新生「新春浅草歌舞伎」メンバー7名が、新たな道を切り拓く!中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松、憧れと緊張と期待と……公演に懸ける思いを明かす

「新春浅草歌舞伎」は、“若手歌舞伎俳優の登竜門”として知られる初春興行。若手俳優たちが、ずっと憧れていた役や思いがけない大役に挑戦でき、歌舞伎ファンにとっても新鮮な顔合わせや、俳優たちの成長を見守ることができる、貴重な場だ。2025年は、中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松と、フレッシュなメンバーが古典の大作に挑む。

ステージナタリーでは、11月に行われた「新春浅草歌舞伎」の記者会見後、7名の集合写真を撮影。撮影では、年下メンバーを気遣う“兄”らしい橋之助を中心に、落ち着いた雰囲気の鷹之資、茶目っ気たっぷりな莟玉、はにかんだ笑顔が眩しい玉太郎、メンバーの発言にニコニコしてしまう染五郎、最年少でメンバーから構われまくる左近、そして最年長でムードメーカーの鶴松と、それぞれの個性が見られた。そんな7名に「新春浅草歌舞伎」への熱い思いや、“お正月に欠かせないもの”や共演者へのメッセージを寄せてもらった。

構成 / 櫻井美穂撮影 / 平岩享

「新春浅草歌舞伎」2025ミニ解説
「新春浅草歌舞伎」チラシ

「新春浅草歌舞伎」チラシ

「新春浅草歌舞伎」の公演は、11:00スタートの第1部と、15:00スタートの第2部の二部制。それぞれ上演演目が異なることにご注意を。いずれの部でも上演されるのは、義太夫狂言「『絵本太功記』尼ヶ崎閑居の場」。本作が初演された江戸時代は、センセーショナルな事件が起こればすぐ舞台化され、話題を呼んでいたが、実在の人物の名前をそのまま使うことはご法度だったため、本作でも登場人物の名前をよく見ると……“武智光秀”は“明智光秀”、“真柴久吉”は“羽柴秀吉(のちの豊臣秀吉)”、そして劇中で殺された人物として話題にのみ挙がる“小田春永”は“織田信長”。「尼ヶ崎閑居の場」は、本能寺の変を起こしたあとの明智光秀が主人公であることがわかってくる。

第1部と第2部で配役がガラリと変わるのも、本公演の楽しみの1つ。第1部では、春永だけではなく、宿敵・久吉をも討ち取らんとする光秀を市川染五郎、光秀の息子である十次郎を中村鷹之資、十次郎の許嫁・初菊を中村玉太郎、光秀の母・皐月を中村歌女之丞、久吉の家臣・佐藤正清を尾上左近、光秀の妻・操を中村鶴松、そして久吉を中村莟玉、第2部では光秀を中村橋之助、十次郎を鶴松、初菊を左近、皐月を歌女之丞、正清を鷹之資、操を莟玉、久吉を染五郎が勤める。俳優によって異なる表現方法にも注目しよう。

「絵本太功記」の前後で楽しめるのは、華やかな舞踊。第1部では、「絵本太功記」の上演後に、「仮名手本忠臣蔵」より「道行旅路の花婿」、通称「落人」が披露される。これは、「仮名手本忠臣蔵」六段目で悲劇の主人公となる早野勘平と、その恋人・腰元おかるの道行を描いたもので、おかるを莟玉、鷺坂伴内を玉太郎、早野勘平を橋之助が演じる。

一方、第2部は、「絵本太功記」のほか、正月に上演されることでお馴染みの“曽我物”に、静御前の物語が加わった、新春らしい華やかな舞踊「春調娘七種」、そして酒好きの次郎冠者と太郎冠者の姿をユーモラスに描いた「棒しばり」が並ぶ。「春調娘七種」では曽我五郎に左近、静御前に鶴松、曽我十郎に玉太郎が扮し、「棒しばり」では次郎冠者を鷹之資、太郎冠者を染五郎、曽根松兵衛を橋之助が勤める。

正月の芝居始めに、ぜひ浅草公会堂に繰り出そう。

7名が語る「新春浅草歌舞伎」2025

「新春浅草歌舞伎」の新たなメンバーとなった7人。それぞれどんな思いで舞台に臨むのか? その意気込みを聞いた。

左から中村莟玉、中村橋之助、中村鷹之資。

左から中村莟玉、中村橋之助、中村鷹之資。

中村橋之助

道を切り拓くのは自信と勇気!

──これまでの「新春浅草歌舞伎」で、ご自身もやりたいと思った憧れの演目があれば教えてください。

(中村)勘九郎の兄の「土蜘」です。僕が中学生くらいの時だったと思います。毎年必ず新春は観に行ってそのまま楽屋に遊びに行くまでがセットでした!
毎年観ていたけれどその中でも、特に記憶に残っているのが勘九郎の兄の「土蜘」。カッコよくて僕も絶対やりたい!!と思ったのを昨日のように覚えてます!
もう1つは、僕の記憶にはありませんが、父(中村芝翫)の「御所五郎蔵」です。12月に生まれた僕を、1月の公会堂の舞台で五郎蔵に扮した父が抱っこしてる写真が残っています!

──今回勤められる「絵本太功記」より「尼ヶ崎閑居の場」の武智光秀、「落人」の早野勘平、「棒しばり」より曽根松兵衛のお役の印象と、それぞれのお役に挑むにあたっての気持ちを教えてください。

光秀と勘平は立役の芯としてとても大切なお役で、必ず通っていきたい、いかなくてはならないお役です!
まったく異なる色や存在感が必要になる芯のお役2つ。それぞれのお役に必要なものをしっかり見つけて表現していきたいと思っています!
「棒しばり」は、これまで次郎冠者と太郎冠者を演じているので、これで出てくる3つのお役コンプリートになります!
これはもう楽しく、でもお行儀良く勤めたいと思っています!

──今回上演される「絵本太功記」は、時代物の名作です。歌舞伎初心者に向けて、その魅力を教えていただけますか。

いまも昔も変わらない“家族の絆”がとても大事になる作品です!
そこに皆さんをいかに共感させられるかが、僕たち役者の肝になってくると僕は思ってます!
古典作品で華やかと言うわけでもないし、決して観やすい作品ではないと思いますが!
何事もそうですが、難しい作品って視点を変えれば深い作品って事だと僕は思ってて! その深さの楽しみ方を知ってもらえたら、皆さんの中での歌舞伎の面白さは何倍何百倍にもなると思います!
その深さに気づいて、歌舞伎大好きな僕が言うので絶対です!
気づいてもらえるように僕たちもいろんな方向で努力します!
作品をご紹介する動画やお年玉ご挨拶でも新たな試みを考えていますので
ぜひ見ていただければと思います!

──記者会見で話されていた「7人全員が座頭」という言葉への思いや、新春浅草歌舞伎を先輩たちから引き継ぐ立場としての思いを教えてください。

責任を感じるって絶対僕は大事なことだと思っていて!
その思いを感じながら、みんなにも走り抜けてほしいなという思いから「7人全員が座頭」と言う意識が生まれました!
引き継ぐことは、やっぱりとても怖いです。
お客様がガラガラだったらどうしよう。芝居のレベルが保てるのだろうか。とか。
出せばキリがないくらい不安はありますが!
道を切り拓くのは自信と勇気!
託して渡してもらった自信と、自分ができる最大の稽古をして役に向き合った自信を持って、7人全員で勇気を持って切り開いていきたいと思ってます!

──橋之助さんにとって、お正月に欠かせないモノ・コトを1つ教えてください。

お年玉です。もう既にもらえなくなってますが、そろそろあげなきゃいけなくなるのかな(笑)。

中村鷹之資へのメッセージ

好きな食べ物は?

後列左から中村鶴松、市川染五郎、中村玉太郎、尾上左近、前列左から中村莟玉、中村橋之助、中村鷹之資。

後列左から中村鶴松、市川染五郎、中村玉太郎、尾上左近、前列左から中村莟玉、中村橋之助、中村鷹之資。

中村鷹之資

若手の奮闘を劇場で体感して!

──これまでの「新春浅草歌舞伎」へのイメージを教えてください。

若いエネルギーと熱気あふれる公演だなと思っておりました。前の世代のお兄さん方をはじめ、先輩たちがつないできた思いを受け継ぎつつ、それぞれの浅草世代を作っている。そして何より、古典作品を先輩から教わって勉強することができる。私も出たい出たいと思っておりましたので、今回参加がかないうれしい気持ちでいっぱいです。とにかく今は古典作品、特に義太夫狂言を勉強したいと思っておりましたので、「絵本太功記」は精一杯勉強したいと思っています。

──今回勤められる「絵本太功記」より「尼ヶ崎閑居の場」の武智十次郎と佐藤正清、そして「棒しばり」次郎冠者のお役の印象と、それぞれのお役に挑むにあたっての気持ちを教えてください。

「絵本太功記」はいろいろなお役の基礎が詰まった作品だと思います。十次郎は、戦さに向かう気持ちと初菊への思いに揺れ動く葛藤、それから手負いになってからの父上への語りが見どころです。昨年の新作歌舞伎「刀剣乱舞」で松永久直を演じた際、一番参考にしており、いつか本当に十次郎をやりたいと思っておりました。正清も同じですが、義太夫狂言らしいお芝居になるよう勤めたいです。
「棒しばり」は打ち出しに相応しく、晴れやかな気持ちで劇場を後にしていただけるよう、染五郎さんと共に勤めたいと思います。

──今回上演される「絵本太功記」は、時代物の名作です。歌舞伎初心者に向けて、その魅力を教えていただけますか。

とにかく歌舞伎らしい魅力の詰まった演目です! プログラムやイヤホンガイドであらすじの解説もあり、気軽にも楽しんでいただけますので、ぜひ若手の奮闘を劇場で体感してください‼︎

──鷹之資さんにとって、お正月に欠かせないモノ・コトを1つ教えてください。

お雑煮。僕はちなみに、関西の白味噌のお雑煮が大好きです。

中村莟玉へのメッセージ

浅草の先輩でもある莟玉さん、よろしくお願いいたします‼︎

後列左から中村鶴松、市川染五郎、中村玉太郎、尾上左近、前列左から中村莟玉、中村橋之助、中村鷹之資。

後列左から中村鶴松、市川染五郎、中村玉太郎、尾上左近、前列左から中村莟玉、中村橋之助、中村鷹之資。

中村莟玉

「絵本太功記」で古典歌舞伎デビューを!

──これまでの「新春浅草歌舞伎」のイメージや、記憶に残っている演目があれば教えてください。

ここまで“若手の登竜門”ということがお客様側にも俳優側にも浸透している公演はほかにはないと思います。今回上演する「絵本太功記」は、2020年の新春浅草歌舞伎でも上演されています。私はその年は別の劇場に出演していたのですが、どうしても拝見したくて休演日にうかがいました。

──今回勤められる「絵本太功記」より「尼ヶ崎閑居の場」の真柴久吉と操、「落人」での腰元おかるのお役の印象と、それぞれのお役に挑むにあたっての気持ちを教えてください。

どのお役もまさかこの年齢で勤めさせていただくことになるとは思いもしなかったお役です。「絵本太功記」の久吉は養父の(中村)梅玉に、操はおじの(中村)魁春に習います。 「落人」のおかるは勘平のことが大好きな女性です。大らかで歌舞伎らしい一幕にできるように橋之助さんと力を合わせて頑張ります。

──今回上演される「絵本太功記」は、時代物の名作です。歌舞伎初心者に向けて、その魅力を教えていただけますか。

骨太のお父さんと若くて二枚目の息子、悠然とした大将と荒々しい家来。白髪のお婆さんと妙齢のお母さんとかわいい娘。歌舞伎らしいキャラクターがすべてこの一幕に出てきます。この演目を観ておけば「古典歌舞伎デビューをした」と胸を張って宣言できます!

──莟玉さんにとって、お正月に欠かせないモノ・コトを1つ教えてください。

お屠蘇をいただかないとお正月を迎えた感じがしません!

中村玉太郎へのメッセージ

玉太郎さん、ようこそ新春浅草歌舞伎へ! きっと待ちに待ったメンバー入りだと思います! 今までとは違う緊張を味わうことが多いひと月かもしれません。仲間がいれば強くなれる! みんなで同じ方向を向いて良い公演にしましょう!