【ケニー佐川:Webikeニュース編集長】
見応え十分だった東京モーターショー
今年の東京モーターショーは面白かった。2輪の出展はほぼ国産4メーカーだけだったが、展示スペースは広く内容にも熱意が感じられたし、例年以上に盛り上がったと思う。
ついにベールを脱いだスーパーチャージド「Z H2」は想像以上の完成度だったし、来夏以降に国内発売が決まったミドルアドベンチャー「テネレ700」は跨っただけで手の内感が伝わってきた。スズキ恒例のMotoGPマシン「GSX-RR」のフルバンク展示も迫力満点だったし、現代に蘇ったハンターカブ「CT125」はそのまま乗って帰りたいほど愛らしかった。普段はクルマにしか関心のない層にも「バイクもなかなか面白いぞ!」と良いアピールができたのではないか。
現代のスーパーマルチはどんな夢を見させてくれるのか
と、満足できた今年の東京モーターショーだが、その中でも個人的に印象深かったのは250ccクラスの2台。カワサキ「ZX-25R」とスズキ「ジクサー250」だ。「ZX-25R」はすでに話題沸騰で、いろいろなメディアでその図抜けたパフォーマンスを予想する記事で賑わっている。何しろ30年ぶりに出た250ccクラスの4気筒スーパースポーツなのだ。前回もふれたが、45psオーバーも期待できる4気筒エンジンはその突き抜ける上昇感やヒステリックなまでの甘美な音色が無上のエクスタシーをライダーにもたらしてくれる。
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思えばかつて2ストレプリカブームが陰りを見せ始めた80年代終盤、各メーカーはその淀んだ空気を振り払うかのように4ストレプリカの開発競争へと突き進んだ。ちなみに当時、市販車を改造したプロダクションレースのTT-F3クラスではNSRなどの2スト250ccとZXRなどの4スト400ccがガチで鎬を削っていた。それほど当時の2ストマシンは凄かったわけだが、一方でそれと同等レベルの走りを4ストで実現しようとしたのが後発のスーパーマルチクォーター達だった。F1のテクノロジーが投入されたCBR250RR、ジェネシス思想の新世代エンジンで2万回転に迫ったFZR250など本気の全力マシンがキラ星のごとく現れた。
自主馬力規制上限の45psはすでに2ストレプリカと同レベルで、豊かな低中速トルクなんて目もくれず、回転馬力の最後の一滴までも絞り出そうとするエンジン。その悲鳴が耳を劈くあの金切声だったわけだ。そのひた向きさに人々は感動した。我々アラフィフ世代はその記憶が生々しく残っているから、ことさら4ストマルチの話になるとついつい熱く語ってしまうのだ、ゴメンナサイ! ただ、裏を返せばそれは期待値の大きさだ。FIも電制もラジアルタイヤも無かったあの頃から30年経った今の技術によって、どんな素晴らしいマシンが生まれてくるのか夢が膨らむ。
シンプルで高性能な新たな油冷単気筒の可能性
で、注目のもう一台「ジクサー250」は実によく出来たモデルだった。乗ってもいないうちから断言できるのか、とお叱りを受けそうだが根拠がある。ひとつは一昨年に国内でも発売された「ジクサー」の存在。エンジンは空冷単気筒の150ccでパワーは14psと地味なスペックだったが、これが乗ってみると素晴らしかった。とにかく軽くて走りも軽快だし、エンジンもけっしてパワフルとは言えないが、低中速に厚く扱いやすい特性で小気味良いパルス感がとても気持ちいい。
今回その250cc版ということなのでおのずと期待してしまうが、そのもうひとつの根拠はスペックだ。スズキにはGSX250Rという水冷並列2気筒のスポーツモデルがあり、「ジクサー250」は空冷単気筒と普通に考えるとちょっと格下に思えるかもしれないが、スペック的にはパワーでは26.5psと2.5ps高く、車重も156kgと同じく18kgも軽いなどGSX250Rを上回っているのだ。
それでいて動弁系はSOHC4バルブと1本のカムシャフトで4つのバルブを動かす仕組みなのでシンプルかつ高回転化できるし、エンジン自体を軽量コンパクト化できるメリットもある。ピストンスカート部分に特殊なコーティングを施して摩擦抵抗を減らすなど、MotoGPマシンの技術も投入されているそうだ。
また、スズキと言えば旧GSX-Rシリーズ時代から油冷システムが有名だが、「ジクサー250」にも新設計の油冷システムを採用。燃焼室の周囲にオイルジャケットを設けることで、水冷エンジンのように効率的に冷やすことが可能になったという。一見シンプルな中に最新テクノロジーが詰め込まれているわけだ。昔からある空冷単気筒というベーシックなエンジンにもまだまだ進化する可能性があることを示したくれた点も称賛に値すると思うのだ。
東京モーターショーは11月4日(月)までやっているので、是非リアルで見てほしい。きっと新しい何かを見つけられるはずだ。
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