真実の愛とやらのお相手の目が死んでいる
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真実の愛とやらのお相手の目が死んでいる

作者: 朱瑠

「アメリア・アンテュール侯爵令嬢!貴様の数々の愚行、見過ごせぬ!ローザ・ベルネ男爵令嬢への嫌がらせ行為、彼女に関わる風説の流布、そして何より我らの真実の愛を邪魔したこと!何れも許してはおけぬ!貴様との婚約を解消し、先ほどの罪で貴様を捕縛する!」


 学園の卒業式。めでたいはずのパーティ会場。その雰囲気をぶち壊しにする王太子殿下の突然の婚約破棄の宣言。そして何より、私を捉えさせるという令。周囲もざわざわとし始める。いくら私に侯爵家の地位があろうとも、王家の威光にはひれ伏す外ないのが実際のところで、私の命運もここまで、というのが本来の状況であるべきだろう。


 けれど、ふむ。どうやら王太子殿下は『配役』を間違えたらしい。ああいや、ある意味では効果的な配役ではある。王太子殿下の述べた罪は、客観視で確かに私の罪状として並べることが可能なものばかりなのだし。


 ──残念、王太子殿下。詰めが甘いよ。


「ああ、カイニス殿下。何をおっしゃるのです?私、そのような罪は身に覚えがございませんわ」


 目を瞬かせながら、王太子殿下へ自身の無罪をアピール。まさかそんなとざわめいていた周囲が一転して静かになる。時間稼ぎにもならないだろうが、これはあくまで『パフォーマンス』を引き出させるための挑発にすぎない。


「ふん、白々しい反応をしおって。貴様の罪状は、ここにいるローザ嬢から聞き取った情報を基に、証拠の確保も完了済の揺るがぬものだ。今更そのような言葉、見苦しいぞ!」


 反応もおおむね予想通り。やっぱりそうだ。相変わらず、他人のことをなんとも思っていないクズで反吐が出る。


「ああ、しかし、殿下」


 しかも、自身の策に酔いしれて、周囲の人間の状況に気が配れない。全くもって為政者にふさわしくない性質だと言えよう。


「その罪が事実であるならば何故、ローザ嬢はそのように生気を宿さぬ瞳をしていらっしゃるのでしょう?」


 殿下のミスはその配役にすべてが詰まっていると言っても過言ではないだろう。そもそもだが、ローザ嬢は私の数少ない心が許せる友人なのだ。


 まずもって、ローザ嬢は平民出身で貴族の立場になどないはずの少女である。それが、彼女が生来持ち合わせていた類まれな魔術の才と、それを見極めたベルネ男爵の観察目によって養子となり、貴族の立場を得た子だ。故に貴族社会に疎く、入学当初から身分を弁えない言動が幾度か見られていた。それを面白く思わない貴族の、特に令嬢方は苛烈ないじめを行っていた。そこには私の取り巻きもいて、私からの指示が事実としてあったかに関わりなく、私が彼女に嫌がらせを行ったという事実を作り上げることができる。風説の流布も同じだ。真実の愛云々は、まあ多分彼女を気に掛ける理由付け程度の意味しかないだろう。アレはそういうのを平然とやる。


 さてしかし、私とローザ嬢……というかローザちゃんは友人関係にあった。これも同時に、覆りようのない事実である。何せ、つい一週間前にはお互いの一日違いの誕生日を祝して、プレゼントを贈り合い、二人きりでのお茶会までした仲だ。私のうぬぼれでなければ、お互いに友人として慕っていたはずである。私は才のある人間は立場に関わらず仲良くしておくべきだと考えているし、それを抜きにしても私に建前無しで接してくれる子は少ない……というか他に居ない。そういう意味でも貴重な友人だった。


 私はローザちゃんを親しい友人であると主張し、彼女との様々な交流の記録を提出できる。しかし同時に、殿下はそれらすべてを握りつぶすだけの権力を持っている。今のままだとどうあがいても負け、詰んでいる。だが、もしローザちゃんが


「アメリア様は私に良くしてくださっていて、いじめられた事実などありません」


とそう叫べば、それだけでひっくり返る詰みでもあるのだ。当事者の言葉というのはそれだけ強い。そして、そんなローザちゃんの目はものの見事に死んでいる。目に光がなく、この世のすべてを諦めてしまったような、そんな目だ。もしくは、罪悪感とかその辺りに押しつぶされかけているそれにも見える。


 まあつまるところ、鍵はローザちゃんだ。反撃の手段を残すのは、詰めが甘いとしか言えまい。


「決まっている!貴様のような畜生と同じ空間にいることそのものに嫌気がさしているのだ!」

「そうでしょうか?私にはやりたくもない策謀に巻き込まれて、自身や親しい者の今後を案じている……と同時に、この状況を呪っているように見えますわ」

「チッ、下らん。貴様と話しているとそれだけで耳が腐りそうだ。おい、衛兵。さっさとこの畜生を捕縛せよ」


 殿下の言葉に反応して、唖然としていた衛兵たちが動き出す。本当に私と会話を続けるのが嫌らしい。流石にもうちょっと時間が欲しいのだけど、さてどうしたものか。


「ああ、手荒な真似はしなくて結構ですことよ。私、抵抗など致しませんから。ですがその代わりに……弁明のため、発言をお許しいただけないかしら」

「……聞く必要などない、連れていけ」

「あら酷い。これではどちらが罪人か分かったものではないわ。罪を裁くときは双方の意見を吟味し、確実な裁定を下す必要があると法に明記されているというのに」

「……許す」

「ああ、流石はお優しい殿下だわ。罪人であると内心では断定しきっているというのに、一応の発言を許すだけの器量は何とか持ち合わせていらっしゃったのね」

「おい、そのような話しかせんのなら、今すぐ捕らえさせるぞ」


 ああ、面白い。分かりやすくイライラしている。私を窮地に追い込んだはずなのに、余裕綽々の対応なのが不安なのだろうか?もしくは、時間をかけるだけ彼がやっている謀が露呈する危険性が増すことを理解していて、恐れているか。いや、どちらもかもしれない。

 ……と、もう終わったのか。おおむね予想通りだったとはいえ、仕事の速さに舌を巻くばかりだ。流石は次期侯爵。


「ではまず……ゲルト。首尾はどうかしら?」

「はい、アンヴェルト様から先ほど連絡がありました。身柄の確保に成功したとのことです」


 兄さまは本当に役に立つ。策謀は信じられないくらい下手くそだけど、それ以外は飛びぬけて優秀。こうしてほしいと伝えればなんだってこなしてくれる。


「ならば次に、ローザ。安心していいわ。貴女の心配事は既に解決したから」


 弾かれたようにこちらを見るローザちゃんに向けて、にっこりと笑顔を浮かべる。


「お、おい貴様!何を言って──」

「最後に殿下。残念ですけれど、謀はここまでですわ」

「な……んの、話だ?」

「うふふ、動揺が漏れ出ておりますわよ?きちんと答えてさしあげますと……ローザの平民の両親は、既に賊どもから救出済、ということです」

「……!何を言っているやらわからんな」


 成程、賊を王都に招き入れたことが露呈するのは流石にまずいと思ったのだろう。しらばっくれるつもりらしい。衛兵も生徒たちもざわついている。これなら無理やり捕まる心配もしなくてよさそうだ。


「ねえ、ローザ。貴女、殿下から何を言われていたか、教えてくれない?一応確認しておきたいの」


 そう言いながら、ローザちゃんと、あとクズのところへと歩いていく。すると、ローザちゃんも殿下に見向きもせずこちらへ駆け出してきた。


「う、ううぅ。良かったです、アメリアさまぁ~!わた、私、殿下に、父さんと母さんの命が惜しかったら、アメリアさまを陥れるのに従えって脅されて……本当にごべんなざい~!」

「よしよし、怖かったわね。いいのよ、私は気にしていないわ。すべてはあそこにいるクズが悪いのだもの」

「貴様、今私のことをクズと呼んだか!?」

「ええ、事実ですから。平民とはいえ、その身が守るべき民草を私利私欲のために利用するなど、王太子失格のクズでしょう?」

「な、何の根拠があってそのようなことを!貴様、王家への侮辱の罪は重いぞ!」

「……ところで殿下。私とローザが友人であることはご存じだったかしら?……ああ、答えなくて結構だわ。やはり、知ってらしたのに利用したのね。はぁ。人間を肩書と立場でしか見ない癖は子供の頃から変わらなかったですね」


 周囲のざわめきもピークだ。なになに?「アメリア様がそんなことするなんておかしいと思ってた」「あの二人は傍目にも仲がいいのがよくわかるのに」「でっち上げの事件で婚約破棄って……」などなど。うん、世論はこっちの味方だ。


 しかしそれでも殿下は強気だ。理由は簡単、賊とのつながりなど断っているためだろう。しかし。


「残念ですけれど、ローザには侯爵家の影をつけていましたの。更に、何を勘違いしているか知りませんが、殿下についている影は殿下の手駒ではなく王家の駒。殿下に利用価値がなくなれば切り捨てられるのですから、ローザを正面切って脅したのは大失敗だったと言わざるを得ません」


 おおむね把握できていて、迅速に動いてもらえたのもそれが理由。更に殿下に近づき、小声で告げる。


「やるなら、ローザの両親を賊に殺させたうえで賊も始末。ローザには両親が生きていると誤認させつつ脅し、すべてが終わったら不慮の事故に遭ってもらうくらいはしませんと。反撃の隙、突ける弱点を残してしまうようではまだまだですわね」

「貴様……本当に救いようのない畜生が」

「ま!そんなことはどうでもいいんです。私を詰みの状況へ持っていったと思っていたのかもしれませんけれど、詰んでいるのはそちらでしたのよ」


 と、言い争いを続けていたところ、会場ホールの扉が開かれた。


「そこまでだ。賊の統領が吐いた。証拠が揃いすぎている。残念だが、君の負けだよ、殿下」

「全く……」


 開かれた扉から入ってきたのは、兄さまと陛下だった。


「とりあえず、カイニスは連れてゆけ。言い分は裁判で聞こう。アメリア嬢とローザ嬢は、今後裁判に呼び出すかもしれんが、構わんな?」

「ええ、勿論構いませんわ。これで喧嘩もおしまいになることですし。ローザも安心して?裁かれる側に立つことは無いから」

「は、はい!と、ところであの……勝ち負けとか喧嘩とか、いったいどういうことで……?」

「あー……聞きたい?当然聞きたいわよね。巻き込まれたのだし」

「はい!よろしいですか?」

「勿論。では陛下、我々はここで退室させていただきますわ」

「ああ、構わん」

「じゃ、行くわよ。後は私の部屋で話しましょう」


 連れ出されるクズの喚き声をBGMに、私達は卒業パーティの会場を後にした。







「私たちって子供の頃から仲が最悪でね。昔から何かと争っては、私が殿下を徹底的に打ち負かしてきたわ。それを私は喧嘩と呼んでいたの。今回はそれが行くところまで行ってしまって、貴方とその家族を巻き込んだ、ということになる。だから、本当にごめんなさい、ローザちゃん。謝って許してもらえるものではないけれど、それでも謝らせてほしい」

「ちょ、やめてくださいアメリア様!頭上げて!気まずいよ、ほんとに」

「……あなたは本当に優しいね。私と殿下の争いが全ての原因なのよ?そんな私を許していいのかしら」

「いいに決まってます。悪いのはあの王子でしょ」

「そっかー……良かった。友達を失うことになるんじゃないかと思ってビクビクしてたよ。ところでさ、ローザちゃんってアレの真実の愛のお相手だったんだ?」

「それは流石に怒るよ」

「あごめん……ローザちゃんは好きな人とか居ないの?」

「え……その、出来た。今日」

「うそ!え、もしかして兄さま!?やめといた方がいいよ、あの人有能だけど一人にしてるとビックリするくらい無能だから!」

「……違うし。むー、アメリア様は好きな人とか居ないんですか?」

「え?うーん……考えたこと無かったな。あのクズが居たから誰も言い寄って来なかったし……」

「……ふーん、そっか」

「ま、いいか!とりあえずお詫びってことで、週末お出かけしよ!美味しいケーキ、食べさせてあげる」

「ケーキ!」


 その時、ローザの目はその日一番輝いていた事だろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ