銀行員の助言どおり、退職金1,500万円で「新NISA」を始めた60歳投資初心者の後悔…暴落時、絶対にやってはいけないこと【CFPが解説】
2024年09月12日 05時30分THE GOLD ONLINE
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2024年8月、日経平均株価の大暴落が起きました。その後も株価の乱高下は続いており、落ち着くことができないという投資家も少なくないでしょう。このような状況下で、老後資金の柱となり得る退職金を投資に回していた人たちのなかには「NISAなんてやるんじゃなかった」と後悔しているケースも。本記事ではAさんの事例から、退職金運用と株価乱高下の際の対処法について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
老後への不安…退職金を増やしたい
いまから1年ほど前に定年を迎えたAさん(60歳)は、今後の退職金の運用について悩んでいました。
退職金の額はおよそ1,500万円で、なにかうまく活用はできないかと考えていましたが、これまで運用の経験はなく、なにから手をつけたらよいかわからない日々を過ごしていました。
そんなある日、銀行で紹介を受けた「新NISA」という制度に興味を持ちます。 テレビでもよく取り上げられているし、なにより国が推奨している投資制度なら安心感があると思い、Aさんは詳しい話を聞くことにしました。
銀行員のアドバイスもあって安心…新NISAを始めてみよう
ひと通りの説明を受けたのち、Aさんは銀行の担当者の助言どおり、退職金1,500万円のうちまず240万円を新NISAに充てることにしました。投資信託を自分で選び、投資をスタートさせます。
銀行からは「ご一緒にいかがですか?」と新NISAとは別の金融商品の案内もありましたが、とりあえず新NISAだけを始めることに。初めての投資ということもあり、少し様子を見てからすべての退職金を本格的に運用していこうと思ったのです。
投資は元本保証ではないという点が気になりながらも、預金よりも効率的に増やせるかもしれないという期待感のほうが上回っていました。
順調だった投資に降りかかる、突然の「過去最大の下落」
新NISAで運用を初めて数ヵ月が経ちました。Aさんの選んだ投資信託は順調に推移し、まずまずの評価益を出していました。
「数ヵ月でこんなに利益が出ているのか。これは選んだ商品がよかったな」 毎日の評価益を確認するのが日課となっていたAさんでしたが、突然悲劇が襲います。
今年の7月から8月にかけて価格の下落が始まったのでした。 ニュースでは連日株式相場の下落が続き、「過去最大の下落」とまで報道されることに。世界的な株安となったのです。
預けた金額を割り込むかもしれない……。そんなAさんの予感は的中しました。
Aさんの投資信託は日に日に評価益が下がり、ついに預けた元本を割れ、評価損の状態に。さらに損失が進む現状に耐えられなくなり、ついに売却をして損失を確定することにしたのです。
しかしその直後のことです。数日で価格は上昇を続け、結果としてAさんは直近の底値で売却をしてしまうこととなってしまいました。 国をあげて推進している制度を活用して投資を行ったはずなのに、銀行員が適切な助言をしてくれたはずなのに……。一体なぜAさんは損失を出してしまったのでしょうか。
新NISAの基本知識
2024年1月に開始された新NISAは、国民が資産運用を通じて長期的な資産形成を行いやすくすることを目的の1つとして大幅に改善されました。新NISAは、つみたて投資枠と成長投資枠の2つにわかれ、いずれも運用益が非課税となるという大きな利点があります。
更に大きな改善点として、非課税とされる期間が恒久化となりました。これにより、投資家は長期間にわたり利益に対する税金を気にすることなく資産運用をすることが可能に。投資の上限額も1,800万円まで拡大され、そのうちの1,200万円は成長投資枠に充てることができます。
<つみたて投資枠 >
毎月10万円(年間最大120万円)まで投資が可能
つみたて投資枠は1,800万円まで
<成長投資枠>
年間最大240万円まで投資が可能
上場株式や投資信託が対象
成長投資枠は1,200万円まで
(つみたて投資枠を含めた総額1,800万円の投資が可能)
株価が暴落したら?
新NISAで投資をすることができる投資信託をはじめ、金融商品には価格の変動リスクがあります。基本的に元本が保証されているものではありません。投資先の相場が悪くなると預けた資金が減る可能性もあります。
2024年8月上旬の日本の株式市場の暴落は記憶に新しいことでしょう。このような相場の急変が起こるとパニックに陥りがちですが、そんなときこそ冷静な対応が求められます。株価暴落時に取り得る主な選択肢は、以下のとおりです。
1.ホールド(持ち続ける)
株価が一時的に下落しても、基本的な経済の状況、企業の業績がしっかりしている場合、保有を続けることが適切な場合があります。時間が経てば株価が回復し、成長する可能性もあるからです。
2.リバランス(見直し)
投資をしている銘柄の比率を見直し、リスクの高い資産から安定した資産へ移行することも1つの方法です。たとえば株式の比率を減らし、債券などの比率を増やすことで全体のリスクを調整できます。
3.追加購入(ナンピン買い)
一時の下落でも、自信を持っている銘柄であれば下落したタイミングで追加購入することも選択肢の1つです。これにより、全体の取得価格を下げ、価格が回復した際にはより大きなリターンを得ることが期待できます。
株価が急落すると、一部の方は「パニック売り」に走ってしまうこともあります。しかし、不安・心配・恐怖といった感情に任せた売却は、のちに後悔する結果を招いてしまうことも少なくありません。
「パニック売り」を起こさないために
長期で投資を行う際、何度かは大きな市場のショックを経験することが考えられます。そんなときに慌ててしまわないよう、以下のような方法を押さえておきましょう。
1.事前に決めたルールに従う
投資は損益が全て自分に返ってくる自己責任の世界です。だからこそ、投資を始める前に自分が取ることのできるリスクの許容度や売却の基準を決めておき、それらに沿って投資を行うことも有効です。これにより感情的な判断を避けることができます。
2.情報に基づいた判断を行う
市場の動向をしっかりと把握することができれば、慌てて売却するといったことは少なくなるでしょう。そのため、まずは自分で情報を集め、理解するために投資について学ぶことは重要です。
3.専門家の助言を求める
市場が不安定な時だからこそ、金融機関の担当者やIFAなどのアドバイザーなど専門家の意見を参考にすることも大切です。
いまはネット等で情報を得て1人で投資を行っている方も多いですが、そういった方こそ予期しない相場急落などでパニック売りを起こしてしまう方が多いように思います。
心配になったら相談できる担当がいることは、投資を長く続けるうえで大きな支えとなります。
〈ポイント〉
・「パニック売り」は、その時点で損益を確定させてしまう行為で、長期的な成長の機会を失ってしまうことにつながる
・新NISAのような一般的な金融商品の売買手法であれば、売却しない限り損失を確定させることはない
退職金運用の心構え
Aさんは、退職後の安定した生活を目指すため、退職金の一部を新NISAで運用することを決めました。
しかし、株価が大きく下落したときに、不安や恐怖に駆られて保有していた投資信託を売却してしまいました。結果論ではありますが、その後株価は値を戻しつつあり、Aさんは本来得られるはずだったリターンを失い、損失を確定させることとなってしまったのです。 退職金のように老後の生活を支える大切な資産に関しては、慎重かつ計画的な運用が求められます。このような資産の評価が一時的に下落をしてしまうと、不安に駆られてしまうのも無理はありません。
ただ、今回の投資を通じてAさんは感じた後悔は、「焦って売ってしまったこと」と話します。
投資は本来、長期的な視点で行うべきであり、一時的な市場の変動に左右されるべきではありませんが、Aさんは短期的な損失に対する不安から冷静な判断を失い、結果として不利なタイミングでの売却という行動を取ってしまいました。 大切な資産の運用だからこそ、計画的で冷静な判断ができるように資産運用を行っていただきたいと思います。
伊藤貴徳
伊藤FPオフィス
代表