佐野史郎 meets SKYE with 松任谷正隆 The members of SKYE are 鈴木茂, 小原礼, 林立夫|レジェンドたちが立ち返ったミュージシャンとしての原点

“言わずもがな”で音が伝わる世代感

──8月11日に行われた横浜のMOTION BLUEでのライブでは、会場限定で7inchシングル「禁断の果実 / 美しい街」が先行リリースされたそうですね。このシングルはモノラルミックスですが、ここもこだわられたポイントですか?

鈴木茂(G)

佐野 レコーディングのときもThe AnimalsやThe Shadowsなんて名前が出てきてた中で、7inchシングルならやっぱりモノラルだっていうイメージが重なったんじゃないかな。意図的にそうしようと最初から思ってたわけじゃなく、マスタリングしてるときに「シングルにするならモノラルだな」と思ったんです。もう1つの理由は、聴いてもらえば瞭然なんですが「禁断の果実」には大瀧詠一さんへの思いがあるからです。大瀧さんとは生前には年に一度はお会いしていましたし、そのときにもモノラルがいかにすごいかを熱く語っていらしたことを思い出したり、その影響もあるかもしれないですね。ちなみに、あの曲の茂さんのギターは、グレン・キャンベルの「Wichita Lineman」の太いリードのイメージでした。グレン・キャンベルも亡くなられてしまいましたね。レッキング・クルーのギタリストだったことも近年知ったことでしたが。

鈴木 あの映画(「レッキング・クルー ~伝説のミュージシャンたち~」)よかったよね。

佐野 よかったですよね。ああいう音で僕も育ってるので。そこも、やっぱり言わずもがな、だったかな。

鈴木 世代的にバックグラウンドが近いし、聴いてた音楽に共通する部分も多いんで、あんまり説明がいらなかった。聴いてすぐアイデアが浮かぶような曲だったから面白かったですね。

SKYEでやってることは自分たちの原点

──実は今回のアルバムでの佐野さんの曲というのは、その「言わずもがな」なオマージュで音楽ファンの耳をくすぐるものが多いですよね。

佐野 音楽に限らずですけど、亡くなった人の作った作品や、昔から脈々と続いてきたことから受け取ったものにお返しをしたいんですよ。自分がそれで救われてきたから。具体的に言うと、大瀧さん、遠藤賢司さん、加藤和彦さん、そうした方たちと今回の皆さんは一緒にいらっしゃった。だから、皆さんがずっとやってきた音を出すことで、そこにいた人たちが浮かび上がってくる。だからこそ、そこで聴こえてくるのは懐かしいあの頃じゃなくて、あくまでも今なんです。

松任谷 まあ、僕はまだ佐野さんは気を遣ってるんだろうなという気はする。まだ「誰かにオマージュを捧げる」とか言ってるけど、なんかそうじゃないものがきっと根っこにはあるんだろうなという気はします。

佐野 もっと自分の好きなことすりゃあいいじゃんとも言われるんですけど、「このメンバーだからこのアルバムになった」というのはありましたね。俳優をやってても「この人とやるとこうなっちゃう」みたいなことはあるんです。でも、今回は自分の中でも本当にいいターニングポイントになったし、やるべきことがはっきりしました。歌詞の面でも、音と拮抗する言葉を残さなくちゃいけない。そういうことに向き合ういい機会になりました。

松任谷 逆に僕らはプロデューサーやアレンジャーがいる音楽に若干飽きてたから、このバンドでのレコーディングがすごく新鮮だったんだろうなと思います。

佐野 え? それってどういうことですか?

松任谷 きっちり誰か船頭が決まってて、こういうふうに演奏するというのが決まってる音楽ではなく、もっと混沌としたものの中から何ができるかわからないような音楽。自分たちが音楽を始めた最初の頃にやってたようなことが新鮮だった。

 よくわかるよ、それ。

小原 ずっと昔からそうやってきたからね。

 今SKYEでやってることは、自分たちの原点にあったものだよね。

松任谷 だから楽しかったんじゃない?

 そういう場が今あまりないから、僕らは楽しくできたんだよ。

小原 今は自宅で1人で音楽が作れる時代だし、みんなで「せーの」でやることはほとんどないからね。昔の人たちは一緒にどうしようか考えてヘッドアレンジするのに慣れてるから。だから今回もすぐにできちゃったんだよね。

松任谷正隆、SKYE正式加入決定

──今後も佐野さんとSKYEのコラボレーションは続くんでしょうか?

佐野 まず今はっきりしてることは、松任谷さんが今回のアルバムを機会にSKYEに加入されたということですね。

──え? それは正式に、ということですか?

松任谷 たぶん(笑)。

小原 同級生バンドだからね。

──松任谷さんがバンドのメンバーになるというのは、それこそキャラメル・ママ~ティン・パン・アレー以来じゃないですか?

佐野 それは間違いないと思います。

松任谷正隆(Key)

松任谷 ただ、やっぱりこの年齢になってやるから気楽にできる面はある。昔はここに人生を賭けなきゃいけない、みたいな気持ちがあったからね。

 今はドンキー・カルテットを目指してますから(笑)。

──実は今日の取材を待っている間、(メンバーが待機していた)奥のスタジオからドラムの音が聴こえてきてて、「楽しそうだな」と思ったんですよね。

佐野 たまらんですよね(笑)。あれ、「ロックンロール・マーチ」のイントロでしたよね?

 いや、「ダンス・ハ・スンダ」(サディスティック・ミカ・バンドのカバー)の間奏に今度使ってみようと思ってね。

佐野 いいですね、それ!

──いいですね。こういうちょっとしたやりとりもバンドらしくて。

佐野 というか、同級生っぽいですよね(笑)。

松任谷 SKYEではどっちの方向に行っても許される音楽がやりたいですよね。

佐野 その言葉、いいですね。自由であることって一番大切ですものね。

──SKYEというバンド名が空(SKY)をもじったものなら、どこにでも行けるはずですもんね。

小原 天井ないですから。

松任谷 面白いことができればラッキーだし、この歳になってそんなに気負わなくてもいいじゃん。

 「レジェンド」とか言われるけど、自分たちでは全然レジェンドだなんて思ってない。

小原 学生の続きをやってるようなもんだからね。

佐野 僕は本当に刺激を受けてます。ありがたいことですよ。でも、一緒にやれてすごく感謝してると同時に「なんだこりゃ!」と自分の状況を笑ってしまってもいます。人生を振り返ると、僕って全部「巻き込まれ型」なんですよ(笑)。昔、ドラマがヒットしたときもそうだし、自分で望んだというより、そういうふうになっちゃうんです。

 それはそれですごい星の下に生まれてるよね。

佐野 夢が叶ってうれしいというより、「本当かよ?」ってまだ疑ってますけどね(笑)。

※記事初出時に一部商品情報に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。また衣装クレジットを追記しました。


2019年9月26日更新