空気中のゴミやチリを濾過してエンジンに新鮮な空気を取り込むため、重要な役目を果たしているのがエアーフィルターエレメントです。キャブレター全盛時代にはエレメントやエアクリーナーボックスを撤去してファンネルのみを装着する男らしいカスタムもありましたが、ノーマルスタイルが流行っている現在はボックス付きが当然になっています。ではその中のエレメントは?いくら絶版車人気だとはいえ、エレメントまで当時モノにこだわっても、良いことはひとつもありません。
スポンジタイプ、乾式タイプ、ビスカスタイプ。それぞれのエレメントにそれぞれの経年変化がある
絶版車ブームの初期段階では調子の悪い純正キャブよりレーシングキャブの方が良いというユーザーも多かったが、今ではノーマルキャブにエアークリーナーボックス付き仕様の方が好まれる。当時モノに対する価値観も高まっているが、タイヤやブレーキパッドと同様にエアクリーナーエレメントも絶対に新しい部品の方が良い。
バイクのメンテナンスを自分で行うユーザーにとって、エアークリーナーボックスに触りやすいか否かは重要なポイントです。エアーフィルターエレメントがすぐに取り出せないバイクは選ばない、などというほど極端な人はいないでしょうが、シートを外せばすぐにエレメントカバーに手が届く機種と、シートとサイドカバーと燃料タンクまで外さないとエアークリーナーボックスにたどり着けない機種では作業に掛かる手間に大きな差がつき、触りづらい機種だとメンテナンスのモチベーションも上がりません。
エアーフィルターエレメントはオイルを染み込ませるスポンジタイプ、オイルを使わないスポンジタイプ、乾式の濾紙タイプ、ビスカス式と呼ばれる湿式の濾紙タイプに分類されます。自分のバイクにどのタイプのエレメントが使われているかは、サービスマニュアルで確認するか、実際のエレメントで確認します。
スポンジタイプはキッチンの食器洗い用と同様のスポンジ状で、空気中のゴミやチリをスポンジで絡め取って浄化します。オイルを染み込ませる湿式タイプは、スポンジ繊維に付着したオイルによって、乾式よりも細かいホコリまで吸着できるのが特長です。これに対して乾式の中には、目の粗さが異なるスポンジを重ねて一体化することで集塵効率の向上を狙ったものもあります。
濾紙タイプのエレメントは、フィルターの表面積を大きく確保できるよう大量にヒダ折りした濾紙をフレームに接着して形状を整えています。スポンジエレメントと同様に、この濾紙に油分を付着させているのがビスカスタイプとなります。スポンジエレメントは経年変化による加水分解でボロボロになるのが大きなウィークポイントですが、濾紙タイプにはそうした目に見えた劣化はありません。ただし30年、40年経過した部品であれば、濾紙とフレームを貼り付ける接着剤が剥がれたり、エレメント自体が破れることもあります。
- ポイント1・エアーフィルターエレメントのメンテナンスの難易度は機種によって異なる
- ポイント2・スポンジタイプと濾紙タイプで、経年変化による劣化のパターンが異なる
何はともあれ空気が必要充分な空気が通過できることが重要
ホコリやチリがエレメントのヒダの底に溜まって黒くなるのを見ると濾過能力を実感できる。乾式の濾紙エレメントは地面に軽く叩きつけたり、内側から外にエアーブローすることである程度の汚れを除去できるが、濾紙に油分を含むビスカスタイプは取り込んだ汚れが落ちないので洗浄効果が得られない。
洗浄可能なパワーフィルターは、フィルターメーカーが販売している専用のクリーナーとフィルターオイルでメンテナンスを行う。厳密に言えば、フィルターメーカー指定以外のオイルを使うと、空気流入量に影響が出る場合もある。また4気筒用のフィルターで1個だけオイルなしでカサカサ、逆に過剰なオイルでベトベト、というようなバラつきもキャブセッティングに影響を与えるリスクがある。
エアーフィルターエレメントの重要な役割はエンジンに入るゴミをブロックすることで、私たちの日常生活で当たり前になたマスクと同様です。しかしマスクが詰まると息苦しくなるのと同じで、エレメントの空気通過流量が低下すればエンジンも苦しくなります。詰まり具合と性能低下の関連性は一概には言えませんが、エレメントが詰まることによる不具合のパターンは明確です。
エンジンが必要とする空気量は、スロットル開度とエンジン回転数と負荷に応じて決まります。スロットル開度に対して適切な空気量が供給されなければ、エンジンは充分なパワーを発揮できません。例えばエアークリーナーボックスの吸気口にがウエスやビニール袋で蓋をされてしまったらエンジンは止まります。
そこまで極端でないにせよ、エアーフィルターエレメントはキッチンの換気扇のフィルターと同じく、走行距離や使用期間が長くなるほど汚れが蓄積されて濾過能力が低下し、通過できる空気量が減少していきます。その変化は徐々に起こるため、ユーザーは自覚症状として認識しづらい面もあります。
しかし機械は正直なので、空気が足りなければ相応の反応を示します。絶版車に多いキャブレターの場合、空燃比が濃くなっていきます。空気が少なくなれば薄くなると考えがちですが、重要なのはエンジンは常に必要な空気を吸い込もうとしているということです。目詰まりしたエアーフィルターエレメントがキャブより手前にある状態で、エンジンが空気を吸おうとすると空気量が不足します。この時、入り口側が塞がれたキャブレターに掛かる負圧は平常時より大きくなるため、フロートチャンバーからガソリンが余計に吸い出されてしまうのです。空気に対してガソリンが過剰に供給されるため、空燃比が濃くなる=カブる方向にキャブセッティングがずれてしまいます。
このカブリをキャブセッティングのズレだと考えてジェットを絞ると、エレメントの目詰まりで減少した空気量とのマッチングは良くなりますが、空気が足りないためエンジンパワーは低下します。またエアーフィルターエレメントを新品に交換すると今度はガソリンが少なくなるため空燃比は薄くなってしまいます。
この症状はエアーフィルターエレメントだけでなく、パワーフィルター仕様車にとっても注意が必要です。特に4連キャブの場合、パワーフィルターのエレメントの状態によって各々のキャブが吸える空気量にバラツキが出る可能性があります。外からよく見える1、4番キャブは定期的に洗浄しているのに2、3番は滅多に外さないとか、エアークリーナーボックスを撤去して大気開放になったブリーザーパイプの出口が特定のフィルターに向かっているような場合は注意が必要した方が良いでしょう。
- ポイント1・エアーフィルターエレメントが目詰まりすることで吸入空気不足につながり、キャブレター車の場合はセッティングが濃くズレてしまう
- ポイント2・パワーフィルターのエレメントの汚れ方にバラツキがあると、キャブレターごとのセッティングがまちまちになってしまうこともある
走行距離が交換の最大の目安だが、使用期間で管理することも有効
シートを開けただけでエアーフィルターエレメントを着脱できるのは絶版車では一般的だが、現代のバイクではあまり見ることができない。前傾エンジンで吸気系がダウンドラフト、エアークリーナーボックスが燃料タンク下にあるスーパースポーツモデルの場合、エレメントにたどり着くまでがひと仕事になる。
燃料タンクの下のエアークリーナーボックスにスポンジフィルターが装着してある場合、確認が重要であることは理解していても作業を実践するのが面倒なのが本音。機種によっては高性能タイプの社外製フィルターが用意されていることもあるので、そうしたパーツを活用することでスポンジ劣化の懸念から解放される。
エアーフィルターエレメントの交換時期は、基本的には走行距離で管理します。サービスマニュアルには「走行2万kmごとに交換する。ただし湿気やホコリ、汚れの多い地域を走行する場合は、指定時期より早めに点検を行う」などと表記されています。これは汚れのスピードが早ければエレメントの目詰まりが早まり、エンジンパフォーマンスの低下につながることをメーカー自身が認識しているからです。
ですからまずは走行距離に応じて交換することをメンテナンスの大前提としましょう。それに加えて、使用期間も考慮する必要があります。絶版車ユーザーの中には、年間走行距離はせいぜい2000km程度という使い方をしている人もいます。その場合、走行距離だけで判断すればエレメントは10年使えることになります。飾ったり磨いたりが趣味なら、距離はもっと短いまま時間だけが過ぎていくという例もあるかもしれません。
過走行車ならぬ過少走行車であっても、スポンジフィルターは加水分解で崩壊し、濾紙タイプも保管中の湿度変化によってホコリが膜状に固着して吸気面積減少の原因になるなど、エンジン性能低下につながる変化が発生する可能性もあります。したがって、10年にも渡り同じフィルターエレメントを装着し続けているような場合は、交換しておいた方が何かと安心です。
走行距離と使用期間の2つの基準でエアーフィルターエレメントを管理して、常にエンジンコンディションを好調に保てるよう心がけましょう。
- ポイント1・エアーフィルターエレメントの交換時期は走行距離で判断するが、使用期間も重要な要素となる
- ポイント2・数年間にわたって不動状態だった車両をメンテナンスする場合は、走行距離に関わらずエアーフィルターエレメントを交換しておいた方が良い
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