ノーベル賞受賞の山中氏「私の仕事の半分は寄付活動に当てている」|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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ノーベル賞受賞の山中氏「私の仕事の半分は寄付活動に当てている」

どうなる日本の科学(11)京都大学iPS細胞研究所所長・山中伸弥氏
ノーベル賞受賞の山中氏「私の仕事の半分は寄付活動に当てている」

12年も生理学・医学賞を受賞した山中氏

 ー科学技術予算の応用研究の割合が大きくなり、基礎研究にしわ寄せがいっているとの批判があります。
 「基礎と応用は競合するものではない。基礎と応用を競合させることはあってはならないし、競合していない。まったく違うものとして両方を重視しなければ先進国とはいえない。文部科学省が基礎を軽視しているということはない。30年近く研究者をやってきて、その内の20年は基礎を研究してきた。基礎は0から1を生む研究だ。何が出るか、何年かかるかわからない。成功も失敗も研究者が責任を負う。とても面白く、いまでも基礎研究が大好きだ」

 「応用研究にも取り組むようになったのはiPS細胞(人工多能性幹細胞)開発以降のこの10年のこと。応用は本当に大変だ。一人では研究できないため、いろんな人の協力が必要になる。組織が大きくなり、責任は重く、失敗は許されなくなる。着実に進めていかなければならない。その中で涙をのんでやめる研究もある。基礎と応用はまったくの別物だ。競合ではなく互いに尊重し合うべきだ」

 ー応用領域で産学連携の大型化が進んでいます。
 「武田薬品工業と京大iPS細胞研究所(CiRA)で10年間の共同プログラム『T-CiRA』を立ち上げた。従来の共同研究は少数の企業研究者が大学に来て、大学の技術を学んでいた。今回は大学研究者が企業の研究所に出向く。企業のデータ管理や研究マネジメントを大学研究者が学んでいる。例えば新しい研究を始めるだけでなく、研究をやめる判断も重要だ。薬剤の毒性や市場性評価などの、もっと前の段階で研究テーマを選定して、やめる判断を下す。この合理的に判断する考え方は大学にはなかったものだ。人材育成の面でも産学連携を通じて研究の推進方法について教育できている」

 「これまでは大学の基礎技術が企業で応用開発され、実用化されるというステップを踏んできた。だがステップなどない方がいい。T-CiRAでは大学と企業の間に境界を作らず、シームレスにつなぐ。産学が融合して一体となることで、死の谷ができないようにする。これまで大学研究者は企業の極一部にしかアクセスできなかった。T-CiRAは約100人の研究者を抱え、それ以外のタケダの研究者も協力してくれている。産と学で目的は一緒だ。新しい治療法を一日も早く実現するため一体となり進めていく。まだ始まって2年のプログラムだが、他の産業分野のモデルとなれるよう頑張っていく」

 ー産学連携の組織化は大学に強いシーズがないと企業の下請けになりかねないと懸念されています。
 「基礎研究を大切にするしかない。京大ではiPS細胞の基盤技術以外にも、いろんな基礎技術を開発してきた。基礎と応用は両方とも重要だ。ただ国は打ち出の小づちではない。これまでは国からの資金で研究できたが、その考えは改めなければならない。企業との連携を進めたり、寄付を集めたりして多様な資金を集めることも大切だ」
 
 ー市民から寄付を募り2016年度は23億円を集めました。米国の寄付は節税対策になるため企業が固定客になりますが、日本では常に新規開拓していく必要があります。
 「一般の方から直接支援を頂くことは大切だ。(寄付の呼びかけも兼ねて)マラソン大会に出場して走るだけでは思うように寄付は集まらない。まずは研究をわかりやすく伝えることから始まる。CiRAに基金の担当部門を置き、私の仕事の半分は寄付活動に当てている。米国では大学の学長や所長は相当な時間を寄付活動に費やしている。また日本には研究に協力したいと考える方はたくさんおられると思う。医療以外の分野でもできないことはないはずだ」

 ー若手への激励を。
 「若い人はチャンスを求めてどこにでも行ける。私は大きな研究室で育ったわけではなく、米国から戻ってきたときには大学は苦しく、競争的資金をとらなくては研究を続けられなかった。研究費が少なくても、それでできることをやるしかなかった。チャンスを求めて医学部のない大学に移った」

 「この10年でCiRAは大きくなった。ただCiRAの若手も地方大に移れば、研究の考え方を変える必要がある。その時々にできるベストを尽くすしかない。成功の保障のない中で自分を高めていくしかない。アスリートや音楽家が最高の環境を求めて世界を渡り歩くのと同じだ。決して環境に悲観せず、チャンスを求めて挑戦し続けてほしい」
(聞き手=小寺貴之)


日刊工業新聞2017年12月28日の記事に加筆
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 歴代の日本人ノーベル賞受賞者の中でも山中氏は若く、古き良き時代の研究者ではない。基礎にささげた20年間では動脈硬化やがん、ES細胞(胚性幹細胞)などテーマが変遷している。その時々でベストを尽くし、さらなるチャンスを求めてポストを渡り歩く。そして世界と戦うために知恵を絞る。研究者は究極の個人事業主だと思う。  一人の研究者にできることは、若手もノーベル賞受賞者も同じだ。その中でiPS細胞は基礎から応用、臨床試験にまで広がった。いまの若手と似た大変さを経験し、突破してきた人だ。

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