自動車の軽量化を考える(3)マグネシウム、チタン採用の現実味|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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自動車の軽量化を考える(3)マグネシウム、チタン採用の現実味

軽量・強度と特徴のあるマグネシウムとチタン。期待は高いが・・・。
自動車の軽量化を考える(3)マグネシウム、チタン採用の現実味

住友電工が量産化したマグネシウム合金「AZ91合金」板材(構造部品試作サンプル)

 環境負荷の低減を背景に自動車の構造材が大きく変わろうとしている。鉄主体から鉄やアルミニウム、樹脂などを適材適所で使う「マルチマテリアル」化の流れだ。その次世代の軽量化素材として注目されるのがチタンやマグネシウムなどの非鉄金属。コストや加工性など実用化に向けた課題は多いが、将来の燃費規制強化を見据えて優れた軽量特性は魅力だ。高機能化やコスト低減などの研究開発も進んでおり、実用化も夢ではない。

 【金属で最軽量】
 欧州自動車メーカーが共同検討し、2009年に発表した「スーパーライトカーコンセプト」。骨格部材に高張力鋼板(ハイテン)、パネル材にアルミや炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とともに、マグネシウム合金を適用したのが特徴だ。採用実績のないマグネシウムを素材として適用したことは期待値の大きさを表している。

 マグネシウムの重量は同容積の鉄の約4分の1、アルミの約3分の2で実用金属では最軽量だ。重量当たりの強度や剛性も鉄やアルミ、樹脂をしのぎ、部材の小型化、薄肉化が期待できる。もともとアルミ合金などへの添加剤としての利用が多かったが、軽量化をキーワードに素材そのものへの関心が高まっている。
 チタンも同様だ。重さは同容積の鉄の60%で、重量当たりの強度はアルミの6倍で鉄の2倍。実用金属では最大級の強度を持ち、耐熱性の高さからマフラーなどの排気系や車体構造、エンジンのピストンリングなど高速摺(しゅう)動部品などへの採用が期待されている。

 【高いコスト】
 現状ではマグネシウムもチタンも鋳造鍛造自動車部品での採用が中心となりそうだ。チタンは軽量化素材としての特性は十分だが、自動車用鋼板で求められるほど薄く加工するのは至難の業だ。マグネシウムも圧延加工コストはアルミの約10倍とも言われ、それが用途を鋳造品に限定してきた要因でもある。
 ただ、住友電工が加工性を高めたマグネシウム合金「AZ91合金」板材を量産化するなど、課題も克服し始めている。

 両素材とも自動車向けに採用拡大が進まないのにはコストが高いことがある。チタンでは新製錬法や低温成形技術など上流から下流まで一連のコスト削減の研究も進んでいるが実用レベルで効果が出るのはこれからだ。
 従来は両素材とも用途が特定分野に限定されていた。例えばチタンの大口需要先は航空宇宙分野。高価でも高い品質で採用されたが、自動車向けは勝手が違う。「完成車メーカーが求めるコストまで下げられるか」(関係者)が採用条件の全てだ。量産車に本格採用されれば使用量はケタ違いに増える。チタンの場合、1台で1キログラムを使われれば世界で年間5万トンの新たな需要が生まれる。それだけに「自動車用に参入したいというのはチタン業界の悲願」(関係者)でもある。

 【旅客機で先行】
 米ボーイングが13年に運航を始めた中型旅客機「787」。チタン合金の使用比率が従来の10倍以上に高まったとされ、業界にとっては「革命的」な出来事だった。CFRPと物理的な性質が近いチタンが注目され、CFRPとの“相性”からアルミがチタンに置き換わった。
 完成車メーカーも優先すべきは軽量化であり、材料へのこだわりはない。量産可能とみれば新素材を導入する機運はある。東邦チタニウムの滝千博執行役員チタン生産本部副本部長も「高くても軽量化につながる。有利な点を盛んにアピールする」と話す。航空機での採用に続く、大口需要開拓を目指す。
日刊工業新聞2014年09月08日 モノづくり面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
軽量化素材のアルミ、CFRPは実用段階であるのに対し、マグネシウム、チタンの自動車への採用は将来的な期待と込めて、というのが本心だろう。チタンは航空機で採用を拡大し、マグネシウムは鉄道車両などへの採用を働きかけている。同じ輸送機での実績を積み上げて、自動車向けも攻めたいところだ。

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