私は、歌う事が好きだ。
学生時代は、カラオケによく行った。
当時の十八番は、なんだったかな。
「光の射す方へ」
だったような。
ただ、ここ10年程は一回も。そう、一度たりとも行っていない。
一緒に行ってくれる友人も縁遠くなり、そして何より、最近の歌は本当に難しいのだ。
良い歌を見つけても、そのキーで歌えない。
試しに車の中でうたってみる。
独りの車内はいつも宛ら、レッスン場になっている。
高い音によしんば届いても、一曲歌い上げる前に喉が枯れてしまう。
こんな状態で、お披露目等出来る筈もなく。
昔の、声変わりする前の私は、何処までも高い声が出た。
いつだったか、音楽の先生が、子供の歌声を録音する必要があり、二人づつ順番に私達は、組みになって歌う機会があった。
そして、我々の番。
隣のクラスメイトは、地声で歌っている。
私は、
「歌う時の声」
は、地声では無い、歌う為の声とあると感じていた。
女の子の様だと恥ずかしいと思っていた声。
思い切って使ってみた。
細い糸のようなそれは、どうしても隣の声にかき消されてしまう。
何処からやってきたのか定かでは無い、憤りに近い感情を感じながら歌い切り席に戻ろうとすると、私の手を先生が握ってきた。
どういう意味か分からなかったが、その後、録音の為に置かれたマイクは、私の真ん前に位置していた。
それから暫くして、変声期が訪れてしまい、あの声は永遠に失われてしまった。
今一度、あの声を取り戻そうと、試行錯誤を繰り返している。
すると、先日。
とても気持ち良い歌声に再会できた。
喉の後ろに響きを感じるような。
高い音も苦もなく出る。
そうだ。
歌をうたう時の声。
こんな感じに出していた。
かわいいと言われていた私は、思春期にさしかかり、かっこいいと言われたがり、無理をした。
低い声を作ったり、子供っぽい好奇心に蓋をした。
この歳になり、漸く自然な自分を受け入れられる準備ができたのだろうか。
その訪れならば、
凄く、
嬉しい。