ブレーキローターやキャリパーから熱を受けても沸騰せず、氷点下になっても凍結しないブレーキフルードは、ブレーキにとって最強の作動油です。しかしグリコール系フルードは水分が混入することで沸点が低下するため、定期的な交換が必要です。一般的には使用期間で管理しますが、専用のテスターを使えばより具体的な吸湿率の把握も可能です。
使用期間で管理すれば間違いないが、条件によってはもっと短期間で吸湿することもある
リザーバータンク内のフルードにテスターの電極を触れさせてスイッチを押すと、フルードに含まれる水分を測定してLEDに表示させる。
緑は吸湿率1.5%未満なのでコンディションは良好で交換の必要はない。
ディスクブレーキでもドラムブレーキでも、油圧を使って制動力を伝達する際に作動油として使われるのがブレーキフルードです。バイクのドラムブレーキは大半がケーブルやロッドで作動する機械式ですが、自動車の場合はドラムブレレーキも油圧式です。
エンジンの潤滑に使用するエンジンオイルにさまざまな性能が求められるのと同様に、ブレーキフルードにもいくつもの厳しい条件があります。まず第一にブレーキ熱によって沸騰しないことは必須条件です。レース中のマシンのブレーキローターが真っ赤になっている写真や映像を見たことのある人も多いと思いますが、速度が上がり車両の重量が重いほど、運動エネルギーを熱エネルギーに変えて速度を落とすブレーキに掛かる負荷は大きくなります。
サーキットやワインディングでハードに走行した時、ブレーキパッドの温度は300℃以上に達することがあり、パッドからキャリパーに伝わった熱によりブレーキフルードも200℃以上になる場合があります。そんな高温でも沸騰しないよう、ブレーキフルードの主成分にはグリコールやシリコンが使われています。これらはいずれも沸点が200℃以上と高温で、さらに氷点下でも凝固、凍結しない性能を持っています。また粘性の低くレスポンスが良いのも、ABSによって制動力を断続的に働かせるにはとても適しています。
グリコールを主成分とするブレーキフルードは、市販車の大多数に使用されているポピュラーな存在ですが、唯一にして最大の弱点といって良いのが水分が混ざる吸湿性があることと、吸湿することで沸点が低下することです。
あるブレーキメーカーのデータによると、水分混入率がゼロ=ドライ状態のDOT4のブレーキフルードの沸点は230℃以上となっています。ところが吸湿率が3.7%になると155℃以上にまで沸点が低下するとされています。先に触れたように、サーキットでハードなブレーキングを行うとブレーキフルード自体が200℃以上に達することもあるため、ブレーキキャリパー内部で沸騰して気泡が生じ、ブレーキが利かなくなる恐れがあります。
このメーカーでは、1~2年使用したブレーキフルードの吸湿率が3.7%であると規定しており、そのため2年を目安に定期的に交換するよう指定してます。バイクのサービスマニュアルにも2年ごとに交換するよう指示されているので、車検付きのバイクであれば車検ごとの交換で性能が維持できるというわけです。
ただし、晴天時にしか乗らないバイクと、雨が降ってもかまわずツーリングに出かけているバイクでは、ブレーキフルードの吸湿率に差が出ることはあり得ます。リザーバータンクからキャリパーに至るブレーキフルード経路は、基本的には外部とは接触しないことになっています。しかしマスターシリンダーのダイヤフラムやキャリパーピストンのシールなど、外界との境界を通じて空気中の湿度と触れることは避けられません。雨ざらしにしているわけではないのに、1~2年で一定の水分と結合するのはそのためです。
そう考えると、使用期間だけでなく実際の吸湿率で交換時期を判断したいと思うライダーもいるのではないでしょうか。それを可能にするのがブレーキフルードテスターです。
- ポイント1・グリコールを主成分としたブレーキフルードは油圧ブレーキの作動油として最適だが、水分の混入により沸点が低下するのが大きな弱点となる
- ポイント2・1~2年で定期的に交換するのが一般的なメンテスケジュールだが、使用条件によってはもっと短期間で吸湿率が上昇する可能性もある
ブレーキフルード内の水分を表示することで交換時期を判断できる
水道水に先端を触れさせた際に赤のLEDが点灯すればテスターの機能は正常。先端が濡れたままリザーバータンクに入れると水分が混入するので、フルードのチェックを行う前に必ず乾燥させること。
吸湿率1.5~3%未満を示す黄色表示は、今すぐ交換しなくても良いが確実に水分が混入していることを示す危険信号。沸点低下は赤表示になった途端に起こるわけではなく、徐々に進行していく。そのため黄色の時点で交換しても拙速とは言えないだろう。
ブレーキフルードテスターにはいくつかのタイプがありますが、どのような製品でもフルード中に含まれた水分量から吸湿率を算出して、現状のコンディションを表示します。ここで紹介するテスターは、2本の電極をフルードに接触させると3色のLED表示によって交換時期か否かを知ることができます。ここで紹介している製品の場合、吸湿率が1.5%未満なら緑、1.5~3%未満なら黄、3%以上で赤が点灯します。
わざわざテスターに頼らなくても、気になったらその都度交換すれば良いという考え方もあります。一方で整備の結果を記録することが求められるプロの現場では、いつ、どのようなチェックが行われたかを追えるトレーサビリティの観点と、過剰な整備によるユーザー負担の増加を抑制する観点から、テスターで測定した後に作業内容を決めるという方針を採用しているところもあるようです。リザーバータンクの窓から見えるフルードが茶色に変色していれば迷わず交換するでしょうが、このテスターを使えば見た目は透明に近くても吸湿率はそれなりだった、という事実が分かることもあります。
ブレーキフルードは大気に触れるだけで吸湿が始まるため、缶に入った新品であっても一度開封したら劣化が進行するという意見もあり、そのため大容量タイプを何度かに分けて使うのではなく、交換作業ごとに使い切れる量の新品フルードを購入した方が良いという指摘もあります。残念ながら開封後何年も経過したようなフルードが手元にないため、未使用フルードの吸湿率を測定することができませんでしたが、ブレーキフルードテスターがあればそうしたフルードのチェックも可能になります。
使用期間による判断であっても、吸湿率を直接測定できるテスターによる判断であっても、重要なのはブレーキフルードの吸湿率が一定以上、それも一桁%台であっても沸点が著しく低下するということです。街乗りでフルードが200℃以上に達するような乗り方をすることはないでしょうが、サーキットでスポーツ走行を楽しむような場合には想像以上にブレーキを酷使します。そんな場面で怖い思いをしないよう、ブレーキフルードをはじめブレーキ周りのメンテナンスは日頃から入念に行っておくことが重要です。
- ポイント1・ブレーキフルードテスターによってフルード中に含有する水分量を知ることができる
- ポイント2・使用期間とテスターによる測定値を併用することで、ブレーキフルードのコンディションを良好に保つことができる
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