エンジン始動直後にマフラーから大量の白煙が出る、とか、走行中にスロットルをガバッと開いて急加速すると白煙がドバッと出る、とか、シフトダウンで減速したときに、パッパッと白煙が出る、などなど、マフラーから出る白煙は、マシンオーナーにとって気になるものだろう。白煙の発生=エンジンオイルが燃焼室へ入り、燃えていることになるが、ここでは、何故エンジンオイルが燃えるのか?その原因が「オイル上がり」なのか?それとも「オイル下がり」なのか?その具体例から想像してみよう。

オイル下がりは「バルブステム」が原因?

SOHC=シングル・オーバーヘッド・カムシャフトの4ストロークエンジンのイメージイラスト。現代の4ストロークエンジンなら「吸排気バルブ双方」にステムシールが組み込まれている。そのステムシールの摩耗やシールリップの不良でバルブステム内部にエンジンオイルが混入し、それが吸気ポートに流れて混合気と一緒になって燃えたり、排気ポートなら、エキパイやマフラーの熱によって燃えて白煙になることもある。

このようなステムシール不良の場合は、エンジン始動直後に白煙が出やすいものの、ある程度燃え尽きると白煙は目立たなくなる。完全暖機後は、ブレーキングからのシフトダウン時にマフラーからパッパッと白煙が出ることが多い。サーキット走行などでは、ホームストレート通過後、コーナー侵入前のシフトダウン時に、このような白煙症状が発生しやすい。これはまさに「オイル下がり」の典型例だろう。

バルブガイドとバルブステムシールのセット。このステムシールはガイドトップに圧入固定するタイプ。メーカーによってステムシールの固定方法は様々だ。このような圧入タイプに対して、ガイドに掘った溝にパチッとハメ込むタイプもある。国産エンジンでバルブステムシールが使われるようになったのは60年代中頃からで、70年代後半には、排ガス規制対策としても標準装備されるに至っている。60年代前半以前に発売されたモデルにはバルブステムシールが装備されていない例が多いが、白煙や排ガス(HC対策)で、バルブステムシールを改造追加しているエンジン例は数多い。

バルブガイドは内燃機ショップに製作依頼

吸排気バルブガイドが摩耗して入れ換えが必要になった時には、バルブガイド交換を実施しなくてはいけない。モデルによっては純正部品の供給があるが、エンジンは個々でコンディションが異なるため、必ずしも純正部品のガイドが使えるとは限らない。そんな状況も踏まえ、バルブガイドの製作入れ換え時には内燃機ショップへ依頼した方が確実だろう。依頼者のオーダーに応えてくれるのも内燃機ショップで、メーカー純正ガイドと同じマテリアルでオーダーできるのはもちろん、状況によっては、ガイド素材を変更し熱伝導性を高めたり、潤滑性能を高めることもできる。画像は、リン青銅素材から旋盤で削りだし製作しているバルブガイドだ。

下の2本がシリンダーヘッドから抜取った純正バルブガイドで、上の2本が新規削りだし製作されたバルブガイドだ。抜取ったガイドと同サイズの外径では、組み込み時の圧入しろが甘くなってしまうため、純正ガイド外径に対して100分の数ミリ太く削り出されている。さらに圧入時のストッパーは純正ガイドのようなコッターリング式ではなく、外れ防止策も含め、総削りだしの段付きガイドとなっている。

異常摩耗のガイドとステムシール対策

70年代前半以前のバイク、特に、大型外車の4ストロークエンジンは、バルブステムシールの採用例が少ない。左の画像は完全に偏摩耗したバルブガイド。こうなるとバルブステムのセンターリングが不規則作動となり、それにともないバルブシートの当りも不安定になる。エンジン症状としては、アイドリングしにくく、始動性も悪くなる。そんな不良バルブガイドを新規製作し、バルブステムシールを追加したが右の画像だ。新規バルブガイドの交換にともない、吸排気バルブのフェース加工、バルブシートカット、摺り合わせも同時に必要だ。コンディションによってはバルブシートの製作入れ換えが必要な場合もある。これら一連の内燃機メンテナンスを行うことで、不調だったエンジンコンディションは様変わりする。

マフラー白煙が気になるときはエキパイ内側を点検

マフラーから白煙出ている、出ていないに関わらず、エキパイを取り外したときにはエキパイ内側のコンディションを確認してみよう。オイル上がりや下がりが発生しているときには、燃え切れなかったオイル汚れで内側がベットリしているはずだ。懐中電灯をかざして排気ポートの中を覗いてみると、バルブステムが輝いていたり(濡れたオイルで)、流れ出たオイルの道筋が明確に見えることもある。

コンプレッション測定からも判断可能

ピストンリングやピストンスカートの摩耗で圧縮圧力が低下していると、エンジンオイルは上がりやすい。本来のエンジンパワーを発揮せず、マフラーからは白煙を吹いている時は、十中八九、オイル上がりが原因だろう。こんな状況時には、オーバーサイズピストンと同ピストンリングを準備して、シリンダーボーリング&ホーニング仕上げで内燃機コンディションを復活させるのが確実だ。

ピストンリングの摩耗が原因でマフラーから白煙を吹く場合は、ピストンリングを新品部品に交換することで症状が良くなることもある。ピストンリングの摩耗状況を確認するには、取り外したシリンダーにピストンリング単品を挿入。リングの合口隙間をシックネスゲージで測定してみるのが良い。ボアサイズによってデータは異なるが、0.35mm前後で摩耗進行中。0.5mm以上なら新品ピストンリングへの交換を検討しよう。


シリンダーボーリングを依頼する際には、分解したシリンダーと新規オーバーサイズピストンを内燃機ショップへ持込み、サービスマニュアルデータに基づいたピストンクリアランスで加工依頼する。内燃機ショップでは「ピストンの実測外径+クリアランス」のボア径に仕上がるように、精密ボーリング&ホーニングを行っている。

POINT

  • ポイント1・ マフラー白煙の原因を突き止めてから、的を射た修理作業に取り掛かろう。
  • ポイント2・ バルブガイドの製作は内燃機ショップに依頼できる。
  • ポイント3・ 旧型エンジンでもバルブステムシール仕様への改造例がある。白煙レスにチャレンジしてみよう。

2ストロークエンジンの如く、と言っては大袈裟かも知れないが、それに近いコンディションで白煙をまき散らし走っている4ストロークエンジン車は意外と多い。何故、マフラーから大量の白煙を吹き出してしまうのか?それにはいくつかの原因が考えられる。いずれにしてもエンジンコンディションが良くないから白煙を吹き出していると認識しなくてはいけない。

白煙を吹き出す理由には、大きく3つの原因がある。ひとつ目は「オイル下がり」と呼ばれる症状だ。4ストロークエンジンには、カムシャフトで駆動される吸排気バルブがあるが、そのバルブの作動軸を「バルブステム」と呼び、そのステム軸を受ける部分を「バルブガイド」と呼んでいる。長年に渡る作動の繰り返しで、バルブガイド内径が減り、また、バルブステムも摩耗することでクリアランスが大きくなる。その隙間からエンジンオイルが伝わって流れ落ちることで、混合気の爆発燃焼と同時にエンジンオイルが燃えて白煙となり、マフラーから吹き出してしまうのだ。このバルブガイドからのエンジンオイル落ちを「オイル下がり」と呼んでいる。

ピストンの往復運動によってピストンリング外周やシリンダーが摩耗し、さらにピストン摺動部(リング溝やピストンスカート部)も摩耗が進み、それによってピストンリングがエンジンオイルを掻き落とし切れなくなる現象も起こる。それが「オイル上がり」と呼ばれる症状だ。市販車のエンジンには3本のピストンリングが組み込まれている。トップリング、セカンドリング、オイルリングの3種類の構成だ。トップリングは圧縮圧力の気密を保つ大きな役割を果たし、セカンドリングは圧縮気密の保持+エンジンオイルをオイルリング側へ掻き落とす役割も果たしている。3本目のオイルリングは、ピストンリング周辺のオイル保持や潤滑と同時に、エンジンオイルをコンロッド側へ掻き落とす役割を果たしている(オイル孔を通じて)。エンジンオイルが無ければすぐに焼き付いてしまうピストンリングだが、オイル保持と同時にオイルを掻き落とす大切な役割も果たしているため、特にオイルリングは複雑な形状となっている。70年代前半以前のピストンリングは、3タイプともに精密鋳物部品だったが、現代は折れにくく靱性のあるハガネ製ピストンリングが採用されている。

また、シリンダーヘッドガスケットのオイル通路付近に抜けが発生することで、エンジンオイルを吸い込み白煙を吹き出すケースもある。したがってシリンダーやシリンダーヘッドを組み立て復元するときには、ガスケットやオイル通路に組み込むOリングを挟んだり、つぶしてしまったりしないように注意深く組み立てよう。また、これらのOリングへの液体ガスケットの併用も効果的だ。

いずれにしても、エンジン部品の摩耗によってオイル下がりやオイル上がりが発生するので、何よりも大切なことは、定期的な「エンジンオイル交換」および「オイルフィルター交換」、そして「高性能エンジンオイル添加剤の併用」もお勧めできる。無理なブン回しで走り続ければ部品の摩耗は早まるが、そんな乗り方をしても定期的なオイル交換、しかも高性能エンジンオイルを利用していれば、そうは簡単に部品の摩耗は発生しないものだ。大切なことは「オイル交換」。それがエンジンメンテナンスの基本である。

撮影協力:井上ボーリング

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