![](https://img.webike-cdn.net/@news/wp-content/uploads/2021/02/20210213_000.jpg)
速い人はだいたい使ってる……ような気がするステアリングダンパー。
motoGPのマシンにも付いてるし、ハイパワーなバイクには標準装備だったりもするし、アレさえ付ければ俺も……デュフフ。
スピード至上主義な方や、ハンドルがブルブル触れて怖い思いをした経験のある方はステアリングダンパーの購入を検討した事があると思います。
転倒してしまった経験があれば尚更に。
しかーし!
正直よく解っていない物に数万円を投入するのは勇気が要りますよね。
皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
今回はメチャクチャ効く、場合によっては効きすぎる事もあるカスタムパーツ、ステアリングダンパーについて解説します。
目次
ステアリングダンパーとは?
メーカーが最初から標準装備している車両もある、ステアリングの不要な動きを抑え込む装置です。
バイクという乗り物は基本的にハンドルには力を入れず、車体や路面の動きに合わせて自動的に切れるがままにしておくべき乗り物です。
ハンドルを切る事で曲がる(難しく言うと意図的にスリップアングルを付ける事で曲がる)4輪車と決定的に違う部分で、車体を傾ける事で曲がる(これまた難しく言うとキャンバースラストで内向する)バイクのステアリングは、2つの車輪が生む『曲がろうとする力』を邪魔しないように、必要な分だけ切れる構造になっています。
ところが何らかの拍子にこの自由に動けるステアリングが左右に振れる事があり、激しい場合はライダーを振り落とすほど車体が振れる事もあります。
ハンドルの振れが車体にまで影響してしまう事をウォブルと言いますが、こうなると曲がったり直進したりするのは困難を極めるので、ウォブルが収まるのを待つより他ありません。
それでは困るので、激しく暴れるハンドルを暴れないように抑えつけるのがステアリングダンパーの役目。
ハンドルは抵抗無く左右に切れるのが理想だけど、理想から外れた時に大暴れしてしまうハンドルを大暴れする前にグッと止めてしまうための装置です。
基本的にアフターマーケットのステアリングダンパーは汎用品で、車種専用の製品も取付けステーやブラケットが車種専用になっているだけです。
汎用品は装着が難しいので、それを簡単に装着できるようにしたのが車種専用ステアリングダンパーというわけ。
リヤショックなどのダンパーは車種専用に中身のセッティングが異なりますがステアリングダンパーは中身に差は無く、同じブランドの製品であればダンパー本体に互換性があるのが普通です。
どんな構造になっているの?
ダンパーという名の通り、中にオイルを封入してあり、ピストンが移動する際に発生する抵抗でハンドルの動きを減衰する構造になっています。
既にステアリングダンパーを装着している方でもあまり意識されていませんが、ダンパーなので減衰力を発生すると熱を持ちます。
レース終了後は手で持てないほど熱くなっている事もありますよ!
さて、熱を持つという事はダンパー内のオイルが膨張するという事でもあります。
膨張したオイルの体積をどこかで吸収しないと膨張した分だけオイルが漏れて噴出してしまうので、オイルの体積変化を吸収する空気室が設けてあります。
オーリンズに代表される高級ダンパーは独立したエア室を設けてある事が多く、リヤショックのように独立したリザーバータンクを持つ物もあります。
廉価なダンパーでは独立した空気室が無い代わりにダンパー内をオイルで完全に満たさず、わざと空気を混入してあります。
新品を購入したのにストロークさせるとエアを噛んでいてクチュクチュ音がするのは不良品なのではなく、そういう設計なのです。
また、減衰力の発生する場所の違いによって大きく2種類に分かれています。
ストロークするピストンに僅かにオイルが通る通路を設けて減衰を発生させるタイプと、ピストンにはオイル通路が無く、循環するオイル通路の途中で減衰を発生させるタイプがあります。
廉価品は主に前者、高級品は主に後者を採用している事が多いです。
後者の事を複筒式とかツインチューブ式と呼んで差別化している場合もあります。
なぜ装着するの?どんな効果があるの?
最初に書いたようにバイクという乗り物は基本的にハンドルには力を入れず、車体や路面の動きに合わせて自動的に切れるがままにしておく乗り物です。
しかし、コーナーからの立ち上がりなどでフロント荷重が抜けたりすると、激しくハンドルが振られる事があります。
これはバイクの特性として仕方ない部分です。
車体の傾きに対して曲がる方向をバランスするようにハンドルが切れるのですが、時と場合によって実際のタイヤの接地点と本来バランスすべき接地点が大きくズレる瞬間があります。
例えばコーナー立ち上がりで車体が傾いたまま僅かにフロントタイヤが浮き上がった場合などです。
この際、バイクは最適なバランス点を求めて自動的にタイヤ接地点を移動させようとする特性があり、急激にステアリングが切れます。
通称キックバック。
また、バランス点に移動させるためのハンドルの動きは非常に素早いので、慣性が付いてバランス点を飛び越えてしまう事があります。
慣性で切れすぎる → 行き過ぎた接地点を再びバランス点に戻す為に今度は逆に切れる → 再び慣性で切れすぎる……、これを凄いスピードで繰り返してしまう事があるのです。
ハンドルが激しく左右に振れるのでとても怖い……。
ウイリーまで行かなくとも、加速でフロントタイヤから荷重が減るとバランスを崩す場合があります。
勢いよく加速したらハンドルがフラフラしたり小刻みに震えた経験がある方は多いと思いますが、アレは加速によってフロントタイヤの接地点が本来バランスする点と異なる点になってしまったのをバイク自身が必死に修正しようとしているのです。
これを『激しく振られないように減衰する』のがステアリングダンパーの役割です。
あと、純粋に装着した姿がカッコイイ!(※コレ大事!)
カッコイイと言うとバカにされがちですが、そんな事はありません。
『カッコイイのは性能の一部であり、とても重要である』というのが私の持論です。
何がカッコイイと思うかは人それぞれですので何とも言えませんが、レースに憧れがある方や、メカメカしい外観が好きな方にとってステアリングダンパーを装着した姿はある種の憧れが具現化したものなので、それだけで十分装着する価値があるはずです!
車検は通るの?
ステアリングダンパーを装着しても車検は通ります。
だだし!車体から飛び出してはダメな場合があります。
全幅が変わってしまったり、突起物とみなされると通りません。
取付けのコツは?
まず初めに大事な事。
ダンパーを車体にガッチリ強固に固定する必要があります。
ブルブル振れるハンドルを抑え込むのが目的の装置なのに、取付けがグラグラしていたり、ステーの剛性が不足していて「しなる」ようでは意味がありません。
車種別キットはこの辺りを考慮してあるので大丈夫ですが(アルミ削り出しのゴツいステーでガチガチに装着するようになっているはず)、汎用品を汎用ステーで装着する場合は要注意。
また、エア室が独立していないダンパーの場合(廉価なダンパーは概ねこの構造)、ダンパー内のピストンが移動しても内部の空気に触れないように、空気を筒の上部に集めておく必要があります。
そうしないとステアリングを切った際に減衰力を生むはずのオイル通路に空気の泡が混入してしまい、効きが変わってしまうからです。
(空気はオイルよりも抵抗が無いので設定したよりもダンパーが弱くなる)
このため、水平ではなく横から見た際に斜めになるように装着する必要があります。
取付け方や位置によってダンパーのストローク量が激変するので、自分の車体に合ったストローク量のダンパーを購入する事も大事です。
『どの位置にどんな角度で装着するのか?』を定規などでシミュレートし、必要なストローク量を事前に測っておく事が非常に大切!
ストロークは大きすぎるとダンパー本体が長くなりすぎるのでハンドルを切った際に大きく飛び出したりしますし、逆にストロークが短すぎるとステアリングが最後まで切れなくなり大変危険です。
特にストロークが不足しているのは、ダメ絶対。
デメリットは?
本来ならフリーに動くのが理想のステアリングを敢えて動かなくしている事が最大のデメリットです。
ダンパーを締めるという事は常にハンドルに力を入れて押えているのと同じことなので、ハンドルが振れたりしない普通の交差点などでは逆に曲がりにくくなります。
良く言えば「どっしりと落ち着いた安定感のあるハンドリング」ですが、ようするに軽々しく動かなくなります。
さらに、ダンパーによっては非常に大きな減衰力を生む物もあり(手で動かせないほど固くなる物もある)、安易に最強にするとホントにハンドルが動かなくなって全く曲がれなくなる事もあります。
実際、駐車中にイタズラでダンパーを最強にされていて、スタートと同時に転倒してしまった例を何件も見ました。
不用意にハンドルの動きを規制するのはそのくらい危険なのです。
バイクはハンドルが切れないと曲がれません。
もしステアリングダンパーの代わりに単なる棒でハンドルを固定したら、バイクはどれだけ倒しても全く曲がらないのです。
それどころか、ステアリングでバランスすることが出来ないので直進時のバランスが取れず、たちまち転倒してしまいます。
自然な動きを妨げるけど良いの?
上記のように、ハンドルが切れる自然な動きを妨げるのは良くないです。
しかし、そうは言っても予期せずにハンドルがブルブル振れるのはもっと良くないので、その余計な動きだけを抑える事が出来るのが理想です。
だからダンパーはハンドルが振れない範囲内で出来るだけ弱い方が良いです。
極論を言えばステアリングダンパー無しが理想。
このように、装着すれば良いという物ではないですし、装着すれば速く走れるようになる物でもないです。
有名ブランドから発売されているキットはそんな事態にならないように考慮されています。
ですので、おすすめのメーカーは人気のブランド品です。
高価格な物ではオーリンズ、マトリス、ハイパープロ、ビチューボなど、低価格な物ではNHK、デイトナが人気ブランドの双璧です。
特殊な例の話が大きくなりがち
「(激しい走りなどで)ハンドルが振れる」という、かなり特殊な場面で活躍する部品なので、特殊な用途で特殊な状況の話が多いのが特徴です。
例えば、ブレーキング時にハンドルが切れ込むのを抑えるために強烈に締め込む!なんて話もあります。
上記の例は某有名国際A級ライダーからのリクエストとして実際に私が聞いた話ですが、特殊中の特殊であり、たまたまそのライダーがそうやった方がタイムが出るというだけです。
こういった特殊例は特殊ゆえに話が一人歩きしがちで、速く走るにはハンドルが振られないようにステダンを締め込むのが良い、となりがちです。
あくまでも「そんなライダーが居る」というだけなので、安易に真似すべきではありません。
筆者はステアリングダンパー否定派で標準装備のステアリングダンパーをわざわざ外してしまうタイプですが、これも極端な例ですので鵜呑みにしてはいけません。
最近は車のステアリングダンパーも流行っているが・・・
流行っていると言ってもバイクのステアリングダンパーのように本格的なオイルダンパーをステアリング系に装備するハードな物はジムニーくらいで(非常に険しい地形を進むクロスカントリー用途で発生する急激なキックバックを抑えるため)、
一般的に流行っているのはステアリングホイールの中に「ある程度自由に動く重り」を入れる構造の物です。
マスダンパーの一種で、左右に動く細かい振動を低減するのが狙いです。
トヨタで純正採用されたのが流行りの発端でしょうか。
マスダンパーはバイクのように物理的に作動を制限する物ではないので、「車のステアリングダンパーは〇〇だからバイクでも〇〇なハズ!」という話にはなりません。
名前がステアリングダンパーというだけで、狙いも目的も構造も違う別物です。
そもそもステアリングを切る事で『強引に曲がる』車に対し、曲がろうとする車体に対してステアリングが『必要な分だけ自動的に切れる』バイクとは意味合いが異なっています。
一緒の物だと思って車の記事を参考にすると話が噛み合わなくなるのでご注意ください。
この記事にいいねする
-
Scotts Performanceについて書かれた記事
- 記事がありません。
-
Matrisについて書かれた記事
- 記事がありません。