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世の中に流通している純正部品は星も数ほどあります。
その中でもグリップやミラーなどは汎用性が高く、他車への流用が容易に可能です。
でも、どの部品が汎用性が高くて人気なのかはなかなかわからないですよね?
しかーし!
汎用性が高くて流用しやすく、しかも高性能という『有名な純正部品』にはバイク乗りが勝手に付けた通称を持つ物すらあります。
皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
今回は通称を持つ「汎用性が高くて高性能で有名な純正部品」を通称名の解説と共にお届けします。
純正部品に通称がある?!
普通、純正部品は簡略化した部品名となっており、詳細は品番で区別されています。
そりゃそうですよね、全ての部品に「キャップスクリュー、M8、首下35mm、ネジ部20mm、P=1.00、高張力鋼、ユニクロメッキ、座付き(品番:123-45678-9ABC-0000)」なんて書いてられません。
なので、部品名は「キャップスクリューA」みたいな名称になり、詳しくは品番(123-45678-9ABC-0000)など、数字の羅列だけで区別されます。
実はネジのような汎用性の高い部品は純正部品の品番からネジの種類やサイズや表面処理がある程度読み取れたりもしますが、それはマニアック過ぎる話なので除外。
そうではなく、あまりにも有名な為にバイクマニアなら通じる名称(=通称)で呼ばれている部品があります。
通り名や異名を持ってるみたいでカッコイイですよね!
でも「悪魔のボルト」とか「鬼滅のナット」とか「麦わらのワッシャー」みたいな名前ではありません。
通称は自然発生した物なのでもっと呼びやすい名前になる事が多く、ちょっとダサめなのが特徴だったりします。
自然発生するという事は使っている人が多いという事を意味しており、それはつまり他車流用される機会が多いという事でもあります。
このため、通称名を持つ部品はとても汎用性の高い部品ばかりです。
これから紹介する部品、かなりの確率であなたの愛車にも装着可能かもしれませんよ?
ゼッツーミラー(Z2ミラー)
みんな大好きカワサキ空冷Z!
国内向けには750RS、Z750FOURという名称で販売されていた旧車ですが、型式名のZ2の方が有名ですね。
通称ゼッツー(関西ではゼットツーらしい)。
これに標準装備されていたバックミラーの事をゼッツーミラー(Z2ミラー)と呼びます。
Z2の純正ミラーだからゼッツーミラー。
何しろシンプルで、黒くて丸い棒の単なるステーに黒くて丸い単なるプラスチックの薄い形状のミラー。
特に特徴も無く、特殊な機能も無いのですが、だからこそどんな車種にもソツなく似合ってしまいます。
ただ、純正品は残念ながら廃番で購入できません。
カワサキ純正部品(販売終了)
品番:56001-1030(左右共通)
部品名称:ミラーアツシ
でも悲観する事はありません!
日本で圧倒的な人気を誇る車種なので、各社からレプリカ品が大量に発売されています。
レプリカと言っても多少はアレンジが加えてあり、その多くはステーが短めになっている事が多いです。
カワサキ純正のZ2ミラーは旧車らしくミラーステーが超長いのですが、最近のネイキッドに装着するとミラーだけが飛び出てカッコ悪くなるのを防止する狙いがあるのでしょう。
そして、社外品の短くなったステーは大成功で、使いやすさ抜群!
メッキ仕様もあるので「黒いミラーはちょっと……」という方でも安心です。
シンプルを絵に描いたようなデザインなので、ホントにどんな車種にも似合います。
カウルマウントの車種でなければスクーターまで含めて超オススメです。
枝豆キャリパー
キャリパーの歴史は強力な制動力とコントロール性を向上させる歴史でもあります。
この流れの一環でキャリパーのピストンは増えて行きました。
片押し1ポット(ピストン1個)から始まり、対向2ポット(ピストン2個)、対向4ポット(ピストン4個)、異形対向4ポット(ピストン4個だがパッドの傾きを抑制する目的で圧力分布を変えるためにピストン径が前後で異なる)と進化してきて、
遂に登場したのが異形対向6ポット(ピストン6個)のキャリパーです。
ディスク円周上に広大な面積のパッドを配置できるので、一時期の高性能大型バイクにこぞって採用されました。
GSX-1300Rハヤブサ、GSX1400、バンディット1200、ZRX1100などが代表例ですね。
全てトキコ製の異形対向6ポッドキャリパーが採用されています。
横から見るとピストンがズラッと並んでおり、その見た目から誰に言うともなく「枝豆キャリパー」と呼ばれるようになりました。
そりゃもう見たまんま。
そしてこのキャリパー、取り付けピッチ(マウント用のボルトの距離)が90mmという『スズキでよくあるピッチ』だったため、スズキの対向4ポットキャリパーが標準装備されている車両への流用が物凄く流行りました。
また、スズキ純正がバンジョーボルトピッチがスズキ独特のp=1.00だったのに対して、カワサキで純正採用されていた対向6ポットキャリパー(基本的に同じ物)はp=1.25だった為、他社流用する場合は使いやすいカワサキ純正6ポットキャリパーに交換するのが定番でした。
社外品でもAPロッキードやベルリンガーの他、デイトナからもNISSIN製の6ポットキャリパーが発売されるほどの定番カスタムだったのです。
しかし現在はすっかり廃れてしまいました。
狙いは良かったのですが、ピストンが6個もあるので『メンテナンスが面倒だった』というのが最大の敗因です。
また、繊細なピストンが6個もあるので、少しでも不調になるとピストンの戻りが悪くなり、『ブレーキを引きずりやすかった』という事も人気の陰りに拍車を掛けてしまいました。
ただ、しっかりメンテナンスされて正しく動く6ポットなら今でも一級品です。
残念ながら純正品も販売終了していますが中古品は今でも普通に流通しているので、しっかりメンテナンスして当時風のカスタムを再現して楽しむのもアリかもしれません。
当時は出来なかった繊細なメンンテナンスも今なら出来るのでは?
カワサキ純正部品(販売終了)
品番:43041-1625
部品名称:キヤリパアツシ,FR,RH
カワサキ純正部品(販売終了)
品番:43041-1624
部品名称:キヤリパアツシ,FR,LH
なお、ホンダの前後連動ブレーキもフロントブレーキキャリパーは異形対向6ポット(真ん中のピストンはリアブレーキ連動用で独立作動)ですが、何故か枝豆キャリパーと呼ぶのは一般的ではありません。
ヤマンボキャリパー
世間がバブル経済で盛り上がっている頃、50ccスクーターの性能もうなぎ上りで、各社が性能向上に凌ぎを削っていました。
そんな中、ヤマハが驚異のスクーターを発売します。
それがJOG ZR!
それまでも高性能の証としてディスクブレーキを装備した原付スクーターは存在していましたが、遂にフロントキャリパーにブレンボキャリパーを標準装備したのです。
とは言えそこは原付スクーター、標準装備されたキャリパーは超小型のカワイイ物でした。
確かにbremboの刻印は入っていたもののブレンボ本来のラインナップには無い物で、OEM生産されたキャリパーであった事から「ヤマハ」+「ブレンボ」で『ヤマンボ』と呼ばれました。
ちょっとバカにしていたのでしょうね。
ところがこのキャリパーに目を付けたカスタムビルダーが続々登場します。
小型軽量なキャリパーはリヤブレーキに流用すると最適だったのです。
当時は「速いヤツはリヤブレーキを使わない」という説が主流で、でもレギュレーションでも道交法でもリヤブレーキ無しは認められていないから、出来るだけ小型軽量かつ見栄えの良い製品を探していたらコレに行き着いたのでしょう。
また、モンキー・ゴリラの4mini系でもディスクブレーキ化する際の定番キャリパーとなりました。
しかし50cc原付スクーター人気の衰えと共にJOG ZRの需要も無くなり、これまた残念ながら純正部品は販売終了しています。
ヤマハ純正部品(販売終了)
品番:3YK-2580T-02
部品名称:キヤリパアセンブリ (レフト)
でも大丈夫!
4miniでは今でも絶大な需要が有り、それに応える形でデイトナから同じキャリパーが販売されています。
定番なので4mini系なら専用のキャリパーサポートが大量に存在するのもありがたいですね。
リヤブレーキに使おうとするとボルトオンとは行かず、ディスクも含めて大改造が必要なのは今も昔も同じですが、敢えて挑戦してみるのも面白いかもしれません。
TZグリップ
グリップはスクーターなどの短い物とハーレーなどのインチサイズを除くと一般的なバイクでは基本的に汎用性があり、だいたい何でも装着可能なのが良いところ。
正確にはグリップ内にツバが出ていたりする場合もありますが、余計な部分を切断したりする事で容易に流用可能です。
そんな中、昔から流用のド定番として君臨するのがTZグリップ!
でも「TZって何だ?」という方も多いでしょう。
TZというのはヤマハの2ストローク市販レーサー(公道走行不可車両)の名称です。
TZ125、TZ250、TZ350、TZ500、TZ750が販売されていました。
公道走行不可と言っても市販車をベースにレース専用に仕立てた現代のレースベース車とは次元が違い、エンジンもフレームも市販車との共有部品はほぼ無いバケモノです。
スプリントレースで勝つ事だけを追求していたので快適性など皆無な超スパルタンな乗り物でした。
ホンダの市販レーサーRSシリーズは市販車のグリップラバーを流用していましたが、ヤマハは違いました。
レーサー専用のグリップとして快適性無視で操作性だけを追求した限界ギリギリ仕様を採用していたのです。
手に伝わる振動なんかガン無視!極端に細いのでラバーの厚みはペラペラです。
表面は単なるローレットパターンで一見すると何の特徴もありませんが、ギザギザの高さがズバ抜けて高いのが特徴。
薄手のグローブでは痛いくらいですが、操作性優先なので当然です。
バーエンド部分のツバは普通の太さになっており、グリップ径が細いので相対的に段差が大きくなりますが、これは当時の2ストロークレーサー特有の極端に絞って垂れたハンドルポジションでも自分がハンドルバーのどの位置を握っているのかを把握するのに役立ちます。
街乗りやツーリングには全く向いていませんが、スパルタンに走りを追求したい方はぜひ試してみてください。
因みにこのTZグリップは私が30年間愛用しているグリップでもあります。
ありがたい事に今でも新品が入手可能です。
しかも安い!
ヤマハ純正部品
品番:47X-26242-00
部品名称:グリツプ(ライト)
ヤマハ純正部品
品番:47X-26241-00
部品名称:グリツプ(レフト)
ロッシグリップ
同じグリップラバーでも上記のTZグリップと正反対の方向に振り切れているのがこちらのグリップ。
「ロッシ」というのは言わずと知れたmotoGP界のレジェンド、バレンティーノ・ロッシの事です。
今でこそヤマハのイメージが強いロッシですが、GP界では長らくホンダのエースライダーでした。
RS125、RS250、NSR250RW、NSR500といった歴代2ストロークの他、4ストローク化された際のRC211Vで初代motoGPチャンピオンも獲得しています。
ホンダ製のマシンなのでグリップラバーもホンダ製品を使っていて、別に違和感も無かったのですが……、
ヤマハに移籍した際にYZR-M1で採用されていたグリップラバーが合わず、なんとホンダのグリップラバーにソックリな(もしかしたらホンダ製そのもの)グリップを採用!
『ヤマハのワークスレーサーなのにグリップはホンダ』という衝撃の組み合わせにレース界はどよめきました。
「あのグリップが速さの秘訣なのではないのか……?」と。
これはたちどころに世界に波及し、ロッシの使ったホンダ製のグリップはサーキットどころか公道でも大繁殖。
これが「ロッシグリップ」の由来です。
このロッシグリップですが、上記のTZグリップとはコンセプトが全く異なります。
なにしろ公道用市販車が純正採用している普通のグリップなんですもの。
※CB400SF、CBR600RR、CBR1000RRで純正採用されていたグリップそのものです。
まず、握りが太い。
付け根の部分は素早くスロットルを開けられるように(?)細身ですが、掌の当たる部分は肉厚でかなり太めです。
これは振動を吸収してライディングに集中出来るようにするためだと考えるとツジツマが合います。
繊細な操作が出来るけれどひたすら耐える事を要求されるTZグリップが昔ながらのド根性系だとすると、ロッシグリップは忍耐を不要としてライディングだけに神経を使うべきという合理主義系と言えるでしょう。
もちろん街乗りやツーリングに向いているのは間違いなくロッシグリップです。
近年登場した市販車用純正部品という事もあり、今でも普通に購入可能。
どうです?次回交換時にはロッシの操作性を体感してみませんか?
ホンダ純正部品
品番:53165-MY9-890
部品名称:グリツプ,R.ハンドル
ホンダ純正部品
品番:53166-MY9-890
部品名称:グリツプ,L.ハンドル
純正部品以外にもある通称名
最も有名な通称を持つ社外パーツと言うとブレンボ製のキャリパーかもしれません。
「カニ」と「新カニ」は今でも現役ですし、昔は「ラグビー」なんてキャリパーもありました。
実はブレンボ製品のこれらの名称は自然発生したものではないのですが……、
詳しく知りたい方はカスタム界の重鎮に聞いてみると面白い話が聞けるかもしれませんよ。
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