ボルトやナットを回す際にはメガネレンチやソケットレンチを優先して使い、スパナやモンキーレンチはなるべく使わないのがメンテナンスの通説です。ましてやウォーターポンププライヤーなどあり得ないというのが常識ですが、見た目ウォーターポンプ風ながら何の問題もなくボルトナットを回せるのがクニペックス製のプライヤーレンチ。このレンチに秘められた万能性を紹介します。

独自のジョイント構造でアゴが平行に開閉するプライヤーレンチ

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プライヤーレンチならではのジョイントとカム構造により、アゴは平行を保ったまま大きく開くのが特徴。どちらも全長250mmのレンチだが、左は46mm、右は52mmまで開く。23mmや27mmなどの二面幅があるリヤアクスルナットも余裕。

 

ドイツの工具メーカーであるクニペックスは、ペンチやニッパー、プライヤーといった「掴み系」工具専門に150年近くの歴史を刻んできた老舗メーカーです。同社の製品は世界中のプロフェショナルから高く評価されていますが、中でも1990年代に登場したプライヤーレンチは、発明品といって良いほどの画期的な製品です。
プライヤーはボルトナットを回すというより、針金や配線を曲げたり引っ張ったり、ホースクランプを掴む作業向けの工具という印象が強いはず。一方、アゴのジョイントがスライドして大きく開口するウォーターポンププライヤーは、水道工事や配管作業で使用することが多いものの、バイクのメンテナンスでは手が届きづらい場所にある部品を拾い上げたり保持したり、プライヤーと同様にホースクランプを掴むという、どちらかと言えばサブツール的な印象があります。

これらに対して、プライヤーレンチには数々の場面で主役を張れるだけの機能と実力が備わっています。
第一の特徴は、掴み系工具としては珍しくアゴが平行に開閉する機能です。ニッパーやペンチやウォーターポンププライヤーのアゴは、ヒンジやジョイントを中心に円運動で開閉します。これに対してプライヤーレンチは、モンキーレンチのように向かい合うアゴが平行を保った状態で開閉します。

スパナやモンキーレンチで避けられない二面幅のガタをゼロに

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片方のグリップ(ハンドル)とアゴは2ピースに分割しており、グリップを握る(閉じる)とカムによって閉じ方向にアゴが押し出されて相手を強く掴むことができる。グリップに加える力はテコの原理で10倍に増幅されるので、ボルトナットを回す際に掴み面が開きづらくナメづらい。

 

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握りやすいコンフォートグリップ仕様のプライヤーレンチ。全長は250mmで最大開口幅は52mm。ジョイント部分のボタンを押すと幅を調整でき、一度設定すればグリップを大きく開閉してもジョイント位置がずれないのが一般的なウォーターポンププライヤーとの違い。

 

アゴが平行に動くことで、プライヤーレンチはボルトやナットの二面幅を平行に掴めますが、特徴はそれだけではありません。
ボルトやナットを回す際はメガネレンチやソケットレンチを優先して使用し、スパナやモンキーレンチはやむを得ない場面に限定すべきとされているのは、ボルトナットへのダメージを減少させるためです。
メガネやソケットはボルトナットと6点で接触しますが、スパナやモンキーレンチは2点接触となるため、同じトルクで工具を回した際にボルトナットとの接触点に加わる力は3倍となり、なめやすくなります。逆に言えば、メガネレンチを使うことでボルトナットをなめるリスクが3分の1に減少します。
スパナもモンキーレンチもボルトナットの対辺を平行に挟んでいるようですが、実は違います。六角頭の対辺寸法とスパナの内幅が完全に同じなら接触部分はベタ当たりになりますが、それではスパナがセットできないので若干の隙間が必要です。
この隙間によって、両者の接触部分は六角頭の2点の角部だけになってしまうのです。開口幅をウォームギヤで調整できるモンキーレンチは、ボルトナットの六角頭に隙間なく接触するように思えますが、ギヤとアゴの間に存在するクリアランスがガタの原因になり、スパナと同様に2点接触となってしまいます(モンキーレンチの中にはこのガタを減らす機構を採用している製品もあります)。

それらに対して、クニペックスのプライヤーレンチは独自のジョイント構造によって平行に動くアゴは、グリップを握ることで平行状態を保ったままボルトナットの二面幅を挟み込みます。そのため力を加えるほどアゴの密着度が高まり、きつく締まったボルトナットを緩める際にはトルクが最大限に達した時にベタ当たりとなり、ピンポイントで力を加えないことでボルトナットの角部を傷めるリスクが軽減されます。

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