感傷ベクトル名義で音楽活動をする田口囁一が2011年より自身のWebサイト上で公開していたマンガ「シアロア」。当時公開された全10話にはそれぞれ田口によるテーマソングが書き下ろされ、マンガと音楽をシンクロさせて楽しむことができるアートフォームが大きな話題を呼んだ。そんな「シアロア」が、昨年12月7日にLINEマンガの無料連載にて新たに配信をスタート。既発エピソードに加えて新作も随時追加、3月からは全編新作による隔週連載も予定されている。
約6年の時を経て再び動き始めた、謎の音楽ユニット“シアロア”を巡るこの群像物語の魅力をより多くの人に知ってもらうため、音楽ナタリーでは「シアロア」読者であるヒトリエのゆーまおとシノダの2人にインタビューを実施した。田口囁一とは旧知の音楽仲間であるゆーまおと、自らもマンガ連載を持つシノダは「シアロア」のどんなところに惹かれているのか? じっくりと語り合ってもらった。
取材・文 / もりひでゆき インタビュー撮影 / 佐藤類
「マンガ1話に対して1曲」はハンパない才能
──今回はマンガ「シアロア」の読者であり、作者の田口囁一さんと同じミュージシャンであるお二人に集まっていただきました。ゆーまおさんはもともと、田口さんとは音楽のフィールドでつながりがあったそうですね。
ゆーまお(Dr) そうですね。囁一くんとは感傷ベクトルの活動初期に出会っていて。ライブのサポートを何度かやったこともありましたし、nitkaというバンドを一緒にやっていたこともあるんです。出会った頃はまだ「シアロア」の連載前でしたけど、彼がマンガを描いていることは知ってましたね。で、2011年に「シアロア」が始まってからはいちファンとして、マンガ作品も追っかけてきたっていう。
──一方のシノダさんは、田口さんと同様にミュージシャンとしての活動のかたわら、マンガ家としても活動されているんですよね。
シノダ(G,Cho) 「ミーティア」というサイトで月1の連載をしてます(参照:シノダ アーカイブ | ミーティア(MEETIA))。「シアロア」に関しては、「音楽やりながらマンガを描いてる人がいるんだな」っていう認識で、連載当時に読んでいた記憶があります。今回読み返してみたんですけど、そのクオリティの高さに改めて驚きました。メジャーアーティストとしての活動と並行してこれを描いて、しかも1話ごとに曲まで作っていたなんて信じられないですよ。僕も音楽と並行してマンガを描いてますけど、月に5、6ページなので圧倒的に仕事量が違いますから。
ゆーまお 彼はね、音楽に関してはすごく仕事が速いんですよ。曲を量産できるタイプ。だからこそ、「シアロア」というプロジェクトができたんだと思う。それにしたってぶっ飛んではいるけどね。マンガ1話に対して1曲のテーマソングを作るなんて(笑)。
シノダ 普通じゃないでしょ(笑)。同じようなことをやろうと考えた人はきっと今までにもいたとは思うんですよ。でも実際やるとなると簡単なことではないですからね。ハンパない才能だと思います。
ゆーまお で、しかもそれをまたここから新たに始めようとしてるわけだから。すごいとしか言いようがないよね(笑)。
「シアロア」の登場人物はすべて田口囁一自身
──「シアロア」という作品に関してはどのような印象を持っていますか?
シノダ 音楽についての知識が豊富な人だと、リアリティのない描写をすることに対してためらう人も多いと思うんですよ。でも田口さんの場合はそういう部分を踏み越えて、絵や演出でエンタテインメントに昇華させるパワーがあると思うんですよね。例えば「ストロボライツ」の音楽準備室でのシーン。(登場人物の高校生の)渡瀬くんが縦置きにしたJC(ROLANDのギターアンプJCシリーズ)に腰かけてるんですけど、「なんで高校の音楽準備室にJCがあるんだよ!」っていう突っ込みとか、縦置きにすると音が変わるから「渡瀬くんはけっこう通なんだな」とか、音楽を知ってる人ほどそういう感想を持ちがちなんですよね(笑)。でも、作品としては「そんな細かいことはどうでもいいんだよ」って感覚にさせて、ストーリーにしっかり読者を引き込んでいくっていう。そういう面白さがまずあるなって僕は思いましたね。
──リアルな描写でも、そうでなかったとしても、ディテールでページをめくる手を無意味に止めさせることはないと。それはつまり軸となるストーリーがしっかりしてるからなんでしょうね。
ゆーまお あー、その感覚はすごくわかるわ。確かにその通りだと思う。僕の印象としては、透明度が高くて、白いキャンバスに細い線がすーっと通っているような繊細さがあり、同時に儚さや危うさも秘めた作品だなって思うんですよ。で、それはそのまま田口囁一という人物そのものにリンクしているような感覚もあって。
──作者の人物像がそのまま投影された作品でもあると。
ゆーまお そこまで彼のナイーブな部分を知っているわけではないですけど、僕はそう感じますね。彼自身は否定するかもしれないけど、「シアロア」の登場人物はすべて彼自身だとも思うんです。男性も女性も、すべてのキャラが彼自身なんじゃないのかなって。僕は囁一くんを実際に知っているからそう感じる部分は大きいと思うんだけど、でもどんな人が読んだとしても作者の人物像が作品に投影されていることは感じ取れるはず。それこそが「シアロア」の魅力の1つだと思うんですよね。
──基本は1話完結スタイルですが、全体として大きな流れを持っているストーリーに関してはいかがですか?
シノダ 単純にこれからどうなっていくのかが気になりますよね。LINEマンガで先日公開された新作エピソード(「リユニオン」)は本編から数年後の未来が描かれてましたけど、そこに今までの物語がどうつながっていくのかっていう。あと、既発エピソードの中では唯一“シアロア”が絡んでこない「深海と空の駅」の謎とかね。そこに意味があるのかないのか、果たしてどっちなんだろうっていう。たぶん1話ごとにいろんなギミックや伏線が散りばめられてるとも思うから、それがどう今後の物語の中で膨らんでいくのかが楽しみでしょうがないですよね。
ゆーまお 以前公開された「シアロア」までじゃ、まだまだ風呂敷は広げ切ってないはずですからね。ここからが本格的なスタートとも言えるんで、まだ読んだことない人は今のうちに追い付いておくべきだと思いますよ。
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楽曲のすべてにおいてグッと来ないポイントがない
- 田口囁一「シアロア」
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田口囁一を中心としたロックバンド、感傷ベクトルが2011年よりWebサイトにて連載した1話完結型の音楽マンガ。正体不明の覆面バンド“シアロア”と、彼らの楽曲に影響を受けるさまざまな人々の物語が交錯して描かれた。連載時には各話をイメージしたオリジナル曲も同時公開され、ネットユーザーを中心に大きな話題を呼ぶ。2012年8月には全エピソードを収録した単行本と、イメージソング10曲にボイスドラマを加えたアルバム「シアロア」を同時発売。2017年12月からは新規描き下ろしエピソード「リユニオン」と共に、LINEマンガにて再連載がスタートした。2018年3月からは全編新作による隔週連載も予定されている。
- ヒトリエ
- wowaka(Vo, G)、シノダ(G, Cho)、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)の4人からなるバンド。ボカロPとして高い評価を集めていたwowakaがネットシーンで交流のあったイガラシ、ゆーまおに声をかけ、前身「ひとりアトリエ」を結成。2012年にシノダが加入し、ヒトリエとして活動をスタートさせた。同年12月には「ルームシック・ガールズエスケープ」、2013年4月には「non-fiction four e.p.」と立て続けに自主制作盤を発表し、同年4月に初のワンマンライブを行った。同年11月に開催したワンマンライブ「hitori-escape:11.4 -非日常渋谷篇-」にて、ソニー・ミュージックグループ傘下に自主レーベル「非日常レコーズ」を立ち上げることを宣言。2014年1月にメジャーデビューシングル「センスレス・ワンダー」を発表した。4月には東名阪3都市を回るワンマンツアー「マネキン・イン・ザ・パーク」を行う。11月に1stフルアルバム「WONDER and WONDER」をリリース。2016年1月リリースのシングル「ワンミーツハー」はテレビアニメ「ディバインゲート」のオープニングテーマに起用された。2017年12月、wowakaが約6年振りのボーカロイド楽曲として発表した「アンノウン・マザーグース feat. 初音ミク」ヒトリエver.のセルフカバーを含む新作ミニアルバム「ai/SOlate」をリリース。2018年1月28日より全国ツアー「ヒトリエ UNKNOWN-TOUR 2018 "Loveless"」を開催する。
- ヒトリエ「ai/SOlate」
- 2017年12月6日発売 / Sony Music Associated Records
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初回限定盤 [CD2枚組]
3024円 / AICL-3451~2 -
通常盤 [CD]
1944円 / AICL-3453
- CD収録曲
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- 絶対的
- アンノウン・マザーグース
- Namid[A]me
- Loveless
- ソシアルクロック
- NAI.
- 初回限定盤付属ライブCD収録内容
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ヒトリエ 全国ワンマンツアー2017 "IKI"ファイナル 2017.5.7 at STUDIO COAST
- 心呼吸
- ワンミーツハー
- インパーフェクション
- Daydreamer(s)
- イヴステッパー
- るらるら
- doppel
- 極夜灯
- さいはて
- KOTONOHA
- ハグレノカラー
- 5カウントハロー
- 踊るマネキン、唄う阿呆
- シャッタードール
- リトルクライベイビー
- 目眩
ライブ情報
- ヒトリエ主催ツーマン公演「nexUs」vol.4
2018年1月17日(水)東京都 マイナビBLITZ赤坂
出演者ヒトリエ / UNISON SQUARE GARDEN- ヒトリエ UNKNOWN-TOUR 2018 "Loveless"
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- 2018年1月28日(日)京都府 磔磔
- 2018年2月3日(土)福岡県 DRUM Be-1
- 2018年2月4日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2018年2月18日(日)広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2018年2月24日(土)北海道 DUCE
- 2018年3月3日(土)宮城県 HooK SENDAI
- 2018年3月10日(土)兵庫県 神戸VARIT.
- 2018年3月11日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2018年3月18日(日)新潟県 CLUB RIVERST
- 2018年3月25日(日)東京都 EX THEATER ROPPONGI
2018年1月18日更新