MIYAVIは変わりゆく世界で何を歌うのか 「Imaginary」で放つ未来へのメッセージ

MIYAVIが9月15日にニューアルバム「Imaginary」をリリースした。

コロナ禍への突入とほぼ時を同じくしてリリースされた前作「Holy Nights」から1年4カ月。いまだ先の見えない時世の中で発表された「Imaginary」は、MIYAVIが掲げるアーティストとしての使命感とプライドとメッセージが存分に詰まった1枚となった。楽曲制作では多くのヒット曲を手がけるジェフ・ミヤハラとタッグを組み、フィーチャリングアーティストとしてキンブラ、カン・ダニエル、トロイ・アイロンも参加。アートワークとミュージックビデオはPERIMETRONが担当し、MIYAVIならではのバラエティ感はより一層の斬新さと自由度を獲得している。変容する世界に向けて放つ「Imaginary」の真意とは? MIYAVIに話を聞いた。

取材・文 / 内田正樹撮影 / NORBERTO RUBEN

止まらないMIYAVI

──今年の9月14日に40歳を迎えます(※インタビューは8月中旬に実施)。感慨のような気持ちはありますか?

もちろん。40という数字よりも、歳を重ねれば重ねるほど、自分の体との付き合い方が変わってきました。昔、イチローさんも言っていたけど、例えばフィジカルのアビリティは細胞レベルで言えばどうしても劣化してしまう。僕も運動神経や反射神経はいいほうだと思うけど、ケガの治りも遅くなってきました(笑)。でも、それに対してこれまで培ってきた経験や知識でバランスを取りながら成長し続ける。今の自分はそうした学びに人生の喜びを感じています。それを死ぬまで繰り返し見出すことさえできれば体が衰えても心は衰えない。日々、その繰り返しですね。

──音楽ナタリーで前作「Holy Nights」のインタビュー(参照 :MIYAVI「Holy Nights」インタビュー)を行ったのが去年の3月、ちょうどパンデミックが深刻化し始めた頃でした。MIYAVIさんはそこから家族でバラエティ番組に出演したり、バーチャルプロジェクト「Virtual LIVE」をシリーズ化させたり、ECC語学・教育推進アンバサダーに就任してYouTubeプログラム「SAMURAI ENGLISH」を始めたりと多忙に駆け抜けてきましたね。

「止まっちゃいけない」ということしか頭になかった。2020年はここで止まるとダメになっちゃうというか、取り戻せないものがたくさんあるような気がして。もちろん不安だらけでしたし。まだワクチンのワの字も出てない段階だったし、ライブなんてやれる状況じゃなかった。でも、だからこそ「Virtual LIVE」のようにどんな形でも音を鳴らして、進み続けようと決めた。ファミリーでのメディア露出も同じ。与えられた環境の中で何ができるのか。手探りしながらも自分の役割を改めて考えさせられたし、とにかく何か行動に移したかった。

──そんな中で「Imaginary」の制作はいつ頃から?

実は2020年にオリンピックが開催されていたら、その直後に出す予定だったんです。以前から蓄えていた曲もあったし。でもオリンピックが延期になって、一度冷凍保存して。コロナ禍で急激にシフトし反転していく世界の中で、自分は何を叫ぶべきなのか。そこをより意識したアルバムにしようと制作を巻き直して、ほとんどの歌詞も今年に入ってから書きました。ボーカルも3月あたりから一気に録って。やっぱり時代とどれだけ共鳴できるかにこだわりたい。なので、結果すべてがフィニッシュしたのは6月くらいでした。

──今、何を叫び、時代とどう共鳴するか。その答えが、まずはアルバムタイトルでもある「Imaginary」というワードに込められているように感じられました。

そう。ずっと続けている難民支援にも共通するんですが、人災、天災に限らず緊急ステージにおいてまず大事なのは医療、水、食料。で、次に大事なのが教育や文化。僕たち人間は人としての尊厳を教育や文化から学び、得る。未来が見えないことって、本当に怖い。未来を想像、イメージして指し示すことができる力ってやっぱり特別じゃないですか。それが音楽の存在意義だと思うし、もちろん映画もアニメもマンガもそうだと思う。音楽家として音のイマジネーションで未来を指し示す。それが自分の役割であり、生きる原動力だと改めて実感したし、逆に言えばそこにしか自分の存在意義ってないなと思いました。

MIYAVI

──そうしたコンセプトのせいか、「Imaginary」は過去作と比べてよりアルバム1枚トータルでひとつのメッセージを指し示すような構造ですね。

でも今、アーティストはみんな同じなんじゃない? 生きるか死ぬかの状況でどれだけ生に対して肯定していけるか、それしかないよ。コロナに関しても変異株の出現でまだまだわからないことだらけだし、それだけじゃなく現にアフガニスタンでは政権が不安定になって、ハイチでは地震、中国では大雨など気候変動もヤバければ持続化社会に向けた課題もたくさん抱えている。今この瞬間も世界は変わり続けている。そんな状況下で「何を歌うのか?」と考えて抜いた答えがこのアルバム。自分なりの「上を向いて歩こう」なんです。

ジェフ・ミヤハラ、PERIMETRONの共通点

──今回のコライトにはジェフ・ミヤハラさんががっつり噛んでいます。

彼と出会ったのは去年。もともとはボーカルディレクションだけだったんだけど、向こうからもグイグイと入ってきてくれたから、結果サウンドディレクションにも深く関わってくれています。熱いパッションの持ち主ですよ。ロサンゼルスに戻れず歌録りも日本でやるしかないなら、東京にいても世界の匂いとfar east(極東)としての匂いを自分と近い感覚で嗅ぎ取っている人とやりたかった。全体のサウンドプロダクションの根本的な骨格形成はいつものレニー(レニー・スコルニク)と進めて、ボーカルアプローチやサウンドの方向性の部分では、かなりジェフの意見が入っています。

──具体的に言うと?

彼はJ-POPのフィールドで活躍しているけど、そのアプローチの仕方自体は日本の内輪だけで盛り上がるようなJ-POPではなく、「日本が世界に向けてポップスを作ったら、それがイコールJ-POPでした」という感覚。今のMIYAVIにないもののひとつとしてのポップセンスをもたらしてくれたと思う。ボーカルトラックの重ね方、音の作り方、サウンド全体の方向性、ビジョンなど、ジェフもレニーも僕も全員がそれぞれ新しい境地にたどり着けたアルバムだと思います。

──MIYAVIさんにとって特に新たな収穫となった点は?

一番は歌の録り方かな。彼のディレクションは、アニメのキャラクターとか映画のワンシーンとか、インスピレーションのもとをより具体的に共有し合うので、もちろんMIYAVIとして歌っているんだけど、より物語の役を演じるように歌ったのが新鮮でした。あとは音のダイナミクス。ロックってそこをグシャッとさせることでないがしろにしがちなんだけど、彼は音の1つひとつをツルツルに磨いて飾るような感じ。その点ではヒップホップと通じる部分もあるかも。そういうソフィスティケートされたポップスの作り方は非常に勉強になりました。今後のMIYAVIサウンドにも強く影響していくと思います。

──ジャケット、アー写のビジュアル、MVにPERIMETRONを起用した理由は?

ビジュアルに関しても、ロサンゼルスに飛べない状況で、じゃあ東京で世界のマーケットを見ている連中と日本でしかできないことをやりたかった。King Gnuの常田(大希)くんとの会話の中で、かつての東京におけるYMOやロンドンのTomatoじゃないけど、独自の美意識と集団の熱量で時代を作っていくような匂いに惹かれました。ソロの僕にはない、いい意味で学生のサークルみたいな、そこに強いつながりと信頼がある。彼らから見たら俺ってたぶん松岡修造さんみたいなキャラだと思うんだけど。

──松岡修造(笑)。

正直、彼らの進行はかなりマイペースだったけど(笑)、クリエイションに関しての意思疎通はシンプルで一切の無駄がなかったし、そこに妥協もなかった。それでいて酒飲みながら語り合うようなクリエイターの温かみもあるし、本当にボーダレスな感覚の持ち主たちですね。彼らが感じる抜けのよさも僕のそれとは違ったりするし、僕自身にとってもまた新たな発見や学びもたくさんありました。また機会あればぜひご一緒したいですね。

教科書に載るような時代に見つめるべきこと

──本作は1曲目「New Gravity」と2曲目「Imaginary(feat. Kimbra)」で「何を歌うか?」というアルバムのテーマがしっかりと提示されていますね。同時にこの2曲で描かれている価値観の背景には「Virtual LIVE」で得た経験も大きく作用したのでは?と感じられましたが。

そうですね。ぶっちゃけアタマの2曲でアルバム終了(笑)。それくらいテーマが集約されました。残りはみんなに自由に浮遊してもらうための曲というか。「New Gravity」がアルバムタイトルでもいいかな?とも思ったんだけど、言葉の飛び込んでくるキャッチーさも含めて「Imaginary」に決めました。それくらいこの2曲がこのアルバムのコアな部分を占めています。

──この2曲のリリックで見られる「縛られない」「無重力の向こう側へ」「僕だけの物語」「もう迷わない」「新世界」といったワードはどんな思いから?

今、世界の様相はよくも悪くもどんどんと書き換えられている。そこにはある程度の必然性も伴っているのかもしれないけど、「2048年には普通に魚が獲れなくなるかもしれない」とか「あと60年もしたら農業で何も収穫できなくなるかもしれない」みたいな話を聞いたり資料を目にしたりすると、やっぱ単純に焦るし何かしなきゃって思うよね。60年って長いようだけど、けっこうすぐじゃない? 持続可能な社会構築においてキーとなる価値観は非物質化していくことだと僕は思っていて。マテリアルにこだわりすぎていた現代社会の人間が“持たないこと”への価値を見出す時代によりなっていく。それはファッション業界を見ても明らかだし、GUCCIのアレッサンドロ・ミケーレを見てもわかる通り、おそらくはそうした流れが今後のスタンダードになるし、ならなきゃいけない。既存のサイクルから脱却しないと明らかに枯渇する。つまり、今、僕らが置かれているのは“反転せざるを得ない状態”。地面が天井になるような変化だからもちろん混乱や戸惑いはあるけど、未来を見据えたときには確実にそのほうが有益だし、そこにより自分たちらしくあれる方法論も必ず見出だせるはず。

──コロナ禍で叫ばれた“ニューノーマル”という言葉もそこにつながりますね。

僕も10月からアメリカツアー(「MIYAVI North America Tour 2021 "Imaginary"」)をやりますけど、やっぱりアメリカのフェスを配信で観ても、自分の中で前とは明らかに感じ方が違う。この虚無感と違和感はすごくデカいし、忘れちゃいけないと思っています。以前のような満員電車レベルの距離感でやるライブなんて、もう今のところちょっと感覚的にあり得ないじゃないですか。

──そうですね。もはや遠い昔のような。

そう(笑)。それでもやっぱり人と人との触れ合いは大切だし、無くしたくない。やっぱり文化として残っていってほしい。ライブのやり方についてはまだまだ試行錯誤があるでしょうね。ただ、時代が変わっていく以上、そこにどう適応していくべきなのかは考えなければならない。自由って「勝手なことをやっていい」ということではない。そこを履き違えちゃいけないし、それこそ「儲かればいいじゃん」という資本主義のツケが回ってきたのが、今の世界だとも思う。急にSDGsが叫ばれ始め、成功という価値観も変わってきている。Black Lives Matter(黒人に対する暴力や人種差別の撤廃を訴える抗議運動)や米議会襲撃事件が象徴的だったように、アメリカ国内でも価値観の分断であり自由の定義の反転を僕らは目撃している。感染症拡大含め、それこそ確実に将来教科書に載るような時代の中で、今、僕たちが何を見て、何を残せるのか? そこにまっすぐ向き合うことが未来の示唆へとつながるはずだという思いがありました。

──そこは7曲目「Youth Of the Nation(feat. Troi Irons)」でも描いていますね。

これは作った当時アメリカで学生運動が勢いづいて、日本でもSEALDsの若い世代による政治的活動のムーブメントがスポットを浴びて、のちにスウェーデンのグレタさんが注目され始めました。「星条旗よ永遠なれ」のギターソロは、僕が2019年にドジャー・スタジアムで弾いたときの映像を観たジェフの勧めで、急遽この曲の間奏に入れました。