「無伴奏ソナタ」は演劇集団キャラメルボックスの代表作の1つ。オースン・スコット・カードのSF短編小説をもとに、2012年に初演された。同舞台を初めてミュージカル化する今回は、ストレートプレイ版を手がけたキャラメルボックスの
すべての人間の職業が幼児期のテストで決定される時代。2歳で音楽の天才として見出されたクリスチャン・ハロルドセンは、新しい音楽を生み出す“メイカー”の役目を与えられ、既成の音楽を聴くことも、他人と接することも禁じられ、森の中で暮らしていた。しかしクリスチャンが30歳になったある日、「これを聴けば、今の君に欠けているものがわかる」と見知らぬ男からレコーダーを渡され、バッハの音楽を聞いてしまう。法を犯したことでメイカーの肩書きを剥奪され、音楽に触れることも禁じられたクリスチャンは、一般社会で暮らすことになるが……。
幕が上がり、平間演じるクリスチャンが、ピアノに似た形の楽器で明るいメロディを奏で始めると、そのままキャスト全員によるオープニングナンバー「幸福法」がスタート。「すべての国民が”幸せ”になるために作られた法律」というフレーズが笑顔で繰り返されるこの楽曲は、“人がそれぞれの得意な能力を生かせる職に就くことで幸せになれる”という考えが浸透したディストピア世界へ、観客を一気に引き込んだ。
物語前半では、クリスチャンが孤高の天才として、作曲に没頭する様子が描かれる。彼が音楽を奪われた後半では、音楽を愛し、音楽に愛されたクリスチャンにとってつらい日々が続くが、素朴な市井の人々との関わりの中で、彼の音楽はある方法で思いがけない広がりを見せる。
平間は前半、クリスチャンを純粋無垢な人物として演じ、どこか浮世離れした天才のイメージを印象付ける。その後、音楽を奪われたクリスチャンが寡黙な人物に様変わりすると、平間は彼が心に秘めた葛藤や音楽への情熱を繊細に表現し、1人の人間としてクリスチャンを立ち上げた。キャラメルボックスのストレートプレイ版でクリスチャン役を務めてきた多田は、このたびクリスチャンを監視し続ける“ウォッチャー”役で出演。無機質な表情の中に、冷酷さと哀しさをにじませた。
ドライバー役とギレルモ役を演じる大東は、”がさつさ”のある声や仕草を取り入れてドライバー役を演じる一方、陽気なギター弾き・ギレルモ役を朗らかに好演。ウェイトレス・リンダ役をチャーミングさたっぷりに演じる熊谷と、レストラン店主・ジョー役を一癖ある人物に仕立てた藤岡は、コミカルな掛け合いとパワフルな歌唱で会場を沸かせる。霧矢は、ハウスキーパーのオリビア役を、クリスチャンを見守る心強い味方として温かく演じた。
取材会には平間、多田、大東、熊谷、藤岡、霧矢が登壇した。平間は「挑戦し続けた稽古期間でした。今まで務めてきた役では、自分なりに"お客様に何を届けたいか"というテーマを持ちながら演じてきました。ただ今回は、クリスチャンを通じてどんな思いを伝えられるか、想像できていません。彼の人生をただ生き切ることに集中してがんばります」と思いを述べる。ストレートプレイ版に出演してきた多田は「ストレートプレイ版をご覧になっている方が観ると、最初面食らってしまうかもしれない。それくらいガラッと変わっているのではないかな。お客様がどういう反応をしてくださるのか、僕自身も楽しみにしています」と期待を込めた。
大東は「稽古期間でたくさんのキャスト・スタッフの皆さんに支えていただいたので、これからはどれだけお客さんを楽しませられるかをワクワクしながら考えています」とあいさつし、稽古でのエピソードとして「休憩時間に平間さんに相談しても嫌な顔一つせず教えてくれました」「僕は今作でギターに初挑戦しますが、(もともとギターを弾く)藤岡さんがギターを実演してくださって、幸せな時間でした」と喜びを語る。熊谷は、劇中で英語の歌を披露することについて「父の転勤の都合で海外に住んでいたこともあって、日本語の歌より英語の歌のほうが得意なんです。舞台上で英語で歌うのはドキドキしますが、身体になじんでいるのでのびのびと歌えて楽しいです」と笑顔を見せた。
藤岡は「キャラメルボックスの作品が、ミュージカルとして生まれ変わることがうれしい」と改めて述べ、「(本作が)成功したら、来年あたりキャラメルボックスに入ろうかな。よろしくお願いします!」と申し出る。これを受け、多田は「困りますよ。こんな大型新人が入ってきたら(笑)」と愛あるツッコミを返し、会場を和ませた。
2017年に上演された「スキップ」にて成井作品への出演経験がある霧矢は、「成井さんの好きな部分は稽古中にキャストやスタッフから良いアイデアが出ると、『ああ! そうなんだ!』と大きな声でおっしゃるところ(笑)。今回は初のミュージカル化ということで、毎日のようにさまざまな意見が飛び交う現場でしたが、その中で、成井さんが一番楽しそうに生き生きしているのが印象的でした」と振り返った。
上演時間は約2時間25分。東京公演は8月4日まで。その後、本作は10・11日に大阪・森ノ宮ピロティホールで上演される。
無伴奏ソナタ -The Musical-
2024年7月26日(金)~2024年8月4日(日) ※公演終了
東京都 サンシャイン劇場
2024年8月10日(土)・11日(日・祝) ※公演終了
大阪府 森ノ宮ピロティホール
スタッフ
原案:オースン・スコット・カード
翻訳:金子司
脚本・演出・作詞:
音楽:杉本雄治
出演
クリスチャン(メイカー):
ウォッチャー(監視人):
ギレルモ(ギター弾きの作業員)ほか:
リンダ(ウェイトレス)ほか:
ジョー(レストラン店主)ほか:
ブライアン(作業員班長)ほか:
カレン(クリスチャンの母)ほか:
リチャード(クリスチャンの父)ほか:
ギルバート(検査官)ほか:西野誠
ジャニス(検査官)ほか:
オリビア(ハウスキーパー)ほか:
Toru @jesuisetudient
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#無伴奏ソナタ 初日行って来た。 音楽の話しなんだからミュージカルになってもやはり面白い。 多田さんのウォッチャー、見事でした。 勿論推しの樹里さんも!