緑黄色社会|すべてを脱ぎ捨てた“素”のリョクシャカが歌う夢と秘密

緑黄色社会がニューシングル「LITMUS」をリリースした。

本作には、テレビ朝日系木曜ドラマ「緊急取調室」の主題歌として使用されている表題曲のほか、映画「都会のトム&ソーヤ」の主題歌「アーユーレディー」、爽快感あふれるポップチューン「これからのこと、それからのこと」が収録されている。音楽ナタリーは、「LITMUS」のリリースを受けてリョクシャカにインタビューを実施。本作へ込められた思いを通して、夢や労働にまつわる4人の人生観が語られた。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 森好弘

「ああ、人生だなあ」と思う瞬間

──ナタリーでのインタビューは2月のシングル「結証」リリース時以来となりますが、あれ以降もリョクシャカは「たとえたとえ」「ずっとずっとずっと」と配信シングルを立て続けに発表していて、そして今回は3曲入りシングル「LITMUS」をリリースと、今年に入ってから新曲ラッシュです。曲作りはスランプもなく、順調ですか?

長屋晴子(Vo, G) そこは各々で違うかもしれないね。

小林壱誓(G, Cho) そうだね。僕と真吾は去年、東京に引っ越してきてから一緒に住んでいるんですけど、今年の7月は「時間のあるときは2人で一緒に曲を作ろう」と決めていたんですけど、そのときは楽しく曲作りできていましたね。

穴見真吾(B, Cho) 2人でいたら、わりと曲はできるよね。

──長屋さんはどうですか?

長屋晴子(Vo, G)

長屋 うーん……。私は詞先、もしくは歌詞とメロディが一緒に出てくるパターンが多いので、曲作りをするとなったら「私、何が言いたいんだろう」と考える時間がすごく多くて。タイアップのお話をいただくと作品がヒントになることが多いんですけど、基本的には「何を書こうかな」と悩んでいる時間が多いんですよね。自分の中でいっぱいいっぱいになって、あふれ出す瞬間に生まれるものが、自分としては世に出したい曲になるのかなと思うんですけど。逆に「書こう書こう」と思うと、私はなかなかいい曲ができなくて。それで悩むことが多いです。

──なるほど。感情でも、誰かへの思いでも、何かがあふれる瞬間の在りようは、年齢を重ねることで変質していくものでもありますもんね。

長屋 そうですね。例えば学生時代って、世間知らずだからこそ強気でいられたりすると思うんです。周りを知らないからこそフワフワできるというか。でも、経験や知識が増えることで、自分で自分を制限することも増えてきたと思うんですよね。思っていることを外に出すのがどんどん怖くなってきて、例えばTwitterの下書きがどんどん溜まっていく、みたいな。

──はい。

長屋 私は、20代も折り返しに入って、普段の生活で「ああ、人生だなあ」と思う瞬間がたくさんあって。例えば、周りの人たちが就職した先で立場を確立していったり、結婚して子供が産まれたり。私自身も、こういう活動をしていく中でいろんな壁にぶち当たってきたし、新しく友達ができたりもして。そういうのって、言ってしまえば普通のことなんですけどね。そういう“普通のこと”が増えてきた。それにつれて、すごく“生きている”っていう感じがするというか。

小林 「大人になったなあ」って思う瞬間は、僕もいっぱいありますけどね。人を大切にするようになったり。

長屋 「大人になった」とは違うんだよ。「人生だなあ」っていう感じ。例えば、マンガで1人の人間の人生を描くときに起こりそうなことが自分にも起こってきた、みたいな。それをいいと思えたり、悪いと思ったり、幸せだと思えたり、つらいと思ったり。もっと単純な喜怒哀楽みたいなことでもいいんだけど。そういう1つひとつを噛み締めるようになったなって。ずっとフワフワしていたけれど、やっと世の中に仲間入りしている、私も生活をし始めたなっていう感覚。ようやく人間になってきた感じがする。

小林 なるほどね。

長屋 結果として、私は今、絶望していると思う。でもそれは必ずしも悪い意味ではなくて、そうやって心が少しずつでも動いている感覚が、私が感じている「生きてるなあ」という感覚なんだと思う。

見つけられるようになった小さな幸せ

──ここまでの話、peppeさんはどう思います?

peppe(Key, Cho) 話を聞きながら考えていたんですけど、私は今年「この人に出会えたんだから、もうこれ以上の人間関係はいらないや」っていうくらいの人に出会えて。

小林 今、男の話してる?(笑)

peppe ノー(笑)。友達の話。でも、そういう人に出会えたこともあって、心境的にも不安定だった2020年と比べてみても、今はすごく心が安定しているんですよね。部屋で好きな音楽を流しながら、好きな本を並べているスペースを眺めて「ああ、幸せだなあ」って思う、みたいな。そういう小さな幸せを見つけられるようになったなあって、最近思っていたところでした。「私もこんなふうに思えるようになったか」って。重心が安定してきたっていう感じなのかな。

──穴見さんはどうですか。

穴見真吾(B, Cho)

穴見 長屋が言うような「人生だなあ」みたいな感覚は、一切ないですね。まだ23歳なので(笑)。

長屋 2、3歳の差で壁を作らないでよ(笑)。

小林 端から見たら、俺なんかよりも真吾のほうが、いろいろありそうだけどね。最近だったら、亀田(誠治)さんと出会ったり。

穴見 そうだね。最近、東京事変様と「ミュージックステーション」で共演させていただいて。僕は、日本で一番憧れているバンドが東京事変だし、さらにベーシストとしても、音楽に対する関わり方という面でも、一番憧れているのが亀田さんで。そういう人に直接会えたっていうのは大きかった。

小林 「直接会えたということは、次のタスキを僕が下に渡していく番だと思います」って、真吾は亀田さんに言っていて。

穴見 あの夜、家に帰って、気付いたら涙出てましたね……。壱誓には見られてたけど(笑)。

テーマは“秘密”

──ドラマ「緊急取調室」の主題歌でもある新曲「LITMUS」は、作曲は小林さんと穴見さん、作詞には小林さんがクレジットされていますが、どのようにして生まれた曲だったんですか?

小林壱誓(G, Cho)

小林 まず、ドラマサイドのリクエストとして「被疑者の目線で書いてほしい」というのがあって。僕は被疑者になったことがないけど、「一般の人間として共通する部分ってなんだろう」と考えたら、人に話せない秘密や恥ずかしいことがあるっていうことなのかなと思って。そこから、自分が直近で抱えてきた秘密を題材にして書きました。僕はどちらかというと鈍感な人間だと思うんですけど、そんな自分でも、人の秘密みたいなことに対してずっと考えていた時期があって。なので、自分にとってはすごくリアリティのある曲なんです。それをドラマの世界観を通して表現したっていう感じですね。

──小林さんご自身のリアリティの部分は、この歌詞を歌う長屋さんとは共有するものですか?

小林 自分の経験から書いたものではあるんですけど、そういう部分は長屋には伝えていないんです。長屋の歌にしてほしいから。

長屋 私は曲を聴いたときに、絶妙なところを突いてきた曲だなと思って。ブラックな印象を受けがちだと思うんですけど、実際のところはもっと「どっちつかず」な感じ……グレーゾーンっていうか。すごく人間らしい部分が歌われているなと思ったんです。なので、自分で歌うときは、行き切らないようにしよう、全部を出し切らないようにしようって意識しました。歌詞的にも「おのれ」っていうフレーズがあったりして、つい息んで歌ってしまいそうになるけど、そうすると押し付けがましい感じになると思うんですよね。なので、冷静に歌うことを心がけました。