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キャブレターには何の電子制御もない分、ドライバーさえあれば分解組み立ては比較的簡単です。しかしパイロットジェットやメインジェットの素材は柔らかく、ドライバー選びを誤ると簡単に溝をなめてしまうことも。そんな時に活用したいのが先端形状がジェットにフィットする専用ドライバーです。
ジェットドライバーは先端部分が平行でマイナス溝にピッタリフィットする
ジェットドライバーの一例。多くの製品が幅の異なるマイナスビットを両端に備えた差し替え式構造で、マイナス部分の先端はテーパーではなく平行に加工されている。これにより柔らかい真鍮製ジェットのマイナス溝を傷めづらい。
ファンネル(エアークリーナー)からスロットルバルブまでの間にある調整機能は、エンジンが吸い込む空気量を調整するエアースクリュー。スロットルバルブが閉じたアイドリング領域の混合気を調整する。このスクリューもデリケートな真鍮製であることが多く、ジェットドライバーが使いやすい。
このキャブレターのメインジェットは六角タイプ(ドライバー軸の右側)なので、メガネレンチやソケットレンチで着脱できる。ドライバーを当てているパイロットジェットはサイズが小さく、使用するドライバーによってはマイナス溝にダメージを与える恐れがある。平行な刃先は溝の内側に全面的に当たっており、なめる心配が少なくなる。
こちらのキャブはパイロットもメインもマイナス溝タイプで、パイロットジェットはドライバーの細軸側がジャストフィット。締め付け時はジェット先端のテーパー部分でシール性を確保するので、過剰なトルクを加えないように注意する。
パイロットジェットやメインジェット、パイロットスクリューなどのキャブレター内部パーツの多くは、鉄やステンレスに比べてずっと柔らかい真鍮系の合金で作られています。ジェットには空気やガソリンを厳密に計量するため、0.1mm単位でサイズが管理された小さな穴が開いており、真鍮は加工時の熱膨張が少なく正確な加工が可能なこと、またアルミ系のキャブ本体に比べて柔らかく、着脱時に万が一ネジをなめてもキャブ本体を傷めづらいことも素材として選ばれる理由となっています。
何かあった時にキャブ本体ではなくジェットが負けてくれるのは、キャブを保護するためには有効ですが、その分慎重に取り扱わなくてはなりません。キャブレターの清掃時にジェットの穴を硬い素材で突いたり、細いピンバイスで詰まった異物を取り除いてはいけないことは、多くのサンデーメカニックも知っていると思います。
穴を傷つけたり拡大すればジェットを通過する空気やガソリンの量が変化し、それを4気筒エンジンの4連キャブのジェットで行えばセッティングは簡単に変わってしまいます。ですから、ガソリンが変質したワニスが付着したり腐食したジェットはキャブレタークリーナーなどのケミカルで汚れやサビを溶解するのが鉄則です。それで汚れが完全に落ちなかったとしても、ケミカルが浸透することで汚れ自体が柔らかくなるので、柔らかい針金などで慎重に突くことで除去しやすくなります。
清掃時だけでなく、柔らかいジェットは着脱、特に取り外す際に注意が必要です。パイロットジェットもメインジェットも上部にマイナス溝があり(メインジェットの中には六角頭もあります)、マイナスドライバーで簡単に着脱できそうな雰囲気です。ところが、きつく締まっているジェットを通常のドライバーで緩めようとして、マイナス溝をなめてしまうトラブルが少なくありません。
その原因は、マイナスドライバーの先端形状にあります。一般的なマイナスドライバーの刃先は、先端に向かってテーパーがついています。その方がビスのマイナス溝にも収まりやすく、作業効率もアップします。ビス側の溝が金ノコで刻みを入れたような平行溝でドライバーとの接触が点当たりになっても、ビスの素材が鉄やステンレス製であれば、先細りのマイナスドライバーでもトルクを伝えることができます。しかし真鍮製のジェットをテーパー形状のマイナスドライバーで回そうとすると、溝の角部に加わる強い力によって溝がなめやすくなるのです。
プラスドライバーを使用する際は、ビスに押しつけながら回すのが十字穴を傷めないための基本的な作業手順です。マイナスドライバーでも押し回しは有効ですが、真鍮製のジェットと通常のマイナスドライバーの組み合わせでは、しっかり押しつけてもマイナス溝とドライバー先端が点当たりであることに変わりはないので、溝をなめるリスクがあることには変わりはありません。
ここで活用したいのがキャブレタージェットドライバーです。名前の通ったブランド製ドライバーと比較すると素っ気ない印象の差し替え式ですが、このドライバーは先端部分の形状に秘密があります。一般的なドライバーの刃先が先細りのテーパー形状であることは先に触れた通りですが、こちらの刃先は先端から軸に向かってしばらく平行に加工されているのが特徴です。
平行なマイナス溝に対して平行な刃先のドライバーを使うことで、点当たりが面当たりとなるため溝が傷付くリスクが大幅に減少し、固着したジェットに対して強い緩めトルクを加えることができます。
マイナス溝との接触面積が増えるとはいえ、真鍮素材が柔らかいことには変わりはないので油断や無理は禁物です。ジェットに対してドライバーを斜めに掛ければ溝が傷付きやすくなり、ジェットの固着が酷ければマイナス溝ごと崩れてしまう可能性もあります。頑固に締まっている場合はヒートガンで加熱することで、固着が解れる場合もあります。
刃先が平行なマイナスドライバーは、一般作業用としてもPBスイスツールズ製にラインナップされており、工具ショップで手に取ることもできます。ただしその場合、パイロットジェット用とメインジェット用の2本を用意しなくてはなりません。それに比べるとここで紹介するジェットドライバーは差し替え式なので1本で済み、価格的にもリーズナブルなのが魅力です。
キャブレターのメンテナンスやオーバーホールを行う機会があれば、事前に用意しておくことをお勧めします。
- ポイント1・ジェットドライバーはマイナス形状の先端が平行で、柔らかい真鍮製ジェットのマイナス溝を傷めづらい
どんなドライバーでも調整しづらいパイロットスクリューも専用ドライバーで微調整可能
プラスとマイナスの違いや軸長が異なるビットがセットになった、パイロットスクリュードライバーの一例。このドライバーはベベルギアを内蔵したヘッド部分も2組あり、ビット差し替えが必要ない場合はホルダー部分のない超低頭のマイナス仕様となる。
パイロットスクリュー周辺の形状や部品構成は機種によってまちまちで、ベベルギア部分は低頭であるほど良いというわけではない。ビット差し替えヘッドはビットホルダー分だけ高さが出てしまうが、選択肢が増えることで対応機種も増えるメリットがある。
パイロットスクリューはスロットルバルブからシリンダーヘッドまでの間にあり、スタッビドライバーでもフロートチャンバーやシリンダーヘッド、シリンダーと干渉して回せないことが多い。パイロットスクリュードライバーを使うことで、離れた場所からリモートコントロールでスクリューを回すことができ、なおかつグリップ部分の目盛りを使うことで戻し回転数も正確に把握できる。
ジェットドライバーと並んでキャブレターいじりで重宝するのが、パイロットスクリュードライバーです。スロー系のセッティング要素にはエアースクリューとパイロットスクリューがあり、市販車用キャブレターにはどちらかが付いてます。このうち、キャブをエンジンに取り付けてしまうと調整しづらい場合があるのがパイロットスクリューです。
エンジンが吸い込む空気の量を調整するエアースクリューはキャブ本体の側面に付いていることが多く、多くの場合はエンジン横から軸の長いマイナスドライバーで調整が可能です。それに対して混合気の量を調整するパイロットスクリューは、ガソリン通路の関係上、ボディの真上や真下に付いていることが多く、真下から調整するキャブの場合はクランクケースとの位置関係によりドライバーが入らないこともあります。
パイロットスクリューは基準となる戻し回転数が決まっていますが、エンジン本体のコンディションによって異なる吸気能力に応じたアジャストも必要です。そのため、オーバーホールや洗浄の際に基準回転数にセットしても、エンジンを掛けた状態での微調整が欠かせません。
パイロットスクリュードライバーにもいくつかの種類がありますが、手元のグリップを回すと長い軸端のベベルギアで回転が90度変わって先端軸が回るというのが一般的な構造です。製品によってはベベルギア部のホルダーの構造や形状で、プラスビット、マイナスビットや長さの異なる軸を差し替えられるドライバーもあります。
このドライバーの強みは、キャブ本体から真下を向いたパイロットスクリューに対して、離れた場所から調整が可能ということです。4連キャブの2、3番など、スタッビドライバーを使ってもエンジンに干渉して回せないことはよくありますが、これを使えば狭い隙間に手を突っ込む必要はありません。
またグリップ部分に目盛りを利用することで、パイロットスクリューの戻し回転数を把握できるのも、デリケートな調整が重要な部分だけにありがたいポイントです。
工具の特性上、締め付けられたビスを緩めたり固定のために締め付ける作業には使えないものの、パイロットスクリュー調整であれば単気筒から6気筒まで幅広い機種で使えるので、キャブレターのメンテナンスやセッティングを行う際に活用してみてはいかがでしょうか。
- ポイント1・パイロットスクリュードライバーがあればクリアランスが狭くてもデリケートなパイロットスクリュー調整が可能になる
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