早く、安く、わかりやすく。ニーズが高まる介護リフォームを全国に展開する|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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早く、安く、わかりやすく。ニーズが高まる介護リフォームを全国に展開する

ユニバーサルスペース(神奈川県横浜市)
早く、安く、わかりやすく。ニーズが高まる介護リフォームを全国に展開する

遠藤哉社長

 「ユニバーサルスペース」はリフォーム業界では異例の、介護リフォームに特化したベンチャー企業だ。遠藤哉社長の前職は積水ハウスの現場監督。介護リフォームの重要性を現場で実感して独立、2009年に今の会社を立ち上げた。とはいえ介護や介護リフォームの知識や繋がりはほとんどない状態のスタートであり、介護関係者との意見交換や営業をしながら事業を展開し、ノウハウを蓄積していった。徐々に口コミで評判が広がり施工案件が増え、現在では約3000社の介護事業者とのネットワークを持ち、約6000社の施工会社とのネットワークを構築中である。
2013年から事業のフランチャイズ化を開始。2016年には「平成27年度 先進的なリフォーム事業者表彰」で経済産業大臣賞を受賞した。
 

介護リフォームのニーズと建設業者のギャップ


 日本は超高齢化社会に突入する。増え続ける高齢者に対して、介護ケアや医療ケアの供給が追い付かなくなっているのが現状だ。そのため政府は、高齢者が自立して生活を送れるように地域で支えていく「地域包括ケアシステム」を推進。施設での介護から、在宅介護へと比重を移すことを目指している。

 在宅介護のためには、住宅が高齢者にとって安全な環境であることが必須だ。手すりの取り付けや段差解消などの介護リフォームの需要は大きい。しかし、介護リフォームの案件はほとんどが工事規模が小さく安価である。要介護者の身体や生活レベルに合わせた工事が必要なので、介護事業者との連携も重要。介護保険を利用するための手続きもあり、業務は意外にも複雑である。そのためニーズの高さとは裏腹に、建設業者の姿勢は消極的だ。

 「単価が低い上に手間のかかる工事は、建設業者にとってはどうしても優先度が低くなってしまいます。ただ介護リフォーム自体のニーズはこれからますます増えてくる。だから私たちは介護リフォームを“本業”とすることで業務を効率的に回し、単価が低くても収益につなげるビジネスモデルを目指しました」(遠藤社長)。

ITシステムによる徹底した効率化


 高齢者が何よりも望んでいるのは施工の早さ。施工が遅れた分だけ、高齢者は危険な住居での生活を強いられる。従来リフォーム業者に頼むと1カ月以上かかっていた工事を、ユニバーサルスペースはおよそ2週間の短期間で終わらせる。見積書は注文を受けた翌日には発行するという。

顧客へのリフォーム前提案資料

 施工の早さの秘密は、社内独自のITシステムにある。見積作成、介護保険の申請書類の作成、顧客情報、工事内容、部材の手配などの事務作業を一括で管理できるクラウドシステムを構築。介護事業者や施工を実施するリフォーム業者との連携をネットワーク上でシステム化した。「介護リフォームを本業として事業を続け、ノウハウを蓄積してきたからこそできたシステムです」(遠藤社長)。

 介護リフォームは基本的に要介護者のケアマネージャーの紹介を通して工事を受注する。手すりの一本を取り付けるだけでも、複数の事業者との連携が必要だ。それをネットワーク上で一括管理できるようにすることで施工のスピードは格段に早くなる。またシステム化する上で、手すり工事費用一本5000円など単価統一をした。注文する側にとって判断が難しかった介護リフォームの工事費を“見える化”したことでリフォームの提案をしやすくなった。

風呂の介護リフォーム工事例(左が工事前、右が工事後。赤線の部分に手すり設置)

風呂の介護リフォーム工事例(左が工事前、右が工事後。赤線の部分に手すり設置)

FC展開、ビジネスモデル特許取得


 ユニバーサルスペースは2013年に事業のフランチャイズ化を開始。現在、30店舗(直営店4店舗含)体制である。加盟店は本社の管理システムを活用することによって簡単に事業を始めることができる。手すりの取り付けや、スロープ設置など工事の内容自体は複雑なものではないため、本業が建築関係でない事業者も参画しやすく、全国展開が期待できるビジネスとなっている。実際に加盟している事業者は、ファイナンシャルプランナー、電気工事業など多岐にわたる。今後も加盟店を増やしていく予定だ。
 さらに今年11月にはビジネスモデル特許を取得した。「高齢者のためにも介護リフォームのビジネスを全国的に促進していきたい」と遠藤社長は特許取得の思いを語る。

当たり前のことをする地味な事業


 「工事内容の8割は、手すりの取り付けです。とても地味な事業ですよね。『受注してから迅速に工事を完了させる』というのも“当たり前”のこと。でも介護リフォームにおいてはそれができていなかった。営業していく中で、介護事業者とのネットワークも強くなってきました。建築業者であると同時に介護事業者でもあるという気持ちを持って、これからも介護業界に貢献していきたい」(遠藤社長)。
ニュースイッチオリジナル
前田亮斗
前田亮斗 Maeda Ryoto
介護リフォームは、工事規模が小規模なものが多く低単価である一方で、要介護者に合わせた工事が必要であり、意外にも複雑だ。そのため、ニーズはあるものの建設業者の姿勢は消極的な領域である。 ユニバーサルスペースは、ノウハウの蓄積とIT活用により、徹底した業務効率化を図ることで、介護リフォームを儲かるビジネスとして展開し、未経験者でも参入できるフランチャイズの仕組みにまで成長させている。 今後は、「見まもり」「健康」「住宅IoT」等の高齢者向けサービスとの連携も期待でき、より安心安全な高齢者の住環境整備につながっていくのではないだろうか。

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