トルクレンチがあれば、ボルトやナットの締め付けトルクを精密に管理できますが、日常的なメンテナンスでは出番はそれほど多くありません。また機械式のトルクレンチは意外にかさばり、工具箱を圧迫する原因にもなります。そんな時に注目したいのが、ラチェットハンドルやスピンナハンドルで締め付けトルクが分かるトルクレンチアダプターです。手のひらに収まるほどコンパクトながら、正確なトルク管理に役立つのが魅力です。

測定値がハンドル長に左右されないトルクレンチアダプター

サンデーメカニックにとって、トルクレンチは憧れの測定工具のひとつです。何となく「こんなものかな」という感覚で扱ってきたボルトやナットの締め付けトルクを正しく把握できるのは、安心感と信頼性につながります。
そんなトルクレンチは、レンチを握るハンドルからボルトやナットに接触するソケットまでの距離が重要です。
通常のメガネレンチに置き換えて考えると、柄の長いレンチの方が短いものより大きなトルクを加えることができます。テコも同様です。
そのため、トルクレンチのヘッドにアダプターなどを取り付けてグリップからソケットまでの距離が変化した場合、厳密に言えば元々の距離との差に応じて測定トルクを換算しなくてはなりません。
多くの場合、サービスマニュアルなどに記載された規定トルクには一定の許容範囲があるため、よほど長さが変化しない分には大きな影響はないのが実態ですが、本質的にはハンドル長さがカギを握っています。トルクレンチのハンドルをよく見ると、グリップ部分に入力位置を示すマークが入っていることもあります。

これに対して、使用するハンドルの種類に関係なくトルクを測定できるのが「トルクレンチアダプター」と呼ばれる工具です。
この工具は複数のメーカーから発売されており、製品名称もまちまちですが、何らかのハンドルとソケットの間に組み込み、ボルトやナットに加わるトルクを測定するという機能は同様です。
先に述べた通り、締め付けトルクをハンドルのしなりに置き換えて「カチッ」というクリック音を発生させる機械式のトルクレンチにとって、ハンドル長は測定の要となります。一方のトルクレンチアダプターは、アダプター自体にトルク測定機構が内蔵されているため、ハンドルが100mmでも300mmでも測定値に変化はありません。

測定値がハンドル長に左右されないことで、ラチェットハンドルやスピンナハンドルやT型ハンドルなど、作業内容や作業環境に応じて最適な工具を使用できるのが最大の特長です。
トルクレンチがあれば正確な作業ができるのは確かですが、使用頻度がそれほど高くないという人にとっても、コンパクトさが魅力となるはずです。また、デジタル式のトルクレンチアダプターは、機械式のプリセット型トルクレンチよりも多彩な機能が搭載されています。

測定途中のトルクが分かるトレース表示や左ねじ対応も魅力

デジタル式ならではの機能のひとつが、測定中のトルクを表示できるトレース機能です。例えばプリセット型トルクレンチで30Nmを測定する場合、締め付けトルクが上昇するにつれてハンドルの手応えは徐々に重くなりますが、カチッというクリック音とショックが伝わって初めて設定トルクに達したことが分かります。

一方トルクレンチアダプターは、到達トルクが設定された状態でも、トレース表示によって締め付け時のトルク値がリニアに表示されます(トレース表示機能付きのアダプターに限ります)。
15Nm、20Nm、25Nm……と、上昇していくトルクを確認できるので、締め付け時のネジの異常の有無も把握できます。またデジタル式は設定トルクへの到達を音や光で示す場合が多いですが、トレース表示によって設定値にどれだけ接近しているかを確認しながら作業できます。

また、トルクレンチアダプターに限らずデジタル式トルクレンチでも同様ですが、頻繁に使用するトルク値を記憶させたり、過去の測定値を自動記録するメモリー機能などの便利な機能を搭載できるのも、デジタル式ならではです。
さらに左ねじの測定が可能である点も特徴です。機械式のプリセット型トルクレンチで一般的なコイルスプリング式は、ハンドルに内蔵されたスプリングとカムによってクリック音を発生させますが、構造的にカムに加わる力は一方向にしか設定できないため、製品によってラチェットヘッドが付いている場合でも左ねじには対応できません。

これに対してトルクレンチアダプターは、単純に軸に加わるねじれの力を測定して表示するため、左右どちらのねじにも対応できるのです。
「左ねじは使っている場面自体が少ない」というのも事実で、機械式のプリセット型トルクレンチで不自由さを感じたことはないという人も多いことでしょう。しかし、ピーク表示機能付きのトルクレンチアダプターで左ねじのトルクを測定するることで、緩める前のボルトやナットがどれだけのトルクで締め付けられていたのかを知ることができます。
ボルトやナットを緩める際、緩めトルクが締め付けトルクと釣り合った時に最大値を示し、そこから緩み始めます(異物の噛み込みなどによるフリクションロスの影響は除きます)。従って、緩み始めのトルクの最大値が分かれば、オーバートルクで締め付けられていたのか否かが分かるというわけです。

狭い場所ではエクステンションバーが必須

組み合わせるハンドルの種類を問わずトルク表示が正確で、左右どちらの回転でも測定でき、本体がコンパクトで収納場所に困らないトルクレンチアダプターは、従来型のトルクレンチに取って代わる可能性を感じさせますが、いくつかの弱点もあります。
まず第一に、機械式のプリセット型トルクレンチで一般的なラチェットヘッドに比べて、アダプター本体が大きく狭い場所で干渉する場合があります。エクステンションバーを組み合わせて逃げられれば良いのですが、ボルトやナットの上のクリアランスが狭い場所では使えないことがあります。

またラチェットハンドルと組み合わせた際に、ソケットと一緒にアダプターが回転して表示が見えなくなる場合があります。トルク値をプリセットして作業すれば、音と光が頼りになるため数値を見る必要はないとはいえ、ボルトを締め付けるにつれ表示部分が裏側に回ってしまうのは、違和感を覚えるかもしれません。

さらに、トルク設定値に対して組み合わせるハンドルが短い場合には、うまく作業できないこともあります。例えば100Nmのトルクを測定する際に全長180mmのラチェットハンドルでは、設定トルクに到達できないかもしれません。一般的なプリセット型トルクレンチが、設定トルクが大きくなるにつれてハンドルが長くなるのと同様に、トルクレンチアダプターも大きなトルクを測定する際にはロングタイプのハンドルを組み合わせた方がスムーズな作業が可能となります。

トルクレンチアダプターは便利な工具ですが、既存のトルクレンチに取って代わるほどのオールマイティな存在ではなく、従来のレンチで対応できない部分を補完する存在と認識するのが良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・トルクレンチアダプターは、ラチェットハンドルやスピンナハンドルなどと組み合わせることでトルク測定ができる
  • ポイント2・測定中のトルクをリアルタイムに表示したり左ねじのトルクが測定できるなど、既存の機械式トルクレンチにない機能を装備しいてる
  • ポイント3・作業条件によってはアダプター自体が干渉して使えない場合や、表示部分が正対しないことがあるなど、使用上の制限を受けることもある
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