聖女の加護を双子の妹に奪われたので旅に出ます - 結婚式
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結婚式

「ハート、準備はいいか?」

「ああ」


 教会に着くと俺たちは馬車から次々と降りて、お御堂の中に入って行く。


 準備と言っても聖騎士の正装服だし、これだけだ。

 俺は胸ポケットに入れた、小さな箱を手で触って確かめた。


「いよいよだな」


 ガインさんが俺に向かって笑いかける。

 昨夜は散々からまれたのに、すっかり忘れているようだ。


「警護の指揮は任せてください」


 テッドはいつでも冷静だ。


「おめでとう、お兄ちゃん」


 こいつは無視だ。


「武器は置いてきた方が良かったか?」


 シドさんはここ数日落ち着きがない。

 こういう事には慣れているのかと思いきや、意外な一面もあるもんだ。


「シドさん。今日は仕事抜きで」

「ああ、そうだったな」


 苦笑いするシドさんの横で、お爺さんが「あの子を頼むな」と目を真っ赤にしている。


「はい」


 まいったな。

 俺は安心させるように笑顔を向けた。


 やっとだ。どれだけこの日を待ち望んだか。


 新居にはすでに荷物が運び込まれた。

 教会が用意した王都にある小さな家だ。


 マリーはお爺さんの家まで歩いて行ける場所がいいと、郊外の大きな屋敷を望まなかった。

 実にマリーらしい。贅沢な暮らしよりも、家族とそばにいられる方を選ぶとは。


 俺は、うるさい外野のいない郊外でも良かったんだが。



「ねぇ、お兄ちゃん。凄い顔ぶれだね」

「あぁ。……」


 呼び方を訂正しようかと思ったが、家族だし、これでもいいかと思えてきた。

 俺はフェルネットと一緒に参列者を見回す。


「カトリーナ第三王女に、上級貴族のエヴァスとその家族もいる。あっちにガインさんの家族や僕の家族、テッドの家族も来てるよ」


「ん? あの神官服を着てはしゃいでいるのは、隣国の第二王子か?」

「って事は、あの彼女がプロポーズしたメイドで、その隣は側近なの?」


 あれで変装したつもりとは……。

 相変わらず面白い王子だ。


「あはは。見て、見て! ギルド長がシャツにタイなんか付けているよ」

「後で揶揄(からか)うなよ」


 ゴバスをはじめ、教会に縁のない冒険者たちは、この女神像のある歴史的な建物に驚きを隠せない様子だ。普段は教会関係者も立ち入り禁止だしな。


 マリーが神と女神に報告したいと言ったら、教会は(こころよ)くここを開放してくれた。


 俺は祭壇の奥にある女神像を一つ一つ眺めていく。

 これがマリーに加護を与えた女神たちか……。


 火の女神は炎のモチーフを手に持ち、情熱と正義を表している。


 水の女神は水晶を持ち、浄化と美を。

 風の女神は羽根を持ち、自由と知性を。


 土の女神は宝石を持ち、創造と安定を。

 緑の女神は葉を持ち、収穫と成長を。


 闇の女神は月を持ち、秘密と真実を。

 光の女神は星を持ち、再生と癒しを。


 それぞれの女神像はとても美しく、気高(けだか)く見えた。


「そろそろだぞ」


 シドさんに声を掛けられ、俺は祭壇の前でマリーを待つ。

 教皇様はそこで聖典を開いていた。


 とても静かで(おごそ)かな空気に包まれたお御堂の中は、金の装飾の中に白とピンクの花で飾られている。


 そして俺の家族席には、家族になった二人がいた。

 落ち着きのないシドさんと、落ち着いているフェルネットが。

 マリーの家族席にいるお爺さんは、今か今かと入り口の方を気にしている。


 やがて大きな扉が両側からゆっくりと開き、部屋全体に光が差し込んだ。


 そこには純白のドレスを身に(まと)い、髪は白い花で飾られ、手に淡いピンクの花束を持った俺のマリーが立っていた。


 その瞬間、会場全体が息を飲んだ。

 美しい。今の彼女にはこの言葉以外が見つからない。


 白い絨毯が敷かれた通路を、ガインさんと共にマリーがゆっくり歩み始める。

 彼女が進むたびにドレスの(すそ)が床をなぞり、少しずつ俺に近付いてきた。


 俺の心臓は高鳴り、生まれて初めて味わう感動に心が震える。



 まるで時が止まったかのようだった。



 ガインさんが俺をまっすぐに見つめ「頼んだぞ」と肩を叩く。

 隣に立ったマリーは俺を見ると静かにほほ笑んだ。


「神聖なる神と女神の前で結婚の誓いを」


 教皇様が俺に合図をする。


「小さなマリーと出会った時、妹として守ろうと思った。成人したマリーを、今度は聖女として守ると誓った。一度離れて旅をして、俺は彼女への愛に気が付いた。これからも彼女は成長していくだろう。妻になったマリー、母になったマリー。変わってゆくそれぞれのマリーを守り、愛すると誓います」


 俺は思いのすべてを言葉にした。

 俺の誓いの後にマリーが続く。


「私にとって、ハートさんがそばにいることが自然でした。泣きたい時、嬉しい時、楽しい時。気が付くと、失うことを考えられないほど彼を愛していました。私のすべてを捧げ、ハートさんを癒し愛し続けると誓います」


 初めて俺に愛していると……。


「誓いの指輪の交換じゃ」


 長年探し続けて手に入れたマリーの目と同じ青緑色の石の付いた指輪を、俺は小さな箱から取り出した。


 緊張で彼女の手は(わず)かに(ふる)えている。

 俺はゆっくりと息を吸い込み、マリーの薬指に指輪を通した。


 俺を見るマリーの大きな瞳から涙が(あふ)れ、光り始める。

 いや違う。光の女神像から白い光が放たれて、涙に反射してるんだ。


「な、なんじゃ?」


 教皇様の驚く声が聞こえるが、(まぶ)しくて何も見えない。

 俺はマリーの手を引いて守るように抱き寄せた。


 続いて赤、青、黄、緑、茶、黒の(まばゆ)い光がそれぞれの女神像から放たれていく。

 女神が次々に姿を(あらわ)した。


「おめでとう」「幸せを」「喜びを」「平和を」「未来を」「夢を」「永遠の愛を」


 女神たちが次々とマリーを祝福していく。


 これがあの……。

 俺は驚きで声も出なかった。


 やがて女神たちは消えてゆき、お御堂の中に静寂が戻る。

 みんな女神がいたその場所を、ただ茫然(ぼうぜん)と見つめていた。



「女神様たちの祝福じゃーー!!」

「「「「うぉおおおおおーー!」」」」


 一瞬の間をおいて教皇様が叫ぶと、会場全体が我に返り大騒ぎに。

 もう式どころではなくなっていたが、マリーはとても幸せそうにそれを見ていた。


「女神様からの祝福なんて、思ってもみませんでしたね」

「そうだな」

「うふふん。ずっと探していた石って、これだったのですね」


 いたずら顔のマリーが、手をかざして俺に指輪を見せつける。

 俺が石を探しているのを知っていたのか。


「マリー。俺()愛してる」


 仕返しに、俺はマリーの(ほほ)にキスをした。

 マリーは目を大きく開けて絶句する。


 ははは。可愛いな。

 俺は早く二人になりたくて、マリーの手を取ってお御堂を後にした。


これで完結です。

ここまで読んで頂き、本当に、本当にありがとうございました。

みなさまからの励ましの言葉、アドバイスや間違いのご指摘に大変感謝しております。


今まで、感想、ブックマーク、評価、いいねを下さった方に感謝を申し上げます。

また、誤字報告をいつも本当にありがとうございます。


よろしければ、最後に作品の評価を頂けたら幸いです。


ここで完結をしますが、後日談のSSなど、不定期で上げていくと思います。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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