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目次
第7世代のスーパーバイクは、MotoGPマシンに急接近!
『NEW OPERA』というキャッチコピーとともに2018年に登場したパニガーレV4。それまでドゥカティのスーパーバイクはすべてLツインエンジンを搭載していたが、このモデルからV4エンジンを搭載。
MotoGPマシンの開発を手がけるドゥカティコルセが開発に参画し、MotoGPの技術を惜しみなく投入。そこからの躍進はご存じの通り。翌年にはRモデルが登場し、WSBK(スーパーバイク世界選手権)で勝利し、タイトルも獲得してきた。
そんなパニガーレV4が2025年モデルとしてフルモデルチェンジ。851から始まったスーパーバイクの第7世代(7G)として生まれ変わった。発表は今年の7月26日から開催されたWDW(ワールド・ドゥカティ・ウィーク)に合わせてミザノサーキットで行われた。さらにWDWのレース・オブ・チャンピオンズというレースでは、フランチェスコ・バニャイヤやマルク・マルケスなどのドゥカティライダー11名が最新マシンを駆り、そのポテンシャルを証明した。
シャープな顔付きになった2025年モデルのパニガーレV4S。価格は、今回試乗したV4Sが414万1000円。足まわりなどの装備が異なるスタンダードのV4が323万9000円。
両持ちのスイングアームとすることでイメージを一新。MotoGPテクノロジーを随所に投入する。
パニガーレV4Sの試乗会はイタリアのヴァレルンガサーキットで開催。僕がドゥカティの試乗会に参加するのは2020年のパニガーレV4S以来。
さまざまなキャリアのライダーがヴァレルンガサーキットで新旧パニガーレV4Sを乗り比べたところ、新型に乗った全員が1秒近くタイムアップしたとのこと。
NEWパニガーレV4Sは本当に速い!信じられないほど速い!
7月に開催されたWDWでパニガーレV4Sを駆るバニャイヤのタイムは驚異的だった。以下にミザノサーキットでのさまざまなタイムを並べてみた。ここで比較するパニガーレV4Sは、レーシングエキゾーストなどを装着し、228psを発揮するモデルになる。
・F.バニャイヤ×パニガーレV4S(7G) 1分35秒051
・F.バニャイヤ×パニガーレV4(6G) 1分35秒886
まずは前モデルとの比較。6Gのタイムは2022年のWDWで開催されたレース・オブ・チャンピオンの時のもの。7Gになり0.835秒も速くなった。
・F.バニャイヤ×パニガーレV4S(7G) 1分35秒051
・T.ラズガットリオグル×BMW M1000RR 1分32秒320
2024年のWSBK第4戦のレコードタイムを出した、ラズガットリオグルが駆るM1000RRとは2秒731秒差。ちなみにレース1を完走したバイクの最後尾のベストタイムは1分36秒385のため、そのバイクよりパニガーレV4Sの方が遥かに速い。
・F.バニャイヤ×パニガーレV4S(7G) 1分35秒051
・F.バニャイヤ×デスモセディチGP 1分31秒714
・M.マルケス×デスモセディチGP 1分31秒564
MotoGP第13戦の決勝タイムを比較。ドゥカティ最速タイムはマルケスで、MotoGPマシンとの差は3.487秒。ちなみにレギュラーライダーで最も遅かった中上貴晶のタイムは1分33秒545。パニガーレV4Sは限りなくMotoGPマシンに近づいたといっていいだろう。
・F.バニャイヤ×パニガーレV4S(7G) 1分35秒051
・F.バニャイヤ×デスモセディチGP 1分30秒877
MotoGP第14戦の決勝タイムを比較。デスモセディチGPは2戦連続、さらに秋に近づきコンディションが良くなったことでタイムアップ。それでもパニガーレV4SとデスモセディチGPの差は4.174秒だ。ちなみにパニガーレV4Sのタイムは最もタイムの出にくい真夏に計測されたものだ。
開催時期やコンディションが同一ではないため厳密な比較はできないが、パニガーレV4Sの速さは十分証明できているだろう。
エンジンをシャシーの一部として考える車体づくりはドゥカティの昔からの手法。ドゥカティらしさを磨き、どんどんアップグレードしている。
フレームはエンジンとフロントフォークを繋ぐためのとてもシンプルなパーツに。サイド部分は大きく肉抜きされ横剛性は40%もダウン。
スイングアームは片持ちから両持ちに。横剛性は37%落としている。両持ちにすることでマフラーの設計の自由度を生み、ステップを1cm内側にマウントすることができた。
最新パニガーレの進化は普通のライダーに体感できるのか?
この進化は僕のようなサーキット走行が趣味というライダーに体感できるのだろうか?リリースを紐解いて印象的だったのは、キャリアを問わず多くのライダーがタイムアップすることを強調していること。これはフレームとスイングアームの横剛性を落とし、電子制御をよりわかりやすくして達成したことだろう。
約2カ月前にWDWで対面したパニガーレV4Sはシャープさが魅力で、今の時代にスーパースポーツの可能性を追求するドゥカティのフィロソフィーが伝わってきた。そして今回の試乗会場となったヴァレルンガで2度目の対面。フレームやスイングアームを手に取るとドゥカティのチャレンジがいかに大胆であるかを痛感した。徹底した肉抜きは驚愕で、とにかく軽いのだ。
タイヤはピレリ製のスリックを装着。試乗会は15分×6本があり、走行の度にエンジニアがオプションのデータロガーを見ながら僕の走りを解析してくれた。「MotoGPライダーのような気分を味わってね」とドゥカティのスタッフは笑う。こんな試乗会は初めてだ。
走り出して印象的なのは、高速域での車体の動き。その領域でパニガーレV4Sはとても軽い。1本目は先導付きだが、ラインをトレースしやすく、リズムも掴みやすい。
走行毎にペースを上げていく。コースとバイクに慣れるほどに僕の操作は、バイク頼り、電子制御頼りになっていく。こんなに頼って良いんだろうか……という遠慮はあるもののパニガーレV4Sは余裕の表情。頼るほどにハイスペックが身近になっていく感覚は、これまでのパニガーレになかったもの。だから、どんどんポジティブな気持ちが芽生え、その先の世界に期待が膨らんでいった。
ブレンボ製のHypureキャリパーを採用。前モデルから60g軽量化。力がかかっていないときのディスクの滑りを15%も軽減している。
予測型制御を搭載。リヤブレーキを自動調整する市販車初のレースeCBSを搭載
電子制御は、ドゥカティコルセが開発したドゥカティ・ビークル・オブザーバー(DVO)というアルゴリズムを使用。バイクの動きやライダーの操作を予測しながら制御するという領域に達した。
ライディングモードは、5つ(レースA、レースB、スポーツ、ロード、ウェット)から選べる。各モードによってトラクション、ウィリー、スライド、エンジンブレーキコントロール、そして電子制御式サスペンション3.0はデフォルトの設定があるものの、それぞれをピックアップして自分に合わせることも可能。どのスーパースポーツよりも大きなメーターは、そのセレクト作業自体がユニークだし、視認性も抜群だった。
さらに市販車初のレースeCBSはフロントをかけるとリヤも自動で調整してくれるというもの。7つのモードから選べ、今回はサーキット用のレース1とレース3をテスト。
目には見えないが、パニガーレV4Sはさらなる電脳化を促進。事前にリリースなどを読んでいたものの、実際にメーターを見ながら説明を聞き、直後に走行した時のリアリティといったらなかった。
何本か走り、加速方向の制御がパニガーレV4Sを馴染みやすしていることを体感。そして、減速方向のレースeCBSとABSの信者になるのにも時間はかからなかった。
ライダーの動けるスペースが大きく向上。欧米の大柄なライダー達にとってはかなり大きなメリットのようだった。
きちんと止まれるから、大胆な加速ができる
パニガーレV4Sのハンドリングはとてもフレキシブル。旋回中のライン変更もしやすい。少しつっこみすぎた時などもリカバリーしやすく、これは思い切って横剛性を落としたフロントフレームと両持ちスイングアームの効果だろう。
しかし、僕にとってのパニガーレV4S最大のハイライトは、5速/270km/hからフルブレーキングして2速までシフトダウンするバックストレートでのワンシーンだった。走るほどにブレーキは深くなり、止まれないかも…、と緊張することもあったがパニガーレV4Sは減速を完璧にこなし、さらには向きを変えやすい姿勢に導き、スロットルを開ける体制までもを提供してくれた。「きちんと止まれるから、きちんと開けられる」の繰り返しで、その精度を高めていくチャレンジはとてもエキサイティングだった。
レースeCBSは、フロントブレーキを離しても必要であればリヤブレーキを調整し続けるため、ブレーキペダルから足が離れがちな左カーブや、深いバンク中、イン側の足を出してのコーナリングにも効果を発揮。この機構をもっと理解できれば、走りをまだまだ進化させられるかもしれない…体力のない50歳の僕にもそんな明るい希望を持たせてくれるのがレースeCBSなのだ。
もちろん立ち上がりでは、怒涛のパワーが炸裂…。確かに炸裂するのだが、暴れ馬のような感覚はなく、パニガーレV4Sは狙いを定めた場所に瞬間移動するような印象だ。これはガチガチのフレームでどこに飛んでいってしまうかわからなかった初期型のパニガーレV4Sからは考えられない振る舞いである。
ライディングモードは「レースA」「レースB」「スポーツ」「ロード」「ウェット」を用意。パワーモードは「フル」「ハイ」「ミディアム」「ロー」の4つが設定される。
スーパースポーツに対する確固たる自信、その背景にあるあくなき探究心
スーパースポーツ開発の最大の難関は、厳しい規制に対応させること。そしてエンジン開発に莫大なコストがかかることだろう。その中でもBMWとドゥカティは常に研究開発を続けている。
「ライバルはBMW?」と聞くと「そう、もちろん。あとCBR1000RR-R」と返ってきた。「他の日本勢は?」と聞くと「他のバイクは開発を止めてしまっているじゃないか」との返答。さらに各モデルのキャラクターの特徴を細かく教えてくれた。当たり前だが、物凄くシビアに研究をしている。
確かにドゥカティは開発を絶えず続けている。しかもMotoGPマシンを開発するドゥカティのレース部門である、ドゥカティコルセが直接開発を手がけているのだ。MotoGPテストライダーのミケーレ・ピッロは、今回のパニガーレを「とても自信がある」とコメント。ダニロ・ペトルッチは「エキサイティングだ」と語っている。
「我々ほど多くのサーキット、多くのライダーを乗せてスーパースポーツを開発しているメーカーはない。そこは絶対に他のメーカーに負けない自信がある」とドゥカティのエンジニアは自信満々に語る。聞くと、すでに欧州のMotoGP開催コースをいくつも走り込んでいた。このR&DスタイルであればMotoGPマシンとの比較もしやすいだろう。
「WONDER. ENGINEERED.」のキャッチコピーとともに登場したスーパーバイクの第7世代である2025年モデルのパニガーレV4Sの興奮と驚き、その余韻を僕は帰国後も楽しんでいる。この驚きに包まれる嬉しさを、多くのライダーにも体験してもらいたい。
851からスタートしたドゥカティのスーパーバイク。2025年モデルのパニガーレV4Sが第7世代へ。
2018年にデビューしたパニガーレV4。当時はフロントフレームには穴は空いてなく、試乗会の開催されたヴァレンシアサーキットでスロットル全開にすると大きく振られたのを思い出す。
このモデルから初の自社製ホイールを採用。かなりの重量削減に成功し、これもハンドリング向上に貢献。
こちらは保安部品が付いた状態。タイヤはピレリのディアブロスーパーコルサV4SPが標準。
アルミ製の燃料タンクはシート下まで伸び、マスの集中に貢献。並列4気筒よりも車体はスリムだ。
ドゥカティ パニガーレV4S [2025]主要諸元
・ホイールベース:1485mm
・車重(燃料含まず):187kg
・エンジン:水冷4ストロークV型4気筒DOHC4バルブ1103cc
・最高出力:216PS/13500rpm
・最大トルク:120.9Nm/11250rpm
・燃料タンク容量:17L
・変速機:6速リターン
・ブレーキ:F=ダブルディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=120/70 ZR17、R=200/60 ZR17
・価格:414万1000円
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