どんなバイクでも必ず存在する部品の一つに『ワイヤーハーネス』という物があります。
電気を流すコードの束で、人間に例えると全身に張り巡らされた血管のような物。
配線の中を流れる電気がショートしないように保護されているのですが、電子機器を後から装着する機会の増えた現代では、その配線処理がちょっと問題になってきます。
目次
昔よりも配線を触る機会が増えた
現代において、バイク乗車時にスマホをマウントする事はすっかり常識となりました。
正面に据え置いたスマホ画面にナビ画面を映しつつ、音楽をBluetooth経由でインカムに飛ばしつつ乗車するスタイルが現在の主流です。
これはツーリングに限った話ではなく、通勤通学時もかなりの確率でスマホマウントしているのを目撃します。
その際、スマホをそのままマウントしている方は少なく、大多数の方は充電ケーブルを接続しながら使用しています。
充電ケーブルは車体のハーネスから電源を引く事になりますし、バッテリーに直接接続ではなくメインキーがONの時だけ電気が流れる「ACC電源(アクセサリー電源)」から電気を供給するのが主流です。
ACC電源から電気を得るには車体のフレームに沿うように存在している配線の束からACC電源のコードを探し出し、配線を割り込ませて充電用に分岐しなければなりません。
電子機器デバイスを車体マウントしなかった頃は『メインハーネスを触る』などという機会はほとんど無かったのですが、最近はそうは行かなくなりました。
配線の処理は昔ながら
昔は滅多に触れる事の無かった重要な配線を触らなければならなくなった現代のライダーですが、配線の処理方法は昔からあまり進化していないのが実情ではないでしょうか。
もちろん昔から几帳面な方はハンダを使ってしっかりと結線して熱収縮チューブで結線部分の保護をしており、これは今も同じです。
配線分岐した部分はハンダを使ってしっかり結線して熱収縮チューブで保護するのが基本なので、できれば全てのライダーが全ての場所で正しい結線処理をして欲しいところです。
しかし、そこまではしない方、つまり大多数の方の配線保護は今も昔もビニールテープで絶縁処理しているのが実情だと思います。
ビニールテープはコンビニやホームセンターで安価で容易に入手可能で、自宅の引き出しの中に転がっている事も多いので、お手軽な絶縁素材として広く使われているでしょう。
ビニールテープの弱点
巻くだけで簡単に絶縁効果が得られるビニールテープはとても使いやすいので、多くの方が配線加工後のショート防止にビニールテープを巻いているはずです。
ビニールテープは絶縁性に優れていますし、特殊な工具を必要とせずハサミで簡単に切れるので非常に使いやすいです。
熱収縮チューブは結線する前に配線に通しておく必要がありますが、結線した後で入れ忘れた事に気付くのは良くある話。
そんな時、後からテープを巻くだけで絶縁処理できるビニールテープはとても優秀な配線保護テープと言えるでしょう。
しかし……ビニールテープ最大の弱点は経年劣化でベトベトになる事です。
ビニールテープがベトベトになる理由
ビニールテープは別名PVCテープ(塩化ビニルテープ)とも呼ばれます。
その名のとおり塩化ビニルを主材としているのですが……、使いやすいテープにするために塩化ビニルを「柔らかく」「伸びる」ようにするための可塑剤という柔軟材が添加されています。
可塑剤が無いとカチコチのプラスチック状になってしまうので、可塑剤は絶対に必要です。
雨樋などで多用される灰色のパイプがありますが、アレが可塑剤の無い塩化ビニル(通称:塩ビ)です。
とても同じ素材とは思えないほど硬いですよね。
ところが、この大事な可塑剤は時間とともにテープの粘着剤に染み出てしまいます。
もともと柔軟剤なのですから粘着剤も柔軟にしてしまい、その結果ベトベトになってしまう……そういう宿命です。
粘着材(ノリ)はゴム系、アクリル系、シリコン系などがありますが、多かれ少なかれ経年によってベタベタになるのは同じです。
もっと時間が経つと全てが干からびてベタつき感も無くなり、単なる塩ビ製のシートのようになる事もありますが……それは数十年単位で放置した場合の話です。
ビニールテープは良い点も多い
ビニールテープは絶縁テープとも呼ばれるように、絶縁性に優れています。
昔から配線保護テープとして大活躍してきた理由ですね。
セロハンテープなどと比較するととても厚みがある素材なので摩擦にも強く、振動の多いバイクでフレームと配線が擦れたとしても滅多な事ではテープに穴が開いて配線がショートしたりしません。
中古車などでは前のオーナーの貼ったビニールテープの配線保護部分が残っている事がありますが、ベトベトになっているだけで穴が空いたりはしていないはずです。
分厚くて摩擦に強いというビニールテープの特性をよく表している部分です。
絶縁性だけならビニールテープを越えるテープもある
配線のメンテナンスでビニールテープを巻きたくなる最大の理由は被覆の無くなった配線がショートしないように保護するためでしょう。
そんな時、ちょっと調べると『自己融着テープ』という存在に気付くと思います。
自己融着テープは電気を通さないブチルゴムを主材としているので、絶縁性ならピカイチの性能を持っています。
しかもこの自己融着テープ(ブチルテープ)はその名のとおり重ね合わせた部分が融合して一体化する性質を持っています。
テープ自体が自己融着するので粘着剤が不要となり、テープを剥がした際にベトベトのノリが残りません。
素材同士が溶けるように密着する特性なので、巻き付けた際の耐水性や耐湿性にも優れています。
弱点は自己融着するほど柔らかい素材なので摩擦に弱く、擦れる場所で使用するとすぐに破れて穴が開いてしまいます。
例えばネイキッド車のステアリングヘッド周辺を這うハーネスの保護に使うと、ハンドルを切る度に擦れるのであっという間に穴が開きます。
おすすめしたい布テープ
布テープというと布ガムテープを想像してしまいますが違います。
おすすめしたいのはアセテートテープという物で、『ハーネステープ』という名称で販売されている事が多いです。
ビニールテープもハーネステープとして売られているので少々ややこしいのですが、どちらもハーネス保護用のテープなので間違いではありません。
ハーネステープは素材として塩化ビニル(PVC)を使っておらず、アセテート(布)を使っているのが最大の特徴。
アセテートは衣服の素材としても使われている一般的な布で、特殊な物ではありません。
バイクカバーの素材として使われたりもしています。
この布製のハーネステープ(アセテートテープ)ですが、ビニールテープと比較すると非常に薄いテープになります。
薄いので何重に重ねて巻いても太くなりにくく、ビニールテープのように団子状になりません。
もともと柔軟性のある布が素材なので可塑剤(柔軟剤)を使う必要が無く、可塑剤を含まないので粘着剤が軟化してベトベトになりません。
テープの表面が布なのでサラッとした手触りになり、ベタつく感じがしないので高級感もあります。
布ハーネステープの弱点
配線を束ねるのに最適なアセテート製ハーネステープですが、布なので摩擦に弱いのが弱点です。
固定されていて動かないハーネス、例えばフレームに固定してある一番太いメインハーネスなどの保護には非常に有用ですが、ステアリングヘッド周辺で使うと比較的短時間で擦れて穴が開いてしまいます。
同じく摩擦に弱い自己融着テープほどではないにしろ、動く部分や何かと擦れる部分に使うのは止めておきましょう。
また、薄い事が災いして絶縁性はイマイチです。
ビニールテープのように1巻きだけで上手く絶縁できる可能性は低いので、絶縁性を重視したい場合はおすすめできません。
違いを知って適材適所で使い分けるのが最適
昔ながらの伝統的なビニールテープは擦れる部分の配線保護に最適ですし、自己融着テープは絶縁に最適、ハーネステープ(アセテートテープ)は可動しない配線を束ねて固定するのに最適です。
場所と目的によって使い分けると、見た目も良くなるし長期に渡って性能も確保できます。
どんな場所もビニールテープでグルグル巻きにするのは止めて、3種類のテープを使い分けてみましょう。
特に私(門脇)がおすすめしたいのはアセテートテープです。
価格はビニールテープの何倍もしますが、さらりとした手触りと見た目、そして何より、ベトベトにならない事に感動してファンになると思いますよ!
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