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ヘッドパイプにベアリングレースを圧入する作業は、ステアリング周りのメンテナンスで最も重要で緊張する瞬間です。ソケットのコマを利用してハンマーで叩き込むのが一般的ですが、目測を誤って斜めに打ち込むと取り返しがつかないことになることも……。そこでおすすめしたいのが、ロングボルトとナットを使った締め付け方法です。これならレースの状態を確認しながら、落ち着いて圧入できます。
ハンマーを使った叩き込み圧入にはリスクがいっぱい
ハンドリングの要となるステムベアリングのメンテナンスには。ステムナットの締め直し、ベアリングの清掃とグリスアップなどがあります。しかし、それらに比べて格段に難易度が高いのがベアリングレース交換です。
ボールベアリングでもテーパーローラーベアリングでも、ベアリングを交換する際は必然的にフレームのヘッドパイプに圧入されたアウターレースの着脱が付随します。ボールやローラーが強く当たって打痕が付いたレースを取り外すにもテクニックが要求されますが、それよりも新品レースの圧入作業の方が格段に重要です。
ヘッドパイプ内径とレース外径の寸法はギリギリに設定してあり、手で押した程度では挿入できません。そのため、一定程度の衝撃で叩き込むことになります。ある程度の経験があれば、インナーレースとほぼ同じ外径のソケットをあてがったり、先の取り外したレースを重ねて叩くこともあります。
どちらの方法でも、ボールやローラーが接触する面に傷をつけずに、ヘッドパイプのレースホルダーに対してまっすぐ、傾くことなく圧入することが重要です。ステムベアリングを交換する理由を考えれば、言うまでもありません。
レース交換を何度も行った経験があれば、ソケットや古いレース使ってハンマーで叩き込むのも手慣れたものかもしれません。しかし実のところ、レースを叩く作業にはいくつものリスクがあります。
まず第一に、レースが傾いた状態で圧入されるリスクです。次にレース面を傷つけてしまうリスクもあります。
ハンマーを振り下ろす直前までヘッドパイプをレースの位置関係や角度を合わせておいたつもりでも、ソケットやレースにハンマーが当たる瞬間にセンターがずれることでレースが傾くと、その状態でヘッドパイプに押し込まれてしまいます。
同様に、圧入用のソケットのコマをレースの外縁とピッタリ合わせても、ハンマーが当たった時に滑ってレース面を叩いてしまうこともあります。
これらはまさに本末転倒で、何のためにベアリング交換をしているのか分からないような事例ですが、現実の作業現場ではこうしたトラブルは珍しくありません。ハンマーで叩く際には一定の勢いが不可欠ですが、勢いに任せることがミスや事故を呼ぶ原因となるのです。
ベアリングレースドライバーのコマを転用する
ベアリングレースを叩いて圧入するリスクを回避するための専用工具もあります。ベアリングインストーラーは、ヘッドパイプの中に長いボルトを貫通させて、上下のナットでレースを締め付けて圧入することでレースの傾きを防止します。ただし、専用工具だけあって高価なのが難点です。
そこで、もっと安価なベアリングレースシールドライバーを利用した自作専用工具を紹介しましょう。
4000円程度で購入できるベアリングレースシールドライバーは、直径が異なる複数のテーパー断面のアタッチメントがセットされた工具で、アタッチメントにセットしたハンドル端部をハンマーで叩くことでベアリングやオイルシール、ベアリングレースを打ち込みます。ここでハンマーを使えば、ソケットや古いレースで叩き込むのと同じです。
そこでひと工夫して、アタッチメントにハンドルを取り付けるための穴に、ヘッドパイプを貫通する程度の長いボルトを挿入するのです。その上で、ヘッドパイプの上下にアタッチメントをセットします。
アタッチメントの外周はテーパー形状になっているので、ヘッドパイプのベアリングレースホルダー部分の直径とフィットするものを選べば、ボルトはおのずとヘッドパイプの中心を貫通することになります。ヘッドパイプの上下でアタッチメントが平行であれば、ベアリングレースも傾くことなく圧入できるという算段です。
ベアリングレースドライバーを素材にベアリングインストーラーを自作する際のポイントは、シールドライバーに付属するハンドルの差し込み部分に近い直径の長ボルトを用意することです。
今回使用したベアリングレースシールドライバーのハンドル先端径はφ13mmだったので、長ボルトもM13サイズを用意しました。M10ボルトでも作業は可能ですが、アタッチメントの穴との間にガタがある分、ヘッドパイプにセットした際に遊びが生じてベアリングレースが傾くリスクが増大します。
レースを叩かずまっすぐ圧入できるから作業ミスが激減
文章にすると回りくどく難解かもしれませんが、ベアリングレースシールドライバーのアタッチメントのハンドル穴にM13の長ボルトを差し込み、ヘッドパイプを貫通させてベアリングレースを組み付けると、ハンマーで打撃するよりはるかにスムーズで確実に圧入できます。
上側のレースを圧入する際は、上側はレースとアタッチメントを重ねて、下側はアタッチメントのみヘッドパイプにセットします。この時、ヘッドパイプのホルダーに対してレースとアタッチメントが傾いていないことを入念に確認します。
ここからナットを締めていくと、ボルトのピッチ分ずつ上側のアタッチメントがレースを押し込んでいきます。ハンマーで打撃するのと違ってヘッドパイプにレースが圧入されていく様子を逐一確認できるので、異状やトラブルにも素早く気づくことができます。またレースに衝撃が加わらないため、ボールやローラーが転がる面に傷をつける心配がないのも大きなメリットといえるでしょう。
上側のレースが圧入できたらアタッチメントを上下入れ替えて、同様の手順で下側のレースを圧入します。下側はハンマーを振り上げることになるため体勢的に厳しく、レースが斜めになりがちですが、ボルト&ナットの組み合わせなら勢いに任せなくて良いため、圧入ミスが圧倒的に少なくなります。
必要十分なだけのグリスがあり、転倒などで大きな衝撃が加わらなければ、ステムベアリングレースに打痕が付いてハンドル操作に違和感が出ることはそうはないはずです。しかし一度レースに打痕が付けば、ベアリング交換以外に回復する手段はありません。
せっかくベアリングレースを新品にするのであれば、圧入時のミスやトラブルは避けたいものです。ハンマーで叩けば手っ取り早いのは確かですが、ひと手間プラスひと工夫でクオリティの高い作業を目指してみることをおすすめします。
- ポイント1・フレームのヘッドパイプにベアリングレースを圧入する際、ハンマーで打撃するとレースが傾いたり、レース面を傷つけるリスクがある
- ポイント2・ベアリングレースシールドライバーのアタッチメントと市販の長ボルトを組み合わせることで、レースを叩くことなく圧入できる
- ポイント3・ナットの締め付けで圧入量を調整できるので、圧入時のレースの傾きを防止できる
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同じ仕組みの専用SSTは高いので、自分もこの方法の自作品を使ってます。
片側は奥に当たった所ではなく、内側カラーが当たった所までという中途半端な位置までの圧入が必要なホイールベアリングの交換はこれが必用ですので。