バイクに乗っているといつか必ず出会うトラブルが「フロントフォークからのオイル漏れ」です。
フロントフォークは『中にオイルが入っている伸び縮みする棒』であり、オイルが漏れないように塞いでいるのはゴム、しかもそのゴムの摺動面がまる出しになっているという、良く考えてみるとかなり野蛮な棒です。
摺動面に僅かにキズが入っただけでも漏れてきますし、何かを噛み込んで縦傷でも入ろうものならダダ漏れです。
キズが無くともゴムは経年劣化で硬化するので時間とともに漏れやすくなってしまう宿命です。
漏れ始めたらバイクショップで修理となるのですが、問題はツーリングの途中などでオイル漏れに気付いた時です。
何とかして自宅まで戻りたい、あるいは何とかしてバイクショップまで辿り付きたい……、そんな時の応急処置策をまとめてみました。
目次
※注意:あくまでも応急処置です
これから紹介するやり方は全て応急処置策です。
あくまでも一時的なものであり、漏れた原因を完全に無くしたわけではありません。
応急処置する事でオイル漏れが止まる事もありますが、正しく修理されたわけではない事を理解しておいてください。
無事に自宅やバイクショップまで到着できたら、本格的に正しい修理を行ってください。
漏れが止まったからといって修理を先送りにしてはいけません。
「応急処置したら漏れが止まったし、そのまま数か月経過したけれど全く漏れていない」というような話もありますが、ダメです。
偶然漏れていないだけで直ったわけではないので。
そもそもフロントフォークからのオイル漏れとはどのような状態を言うのか?
フロントフォークからのオイル漏れは、話には聞いた事があっても未経験の方からすると「どんな状態をオイル漏れというのか?」がわからないでしょう。
シャンプーのボトルをプッシュした時のようにピュッピュと噴き出すイメージがあるかもしれませんが、そんな派手な漏れ方になる事はまずありません。
オイル漏れはもっとゆっくり、じわじわと染み出すようなイメージで漏れます。
乾いた布できれいに拭いたのに、車体を揺すってフォークを動かすと拭いても拭いてもオイルで濡れるようならアウトです。
オイル漏れというくらいなので、垂れるほどオイルが漏れていれば明確にオイル漏れていると判断できますが、問題は「これがオイル漏れというものなのか?」という微妙な時。
指で触るとオイル成分があるような気がするとか、インナーチューブに少しだけ黒い輪があるとか……。
その場合は「間もなく本格的にオイル漏れするサイン」と見るのが良いでしょう。
直ちに激しく漏れ始める事は無くとも、近日中に漏れ始めます。
後に書くように本格的に漏れる始めるとバイクショップまで修理に行くのもままならなくなりますので、大事に至らないうちにバイクショップにチェックと修理の依頼に行きましょう。
なぜフォークからオイルが漏れるようになるのか
通常はオイルなど漏れませんし、それまで大丈夫だったのに漏れるようになるのだから、何らかの漏れる原因があるはずです。
もっとも考えられる原因の一つはインナーチューブ(銀色のメッキされている部分)にキズが入っていること。
インナーチューブはオイルという滑りやすい液体を漏れないように密封している部分ですので、オイルシールのゴムと隙間が出来ないように表面はきれいな面ででなければなりません。
そこに走行中の跳ね石などでキズが入ると、オイルシールがキズの部分を通過する度に僅かづつオイルが漏れてしまいます。
また、キズによってオイルシールが痛むと、常にオイルが漏れるようになります。
他の原因は経年によってゴム部品であるオイルシールの柔軟性が失われ、隙間ができてオイルが漏れるようになること。
これはゴムという素材の性質上仕方ない部分で、どうしても避けられません。
仮にオイル漏れが発生していなくとも、フォークの中に入っているオイルは走行距離や時間によって劣化して粘度低下などを起こすので、1万kmを目安にオイル交換するのがオススメです。
その際、まだオイル漏れが発生していなくとも先にオイルシールを交換しておくと、新品ゴムの弾性によってオイル漏れを発生しにくくできます。
オイルが漏れるとどうなる?
フロントフォークからのオイル漏れはハッキリ言ってかなり危険です。
漏れている事を発見したら、すぐに修理しなければなりません。
なにしろ漏れている液体は滑りやすいオイルなのです。
オイルがタイヤやブレーキの近くで漏れ出し、走行風で飛散するのですから……想像するだけで危険そうですし、実際に危険です。
漏れたオイルが停車中にタイヤに垂れる事がありますが、垂れたオイルは遠心力でタイヤ外周に向かって行きます。
すると、オイルで濡れたタイヤで走行しているのと同じ事ですから、最悪転倒してしまうかもしれません。
ブレーキディスクに掛かればブレーキが効かなくなりますし、ブレーキパッドが純正で採用されている事の多いオーガニック系ならオイルが沁み込むので交換しなければならなくなります。
どちらも『ブレーキが効かなくなる』という事故に直結するトラブルなので事態は深刻です。
特に倒立フォークの場合はオイルの漏れ出す位置がブレーキのディスクやキャリパーに非常に近いので、比較的容易にブレーキに付着します。
本当に非常に危険。
運よくどこにも付着せず漏れ続けたとしても、フロントフォークは中に入れているオイルの量も含めてサスペンション機能が完結するようになっているので、オイルが漏れ続けるとサスペンション性能が低下します。
それはオイルが漏れて潤滑不足になって動きが渋くなる……などではなく、強くブレーキを掛けた際のバネレート低下で簡単にフルボトムするようになったりして、安定性を失ってしまう事態も有り得ます。
ちょっとくらい漏れても平気などという事は決してありません。
オイル漏れの修理費用はどのくらい?
オイル漏れは勝手に直ったりはしません。
むしろ一度漏れ始めると止まらなくなり、日を追うごとに悪化していく傾向があります。
ですので、漏れを発見したらバイクショップに修理を依頼する事になります。
漏れたオイルとオイルシールが必須交換部品です。
フォークオイルもオイルシールも極端に高価な部品ではありません。
オイルは1Lで¥1500前後、オイルシールも片側¥2500程度、他の消耗部品も同時に交換したとしても。国産車であれば部品代で1万円を越える事は稀でしょう。
問題なのは交換工賃の方です。
オイルシールの交換はフロントフォークを車体から外して分解する必要があります。
フロントフォークを外すにはタイヤを外さなければなりませんし、タイヤを外すにはブレーキキャリパーも外さなければなりません。
フルカウルの大型バイクなどではフォークを支えるクランプのボルトを外すために外装類まで外さなければならない場合も多々あります。
しかも、作業中はフロント周りを支える物が全て無くなるので、何らかの方法で車体前方を浮かせた状態を保持しなければなりません。
どう考えても大変!
なので工賃もお高め。
もちろんショップによって工賃は異なるので一概に〇〇円とは言えませんが、左右で2~3万円程度の工賃であっても特に不思議ではありません。
上に書いたように、漏れている部品まで到達するのが大変なので仕方ありません。
どうやって修理場所まで持って行くか・・・
うわー!工賃高い!と思ったかもしれませんが、修理しないと直らないし危険なので漏れたら修理しなければなりません。
問題は漏れているのを発見してから修理できる場所までの移動方法です。
上で記したようにオイルが漏れている状態は非常に危険で、転倒したり事故を起こす可能性が非常に高いです。
「危ないのでゆっくり気をつけて行きましょう」というワケには行きません。
最良なのはオイル漏れを発見したら即走行するのを止めて、レッカー車でバイクショップまで運搬することです。
車に積んでいるだけなので転倒する事も事故を起こす心配もありません、バイクショップに修理を依頼しレッカー車でバイクショップまで積んで行ってもらうようにしましょう!
……と書くのが普通です、恐らく多くの記事もそう書いてあるでしょう。
しかし、現実問題としてその最良の手段が取れる人は滅多に居ません。
自宅の駐輪場所で漏れを発見した場合ならまだしも、ツーリングの途中で漏れを発見したら「何とかして自宅まで帰りたい」と考えるのが人情です。
自分で整備できない方なら(大多数の方はオイルシール交換を自分でやろうとは思わないはず)「何とかしてバイクショップまで行きたい」と考えるはず。
そこで、本来の走りは出来ないけれど、短時間だけでも良いので何とか誤魔化す方法は無いものか……というのが今回の記事です。
くどいようですがあくまでも『応急処置』です。
一時的に漏れを止めて修理場所まで行くのが目的ですのでご注意ください。
ちなみにオイルシールがフロントフェンダーの上に位置していて、しかも上を向いている正立フォークの方は応急処置しやすいのですが、漏れている位置がフェンダーより下、しかもオイルシールが下向きでブレーキに近い倒立フォークではかなり難しいです。
応急処置できるのは正立フォークだけと思っておいた方が良いです。
応急処置(その1)
オイルが漏れるといってもいきなり流れるほど漏れ始める事はまずありません。
オイル漏れは発見した時点でしっかり拭き取れば、走り出した途端に一瞬で元の黙阿弥になるほどの漏れる事は無いのが普通です。
ゆっくりと滲むように漏れるのですが、ゆっくりでも長時間漏れ続けるとオイル溜まりができるほど漏れるのがフォークシールの漏れ方の特徴です。
ですので、漏れ出すオイルをしばらくの間保持する事ができたなら、タイヤやブレーキにオイルを垂らす事無くしばらく走る事ができます。
その最も簡単な方法が、漏れているオイルシール周辺にオイルを吸収できる物を巻き付けること。
布(ウエス)を巻き付けるのが一番手っとリ早く、適当に切った布の切れ端を巻き付けておくだけで、漏れたオイルを吸ってくれるので一時的とはいえ垂れる心配が無くなります。
しっかり巻き付けた後に結束バンドなどで固定して外れないようにしておけば、自宅からバイクショップまでの僅かな距離程度なら何とかなる場合が多いです。
もちろん、オイルは漏れたままなので長距離は無理ですし、布の隙間から走行風で飛んだオイル飛沫がブレーキやタイヤに付着するかもしれないので無理は禁物、ゆっくりと慎重に移動しましょう。
ツーリング先で漏れに気付いたのなら、着ているTシャツを脱いで巻き付ける事で何とかなるかもしれません。
しかし巻き付けただけでは走行中に緩んで外れるかもしれませんし、外れた布をブレーキに巻き込めば転倒してしまうかもしれません。
『壊れたバイクに応急処置だけを施して乗っている』という認識をお忘れなく!
応急処置(その2)
わりと正攻法なのがコチラのやり方。
オイルシールの上に粘度の高いグリスを詰めて、流出しやすいフォークオイルを堰き止める方法です。
まずオイルシールの外側にあるダストシールを外します。
(ダストシールは単に差し込まれているだけなので、マイナスドライバーなどでこじれば外せます)
ダストシールを外すとオイルシールが丸見えになるので、漏れているオイルを綺麗に拭き取った後、オイルシールとダストシールの隙間にシリコングリスを詰めるのです。
漏れ出たオイルで溶解しにくく、ゴム製品を侵さないシリコングリスが理想ですが、無ければ普通のグリスでも応急処置にはなります。
グリスを詰めたらダストシールを元の位置に戻して詰めたグリスをサンドイッチ!
流動性の高いフォークオイルより粘度の高い固いグリスを詰め込む事でオイル漏れする隙間を埋めるのですが、短時間であればかなり上手くオイル漏れを止める事が可能です。
グリスはフォークオイルより粘度が高いので漏れにくくはなりますが、最終的には漏れ出たオイルと混ざって粘度が失われて流出します。
あくまでも応急処置である事をお忘れなく!
やってはいけない応急処置
フロントフォークのオイル漏れ修理で検索していると見かける方法ですが、ものすごく邪道で、バイクショップやメーカーの方が見たら卒倒するような野蛮な方法になります。
また、場合によっては漏れが止まるどころか余計に漏れが大きくなり、完全に走行できなくなる事もあるでしょう。
正直なところ修理でも何でもないので、全くおすすめできません!
やり方は、目の細かい耐水ペーパーなどをオイルシールとインナーチューブの間に差し込みグルリと一周するというものです。
なぜオイル漏れが止まる事があるかというと、オイルシールの内側に嵌ってオイル漏れを引き起こしていた小さな異物を移動させる事ができるからです。
ようするに「運」。
オイル漏れを止める裏技という形で紹介されている事がありますが、とんでもない荒業です。
もしこのやり方でオイル漏れが止まったとしても、そもそもオイルが漏れるほどの異物がオイルシールの内側にある時点でアウト。
既にフロントフォークのオーバーホールが必要な状況なのです。
また、精密な形状と弾性でオイルを漏れないようにしているオイルシールのリップ部に、外から差し込めるほど固い異物を差し込むなど論外もいいところ。
しかも異物を外すためにフォークを1周させるのですから、どれだけ丁寧にやっても必ずリップ部が痛みます。
運良くオイル漏れが直ったとしてもオイル漏れするほどのゴミがフォーク内部にあった事に変わりはありませんから、絶対にそのまま使い続けてはいけません。
オマケ:オイル漏れはゼロにはならない
ゴム製のオイルシールでオイルが流れ出ないようにしてあるフロントフォーク、実はオイルシールを新品に交換して修理が終わったとしてもオイル漏れはゼロにはなりません。
目には見えないくらい、指で触ってもわからないくらいのオイルが常に漏れています。
長距離を一気に走るとフロントフォークがストロークした跡がクッキリ残る事がありますが、アレは僅かに漏れ出たオイルに走行中のホコリが付着し、ストロークの一番端まで押し上げられた跡です。
完全に無くしたいと思う気持ちはわかりますが、オイルシールは僅かに漏れたオイルの油膜によってスムーズな動作を得ている部分があります。
漏れを完全に無くすとインナーチューブとオイルシールが噛み込むように(引っ掛かるように)なり、極端に言えばガクガクとした動きになってしまいます。
なんとこの動きが渋くなる感触は比較的簡単に誰でも体感できます。
オイル漏れ寸前の緩くなったオイルシールを新品のオイルシールに交換すると動きが渋くなったように感じるはずです。
アレは本当に動きが渋くなっているのです。
オイルシールというのは、オイルが漏れてはいけない、しかし動きが渋くなるほどキツく締め付けてはいけない、そんな微妙なバランスで成り立っているのです。
この辺りはリヤショックのダンパーロッドも同じで、ものすごく微妙な設計になっています。
上で書いた「やってはいけない応急処置」を全くおすすめできない理由は、異物を差し込むなどという無茶をする事で微妙な設計を台無しにしているからです。
本当に台無し。
余談ついでに、社外品のサスペンションに交換してオイル漏れに悩まされる方が居ますが、レース用のサスペンションは耐久性を無視して作動性を重視しているので、どうしても純正のようには行きません。
1回の走行で滴るほど漏れるようでは問題ですが『ある程度はオイルが漏れる物』くらいの認識で居た方が良いです。
その代わり、純正品では絶対に到達できないスムーズな動きをしてくれますので、極僅かなオイル漏れに目くじらを立てず、圧倒的な作動性の良さを楽しむのが最高級サスペンションを堪能するコツです。
この記事にいいねする