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女子はビロディドら3強揃い踏みの48kg級、男子はリネール、原沢ら本番超える陣容集った100kg超級に注目/ワールドマスターズ・ドーハ2021
柔×コラム by 古田 英毅原沢久喜選手
ランキング上位36名が出場を許されるワールドツアー最上位大会、柔道ワールドマスターズ・ドーハ2021が、11日にいよいよ開幕する。この模様はJ SPORTSで生中継される。
コロナ禍で世界のスポーツイベントが縮小する中ではあるが、国際柔道連盟(IJF)は厳しい規制を設けて大会を決行。参加選手と関係者は出国前に2回、現地で1回、さらに帰国前に1回のPCR検査が義務付けられ、大会は行動範囲を宿舎と会場に限定して移動も専用車のみを利用する「バブル」という方式で運営される。首都圏に緊急事態宣言が発令された日本も独自に複数回のPCR検査と自主隔離措置をプラスする厳戒態勢を敷いて安全を確保、9名の選手を送り込むこととなった。
昨年国際大会がほとんど開催されなかったこともあり、ただでさえ獲得ポイントの高い今大会には世界から強豪が殺到。階級によってその濃淡は異なるが、いずれの階級もこれぞという金メダル候補が参加しておりレベルはかなり高い。階級によっては五輪以上の陣容(強豪国が複数の代表を送り込んでいる)での戦いが繰り広げられることとなる。
男子の最注目階級は100kg超級。リオ五輪王者で世界選手権8連覇のテディ・リネール(フランス)、2018年の世界王者グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)という2人の世界王者に、リオ五輪と2019年世界選手権の銀メダリスト原沢久喜、そして昨年後半の重量級シーンを席捲したイナル・タソエフとタメルラン・バシャエフのロシア勢2人が加わった。五輪本戦ではリネール、ツシシヴィリ、ルカシュ・クルパレク(チェコ)と原沢、そしてロシア代表選手という5名の中から金メダリストが生まれるであろうことはほぼ確実。クルパレクは欠けたが、今大会にはこの階級の主役がほぼあまねく顔を揃えたことになる。
ご存じの通り、リネールは昨年2月のグランドスラム・パリで日本の影浦心に敗れて連勝記録が「154」でストップ。この際は明らかに調整不足であったが、10月にはフランスのクラブ選手権(団体戦)でまったくの格下ジョセフ・テヘーにも「指導3」で敗れる失態も犯している。審判の判定に泣かされた面のある試合ではあったが、もはやリネールの退潮は明らか。以後これだけの強豪が集う大会は初めてで、今大会は長く続いたリネール絶対王者期の「次の時代」における新たな序列の決定戦と言ってもいいだろう。重量級のメインストリームである本格派大型選手の系譜(リネール、原沢、タソエフ)と、カウンターカルチャーとしてこの4年間台頭した担ぎ技ファイター(ツシシヴィリ、バシャエフ)というタイプ的な対立軸で観察してみても非常に面白い大会。
原沢と同じく日本の五輪代表を務める向翔一郎が送り込まれる90kg級も面白い。10月のグランドスラム・ブダペストと欧州選手権を圧勝して五輪金メダル候補最右翼に浮上したミハイル・イゴルニコフ(ロシア)がエントリー。片足を突っ込めばそれだけで無敵、あらゆる選手をケンケンの大内刈と内股だけで片付けて来たこの選手をいったい誰が止めるのかが今大会の争点である。向はもちろん、ひときわ面白そうなのはもと世界王者で潜在能力ナンバーワンのガク・ドンハン(韓国)。両者の対戦は2018年ワールドマスターズで1度あるきり(イゴルニコフが大外返「一本」で勝利)だが、この時はガクの不調期でイゴルニコフは孵化前。現状の参考にはなりえない。負傷も癒え、調整十分のガクがいまのイゴルニコフとどのくらい戦えるかは、そのまま五輪で「イゴルニコフ以外にも金メダルの可能性があるか」を占うと言っても過言ではない。ネマニャ・マイドフ(セルビア)、ノエル・ファンテンド(オランダ)と戦術派の世界王者2人も参加しており、向にとっては試練の大会となる。
渡名喜風南選手
女子で注目したいのはこれも日本の五輪代表選手が参加する48kg級と78kg級。
48kg級は世界選手権2連覇中のダリア・ビロディド(ウクライナ)、前回のワールドマスターズからツアー3連勝中のディストリア・クラスニキ(コソボ)、2017年の世界王者渡名喜風南と、階級の3強が揃い踏み。本当にここで戦ってしまっていいの、と思わずつぶやいてしまう豪華陣容となった。ビロディドはコロナ禍における減量のリスクを考えて10月のグランドスラム・ブダベストは1階級上の52kg級で参加(3位)しており、今大会はまずコンディションが最大の課題。渡名喜は順当なら準決勝でビロディドと戦うことになるはず。ここまで1年半近くをビロディド対策に費やしてきた渡名喜、すべてを見せることはないはずだが、五輪まで残された時間を考えるとここで実際に組み合えることは極めて貴重な機会。長身のビロディドの懐に小さい渡名喜がどう潜り込むか、その作戦のレベルに期待。
78kg級は2018年世界王者の濱田尚里がエントリー。ここに最大のライバルである2019年の世界王者マドレーヌ・マロンガを筆頭に、現在世界の78kg級シーンをリードするフランス勢3名が全て送り込まれた。一時はマロンガを凌ぐ勢いで勝ちまくっていたファニー=エステル・ポスヴィトに、グランドスラム・ブダペストで復活Vを遂げたもと世界王者オドレイ・チュメオとその陣容は超強力。まさに五輪を超えるレベルの難関ではあるが、濱田は他を圧する稽古量をこなして調整万全との噂。得意の寝技はもちろん、進境著しいと首脳陣が太鼓判を押す投技の威力にも注目。
文:古田 英毅(eJudo)
※1月7日時点のエントリー情報を基に作成しています
古田 英毅
「eJudo」編集長。国内の主要大会はほぼ全てを直接取材、レポートを執筆する。自身も柔道六段でインターハイ出場歴あり。2019年東京世界選手権から、全日本柔道連盟の場内解説者も務める。J SPORTSワールドツアー中継ではデータマンを担当。
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