走行距離を重ねるとともに増えていくのがドライブチェーンのたわみ。たわみを適正量に保つ調整作業ではリアアクスルナットを緩めて後輪を引きますが、この際ドラムブレーキ車の中にはトルクロッドボルトを緩める機種もあります。これに気づかないとどんな不具合が生じるのでしょうか。
ブレーキパネルの回転を防止するのがトルクロッドの役目
ドライブチェーンのたわみ量と確認方法は機種ごとに異なる。ヤマハSR400の場合、メインスタンドでバイクを立てて、中央部を上下に動かした際のたわみ量が30.0~40.0mmの範囲にあれば正常。急加速や急減速を繰り返すと部分的に伸びる「偏伸び」が発生することがあるので、たわみは一カ所ではなくタイヤを回しながら数カ所で測定する。
ドラムブレーキでもディスクブレーキでも、回転するホイールに対してブレーキシステムは車体側に装着されています。ドラムブレーキの場合、ブレーキシューが組み付けられたブレーキパネルはフロントフォークやスイングアームに取り付けられています。
そしてチェーン駆動のバイクのメンテナンス項目で重要なチェーンのたわみ量調整では、リアブレーキのブレーキパネルがキーパーツとなります。ブレーキパネルはその中心にリアアクスルシャフトが貫通しており、チェーン調整時は後輪と共にスイングアーム上を前後に移動します。
ブレーキパネルがタイヤと一緒に回転しないよう、ブレーキパネルには回転止めの部品が付いています。そのための機構には、ブレーキパネルの溝にスイングアーム内面の突起をはめ込む方式と、ブレーキパネルとスイングアームをロッドでつなぐ方式があります。この回転止めがあることで、ブレーキを掛けた際に制動力が発生します。
ちょっと考えれば当たり前のことですが、もしブレーキパネルが車体側に固定されていなければ、ブレーキペダルを踏むと同時にブレーキパネルがタイヤと一緒に回転してしまいます。その結果、ブレーキシステムは一瞬で破壊して大トラブルに直結します。
したがって突起式でもトルクロッド式でも、ブレーキシューの交換やベアリングのメンテナンスなどで後輪を着脱する際は、確実にブレーキパネルを固定することが重要になります。
- ポイント1・リアブレーキがドラムブレーキの場合、ブレーキパネルの回転を防ぐためにトルクロッドが装着されている機種がある
- ポイント2・トルクロッドの脱落は大事故に直結するので、取り付け部分のボルトナットには緩みがないよう点検する
ブレーキパネルとトルクロッドがリジッド状態だと調整時に突っ張る可能性がある
順序はどちらでも良いが、ドラムブレーキの場合はトルクロッドの固定ナットを緩めておく。ボルトの先端に割りピンが入っている機種は、必ず装着する。
アクスルナットを回す際はスパナやモンキーレンチではなく、工具が外れにくいメガネレンチを使用する。またマフラー側にナットがある機種の場合、マフラーなどに傷を付けないようウエスやタオルなどを掛けておくと良い。
通常走行時には車体側に固定されていることが重要なブレーキパネルですが、回り止めにトルクロッドを使用している機種の場合、ドライブチェーンのたわみ調整作業時にも配慮が必要です。
機種によっては、トルクロッドをの固定に段付きボルトを使用することで、ナットを締め付けてもトルクロッドとブレーキパネル、スイングアーム間に適度なクリアランスが確保されるものもあります。この場合、ブレーキ使用時にはトルクロッドがブレーキパネルの位置を固定し、後輪の位置をずらすときには後輪とともにパネルも回転します。
しかしトルクロッドの両端がボルトナットでスイングアームとブレーキパネルに締め付けられた状態だと、リアアクスルナットを緩めてアクスルシャフトを車体後方に引こうとしても、ブレーキパネルは元の位置に留まり続けようとします。
調整範囲が僅かならまだしも、リアアクスルシャフト=後輪を引く量が多くなるほどブレーキパネルとトルクロッドの角度の変化は大きくなります。ですからこのタイプのブレーキの場合は、調整中にブレーキパネルとトルクロッド角度が自由に変わるよう、アクスルナットとともにトルクロッドのボルトナットを緩めてから作業を行うことが重要です。
- ポイント1・ブレーキパネルとトルクロッドの締め付け部分は、自由度が残るタイプと完全固定タイプがある
- ポイント2・トルクロッドがブレーキパネルに完全固定されたままでは、たわみ調整でアクスルシャフトを引いてもブレーキパネルがスムーズに後退しない
トルクロッドの固定ボルトは僅かに緩めるだけでOK
アクスルナットを緩めすぎるとアジャスターがガタついてしまうので、緩め量は最少にとどめてナットを緩めてからアジャストボルトを締め込む。スイングアームの刻み目盛りとアジャスターのV字刻みを目安にする。
リアタイヤを前に押しながらアクスルナットを締めると、アジャスター部分にガタが出てしまうこともある。これを防ぐにはドライブチェーンとスプロケットの間にウエスやドライバーなどを挟んで、アクスルシャフトに前側へのテンションを掛けながら締め付ける。
ドライブチェーンのたわみを減らすために後輪を引くと、ブレーキロッドがブレーキアームを引くことになる。そこで蝶ナットを緩めて遊びを適正に調整する。
後輪を取り外す際はトルクロッドも取り外しますが、ドライブチェーンのたわみ量調整の際はボルトナットを緩める際はほんの僅かでかまいません。そして調整後は締め付けを忘れないようにします。
先述の通り、ブレーキパネルがスイングアームに固定されていない状態でブレーキを掛けると、ブレーキパネルはタイヤと一緒に回転してしまいきわめて危険です。トルクロッドの固定ボルトが割りピンを差し込むタイプだった場合、必ず割りピンを装着します。
装着場所に関わらず、締め付けられたボルトナットが緩んで良い場所はありません。しかし特に重要なブレーキのトルクロッドについては、もし緩んでも割りピンがあればナット
脱落という最悪の事態を避けることができます。
ちなみに、チェーン調整の前にブレーキの自由度を確保するという点については、リアブレーキキャリパーサポートの構造によっては一部のディスクブレーキ車にも当てはまります。たとえばカワサキGPZ900Rのキャリパーサポートはスイングアーム上をスライドするカラーが回り止めとなり、このカラーはボルトで位置が固定されていました。そのためアクスルシャフトの位置を調整する際には、あらかじめキャリパーサポートカラーのボルトを緩めておく必要があります。
話をドラムブレーキに戻せば、トルクロッドの形式にによって違いはあるものの、ボルトナットを締め付けることでブレーキパネルとロッドの角度が固定される機種については、たわみ調整前にナットを僅かに緩めてから作業を行いましょう。また、たわみ量の調整を行った後は、ブレーキ調整も忘れずに行いましょう。
- ポイント1・トルクロッドのボルトナットは僅かに緩めるだけで自由度が確保できる
- ポイント2・チェーンのたわみ量調整後はブレーキロッドの調整が必要
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