2024年11月21日(木)より世界独占配信中のNetflixシリーズ「Tokyo Override(トウキョウ オーバーライド)」。100年後の東京を舞台としてバイクが疾走する、ポップだがダーティーな世界観が注目の作品だ。バイク演出にはホンダ&ヤマハも協力、ハードなリアリティと爽快なアクションに期待していきたいところ。

今回、Webikeプラスでは特別に、監督である深田祐輔氏にインタビューを行うことができた。演出の裏側を知れば、もっと「Tokyo Override」の世界を楽しめるだろう!

AIによって管理された世界で自由を求めるライダーたちの姿に注目

「Tokyo Override」の舞台は、AIによって高度にコントロールされた100年後の東京。一見すると平和で秩序だった「理想的な社会」に見える東京だが、その裏側には様々な不条理があった。孤独なティーンエイジャー・ハッカーのカイは、管理されない旧式の乗り物である「バイク」を操るはみ出し者集団と共に、ユートピアの裏側を目撃していく。

この作品のメガホンをとるのは、京都・パリで映画製作を学び、今作のプロデューサーとしても活躍中の深田祐輔氏だ。これまでは短編映画などを手掛けてきた深田監督に、「Tokyo Override」の世界作りへの思いを伺った。

深田監督はこれまで、どういった作品を手掛けてこられましたか?

フランスやアメリカ、特に南カリフォルニア大学(USC)での留学経験を生かし、これまでは短編、長編、ドキュメンタリー、リアリティTVなど様々なジャンルの実写作品に、監督、プロデューサー、またサウンドデザインなど様々な形で携わってきました。代表的なものには、シルベスター・スタローンがエグゼクティブ・プロデューサーとして参加した『Ultimate Beastmaster』や『情熱大陸』、また実験的な映像手法を取り入れた短編映画、『Perfect World』などがあります。

本作を通して、伝えたいテーマはどういったものですか?

作品を見ていただければ!というのが理想かと思いますが、あえて言えば、作品の中で登場する「タグなし」という存在、つまりあるシステムの中からこぼれ落ちてしまった存在がいかにして自分の居場所を見つけ、生きる道を見出して行くのか、というところを考えながら世界観や物語をつくらせていただきました。

より踏み込んで言えば、本作のキャラクターにとっては「移動すること(=バイクに乗ること)」こそが彼らにとっての「居場所」なのではないか、といった少し哲学的な問いに挑戦しつつ、エンターテインメントとして成立させられるように物語世界を構築していきました。

監督は過去、アニメ作品をあまり手掛けられていないようですが、実写とアニメとの表現の違いなどで苦労された箇所はありますか?

存在しない世界やビジュアル、またアクションを思う存分試すことができる、という利点も多く感じましたが、そこに至るまでの過程は遠く長い道のりでした。この作品では「ワールドビルディング」という開発手法を使い、世界観を一から一つ一つ作りあげたので、大切実写だと役者さんやロケーションを選ぶことで自動的に付いてくる「雰囲気」のようなものを一つ一つ指定していく必要があったことは楽しくもあり、とても苦労したところでした。

なぜ、東京が舞台なのでしょうか?

これはNetflixさんからお声をかけていただいた企画段階で提案されていたものの一つでした。もちろん他の都市への変更も検討しましたが、Netflixさんという世界配信プラットフォームを考えた時のインパクトや、漫画原作などではないオリジナル作品として皆さんに見てもらうための仕掛けとして東京に落ち着きました。その上で、100年後の日本をワールドビルディングを通じて構築していく中で、大規模自然災害や出生率の低下を踏まえてなお、まだ都市として機能し、新しいテクノロジーが導入されている街として東京を舞台とする必然性を作っていきました。

ただし、このように未来の東京がどのようなもので、なぜその東京でこのような物語が発生するのかといった世界観の設定をきちんと整理しつつ、これまで多くの東京を舞台にした作品で使われるような渋谷や原宿、新宿といった地区以外で起こる物語にしようと意図しながら制作しました。

「Tokyo Override」の近未来的な世界観は、既存のSF映画とどういった点が違いますか?

これはとても難しい、しかし避けて通れない問題でしたが、まず一つは過去作で多く見られるような、「ディストピア」ではなく「ユートピア」的な世界観を基本に進めました。とはいえただのユートピアでは物語的に展開しずらいので、大多数の人々はこの最適化された世界を楽しんでいる、という世界の光の部分を設定しつつ、その対比として暗部が浮かび上がるような形にしようと試みました。

その過程で、「ポップ」さと「ノワール」を組み合わせた「ポップ・ノワール」という造語を考えた時に、方向性が固まったような気がします。SFというジャンルで考えると、どうしても青いスクリーンやネオン、巨大な白い建造物といったイメージが浮かびますが、この新しいジャンルの感覚を元に鮮やかな色彩やエフェクトを決めていくことで、また違った世界観を作り出そうと試みました。

気になるバイクは「HAWK11」や「ボンネビルボバー」当初はスーパーカブも登場予定だった

本作を語るにあたって、絶対に外せない要素が「バイク」といえる。作中では自由の象徴として印象的に、また様々な登場人物のアイコンとしても登場するこのバイクたちは、実際のモデルをもとにデザインされたものだ。しかし、どうしてバイクが重要なファクターなのだろうか? その意味合いについても深田監督に伺ってみた。

監督はオートバイに乗られますか? 特に好きなモデルなどはありますか?

僕自身はオートバイに乗らないので、専門的なところ、またライダーさんにとっての感覚のようなものはYAMAHAさん、HONDAさんのお力を借りつつ、またRiFF Studioというタイのアニメーションチームにはライダーがたくさんいるので、その感覚を取り入れつつ制作にあたりました。

もちろん作品で使わせていただいたモデル(CB1300、YZF-R1、VMAX)に対する思い入れが強いのは当然として、僕個人の好みで言うと、かなりミーハーな感じでになってしまいますが、好きなモデルというかスタイルで言えばカフェレーサーのレトロかつ自由にカスタムする感じが好きです。モデルで言えば、作品の制作中に発表されたHAWK11や、TriumphのBonneville Bobber、ハーレーのForty Eightなんかもカッコいいなと思います。が、ある意味極め付けはYA-1でしょうか。。。あのクラシックな感じと色合い、シンプルさはとても印象に残っています。

方向は違いますが、スポーツタイプでは今回使わせていただいたR1やDUCATIのSUPERSPORTもいいなと思いつつ、また作品開発の段階でHONDAさんに訪問した際に拝見したAfrica Twinの存在感も大好きでした。

今回の主人公は小熊カイという名前なのですが、実はスーパーカブから発想されたシャレでして、その意味でなんとかカブを使えないかとあさっていたところ、めちゃくちゃカッコいいカスタムのカブがあったんです。それをぜひ使いたかったのですが、流石にCB1300とかR1と並んで疾走するにはカスタムするにしても限界が、ということで泣く泣く断念しました(笑)。

今作は「自由」の象徴としてバイクが印象的なモチーフとなっていました。なぜ、あえてバイクなのでしょうか?

むしろ企画の段階でバイクが未来世界を疾走するバイクアクションもの、というアイデアだったので、未来世界でバイクが疾走するとすれば、それはどんな世界で、そのバイクはどんなものなのか、という順番に発想を広げていきました。そして、ワールドビルディングの過程で、AIによって最適化された世界の中で人間(世界)の持つランダムさのようなものを象徴するものとしてのバイク像ができていきました。

そして、あるホンダさんとのディスカッションの中で、バイクに乗るという行為の中には「移動」と「楽しむこと」があり、今後自動化などが進んでいけば「移動」の側面が強くなることもあるかもしれないが、それでも「楽しむこと」の側面はなくならないのではないか(あるいは、なくならないで欲しい)、という話がありました。もちろんこれは車にも言えることだとは思うのですが、自動運転の流れを考えれば、よりバイクに「楽しむこと」の側面が求められていくのではないか、といった考えを作品に落とし込んでいきました。

搭乗するバイクは実車をモチーフとした3モデルが登場します(CB1300、YZF-R1、VMAX)が、なぜこの3モデルに?

アニメーション作品ということで見た目から、というのはもちろんあるのですが、バイクが絶滅しつつあるという世界設定上、レースに使われたものや一点もののような希少なものよりは、かつて市場に出回ったものの方が未来世界まで残っている、という方が説得力があるのではと考えました。また、この遠い未来の世界と私たちの住むこの世界をいかに接続するか、どうすれば視聴者の方に実感や体感を持って作品を楽しんでいただけるか、と考えた時に、今実際に走ってるモデルが登場するということでより直感的に感じていただけるのではないかと考えました。なので、広告用に選んだのでは、なんて邪推する方がおられるかもしれませんが、この作品に関しては作品世界とストーリーにマッチし、また視聴者の方と身体的、直感的な繋がりを作るために私たちクリエイターの独断と偏見で選ばせていただきました。

その意味では、街中でR1やCB1300を見た時に(多分VMAXはなかなかお目にかかれないと思いますが)「Tokyo Override」の世界と一瞬でも繋がりを感じていただければとても嬉しいです。

バイクの登場シーンで、特にこだわった要素はありますか?

音にはとてもこだわりました。音に関してはYAMAHAさん、HONDAさんに全面協力いただき、各社の各モデルを実際にお借りして様々な生音を録音させていただきました。しかし実は生音をただそのまま使うだけではエンターテインメントとしてのケレン味のようなものが出ないので、そこはサウンドチームと相談しながらDolby ATMOSで仕上げていきました。

見た目もバイクのシルエットや質感の美しさ、カッコよさを思う存分味わえるようにこだわりつつ、ただリアルにすると作品として浮いてしまうので、そのバランスにはとても気を使いました。そこはリアルでありつつ、エンターテインメント作品として成立するするように調整してもらいました。

あとはバイクの存在感、重量感もこだわりました。激しいアクションを作る際に、見た目としてヒョイヒョイと軽く動く見た目になってしまわないように、タメのようなものをできるだけ意識してもらうようにアニメーターたちには何度も注文を出しました。
試写の際に皆さんに初めてアニメーション、音が付いたものを見ていただいたのですが、試写中は人生で初めて手汗を書くくらい緊張しました。でも試写後皆さんにとても満足していただけたことを聞いてホッとしたのをよく覚えています。

レースのシーンでは架空のモデルが登場するようですが、何かモチーフがありますか?

レースに関しては特にYAMAHAさんチームとワールドビルディングチームでディスカッションを重ねた成果が思う存分に発揮されたと思います。このレースがエンターテインメントとしてだけでなく、AIによって最適化された東京という街のインフラのチェックの意味合いがあるという設定により、どういったバイクがそこに走っているのかという議論に進んできました。

その上で、バイクおよびライダーにはAIによる完全自動運転のもの、人間によるマニュアル操作のもの(アマリンというキャラクターとそのバイク)、そしてその二つのハイブリッドモデル、といった3タイプがある、という設定に辿り着きました。さらにバイクのデザインは上下の二層式になっており、ベースは基本的に共通のもので、上部をそれぞれがカスタマイズする、という形になっています。

この設定の上で、アマリンというキャラクターが操縦する唯一の人間主導モデルをYAMAHAさんが「人機官能」のスピリットでデザインしてくださいました。このバイクには、ライダーとの感覚的共有を可能にする皮膚のようなセンサーがシート部分に想定されるなど、人間と機械(バイク)が共存するあり方が表現されています。

バイク以外のモビリティはとても未来的ですが、なぜバイクだけは変わらないデザインなのでしょうか?

先ほどのご質問でもあった通り、全自動化されたモビリティの世界観での特殊な存在としてのバイク、という設定を考えた時に、そのバイクも特異な見た目のものになってしまうと、ただの御伽噺になってしまうと考えました。他の車、トラックが変であればあるほど、敢えて現代と変わらないバイクが走ることの意味が出てくると思います。

そこには設定上、今後ガソリン規制や気候変動が進んでいく中で消えていくかもしれない様々なモビリティプロダクトに対する想いもあります。もしかすると、未来のある時点から新しいモデルが作られなくなるとすれば、現行のモデルが「最後のモデル」になるかもしれない。それは広く言えばAIをはじめとしたテクノロジーの進化による生活環境や考え方の変化の中で今あるものが消えていく感覚に対する密かな抗いの様なものとして考えることもできるような気がします。

近年はモビリティもIOT、AI化が進んでおり、バイクも例外ではありません。監督は未来のバイクも、現在と同じように自由なままだと考えますか?

開発のディスカッションの中で、バイクは車と違い操縦者がいないと立つことすらできない、という話が出て、それがとても印象に残ったので作中にも反映しました。実際には自立するバイクが開発されているので、これがバイクやライダーのアイデンティティとして残らない可能性ももちろんあると思いますが、そのテクノロジーの有無に関わらず、バイクは車に比べ、より身体的にライダーに近いものであることは確かだと思います。

少し話がずれてしまいますが、この作品ではタッチパネルのようなものも登場しますが、メインキャラクターたち周辺には「ボタン」のある機械を配置するように意識しました。それは彼らがアナログな身体性の感覚をまだ大事にしている人たちだからだと思いますし、そんな彼らにとってバイクという機械、それは触れる物質的なものというだけでなく、音や振動といった感覚を与えてくれ、それによってつながることができるものは大事な存在なんだと思います。

100年後の東京でも、バイクで困難を乗り越えるライダーの姿を楽しんでほしい

最後に、この作品を視聴する現役のライダーたちへ、伝えたい思いを伺った。

本作を視聴するライダーに向けて、制作にかけた思いをお聞かせください!

本作は、未来世界においてバイクならではの楽しさや人間の生き方を様々な角度から考え、想像しながら作った作品です。

その中で、主人公はバイクとの出会いを通じて自分の中にある声に気づき、バイクを乗ることを通じてその声を表現することを学んでいきます。未来世界に住むこの主人公の体験が、皆さんがバイクに乗られる際に感じていられることと共通し、共感していただけるところがあるのかどうか…。制作にあたった者としてはそこにとても興味を持っています。

もしかすれば皆さんが乗られているかもしれないバイクのモデルが、この世界ならではのバイクや車、建築物の中を轟音を立てながら疾走し、様々な困難を乗り越えていく様をぜひ楽しんでいただければと思います!

深田監督が「Tokyo Override」の制作にかけた思いは、バイクファンにとっても納得できるこだわりと熱意に満ちている。アニメファンでなくとも、ライダーにはぜひ目にしてほしい作品と言えるだろう。Netflixシリーズ「Tokyo Override」はNetflixにて世界独占配信中。

Netflixhttps://www.netflix.com/jp/

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