前後タイヤの回転差を検出する車輪速センサーや電子制御スロットルやジャイロセンサーを組み合わせた慣性計測ユニット(IMU)を搭載する最新モデルも、1970年代に製造された絶版車でも、フレームとフロントサスペンションの連結部分にはステアリングステムベアリングが組み込まれているという構造自体は同じです。直進時にもハンドルが左右に切れながらバランスを取るバイクにとってステムベアリングはとても重要なパーツで、必要に応じてメンテナンスや交換することが必要です。

矛盾だらけの環境で働くステアリングステムベアリング

バイクを左右に旋回させる時だけでなく、まっすぐ走っている時にもステアリングは微妙に動いています。完全な平坦な道を地面に垂直に立った状態で走行する分には、前輪をまっすぐに固定しておいても平気かもしれませんが、路肩に向かって傾斜していたり車体がちょっとでも傾いたら、バランスを失ってしまうでしょう。

ひと言で「バランス」というと乱暴ですが、走行中のバイクのタイヤには左右に曲がる際のヨー、左右に傾く際のロール、前後に姿勢が変化するピッチの変化が連続的に時々刻々と加わり続けていて、その変化をタイヤとサスペンションとステアリングとフレームで受け止めています。

この中で、タイヤが受ける外力に対してスムーズに作動しながら遊びすぎず、フレキシブルでありながら剛性があり、フリクションロスが小さく耐久性が高いなど、ステアリングはいくつもの矛盾した条件を受け持ちながら作動しています。

近年のスーパースポーツモデルの中には、走行中のヨー、ロール、ピッチや前後、左右、上下の加速度を検出してエンジンや車体挙動の制御を行うIMU(Inertial Merasument Unit)を搭載した機種もあります。バイクがバンクした状態で不用意にスロットルを開ければスリップダウンするリスクが高まりますが、IMUが車体姿勢を検知して電子制御スロットルと連動することで適切なトラクションを与えることで安全に走行できます。この点で緻密な電子制御が素晴らしいことは言うまでもありません。

しかし、刻々と変化し続ける走行中のバイクの運動状態をIMUが正しく検出できるか否かは、車体各部の状態と密接な関係があります。例えばタイヤの空気圧が規定値の半分だったり、ステアリングがスムーズに作動しなければ、いくらIMUが優秀でも性能を発揮できないかもしれません。

つまり最新の電子制御の効果を生かすにも、アナログ的なメンテナンスは不可欠だということです。

ヘッドパイプに圧入されたアウターレースはどうやって外す?

以前の記事で、フレームのヘッドパイプにアウターレースを圧入する方法に関して触れました。ステムベアリングのメンテナンス作業の中で、フレームに圧入されたアウターレースの打痕の診断と確認はとても重要です。

重量車に使用されることが多いテーパーローラーベアリングの場合、ステアリング周りに大きな力が加わることで円筒状のローラーが押しつけられてレースに線状の凹みができることがあります。するとローラーがレース面を転がる=ハンドルが左右に切れる際に凹みに引っ掛かり、滑らかな動きを損ないます。

先に述べた通りバイクは常にヨーやロール運動を伴いながら走行し、その際にハンドルが左右に動きますが、ベアリングで引っかかりが生じれば走行にも影響を与えてしまいます。効かせすぎたステアリングダンパーが時に乗りづらさを誘発するように、扱いづらさを感じることもあるかもしれません。

そうならないためにも、ハンドリングに違和感を覚えたらタイヤの空気圧や偏摩耗、ホイールの歪みとともにステムベアリングに傷や打痕がないことを確認する必要があります。

テーパーローラーベアリングでもボールベアリングでも、ステムベアリングのアウターレースはヘッドパイプに圧入されており、手で引っ張った程度では抜けません。

これを抜くには、上下のアウターレースのそれぞれの裏側から叩き抜くのが一般的です。ヘッドパイプ内径とアウターレース内径を比較して、アウターレース内径の方が小さい=ヘッドパイプ内側にツバが出ている場合は、固い金属棒(古いピボットシャフトやアクスルシャフトなど)で全周を均等に叩きながら抜くこととができます。

一方、両者の内径の差が少ない場合はヘッドパイプに挿入する工具や道具がアウターレースのツバに引っ掛からず叩けないこともあります。このような場面で活躍するのが「ステムベアリングレースリムーバー」です。

ステムベアリングレースリムーバーはホイールベアリングを取り外すパイロットベアリングプーラーと同様に、ベアリングの表側からチャックを挿入してアウターレースに爪を引っかけて使用します。ただ、パイロットベアリングプーラーがチャックを引き抜くのに対して、ステムベアリングレースリムーバーは裏側から叩き抜くのが相違点となります。

チャックの爪がレース内面を受けるため傾きづらい

ステムベアリングレースリムーバーはいくつもの工具メーカーから発売されていますが、アウターレースの内側から外側に向けて爪を掛けるという基本的な仕組みは共通しています。ここで取り上げる工具ショップのストレートの工具は、φ36~60mmのレース内径に対応する製品で、アウターレースに挿入してボルトを左に回してチャックの間隔を広げてレースの縁に爪を引っかけます。

その状態でヘッドパイプの反対側(上側のレースを外すなら下側、下側のレースを外すなら上側)から充分な強度のある鉄棒や鉄パイプを挿入してチャックに当てて、ハンマーで打撃します。

この作業で注意すべき点は、2分割されたチャックに叩き棒を均等に接触させることです。チャックのボルトを回してレースの全周に爪を引っかけているのに、チャックの一部だけを叩くとレースが傾いたりチャックが外れてしまいます。

チャックの爪はレースの「全周」に当たると書きましたが、チャックは半円なのでφ36~60mmのすべてのレース内径に対して必ずしも全周が密着するわけではありません。場合によっては、チャック内径が最も大きくなるボルト部分の2点しか接触しないかもしれません。
それでも、棒状の道具を使用する際は必ず1カ所ずつしか叩けないことからすれば、レースとリムーバーが2カ所で接することで傾きづらいのは確かです。それだけに、鉄棒やパイプが分割されたチャックの両方に接触した状態で叩くことが重要なのです。

ヘッドパイプに鉄の棒やマイナスの貫通ドライバーを挿入して、アウターレースのツバに掛かるよう狙いを定めても、ハンマーを振り下ろした時に外れて空振りするのはありがちです。逆に、一度の打撃で想像以上に想像以上にヘッドパイプ内で傾いてしまい、レースホルダーを傷つけてしまうと後始末が面倒です。

文頭で触れたとおり、電子制御満載の最新モデルでも絶版車でもステムベアリングの役割や重要性に違いはありません。また年式や機種を問わず、転倒や衝撃などのアクシデントによってステムベアリングに傷が付くリスクは同等です。
フロントタイヤを浮かせてハンドルを左右に切る際にコツコツという引っかかりを感じたり、走行中に妙なクセを感じるようなことがあれば、バイクショップなどで確認してもらうと良いでしょう。

またDIYでステアリング周りのメンテナンスを行い、ステムベアリング交換をする機会があるなら、作業がスムーズに進むようステムベアリングレースリムーバーをあらかじめ準備しておくと良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・フレームのヘッドパイプに圧入されたステムベアリングのアウターレースは、車種によって取り外し作業の難易度が異なる
  • ポイント2・ステムベアリングレースリムーバーによって、ヘッドパイプ内径の差が小さいレースも取り外しやすくなる
  • ポイント3・アウターレース内径とチャックの適合サイズを確認してからステムベアリングレースリムーバーを準備する
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