発進加速時にエンジン回転が「妙に高くなる……?」とか、回転ばかり高まって「力強く加速しない!?」などなど、エンジンパワーに違和感があるときに疑うべきポイントのひとつにクラッチユニットがある。ここでは、ホンダ縦型4ストミニエンジンをベースに、クラッチフリクションディスク&プレートの分解メンテナンスを実践してみよう。

カバー締め付けボルトの所在を明確に



抜き取ったボルトの位置関係を明確にするため、段ボール紙にカバー形状を落書き模写して、ボルトの位置関係を再現&復元できるように、突き刺して管理する方法は良く知られている。スムーズに取り外せボルトを元通りの位置へ戻すためのアイデアだ。ボルトの長さが微妙に違っていることもあり、違うボルトを締め付けてしまうことで、ネジ山が締め付け不足になったり、長過ぎて底付き(座屈)してしまい、しっかりトルクを掛けられない場合もある。取り外したボルトは位置関係を管理しつつ、ネジ山をしっかり洗浄しよう。ここでは、取り外したボルトの位置関係が変わらないようにウエスの上でボルトを管理した。カバーを取り外すときは、オイルフィラー穴に指先を入れて引き上げつつ、正反対側の側面をプラスチックハンマーでコツンコツンと叩き、カバーを浮き上がらせよう。

カバーを取り外したら内部状況を確認



カバーが少しだけ浮き上がったら、オイルフィラー穴や浮き上がり部分に指先やツメを引っ掛けて持ち上げる。キックシャフトの上に親指を載せ、人差し指と中指でガスケット座面をグイッと持ち上げるのも取り外しやすい方法だ。カバーを外したら内部部品の取付状況を確認しよう。ホンダ横型4ストミニの自動遠心クラッチなどでは、カバーと一次クラッチの間にクラッチリフター部品があり、それがポロッと外れやすい。車載状態で復元するときは、このレリーズ部品の収まりが悪くなってしまうこともある。

専用工具が無ければアルミ板を噛ませて



クランク回転力をミッションへ伝えるのがプライマリードライブギヤとドリブンギヤのセットだが、このギヤが回ると作業性が悪くなってしまう。ギヤ同士を固定する専用工具があれば良いが、手元に無い場合は、板厚2mm程度のアルミ板を準備して、ギヤに直接?み込ませて回転を封じ、クラッチリフタープレートを固定する4本のボルトを取り外そう。

センターの固定はサークリップ式



リフタープレートを取り外す際には、1か所ばかり緩めるのではなく、対角かつ平均的にボルトを緩めて圧縮されたクラッチスプリングの張力を抜こう。リフタープレートを取り外したら、センターを固定するサークリップを取り外し、4本突き出ているクラッチスプリング固定部分を指先でつまんでゆっくり引き抜こう。

滑りの原因は大きく2つある



クラッチフリクションディスクとクラッチプレートを抜き取ったら、入り込み順序と向きを忘れないように分解し、鉄板のクラッチプレートは表面に焼けた痕が残っていないか確認しよう。後期型のエイプ100は4枚のフリクションディスクのうち、一番奥と一番手前、内側2枚のセットでタイプが異なっている。焼け痕があるプレートは歪んでいる可能性が高いので、歪み確認を実施。状況によって新品部品に交換しよう。定盤と呼ばれる平面台があれば歪み状況を簡単に点検できるが、定盤は無いときは代用としてガラス(窓ガラスなど)のフラット面を利用し、シックネスゲージを差し入れ、歪みの有無を確認しよう。フリクションディスク(摩擦材付き)は、ダイヤルゲージでその厚さを厳密に測定し、そのデータが使用限度に達していないかサービスマニュアルで確認する。クラッチ滑りの原因は、これらのクラッチディスク・コンディションに問題がある場合と、スプリング張力のヘタリに問題がある場合の2パターンだ。スプリングのヘタリは自由長測定でマニュアルデータと比較しよう。エイプ100の場合、フリクションディスクの厚さは2.7mm以下で交換。クラッチスプリングは29.5mm以下で交換。クラッチプレートの歪み限界は0.2mmとなっている。

プレート復元時には面取り側を……



クラッチプレートの凸凹部分の裏表を見ると、片側はフラットで反対側は丸みを帯びた面取り形状になっている。一般的には、この面取り側を内向きに揃えて組み込む。これによってクラッチ接続時(ミート時)に、プレートがスムーズに作動しやすくなる。クラッチハウジングにコントロールプレートとディスク&プレートを復元したら、スプリング固定の突き出し部分を対角に持ち上げつつ、クラッチセンターを手のひらで押し付け、センターとコントロールプレートの凸凹噛み合いをしっかり確認しよう。組み合わさったらサークリップでシャフトに固定する。スプリング+リフタープレートの復元時も、4本のボルトを対角に平均的に締め付けよう。

チューンドエンジンユーザーやミニバイクレースへ参戦するときは、クラッチを過酷に利用するため滑りが発生しやすい。エンジンのパワーアップに合わせて、クラッチユニットの強化パーツを組み込むのも効果的だ。

POINT

  • ポイント1・ カバーボルトを取り外したらネジ山を洗浄。ボルト復元時にも位置関係を間違わないこと
  • ポイント2・フリクションディスクもプレートも減りだけではなく歪みにも要注意
  • ポイント3・クラッチプレートの組み込み向きにも注意しよう

点火系が不調で加速中にパンパンッと不正爆発を起こしたり、キャブレターが不調で加速途中に息つきを起こし、気持ち良く走れないのは大問題。一方で、気持ち良過ぎるほどエンジンは良く回るものの、力強く加速しないのも大問題である。そんな後者のようなトラブルの多くが「クラッチの滑り」だと考えられる。

マニュアルクラッチ車は、その名の如くライダー自らがクラッチ操作を行う仕様。ボアアップやエンジンチューニングによって、エンジンパワーがクラッチ容量を勝ると、クラッチが滑り出してしまう。過走行車の場合も、フリクションディスクが擦り減り、やはり滑り症状が発生してしまう。フリクションディスクの摩耗限度を超えたことによる面圧低下や、度重なる半クラッチ操作でクラッチプレートを焼いてしまい歪みが発生……。フリクションディスクとの密着を保てなくなり、滑り症状が発生してしまうこともある。また、長年の走行によってクラッチスプリング張力が低下することでも、クラッチの滑り症状は発生する。

マニュアルクラッチ車の場合は、人為的な原因でクラッチ滑りが発生するケースもある。前述した「半クラッチ操作のし過ぎ」もそうだが、クラッチの遊び調整を間違えた=遊びを少なくし過ぎたことで、常にクラッチの密着が完全ではなく、その影響で早期にクラッチ滑りを起こしてしまうケースもあるようだ。

スーパーカブシリーズのような「自動遠心クラッチ」仕様はどうなのだろう?クラッチレリーズの遊び調整が正しく成されていたとしても、やはり過走行エンジンだとクラッチフリクションディスクは滑りを起こしてしまう。自動遠心クラッチは、発進時のエンジン回転上昇による遠心力でクラッチをミート。その後、エンジン回転の上昇とともに、プッシャーローラーやウエイト(年式によって異なり70年代以前はローラー仕様)が、クラッチフリクションディスクとクラッチプレートをさらに強く密着させ、滑りを発生させず速度を増していく。マニュアルクラッチの操作手順をギヤチェンジ時のクラッチ断続と遠心力で行い、速度の上昇とともにクラッチディスクとプレートの密着を高めるシステムだ。

したがって、過走行になれば当然にクラッチユニットは滑り出してしまう。ひとつの目安としては、キック始動時に、キックペダルを踏み込んでもクランクが回転せず「ペダルが滑り落ちている!?」かのような印象があるときがそれだ。スーパーカブの多くは、クランクシャフトの一次側にクラッチが装備されているため、クラッチユニットを介してキック始動しているため、クラッチが滑り始めるとこのような症状が発生し、エンジン始動が困難になってしまうのだ。

ホンダ4ミニ縦型エンジン(CB50から始まったシリーズエンジン。エイプやXR100系など)は、横型エンジンとは異なり、ミッション側にクラッチユニットを持つ2次クラッチ仕様が最大の特徴だ。今回は、エンジンを降ろしたついでに分解メンテナンスを行ったため、エンジン本体を真横にしてメンテナンスすることができたが、車載状態のエンジンでは、例えば、サイドスタンドレベルの傾きだけでは作業しにくいこともある。そんなときには、燃料コックをOFFにして、ハンドルを右末切りでステアリングストッパーに当て、その状態で車体を左に大きく傾け、作業台の天板や脚立のステップに左側グリップを載せることで、車体を大きく傾かせることができる。ただし作業時に車体が前後に動くと不安定なので、フロントブレーキレバーをロックしたまま保持し、作業進行するのが安心だ。是非、次の機会には試してみてほしい。

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