今年4月21日にデビュー40周年という大きな節目を迎えたTM NETWORK。彼らの功績を祝うトリビュートアルバム「TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-」がリリースされた。
アルバムは多種多様なアーティストたちによるカバー音源を収録したDISC 1と、その各楽曲のオリジナル音源を収録したDISC 2の2枚組仕様。カバーとオリジナルを聴き比べながらじっくりと楽しめる構成となっている。
参加アーティストとして名を連ねているのはCAPSULE、GRe4N BOYZ、くるり、坂本美雨、澤野弘之 feat. SennaRin、西川貴教、乃木坂46、B'z、ヒャダイン with DJ KOO、松任谷由実 with SKYE、満島ひかりという多彩な11組。1994年の“プロジェクト終了”時には生まれていなかったアーティストも含まれるなど、世代もジャンルも異なる顔ぶれがそろった。それは取りも直さず、TM NETWORKが40年にわたり日本の音楽シーンに多大な影響を与え続けている証拠でもある。では、TM NETWORKはどのような歴史を歩んできたのか。彼らの足跡を紹介するコラムと、トリビュートアルバムの全曲解説を通して掘り下げる。
文 / もりひでゆき
パイオニアであり続ける“電気じかけの予言者”TM NETWORK
「金色の夢を見せてあげる」
このキャッチコピーとともに1984年4月21日にデビューしたTM NETWORK。そこからの40年にわたる軌跡は、まさに誰も体験したことのない、先見性にあふれた金色に輝く夢のような出来事だらけだった。ライブではなくミュージックビデオに主軸を置く戦略を打ち立てたデビュー初期。3人はタイムマシンで未来からやってきた“電気じかけの予言者”であり、未来からの警鐘として音楽を届けているというSF的なコンセプトを掲げた。自らの音楽性を“FANKS(FUNK+PUNK+FANS)”と命名し、同時にそれをファンの呼称に。そしてあらゆる洋楽的エッセンスを咀嚼したうえで、シンセサイザーやコンピュータを駆使して生み出される楽曲の数々が大きな衝撃を持ってシーンに鳴り響くこととなった。技術的な問題などによりメンバーたちのビジョンが思うように実現しなかったこともあっただろう。しかし、今はさまざまなアーティストが当たり前に行っている同期演奏など、80年代の日本の音楽シーンでTMの行ってきた活動はすべてが斬新であり、多くの人が彼らの一挙手一投足に目を向けるようになった。「次はどんなものを見せてくれるのだろう?」と。
「Self Control」「Get Wild」のヒットで大きくブレイクしたあと、彼らの新たなる試みはますます加速していくことになる。1987年に開催された初の東京・日本武道館ライブ「FANKS CRY-MAX」では、のちのライブにも受け継がれていく謎のバトンが突如登場。シアトリカルなコンセプトアルバム「CAROL ~A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991~」リリース時にはミュージカル仕立てのツアーを敢行し、同時に小説やアニメなどとのメディアミックスも仕掛けた。さらに、海外のプロデューサー陣により既存楽曲に新たな衣装(サウンド)をまとわせる“リプロダクト”という手法を提示したアルバム「DRESS」のリリース。勢いに乗る1990年には活動名義をTMNに変更し、当時まだ一般的ではなかった“リニューアル”という言葉を用いたことが大きな話題となった。プロジェクト名義の変更後は、それまでのデジタルサウンドを軸とした楽曲から一転、ハードロック路線を打ち出して多くのFANKSの度肝を抜いた。そしてデビュー10周年を迎えた1994年4月21日にTMNの終了を宣言。同年5月の東京・東京ドーム2DAYSでその活動に幕を閉じた。
40年のキャリアのうち、最初の10年でこの濃密度である。常に新たな話題を提供してくれるTMに僕らFANKSは心地よく振り回されていった。とは言え、話題性だけでTMに惹かれていたわけではもちろんない。常に革新的なアイデアと、それに紐付いた極上の楽曲を生み出し続けるTMのブレーンとも言える小室哲哉。そこに存在するだけで空間を掌握するカリスマ的な存在感を放つ比類なきボーカリスト、宇都宮隆。ギターはもちろん、ピアノやハーモニカなどもプレイし、小説家や声優、俳優としての顔も持ち、ライブではワイヤーを使っての空中演奏を披露したこともある多才なサングラスヒーロー、木根尚登。3人が作り上げる奇跡のトライアングルが発するまばゆいほどの光に僕らは手を伸ばし続けてきたのだ。
1997年にTM NETWORKとしての再結成が宣言されたのち、99年にリリースされた「GET WILD DECADE RUN」から3人と僕らの歴史が改めて動き出した。最初の10年には及ばないが、彼らはリリースやライブをコンスタントに重ね、過去にちりばめてきたさまざまな伏線をしっかりと回収。同時に新たな謎を提示した。初登場から37年経った今もなお、謎のバトンは謎のままライブの重要な要素として存在している。すべての活動が1本の太い線でつながり、大きな物語を描き出しているからこそ、TMからは一瞬たりとも目が離せないのだ。この沼からは一生抜けられそうにない。
デビュー40周年を記念して届けられた「TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION」には11組のアーティストが参加し、TMの名曲たちを独自の解釈でカバー / リミックスしている。キャリアも音楽性も異なるバラエティに富んだ顔ぶれが並んでいるところにこそ、TMの偉大な功績が鮮明に現れているように思う。そこにはTMが作り続けてきた楽曲からの直接的な影響を感じさせる人もいれば、まったく異なる音楽を鳴らしている人もいる。だが間違いないのは、すべての参加アーティストのルーツにはいろんな形でTMの存在がしっかりと強く刻み込まれているということだ。それはきっとTM NETWORKが40年にもわたり、音楽に対して真摯にDEVOTION(=献身)しながら活動し続けてきた偉大なる結果だろう。新規のリスナーもぜひ本作をきっかけに、TMの世界へと踏み込んでみてほしい。そこには40年分のめくるめく“HUGE DATE”を抱えた3人があの言葉とともに待ち受けているはずだ。
「金色の夢を見せてあげる」