File228 惑星ドルブレンドンの衛星ロッセルへの貨客輸送④ いくつになっても青春はくる
大企業の意外な実態があらわになった昼食が終わった後は、実に穏やかな時間が流れていた。
ウェーデンさんは大型端末(ノートPC)で作業を、ルマルナ嬢は寝室で同じようになにか作業をしているようだった。
そんなおり、ウェーデンさんに通信があった。
ウェーデンさんは汎用端末を取り上げ、相手と会話をかわすと、
「はいもしもし。……あ、はい。貨客船もチャーター出来て、順調にそっちに向かってます……え? 挨拶? うーん取り敢えず聞いてみます」
急に困った表情になりながら、こちらに話しかけてきた。
「すみません。うちの会長が、なんか船長さんに挨拶がしたいって言ってきまして……」
そしてその話の内容は、あまりにも意外すぎるものだった。
「え? 会長ってエイッジミートの会長さんですよね? なんでですか?」
「うちの会長、変にフレンドリーなとこがありましてね。今回みたいに臨時で我が社の荷物運んでくれた人とかに挨拶したりするんはしょっちゅうなんです。挨拶したら満足するはずなんで、お願いできませんか?」
依頼主からの斜め上からの意外な要請に、どうしてくれようかと思ったが、断る理由もないので挨拶を受けることにした。
『初めまして。私エイッジミート株式会社の会長をしております、ダニエル・ウェーデンと申します』
電話を船の通信に切り替えると、画面に現れたのは、ウェーデンさんと同じビステルト人・エバリー(イノシシ)種の人で、当然だがウェーデンさんよりかなり歳上で、細目でヒゲを生やした人物が丁寧に挨拶をしてきた。
「初めまして。貨物輸送業者で、この船の船長のショウン・ライアットともうします。こっちは相棒でバイオロイドのアディルです」
こちらも負けずに丁寧に挨拶を返した。
しかしそれからがすごかった。
『今回うちの依頼を受けていただきありがとうございます。いつもの業者にトラブルがあって困っていたところだったんですよ。ちなみに今そちらでお世話になっているのは私の孫でしてね。しかし、孫といえど入社試験はきっちりと受けさせ、他の入社希望者よりも厳しくしましたよ。会社や仕事の事での甘えも絶対に許していません。会社、仕事関連では社員と会長を徹底しております。1回食品メーカーのイベントの準備に駆り出した時に――あ、じいちゃん――って言ってきたんで怒鳴りつけてやりましたよ。いやしかし、女性2人で荒くれ者が多い貨物輸送業者をやっていくのは大変でしょう?』
一気呵成というか立て板に水というか、怒涛の勢いでまくし立ててきた。
それにどうやら今の俺の性別を女だと思っているらしい。
もとから中性的な顔だから間違えても仕方ないし、それを指摘しようとしても、その勢いに圧倒されて説明出来ないでいたところ、
「会長! 船長のライアットさんは男性ですよ!」
と、孫の方のウェーデンさんが、ウェーデン会長の間違いを指摘して、流れを止めてくれた。
俺が男性だと指摘されると、ウェーデン会長は驚き、
『なんと……それは大変失礼いたしました』
直ぐ様頭を下げて謝罪をしてくれた。
「いえ、気にしないで下さい。半分は当たっていますから」
俺は、ウェーデンさんもウェーデン会長もどちらも間違いではないことを証明するため、身分証を提示し、女の姿に変身した。
その事実に2人ともが驚いた。
「船長さんシュメール人やったんですね!」
「隠してるつもりはなかったんですが……」
ウェーデンさんには、本来乗り込んできた時に教えるべきだったのだが、色々あって話すのを忘れていた。
そしてウェーデン会長は、
『男性でいたのは自衛のためという事ですか。いやしかしお美しいですなあ。シュメール人は美人が多いとは聞きますが、貴女はよりお美しい。ぜひともゆっくりお話がしたいですなぁ♪』
と、ニコニコしながら俺に話しかけてくる。
それは間違いなく、俺をナンパしていることに間違いがなかった。
「会長。少しはお歳を考えてく下さい。年齢的には私よりちょっと年下な人をナンパしないで下さいよ」
ウェーデンさんがやんわりと注意をしてくれたが、
『何を言ってんだよ。美しい人にときめくのはごく自然なことなんだぞ。それに、青春って奴はいくつになっても枯れないものなんだ。今この瞬間の出会いを大事にしないとな。それで船長さん、ライアットさんとおっしゃいましたね。どうでしょう、ロッセルに到着したら、一緒にお食事などいかがですか? 私は今ロッセルに滞在していますので』
「いや……あの……」
効いた様子はなかった。
一応は依頼主の立場になるウェーデン会長に対して、『ふざけるなクソジジイ!』と怒鳴りつけるわけにもいかないので、どうしようかと思っていると、
「祖父ちゃん。今すぐやめへんのやったら、今すぐ祖母ちゃんにいいつけるからな」
ウェーデンさんが大型端末(ノートPC)に手を伸ばし、電話をかける準備を完了させ、ものすごく蔑んだ表情でウェーデン会長を見つめていた。
『やめなさいトーマス。男の仁義でそれだけはやめなさい。家庭内に最終戦争を起こそうとするんじゃない』
その言葉を聞いたウェーデン会長は、かなり慌てた様子で電話をやめてくれと懇願した。
「ええ歳して孫ぐらいの年齢差がある人をナンパすんなや! 恥ずかしい! おまけに浮気やないか!」
どうやら、会長と社員の関係では止められないと判断したらしく、祖父と孫という関係でウェーデン会長からのナンパを防いでくれた。
その後、ウェーデン会長からは謝罪を受けたので、取り敢えず不問にしたが、今度こんな事があったら、躊躇いなく会長の奥様に連絡する。と、ウェーデンさんから脅しを受けていました。
そのあと、ルマルナ嬢に女の姿を披露したあと、夕食作りをはじめた。
その日の夕食は、御飯に里芋の味噌汁に鶏の唐揚げ。そして唐揚げのディップソースとして、塩コショウ・マヨネーズ・ケチャップ・甘酢餡。タルタルソースなどを用意したところ、2人とも甘酢とタルタルソースが気に入ったようだった。
視点変換 ◇フミカ・ルマルナ◇
私、フミカ・ルマルナは、ナターシャ・ジルバンというペンネームをもつミステリー作家です。
あんまり有名ではありませんが、何冊かは本を出させてもらっています。
今回私は衛星ロッセルに取材旅行にいく予定でした。
ところが、いざ出発という時にトラブルが起こりました。
衛星ロッセル行きの定期便の個室を3日も前に予約していたのに、当日にいったら予約出来てないっていわれて途方にくれてしまいました。
確かに予約しましたし、予約券もあります。
なのに予約はされてないっていわれました。
じゃあ次の便はって聞いたら、後の便の個室は全て埋まってるっていわれてさらにパニックです。
その時の受付の人の顔は、完全にこちらを馬鹿にしたような、見下した表情をしていました。
今日のうちに出発しないと、予約したホテルにも迷惑がかかってしまいます。
なので私が必死にお願いすると、受付の人はうざったそうに、
『どうしてもというなら貨物船にでも乗せて貰えばよろしいのでは?』と、吐き捨てるように言ってきました。
私は藁にも縋る思いで貨物船の受付、銀河貨物輸送業者組合の貨物配達受付にやってきました。
そこで、個室のある貨物船をチャーター出来ないかと尋ねたところ、『お任せ下さいっ』て言ってどこかに行ってしまいました。
そして暫くして戻ってくると、乗せてくれる船が捕まったとの事でした。
出発時間が迫っているとのことなので、いつもはしない全力疾走をして現場へ向かいました。
ちょっとした騒動になるとは夢にも思わずに。
視点終了
遅くなって失礼しました
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