かつての嫌な動きを思い出す…TBS『報道特集』へこのところ強まる攻撃(篠田博之) - エキスパート - Yahoo!ニュース

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かつての嫌な動きを思い出す…TBS『報道特集』へこのところ強まる攻撃

篠田博之月刊『創』編集長
ギャラクシー賞月間賞に選ばれたTBS『報道特集』(TBS提供)

『報道特集』を「偏向報道」と決めつけるいやな攻撃

 TBS『報道特集』に攻撃が強まっているという。2024年末から兵庫県の斎藤知事再選問題を機に吹き荒れるデマに対してファクトチェックを続けてきたが、斎藤知事支持者らしい人たちからのSNSでの攻撃がエスカレートしているというのだ。しかも、『報道特集』を「偏向報道」と決めつける攻撃で、かつて『news23』に出演していた岸井成格氏への攻撃に似た、何やらいやな感じの動きなのだ。

 一方で『報道特集』は2月発表のギャラクシー賞月間賞に選ばれるなど、評価する動きも高まっている。いったい何が起きているのか。

兵庫県の問題でファクトチェック

 その内容に入る前に、2024年8月以来、『報道特集』が特集で連続して追及している兵庫県関連の特集をあげておこう。

①8月31日放送

兵庫県知事のパワハラ疑惑を内部告発した職員は、なぜ死に追い込まれたのか 県の“告発者捜しマニュアル”を独自入手

②9月14日放送

「もう1回聞くけど作ってないんかい」兵庫県知事“パワハラ疑惑”の告発者を追いつめた、犯人捜しの詳細記録を独自入手

③11月30日放送

「YouTubeの拡散指示が…」“支持者LINEグループ”の登録者に聞く 斎藤元彦氏再選の舞台裏

④12月28日放送

「こんな奴が書いた告発文書なんて…」元県民局長のプライベートな情報、なぜ漏えい? 県関係者が新証言

⑤1月25日放送

「元兵庫県議“自殺”の背景は? 誹謗中傷の投稿を検証」

⑥2月8日放送

兵庫県知事選をめぐる誹謗中傷 立花孝志氏の発信“情報源”一枚の文書を検証

 計6本の特集を放送しており、1月25日放送では日下部正樹キャスターが立花孝志氏にインタビュー、その番組に対して立花氏も同日、YouTubeで反論するという応酬となった。

在日韓国人であることへの誹謗中傷も

 一連の取り組みについて、『報道特集』の曺(チョウ)琴袖編集長に聞いた。

――兵庫県知事選をめぐっての情報戦について、ファクトチェックが必要だということで一連の特集を組んでいったわけですね。その中で立花孝志さんにインタビューも行った。

曺 この問題を取材しているのはキャスターの村瀬健介なのですが、ちょうどトランプ大統領の就任式の取材でアメリカに行っている時だったので、立花さんへのインタビューは日下部が担当しました。

 取材の原則として一方の当事者に不利益な報道をする際は、必ずその人の言い分も聞いて反映しなければいけないということがあるので、直接話を聞くことにしたわけです。取材申し入れをした時に先方も、こちらも同時に撮影しますと言っていました。

――当然、立花さんも『報道特集』の放送に反撃したわけですね。ただ、一連の取り組みの過程で、SNSに『報道特集』への非難や中傷がたくさん流れてたようですが、それは立花さんの支持者からのものなのですか?

曺 そういう人もいたとは思いますが、ほとんどは斎藤知事の支持者ですね。

――でもN国党の浜田聡議員のSNSへの投稿が話題になっていましたよね。曺さんの名前と顔をさらしていた。それを受けて編集長が在日韓国人だというヘイト投稿が拡散したわけですね。

曺 国会議員ですから拡散力が大きかったのですが、ただ浜田議員は在日とか一言も書いてないんです。それが誹謗中傷にあたるからと判断したのでしょうが、この人が編集長だと私の写真と名前を公開しただけでした。

――でもそれを拡散した人たちには差別感情が働いていた可能性はあるわけですね。でも一方で、それに対して曺さんはSNSで「私は在日韓国人二世である両親のもとに生まれたことを誇りに思って生きてきましたので、私のルーツに関する誹謗中傷により傷つくことはありません」と投稿していましたね。

曺 心配してくださる方に対して、大丈夫ですということを伝えたくて投稿したのですが、私の周りでは浜田議員の投稿をチェックしてない人が多かったようで、私の投稿を見てそれを知った人が多くて、逆に心配をかけてしまったようでした。

ファクトチェックの大切さを見せつけられた

――そもそも兵庫県知事選をめぐる問題に、『報道特集』がこれほど集中して取り組むようになったのはどういう経緯なのですか?

曺 兵庫県知事選をめぐるネットの動向を見ていて、斎藤県知事への支持の広がりが、通常と違う感じを受けたのがきっかけです。既存のマスメディアが、隠された真実をいっさい報道していないという言い方で、マスメディアとの対立構造を煽るような言い方が広がったのですね。以前から『報道特集』や『サンデーモーニング』に対してネトウヨと言われる人たちからの攻撃はあったのですが、昨年の兵庫県知事選では、右とか左とか関係なく、マスコミに不信感を持った市民にも反響が広がっていったわけです。これまでと違う動きでした。

 その後、竹内元県議の自殺という衝撃の事態もありましたが、その時も逮捕が予定されていたから自殺したんだというような中傷がネットにあふれていたのを見て、これはもう何かせざるを得ないと感じたのです。

 そうしたら同じ日の夕方近くに朝日・読売・産経がそれぞれ兵庫県警に取材して、逮捕が迫っているとか、事情聴取していたとかいう事実はないと、兵庫県警の言葉をデジタル版で報道したんですよ。そうしたら、それまでネット上に竹内県議を誹謗する投稿があふれていたのが、一気に変わっていったのです。

 ファクトチェックの大切さを改めて見せつけられた気がしました。そして、その週の『報道特集』では、元県議の死を受けてファクトチェックをテーマにしようと決めたのです。

――その後も『報道特集』は兵庫県の問題をずっと追及していますが、TBSに対して「偏向報道」とか言う人の攻撃も続いているわけですね。SNSでは炎上状態なんですか?

曺 攻撃する人と、それに反対する人が双方、SNSに激しい言葉で書き込んで対立している状態ですね。

 旧統一教会問題をずっと取り上げた時も攻撃が激しかったですが、今回、『報道特集』を攻撃する人は不思議なことに一部重なっています。

――最近は、日本維新の会の元県議が立花さんに不正に情報提供していたという話が焦点になっていますよね。『報道特集』が追及してきたことが大きな問題になっているわけですね。

曺 日本維新の会の吉村さんがその問題に取り組むことを決めたきっかけも『報道特集』を見たことだと言われています。

ギャラクシー賞月間賞も大きな励みに

――いま、『報道特集』を応援する人も何か行動しているのですか? 大体、批判する側は熱心に行動するけれど、賛同の声ってあまり形にならないですよね。

曺 応援する人って別にそれを表明しないことが多いというのは、いつも感じています。ただ、『報道特集』で次にこういうテーマをやりますとSNSで告知すると、拡散してくださる方は多いですね。

 旧統一教会の誹謗中傷がすごかった時には、そういう誹謗中傷には屈しませんという投稿をしたらXでものすごく拡散されました。

 私たちが投稿した時につく「いいね」は、関心が高い時は1000単位になるのですね。旧統一教会のときも、8000ぐらいになったことがありました。今回のことを心配してくれた方の中には、その旧統一教会問題で知り合った二世信者の方もいましたね。結構みなさん、心配してくださっているのだと思いました。

『報道特集』で放送した特集内容は放送後YouTubeで公開しているのですが、その公開を告知した時にも拡散してくれる方はたくさんいます。

 それから同じメディア業界の中から応援する声もいただいています。2025年1月のギャラクシー賞月間賞が2月20日に発表され、1月25日放送の「特集 元兵庫県議“自殺”の背景は? 誹謗中傷の投稿を検証」が受賞したことにも、私たちは勇気づけられました。

 『報道特集』では毎回、2本の特集を編成しており、その中でも時事性の高い特集は毎回、YouTubeに公開している。放送と連動したデジタルニュースサイト『NEWSDIG』に、内容に関わるテキストデータをアップしており、その画面からYouTube動画に入れるようになっている。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1748361?display=1

 別の記事で紹介したように、このところ『報道特集』の特集からドキュメンタリー作品が次々と生まれている(下記参照)。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c1853716bc60ee088492d9f2c62bea9bff59dbbb

TBSドキュメンタリー映画祭開幕!これはとても意義ある取り組みだ

『報道特集』の独自の調査報道重視とかリベラルなスタンスがそうした成果を生み出しているのだろうが、一方で踏み込んだ取材姿勢が様々なリアクションも生み出していると言えるかもしれない。

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ありがとうございます。
月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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