縁結びの神様から惚れ薬を貰ったんだが、効果が不安なのでまずはダイエットから始めようと思います
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縁結びの神様から惚れ薬を貰ったんだが、効果が不安なのでまずはダイエットから始めようと思います

作者: 朱瑠

すいません!これランキング入るとか1mmも思ってなかったのでダイエット部分の体重どうこうとかその辺死ぬほど適当です!ご注意ください!

ゆるして()

ふと気づくと、そこはなんか荘厳な神殿みたいな感じの場所だった。

あ?どこだよここ。


『あ、気づきました?ちなみにこれ夢みたいなものなので、起きたらいつも通りあなたのベッドの上のままですから安心してくださいね』


夢?あー、そういえば今日はもう寝るかとか考えたような気がするな。確かに言われてみれば寝た気がする。


『まあそういう訳ですから、安心してくださいね。さて、本題に入ってもよろしいですか?』


てか、この人誰だ?いや、よく考えたら夢だから誰でもないか。やっぱ夢だからかなあ。僕の知ってる人の見た目な癖に性格が全然違う。


『ああ、私ですか?私は縁結びの神様ですよ〜。これから話すこともそれに大いに関わりますから、自ずと分かることではあったと思いますけど。見た目はほら、私縁結びの神様ですから。あなたの想い人の姿になろうかな〜と思ったんですよ。可愛いですよね、この子』


ああ、可愛いよ。めちゃくちゃ可愛い。何せ学校では間違いなく一番綺麗だ。下手すれば一日に何人かに告白されているレベルで大人気なんだから。

青海琴音(あおみことね)。輝く金髪、エメラルドグリーンの瞳、綺麗なシミひとつない真っ白な肌。噂では祖父が外国人らしいが、その日本人離れした見た目に加え、抜群の運動神経と明るく誰に対しても分け隔てない性格。更に成績もよく、そして胸がでかい。その全てが男たちを虜にしている、そんな女子だ。かくいう僕もその中の一人だし。

まあ、僕なんかにチャンスは無いから諦めてるんだけど……。


『話したいのはその事なんですよね。何回も言ってますけど、私、縁結びの神様ですし。あなたとこの子の縁を結ぼうかなと思って夢枕に立ったわけですよ』


はあ?何言ってんだ、そりゃ無理があるだろ。

何せ僕はデブだ。それはもうデブ。陰キャのデブなんてたとえ神様でも救えないだろう。そもそも結ぶ縁自体が断絶しているレベルだ。どんな奇跡を起こしても、青海さんが僕と付き合うなんて事は起こりえない。


『ちっちっちっ。甘いですよ、坂本浩介。いいですか。あなたは目覚めると、自分の机の上に見覚えの無い小瓶を見つけるでしょう。それは惚れ薬です。その小瓶の中の液体にあなたの髪の毛を一本溶かし、相手に飲ませれば相手の気持ちはあなたに向かうでしょう。くれぐれも中途半端な量を飲ませてはいけませんよ。効果が中途半端になってしまいかねません』


……は?惚れ薬?

あー、そうだった。これ夢だった。訳分からん突飛な方向に話が吹っ飛ぶのは夢ならではだな。

ってあれ?なんか意識が朦朧とする。夢なのに?


『ま、起きたらきっと信じることになりますよ。それでは、そろそろ時間ですから、私はここで。最後にひとつアドバイスをしてあげますね。私の持論では、人は見た目が99%です。この薬は──』


僕は、最後まで話を聞くことなく意識を失った。







「……変な夢見たな。はぁ。結局僕の見た目じゃ何にもならねえよって言われただけじゃん。悪夢だな、悪夢」


普段夢なんて全て忘れるから、これだけハッキリと覚えているのが違和感で仕方ない。

机の上に見覚えの無い小瓶?そんなものが見つかるわけが無い……だ、ろ?


「……は?嘘だろ」


机の上には、全く見覚えの無い小瓶が置いてあった。軽く振ってみると、中に液体が入っているのが分かる。ラベルには、『惚れ薬』の文字だけが燦然と輝いている。


「……夢だけど、夢じゃなかった!ってやつか?嘘だろ……こ、これ使えば、僕みたいなデブでも、青海さんと……?」


待て。冷静になれ。

まず、小瓶の存在だ。何者かが僕に変な夢を見せてこの小瓶を置くことで、動きを観察してるドッキリ番組的な可能性は無いか?無いか。さすがに夢を見せるとかは厳しい。これ自体は本物で、夢も本当のものだったと考えた方がいい気がする。

となると、怪しむべきはこの小瓶の、惚れ薬の効果だな。そもそも神様ってのは気まぐれな存在だ。北欧神話なんか浮気しまくりだし。何より僕なんかにこんなものを与える時点でそれは間違いないと思う。つまり、何が言いたいかっていうと、この惚れ薬の効果ってほんとに信じていいの?って話だ。


脳裏に浮かぶのは、青海さんの姿をした縁結びの神の最後の一言。人は見た目が99%。それに続く、この薬は、何なのか。

この薬は、その99%を代替してくれる代物だ、と言うなら問題は無い。僕の最大の欠点である、デブという部分が問題ではなくなるからだ。1%のダメな部分で振られる可能性が無いわけではないが、0%の今よりはマシだろうし。

問題があるのは、その99%を誤魔化せず、とりあえず惚れはするけどなんであんなデブを好きになったのか分からない……なんて場合だ。惚れ薬の効果がどれだけ強いかなど使ってみなければ分からない。一瞬だけ惚れたけど、あまりにも見ていられないデブ過ぎて夢が一瞬で壊れてやっぱムリ、なんて話になってしまう可能性が捨てきれない。縁結びの神を騙って僕で遊ぼうとしてる悪い神様である可能性だって一切否定できないんだし。

更にもうひとつ問題がある。この薬の効果量だけじゃない。効果時間も全く分からないことだ。

人間の細胞は常に代謝で置き換わっている。いつかはこの薬の成分も全て体外に排出されうるのでは無いか?そうなった時、たとえデブでも好きになってくれていたとしても、唐突に、あれ?なんでこんなデブ好きになったんだっけ?とならないとは限らない。


考えれば考える程、この薬ってどれくらいのパワーがあるの?という点が全く不明である事に気づく。もしかしたら全く効かないかもしれないし、もしかしたらめちゃくちゃ効くかもしれない。でも、いつか効果が切れるかもしれない。


「……いや、使えねえよ、そんなの」


リスクがデカすぎる。デカすぎるが……。


「でもなあ。ワンチャンあるわけだもんな。0%が1%になったのにそれをふいにするって勿体ないしなぁ」


解決策はなんとなく見えている気がする。だって、なんか好きだなあ、の幻想をぶち壊しうるデカすぎるデメリットが堂々と構えているから僕はこの薬を信頼しきれていない。

痩せれば、解決するのだ。


「……ダイエット、やろうかな」


どうだろう。めちゃくちゃ可愛くて綺麗で僕なんかでは到底手の届かない高嶺の花に手が届くかもしれないチャンス。万全の準備をした上で、そのたった一度の機会を狙うのは、そこまで分の悪い賭けだろうか。リスクは少ない。痩せること自体がリターンだし、青海さんに告白して振られる男は文字通り星の数ほど居るんだから、その一人になったところで大したことじゃない。リターンは、あの青海さんが僕の彼女になってくれる可能性と、さっき言った通り痩せること。


「うん。天秤にかけるまでもないわ。やるか、ダイエット!」


着替えを済ませ、部屋を出て、朝食を摂りにダイニングに向かう。そこには朝食の準備をする母さんが居た。


「あら、おはよう浩介。今日は早いのね?」

「あー、うん。なんか目が覚めてさ。……ねえ、母さん。僕さ、ダイエット、しようと思うんだよね」


朝食だと言うのに、これでもかと高カロリーな僕の食卓を見る。これじゃあ、運動したとしても痩せやしないだろう。母さんに意志を伝えるのはマストだ。


「……あんた、本気?本気で言ってるのね?」

「本気だよ、本気。さすがにこの体型のままだと早死にしそうだし。今ならまだ間に合うかなって」

「そう!なら今日からもっと体にいい料理にするわね!母さん、腕によりをかけてめちゃくちゃ痩せるご飯作っちゃうんだから」


僕の母さんは、栄養士の資格を持っている。食事の管理などお手の物だろう。子供に甘すぎるせいで、僕の尽きることを知らない食欲を満たそうと食べさせすぎた結果が今の僕の体型だが。


「おはよう」

「あ、お父さん、おはよう。聞いて、浩介がダイエットしようと思うって!あなたも協力してあげてよ!」

「……何?それは本気か?そうかそうか、浩介もやっと痩せる気になったか。何を隠そう俺も高校時代はブックブクのデブだったからな。その時から痩せたトレーニングメニュー、お前にやろうじゃないか。あと、痩せた後に余る皮は俺が切除してやるからな。安心して痩せろ」


父さんは形成外科である。自分の余った皮が気になってこの職に就いたのだが、当然自分では切れない為結局人に切ってもらったという小話はよく聞かされた。


それと、父さんの薦めで今日からダイエット日記を付けることにした。習慣化の一環らしい。







3月8日

今日からダイエット日記を付ける。とりあえず、死ぬかと思った。走りもしないしろくな筋トレもしないメニューで、こんなので痩せるかよと思って勝手にメニューをハードにしたせいだろう。僕の体はまだ僕の体重を支えつつ運動するだけのパワーが無いらしい。明日からは父さんのメニューをきっちり守って運動したいと思う。


3月18日

ここ数日で体重が10キロも減った。父さん曰く、最初はめちゃくちゃ減るらしい。ここからが大事だぞ、と念押しされた。確かに、まだ見た目はデブのままだからもっと頑張ろうと思う。


3月22日

甘いものがどうしても食べたいので母に伝えると、プロテインバーを渡された。チョコ味だった。美味しかった。二週間ぶりの甘い食べ物は体に染み渡る思いだった。


4月8日

高校二年になって、クラス替えがあった。なんと青海さんと同じクラスになることが出来た。青海さんは成績も良くて、特進クラスにあたるクラスなので、好きという気持ちのみで勉強にやる気を出していて良かったと思う。


4月12日

勉強が難しい。帰ってからダイエットの運動をして予習をする流れだと、疲れもあってどうしても勉強が追いつかない。予習復習が出来ないままだと来年は青海さんと別のクラスになってしまうかもしれない。それは悲しい。何か対策を講じることにする。


4月23日

明日から朝早く起きて運動をすることになった。昨日までは朝勉強をしていたが、眠気でどうにも頭が働かないのでダイエットの方を朝に回した形になる。この日記も今後は朝付けることにする。


4月24日

とんでもないことが起きた。もう学校に行く時間なので、詳しいことは帰ってから書こうと思う。


今日の朝、いつものランニングコースを走っていると、青海さんと遭遇した。向こうも既にこちらのことは覚えていたらしく、声を掛けられてビックリしたのはまだハッキリと覚えている。走っている理由を聞かれたのでダイエットだと素直に答えた。何故ダイエットしているのかという質問には答えられなかった。あなたへの告白の成功率を上げるためだなんて言えないだろう。

その後もデブの僕に対して優しく接してくれた。ちなみに、彼女が走っている理由は体型維持のためらしい。完璧に見える青海さんも裏では努力しているんだなあ、と思った。


4月25日

今日も青海さんに出会った。多分これから毎日出会うことになるんじゃないかと思う。それと、一緒に走ることにもなった。僕としては僕みたいなデブが青海さんと走っていると通報されそうなのでやめて欲しいのだが、だからといって断れるほど僕の心は強くない。


4月30日

青海さんは走っている時すらオシャレだなあと思う。ジャージ姿ではあるのだが、様になっていると言ってもいい。それに比べて僕は贅肉まみれのブタに等しいのだが、そもそも痩せただけでは彼女と釣り合うとは思えなかった。こんなデブと、とはならなくても、こんなダサいやつと、とはなるかもしれない。今日からオシャレも学んでいこうと思う。よって、今日からこの日記は自分磨き日記とする。と言っても、まずは痩せるのが先決だ。


5月22日

今日は青海さんの誕生日だったらしい。走っている時の話題で知ったので、プレゼントのようなものがなく、ただ自販機で飲み物を奢るくらいしか出来なかった。来年もチャンスがあれば忘れないようにしたい。それと、お礼がしたいからと、僕の誕生日も聞き出された。


5月25日

体重が80キロを切った。最初が95キロだったので、かなり痩せたと思う。最初にビックリする程あっさり減った分から考えると随分ゆっくり痩せたなと思うが、こんなものなのだろう。とはいえまだ80キロだ。せめて70キロ付近までは痩せたいと思う。


6月3日

コーディネートなどを勉強していることを話した。青海さんのファッションの知識は海より深いんじゃないかと思った。1ヶ月勉強しているが、何を言っているか分からないことがある始末だった。若干コーディネートのアドバイスをして貰ったので参考にしようと思う。


6月15日

体重が増えていた。理由も分からず、焦って父さんに聞いたところ、筋肉がついたからだろうとのこと。そういえば、筋肉は脂肪より重いらしい。定期的に筋肉痛にも悩まされて居たから、そりゃ筋肉もつくよなという感じだ。このまま筋肉量が脂肪を上回ったら体重はどんどん増えていってしまうのでは無いか?と思ったが、体脂肪率の減少は間違いなく起きているから気にしないでおく。


6月16日

クラスのやつから坂本って痩せたよな、と言われた。確かに全盛期から15キロ以上減っているから、見た目でも分かるくらい痩せたろうと思う。しかし、個人的にはまだお腹がぽっこりしているのが気になる。シックスパックまでとは言わないが、贅肉が落ちるくらいまでは続けたい。ちなみに、脂肪は腹からついて行くが、落ちるのは逆順、つまり腹の脂肪が落ちるのはラストらしい。腹の脂肪が落ちたらダイエット成功と言っても良いだろう。


6月18日

誕生日である。朝のランニングの時に、青海さんの誕生日プレゼントを貰ってしまった。腕時計だ。僕の贈った物が自販機の飲み物であることを考えたら百均の腕時計でちょうど良さそうなものだが、どう見ても5桁するタイプに見える。とても嬉しいが、多少申し訳無い気持ちもした。なお、青海さんからの贈り物というだけで価値は5桁なんかでは済まないので実質超高級腕時計である。似合っているらしい。


7月3日

暑い。朝でもかなりの暑さだ。青海さんの服装も薄くなっている。それでも汗はかくわけで、とても目の毒である。指摘したらとても焦っていたし、軽く怒られてしまった。


7月25日

今日は土曜日だが、朝以外に青海さんと会うことになっている。簡単に言えば、買い物に行く。デートじゃん、と思うんだけど、僕のような童貞は勘違いしがちだがそうでは無いというパターンが多いらしい。詳細は明日の日記に記述する。


7月26日

やっぱりあれはデートだったんだと思う。ショッピングだけならまだしも、カフェで2人でひとつのパフェを食うのは恋人でしかやらないんじゃないだろうか。ただ、青海さんは成績優秀だからそうは思わないことが多かったが、割とギャルっぽい。テンション的にも見た目的にも。だからあれはギャル特有の童貞をからかうムーブだったんだと思う。下手に勘違いをするべきでは無い。そもそも縁結びの神に僕は惚れ薬を使わないと青海さんをモノにできないと言われたようなものなのだから。


7月30日

今日は終業式だ。明日以降は夏休みだが、毎日ランニングと筋トレは継続する。サボったら直ぐにあの体型に戻りそうなのもあって、この習慣はもう抜けないと思う。青海さんもランニングはやるらしいので、夏休み中も毎日会うことになる。嬉しい。


8月17日

夏休み中はあまりの暑さで外出したくないことも多い。今日も朝のランニングで既にそんな気分になっているが、今日はそういう訳にも行かない。青海さんと海に行くことになっている。この間のショッピングで水着を買っていたし買わされたので、多分あの時から計画していたんだろう。誘われたのは3日前だが、夏休み中ずっと暇なのは既に伝えてあったから。


8月18日

昨日は辛かった。確かに痩せたが、僕の腹は余った皮でぶよぶよである。見慣れていて自分ではなんとも思わなかったが、青海さんに見られるとなると途端に恥ずかしくなってしまった。太っていたことを知っている相手でも恥ずかしいんだなと思ったので、父さんにはなるべく早めに皮を切って貰いたい。

あと、青海さんの水着姿はめちゃくちゃ可愛いし綺麗で女神かと思った。


8月19日

父さん曰く、たるんだ皮膚は勝手に引き締まる可能性も残っているから、僕くらいの期間だとまだ切るには早いらしい。切ったらしばらくは快復に努める必要もあるから、少なくとも高校のうちにやるのは好ましくないとのこと。引き締まれ、僕の腹。


8月28日

青海さんがうちに来た。

今は午後の8時で、彼女が帰ったのでこの日記を書いている。ランニングコースを走り切ったあと、いつも通りにダウンを兼ねてウォーキングをしていたところ、突然浩介君の家に行ってもいいか、と言われ、そのままなし崩し的にやってきた。まさか自分の家に青海さんを招く日が来るとは思ってもみなかったし、父さんと母さんもビックリしていた。

とりあえず、この日記が見つからなくて本当に良かったと思う。この日記には青海さんには見せられないことを書きすぎている。エロ本なんかよりもずっと隠すべき存在だ。そもそもエロ本は持っていないけれど。


8月31日

今日は始業式だ。今日からまた告白されまくると、青海さんはうんざりしていた。誰か特定の相手さえ出来れば収まるんだけどな〜、と言っていたが、もしかして青海さんは誰か彼氏を作る予定があるのだろうか。特定の誰かが決まっていないのなら、そろそろ惚れ薬を使うべき時かもしれない。


9月8日

ダイエットを始めて半年が経過した。

今日をもって、この日記を書くのを終了する。




***




私は、小さな頃からずっと努力してきた。

勉強は小学生の頃から人一倍頑張っていて、高校一年の終わり頃には高校生の分野は終わらせた。

運動だって毎日欠かさずやっていて、そのおかげで体型を維持できている。

最新の流行を逃さないよう、色んな雑誌のチェックも欠かさないし、おじいちゃんの血を濃く継いだこの見た目をより綺麗に見せるための様々な努力もずっと続けている。


だから、私は腹が立っていた。


女子達からは、表面上は私に向かっていい顔をしながら、裏では男子にいい顔をしやがって、だの、実はヤリまくってるだなんてふざけた噂を流すだのという影からの嫌がらせを受ける。

男子達からは、毎日毎日無謀な告白をされる。相手は一方的にこちらを知っているかもしれないが、私は相手を知らないし、もっと言えば相手も知っているようで私のことを知らないのだ。彼らは誰一人として私の努力を知らないし、そもそもろくな付き合いも無い彼らが一体どうして私と付き合えるというのか。


別に、女子達には悪口を言うなと言いたい訳では無い。私が私以外の女子で、私を見たとしたら、きっと羨ましいと思う。だが、私が私以外の女子で、羨ましいと思ったら、自分磨きの努力をすると思う。彼女達にはもう少し努力をしてから悪口を言って欲しい。

別に、男子達には好きになるのを否定したい訳じゃない。私の今の姿は全力で努力をした結果だし、ナルシストと言われるかもしれないが、自分に自信を持っている。私がもし男で、私の姿を見たら間違いなく好きになると思う。だが、彼らは全く段階を踏んでくれない。普通なら少しずつ段階を踏んで、まずは友達から、というものだろう。


そんな風に腹が立っていたからかもしれない。私の努力を知る男子に、いつの間にか惹かれていたのは。


少なくとも、出会ったばかりの頃には彼の事などなんとも思っていなかったし、むしろ彼はかなり太っていて、自己管理の努力を怠っているとしか思えなかったので、どちらかと言えば嫌いだったとさえ言える。

とはいえ私は私以外の全員に等しく腹を立てていたから、殊更に嫌悪するようなことも無かったし、特段嫌うような反応はしていない。だからこそ女子からは誰にでもいい顔をするなどと言われているのだが。


二年に上がってすぐの頃、日課のランニングをしていると、彼に出会った。二年になってトップクラスに上がってきた人だったこととその体型が相まって、名前まで覚えていた男子、坂本浩介。彼のような体型の男子に気づくなという方が無理な話で、いつも通り、無難に話しかけたと思う。

なぜ走っているの?とか、その理由がダイエットだったから、なぜダイエットをしようと思ったの?とか、いつからやってるの?とか、なんで朝やることにしたの?とか。ごく普通の雑談だった。その過程で体型維持のために私も走っているだとかも話した。多分、嬉しかったんだと思う。

聞けば、彼はもう一ヶ月以上もダイエットを続けているらしいのだ。言われてみれば、去年偶に見た彼よりは確かにずっと痩せているように思うし、クラスが変わった直後の自己紹介と比較しても、言われてみれば痩せているように見える。まだまだ太っては居るが、それはつまり三日坊主ではないということだった。自分のしているのと同じような努力をしているのを知って、きっと同族意識みたいなものを覚えたんだろうと今では思う。


彼は、とても努力をしている人だった。

毎日予習復習は丁寧にしているらしく、入学当初から順位は40位程上げてトップクラスに入ってきたらしいし、勉強という努力にひとつの区切りがついたと同時に今度は体型という今まで努力を怠った結果をカバーしに動き出したというわけで。自身のキャパシティで出来る最大限の努力をしているのだな、と感じられた。


5月に入った頃から、彼はファッションについての勉強も始めたらしい。今まで無頓着だった髪型が意識され始めたらしく、学校に行く時にはオシャレにセットされるようになったし、偶に振っていたファッションの話題に反応できるようになっていった。


この時、私は彼のことを完全に認めたと思う。

勉強に、運動に、ファッションに。私のやっているのと同種の努力を始めて、着実に実績を出している。きっと彼は私の努力を理解してくれるはずだと思うと、彼と積極的に話すようになった。

浩介君と呼び出したのも、この頃だったはずだ。


5月22日は私の誕生日だった。教えていないのだから当然だが、おめでとうの一言も無いのがなんだか不満で、ふと、まるでプレゼントでも催促するかのように、今日は私の誕生日なんだよね、と言っていた。

彼は、そんな私の態度に気を悪くする様子もないどころか、おめでとうと言ったあとに困ったような顔をしていた。走り終わったあと、こんなものしか用意出来なくて申し訳ないけど、と、飲み物を奢ってくれた。

お返しをするからと、彼の誕生日を知った。

多分、本気で彼を好きという気持ちが芽生えたのはこの時だと思う。なんだかんだ言って、咄嗟にでもプレゼントを出してくれる気の利いた部分が私にはクリティカルヒットだったんだろうなと思う。いや、他の人にされても大したこと無かったかも。


それから、彼の誕生日に奮発して腕時計を買った。ちょっと高かったけど、彼が私の選んだ物をずっと身につけているというのが心踊った。

彼と買い物デートをしたり、夏休みには海に行ったり、家に押しかけたりもした。


夏休みが終わる頃、私はひとつだけ、彼に不満を抱いていた。なぜ彼は、明らかに私のことが好きなのに、全く告白してこないのか。彼が私を見る目は、他の男子と同じだ。私が一体何人に告白されたと思っているのか。その男子達と彼の目は同じだ。両想いだと言うのに、彼はそれに気付いていないようなのだ。きちんと段取りを踏んでここまで来たんだから、尻込みせずに潔く言ってくれたらいいのに。


夏休みが終わって二学期が始まると、私は憂鬱な日々を過ごしていた。明確に好きな人が居るのに、それ以外の男からだけ告白される。その中に彼が居ればそれでいいのに、絶対に居ない。毎朝二人で過ごして、でも学校では他の男子に邪魔されて彼と話せやしない。女子の一部は彼を狙い出していた。痩せた彼はなかなかイケメンだし、しっかり筋肉が付いて男らしいとも言える。その上ファッションのことも勉強しているおかげで、制服というフォーマルな格好でも十分にオシャレだ。女子人気が出てもおかしくない。それが私の不満のひとつでもあった。


限界は直ぐに訪れた。

朝のランニングを終えて、彼が渡してくれた飲み物を飲んでいた時。どうしても抑えきれなかった想いが、ポロリと漏れた。


「好き」

「……え?」

「好きなの。私、浩介君のことが好きです。他の男の子に告白される度に、なんで浩介君じゃないんだろうって思ってた。浩介君の目はどう見ても私のことが好きなのに、なんで言ってくれないんだろうって思ってた。もう我慢できないから、私から言う。浩介君、好き。大好き。付き合って欲しいです」

「……ごめん」

「え?」

「あっ、いや、違う違う!えっと、ありがとう。嬉しいです。僕なんかで良ければ喜んで。謝ったのは、本当は僕の方から言うべきだったのに、ひよっててごめんってことで。ていうか、バレてたんだね……」

「っ、バレバレだよぉ、分っかりやすいもん!浩介君。なんなら初めて会った時から分かってた!でも、私が浩介君を見る目って多分浩介君が私を見る目と一緒だったんだよ?」


ああ、良かった。私の初恋は失恋に終わらなかった。大丈夫だよ、浩介君。私はずっと君のことが好きだから。努力をする君が大好きだから。君も私を、ずっと好きでいて欲しいな。




***




僕は驚いていた。ダイエットを始めてちょうど半年のその日、そろそろ彼女に惚れ薬を使おうと思って、まずは下見というか、彼女に飲んでもらうタイミングを探ろうとしていた。

最近は運動後に彼女に飲み物を奢るのが一般的になっていたので、普通にこれを使えばいいな、と思いながら、いつも通り蓋を開けて彼女に渡し、隣に座ると、彼女がポツリと呟いた。


「好き」

「……え?」


咄嗟に聞き返していた。聞こえなかった訳では無い。信じられなかったのだ。だって、彼女は惚れ薬を使わなければ、僕の事など歯牙にもかけていないと思っていたから。

しかし、それが彼女の何かを刺激したらしく、彼女は想いを吐き出すように続ける。


「好きなの。私、浩介君のことが好きです。他の男の子に告白される度に、なんで浩介君じゃないんだろうって思ってた。浩介君の目はどう見ても私のことが好きなのに、なんで言ってくれないんだろうって思ってた。もう我慢できないから、私から言う。浩介君、好き。大好き。付き合って欲しいです」


僕は気づいていなかった。彼女が僕の想いに気づいていることにも、彼女が僕をこんなにも想っていてくれた事にも。口をついて出てきたのは、謝罪だった。


「……ごめん」

「え?」


今度、聞き返されるのは僕になった。そりゃあそうだ。このタイミングでの「ごめん」なんて、振るのと同じだろう。そういう気持ちで言ったのではないから、焦って続ける。


「あっ、いや、違う違う!えっと、ありがとう。嬉しいです。僕なんかで良ければ喜んで。謝ったのは、本当は僕の方から言うべきだったのに、ひよっててごめんってことで。ていうか、バレてたんだね……」

「っ、バレバレだよぉ、分っかりやすいもん!浩介君。なんなら初めて会った時から分かってた!でも、私が浩介君を見る目って多分浩介君が私を見る目と一緒だったんだよ?」


最初から好きだった僕が言うべきだったことを言わせてしまった僕は不甲斐ない男だと思う。

でも、彼女はこんな僕のことを本当に好きになってくれたのだ。


そういえば、縁結びの神は言っていた。人は見た目が99%だと。僕の見た目は半年前と違ってずっと見ていられるものだ。そして、彼女は僕がどれだけ努力しているかを知っている。僕の内面をよく知っている。僕も彼女のことをよく知っている。彼女が昔から僕が今しているような努力を続けてきたことを知っている。恐らくそれは、見た目では補完できない残りの1%だ。

お互いを知り、お互いを想う心。それだけは、きっと見た目では補完出来ない本当に大切な部分だったんだろうと、そう思う。


あの薬は、家に帰ると無くなっていた。




***




『甘酸っぱい恋愛ですねぇ。いやあ、いい物を見せてもらいました』

『ちなみに、これを読んでいる皆さんには本当のことを言うんですけどね。あの薬って、効果はとっても絶大なんですよ。対象のことを心の底から愛し、生涯その心が変わることはありません。劇薬なんですよ』

『でも、彼があの薬を使わない未来を知っているから私は彼に薬を渡しました。彼にとってはあの薬はきっかけにすぎません。そうなるように仕向けた部分もありますけどね』

『青海琴音を好きな他の男も試したんですよ?皆、最後は青海琴音のことを自分の都合のいいように扱っていましたけどね。金蔓みたいにする者もいれば、酷いものでは性奴隷のような扱いをした者もいました。あ、試したと言ってもシミュレーションですけどね』

『その中で、唯一彼女に惚れ薬を使わなかったのが坂本浩介でした。自分への強いコンプレックスが薬の効果を信じきらせなかった。人間って、面白いですよね』

『ちなみに、私が干渉しなかった場合、坂本浩介は太りすぎて寿命を縮め、早死にします。生涯独身です。青海琴音は芸能界のスカウトを受け、読モとやらから始まって、最後にはトップアイドルにまで上り詰めますが、最後まで自分の努力を真に理解してくれる人と出会えず、独身のまま生涯を終えます。所謂バッドエンドですよね』

『この後、二人はとても幸せな人生を送ります。嬉しいことに、坂本浩介は私のことを信奉してくれました。神としてはこれが一番の糧ですね』

『さてさて、次に結ぶべき縁はなんでしょう。またそのうち、お伝え出来るかもしれませんね』

お読み頂きありがとうございます。

惚れ薬、というワードから思いつくままに書き殴ってみました。


7/3追記

ふとプロパティ見たらめっちゃ評価頂いてて、日刊ランキング載ってました。

初短編だし作品的には2つ目なので嬉しい限りです、というか奇跡かと思うくらい。

誠にありがとうございます。


7/5追記

感想に頂いた意見を考慮し、贈り物をメガネから腕時計に変更。


7/6追記

なんかジャンル別日刊1位頂いたので、記念して(?)書く前に決めた数少ない設定を纏めて活動報告にアップしました。基本的にその設定に沿って発言・行動をさせたつもりなので、特に表現しきれなかったと思う神様の行動理由とかその辺り、気になったら見てやってください……!

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