコンバレーでベンチャー企業との交流で得た原体験と、『日本はこれでいいのか』という思いが大本にある。だから、難しくてもあえてやる」

 「私の若い頃、ベンチャー起業家は“山師”と言われていた。肩身の狭い存在。でも、私は興味があってシリコンバレーに行った。当時は米グーグルがどんどん成長し、ヒト・モノ・カネが入ってイノベーションを生んでいた。その頃、DVDのシェアリング事業をしていた50人くらいの会社が近くにあり、それが今の米ネットフリックス。今、ソニーが復活したと言われているが、世界での存在感は2000年頃と全く違う。大学時代だが、バブル期を知る最後の世代として、日本はこのままでいいのかと思っている」

 -日本の強みは。
 「日本の会社であることは海外で強みになっている。最初から相手に『一緒にやりたい』と思ってもらえる。極端に言えば、トヨタ自動車やホンダのように見てくれる。あまり信頼度が高くない国の企業に対し、相手は『騙されないだろうか』と慎重になる。だが、そうした国もどんどん変わり、5~10年先も日本が有利かどうかわからない。それなのに、海外でやるベンチャーが少なすぎる。今のうちに成功事例を出さなければいけない」

後はやるだけ


 -海外でパートナーをつくるには。
 「基本的には人間なので、日本人も外国人も一緒。難しく考えてない。『こいつとやればうまくいく』と思わせられるかどうか。本気でやろうとしているかは、話せばわかる。最後は人間力。尊敬し合えればいい。また、基本的に各国のリーダーは愛国心か強い。自分の国が好きじゃない人は信用されない」

 「一方、日本の細かいことで相手を叩く空気感は良くない。日本人は真面目だから性善説で考えればいいのに、今は性悪説だ。企業には、意思決定プロセスなどを説明する書類が多い。昔は部長が『俺が腹くくるからやってみろ』で、紙はいらなかった。そんな全体的なぜい肉も挑戦しにくい雰囲気を作っている」

 -日本の良さを生かすには。
 「日本の良さは変わっていないので、後はやるだけ。スピードが重要だ。絶対に計画通りにはいかない。うまく行ったら、運がよかっただけ。日本企業が早くやれないのは不確実だからだが、そもそも不確実で、踏み込まなければわからない。うまくいかないものを、踏み込んでみて、どう修正するかが重要だ。それがわかれば戸惑わない」
 


連載「ポスト平成の経営者」


激動の平成を支えたベテラン経営者と、今後を担う若手経営者に「ポスト平成」への提言・挑戦を聞くインタビューシリーズ
(1)キッコーマン取締役名誉会長・茂木友三郎氏「世界の情勢に乗るな。自ら需要を創り出せ」
(2)キヤノン会長兼CEO・御手洗冨士夫氏「米国流に頼るな。グローバル経営に国民性を」
(3)テラドローン社長・徳重徹氏「『世界で勝つ』は設立趣意。不確実でも踏み込め」
(4)ユーグレナ社長・出雲充氏「追い風に頼るな。ミドリムシで世界を席巻」
(5)プリファードネットワークス社長・西川徹氏「誰もが自在にロボット動かす世界を実現する」
(6)元ソニー社長・出井伸之氏「これが平成の失敗から学ぶことの全てだ」
(7)日本生命保険名誉顧問・宇野郁夫氏「経営に『徳目』取り戻せ。これが危機退ける」
(8)オリックスシニア・チェアマン・宮内義彦氏「変化を面白がれば、先頭を走っている」
(9)東京電力ホールディングス会長・川村隆氏「日本のぬるま湯に甘えるな。今、変革せよ」
(10)JXTGホールディングス会長・渡文明氏、10兆円企業の礎を築いた合併・統治の極意
(11)ダイキン工業会長・井上礼之氏「二流の戦略と一流の実行力。やっぱり人は大事にせなあかん」
(12)昭和電工最高顧問・大橋光夫氏、初の抜本的な構造改革、個人の意識改革が最も重要だった
(13)パナソニック特別顧問・中村邦夫氏、次の100年へ。中興の祖が語る「改革」と守るべきもの
(14)住友商事名誉顧問・岡素之氏、終わりなき法令遵守の決意。トップは社員と対話を
(15)セブン&アイHD名誉顧問・鈴木敏文氏、流通王が語るリーダーに必須の力
(16)WHILL CEO・杉江理氏、電動車いすの会社じゃない!「WHILLが建築をやる可能性も」と語るワケ
(17)ispace CEO・袴田武史氏、宇宙ベンチャーの旗手が語る、宇宙業界を変える民間の力
日刊工業新聞2018年12月12日掲載を加筆・修正
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
「挫折が必要」という言葉を、これほど生々しく聞いたことはありませんでした。ドローン成功モデルのマルチプル展開は、順次明らかになっていきます。2カ月ほど前の講演で、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が、売上高80億円の頃に「将来GAPを超える」目標を立てた話を聞いたばかりだったため、今回のインタビューと強烈につながりました。柳井会長は高い目標があったから、イノベーションを起こせたと語っていました。若手経営者へのインタビューでは、もがいていることを含めて、目標と今のリアルを語っていただきます。次回は20日、ユーグレナの出雲社長の記事掲載を予定しています。ご期待ください。

編集部のおすすめ