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フレームや足周りのパーツの状態によってバイク全体の印象は大きく変わります。中でもコンパウンドやワックスでツヤが出ても、点サビがあるだけでボロく見えてしまうのがフレームです。全バラにして塗装を剥離して再塗装するのが理想ですが、もっと手軽に補修できるテクニックもあります。それが缶スプレーを使ったタッチアップペイントです。
フルレストアより手軽でそれなり以上の仕上がりも期待できるスプレータッチアップ
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保管場所の環境が悪くて車体各部にサビが行き渡ることもあるが、50年以上昔のバイクでこの程度のサビなら取り立てて状態が悪いわけではない。チェーンケースやフェンダーやマフラーのクロームメッキも点サビがありながら輝いているので、スイングアームやフレームのくたびれ感もなんとかしたいと思うユーザーは多いはず。ハケ塗りのタッチアップではいかにもDIY感覚が甚だしいので、缶スプレーでワンランク上のタッチアップを実践してみよう。
燃料タンクやサイドカバー、マフラーやフェンダーなどの外装の磨き作業は、それぞれのパーツを取り外すことで完成度が高まります。例えばサイドカバーを磨く前にシートを外せば、シートと重なり合って見えない部分まで磨けるし、サイドカバー自体を外せばホコリや砂利が付着している裏側まで清掃できます。
一方、フレームやスイングアームなどの骨格部分は簡単に分解できません。絶版車や旧車のフレームやスイングアームは鉄製が多く、経年変化によるサビやバッテリー液の接触による腐食が進行している例も少なくありませんが、それぞれを単体にするのは大変です。
ホイールやサスペンションやエンジンを取り外してフルレストアを行うのであれば、フレームやスイングアームの塗装やサビをサンドブラストや剥離剤で取り除いて素地の状態にして、ウレタン塗装やパウダーコーティングで再塗装して新品同様の姿を取り戻すことができます。ただしそれには作業を行う場所が必要で、塗装のプロの手を借りなくてはなりません。
それほど大がかりにせず、しかしくたびれた見た目を何とかしたい。そんな時に使えるテクニックがタッチアップペイントです。タッチアップというと細い筆やハケで部分的な補修を行うイメージが強いと思いますが、ここで紹介するのは「缶スプレーを使ったタッチアップ」です。
缶スプレーを使う時点でハードルが上がるように感じるかも知れませんが、やり方によってはハケ塗りと同等の手間で、ハケ塗りをはるかに上回るクオリティに仕上げることも可能です。ハケ塗りと違って塗装範囲が広くなる分、余計な部分に塗料が付かないようなマスキングが必要ですが、ひと目で分かるハケ目が出ないため自家塗装感のない仕上がりが期待できるのも魅力です。
- ポイント1・部分的に塗装を補修するタッチアップには筆やハケ塗りとは別に缶スプレーを使う方法もある
- ポイント2・ハケ塗りのタッチアップはハケ目が残りがちだがスプレーを使ったタッチアップは違和感のない仕上がりが期待できる
脱脂洗浄と下地作り、周囲の養生次第でバレないペイントができる
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表から見える部分に油脂が残っていると上塗り塗料が如実に弾くので、ホコリや汚れは徹底的に洗浄する。塗装部分の脱脂洗浄でプロのペイント業者も太鼓判を押すのがママレモン。昔ながらのブランドだが、中性で強力な界面活性剤によって油分を除去できる。フレームにこびり付いたチェーンルブはパーツクリーナーより洗剤の方がよく落ちる。
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点サビが発生した塗装の表面はザラザラなので、サンドペーパーで平滑にならしておく。#400~600程度の粗さで均等に傷をつけておくことで、上塗り塗料の密着性が向上するので、サビがない部分にもペーパーを当てておくと良い。
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メインスタンド付きのバイクなら、スイングアーム塗装時にはタイヤを外してしまっても良いが、今回は押し歩きが容易なようにタイヤを段ボールでマスキングしてスイングアームをペイントする。
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スイングアームに正対した状態でも、上下の段ボールにかなりの塗料が掛かっている異が分かるだろう。スイングアームは下面より上面の方が目立つので、上面を塗る際は段ボールマスキングをホイール側に押しつけてスプレーすると、ペイントが裏面まで自然に回り込む。タンクなどの外装パーツの塗装と同様に、一気に厚塗りするのではなく薄く重ね塗りすることで垂れなく深い光沢に仕上げられる。
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シートレール部分も裏側に段ボールを手で持ちながらタッチアップペイントを行う。サフェーサーを省略することで、元の塗装と新たに塗った塗装の境界が曖昧になるため、硬化後に自然な仕上がりになる。
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塗膜の厚いウレタン塗料の特性によって、一見するとタッチアップとは思えないほどの光沢に仕上がった。エンジンマウントボルトやチェーンアジャスターなどはひと手間掛けてマスキングテープを貼っておくことで丸塗り感がなくなり、仕上がるの良さにつながる。
エンジンやタイヤなどの大物パーツを取り外さず行うタッチアップ的な缶スプレー塗装であっても、より良い仕上がりのためには準備が肝心です。塗装における準備と言えば下地作りです。
フレームもスイングアームも砂利や泥や油分が付着するパーツなので、塗装が弾かないよう充分な脱脂洗浄を行います。具体的には洗車用のシャンプーやパーツクリーナーはもちろん、油分に強いアルカリ系の家庭用洗剤も有効ですし、最後の仕上げは中性のキッチン用洗剤で完全に脱脂するのがお勧めです。
主として塗装するのは車体の表側になりますが、スプレーはフレームやスイングアームの裏側にも付着するので、裏側の脱脂洗浄も忘れずに行います。特にバッテリーのブリーザーパイプから噴いた希硫酸で塗装が剥離してしまった部分は、塗膜一枚で素地に載っている場合もあるので、ワイヤーブラシなどで広めに下地を出しておくことが重要です。
脱脂洗浄が終わったら、スプレーが密着しやすいように古い塗装をサンドペーパーでならします。塗装面に点サビが出ている場合、すでに塗膜の下では広範囲にサビが進行している可能性が高いです。この場合、缶スプレーでタッチアップしても時間が経過すると再び点サビが発生することもあり得ますが、根本的に対処するには全剥離して素地からやり直すしかないので、タッチアップ補修では点サビのポツポツを平らにする程度にとどめておくだけでも、見栄えは充分にきれいになります。
上塗り(ここでは黒)を塗る前にサフェーサーやプライマーを使うか否かについては、手間と仕上がりを天秤に掛けて判断すると良いでしょう。サフェーサーを使うことで、点サビなど旧塗装面の凸凹をある程度埋めることができ、上塗りも平滑に仕上がります。しかしフレームなどの黒い塗装面にグレーや白のサフェーサーを吹き付けると、それを消すために上塗りの黒を塗り込まなければなりません。
一方、下塗りなしで上塗り色をスプレーすると、下地が荒れている部分は仕上がりにも凸凹が反映されています。缶スプレーはそれほど厚い塗膜を得られないので、凸凹を埋める目的で塗り重ねすぎると垂れるリスクもあります。他方で黒いフレームを黒いペイントで塗装することで、ペイントが完全に行き渡らなくてもバレにくい利点があります。
このように書くといかにもその場しのぎのごまかし作業のように聞こえるかも知れませんが、そもそも手軽にできる缶スプレータッチアップである以上、簡便に作業できることも重要です。フレームにエンジンが載ったまま、スイングアームが付いたまま古い塗装を剥離して、マスキングした上でサフェーサー、上塗りの順で作業を行うのなら、手間は掛かるが初めから全バラにしてしまった方が作業効率も仕上がりも良いのは間違いありません。
マスキングの方法は場所によって使い分けます。今回の車両の場合、エンジンはスプレーが掛からないよう丸ごとマスキングシートで覆い隠してフレームを塗装し、スイングアームやシートレールは段ボールでマスキングを行いました。
段ボールを使うのは、ペイント作業の状況に応じて塗装物との距離やマスキングしたい位置を容易に変更できるからです。スイングアームと段ボールマスキングの距離を近づければ、裏側に回り込むペイントを減らすことができます。逆に距離を大きめに取れば、スプレーはスイングアームの裏側にも回り込んで付着します。ペイントが飛散する範囲を予測して段ボールの位置を臨機応変に変化させれば、余計な場所を汚さず狙った場所を塗装することができます。
使用する塗料の種類も塗装のクオリティに影響します。今回は缶スプレーの中でも高級なウレタン塗料を使用しました。ウレタン塗料は主剤と硬化剤を混合することで塗膜が硬化する塗料で、塗膜が厚く硬化後はガソリンが付着しても溶けない耐溶剤性の高さが特長です。
塗膜が厚く付着することで、サンドペーパーでならしたザラザラの表面が艶やかになり、外装パーツを取り付けた後にも目に付くスイングアームは驚くほど見栄えが良くなりました。
燃料タンクやカウルなどの外装パーツと違って、フレームやスイングアームなどの骨格部分は頻繁にワックスやコーティングで磨く部品ではありません。それだけに、一度ある程度のレベルにまで仕上げておけば、相当の期間にわたりバイク全体の印象をハイレベルにキープできます。
缶スプレーによるタッチアップ塗装は暫定的であり、手抜き作業の印象が強いかも知れません。しかしほんの少し配慮するだけで想像以上の仕上がりになるので実践してみることをお勧めします。
- ポイント1・脱脂洗浄やサンドペーパーを使った足づけなどの下地作りに対する気遣いが仕上がりを左右する
- ポイント2・塗膜の厚みや耐久性に優れたウレタン缶スプレーを使えばタッチアップ作業でも塗装のクオリティは格段に向上する
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