ヒプノシスマイクの舞台「『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage」初の音楽アルバム「Turn up the Stage」が4月27日にリリースされた。
本作には、「ヒプステ」シリーズの「-track.1-」から「-track.5-」までの舞台の中で披露された楽曲や、昨年開催された「ヒプステ」初のライブ公演「-Battle of Pride-」の主題歌、「ヒプステ」では初のリーダー6人による新曲が収録されている。音楽ナタリーでは「Turn up the Stage」の魅力や聴きどころを、音楽ライター・高木“JET”晋一郎のレビューを通して紐解く。また特集の後半には主要の6ディビジョンのリーダー役を務める高野洸、阿部顕嵐、安井謙太郎、鮎川太陽、荒牧慶彦、廣野凌大のコメントを掲載する。
文 / 高木“JET”晋一郎
遠心力を増すヒプノシスマイク
音楽原作キャラクターラッププロジェクト「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」。2017年9月のプロジェクト始動から、その中心軸としてプロジェクトを牽引してきた原作CDシリーズでは、声優キャストが演じるキャラクターがラップする楽曲と、ドラマトラックによって物語が展開している。声優キャストのラップやCreepy Nuts、Dragon Ash、KREVAなどの豪華な制作陣による楽曲のクオリティの高さが相まって、神奈川・ぴあアリーナMMでのライブ(参照:「ヒプマイ」熾烈なラップバトル繰り広げた7th LIVE初日、DAの生演奏でFinal Battle曲初披露も / まだまだ成長を続ける「ヒプマイ」、全ディビジョンが火花散らした7th LIVEの2日目)や大阪・大阪城ホール公演(参照:ヒプノシスマイク4thライブ初日に□□□とGADORO登場、「どついたれ本舗」誕生 / ヒプノシスマイク4thライブ2日目で熾烈なバトル展開、餓鬼レンジャーや山嵐とのコラボも)を成功させるなど、現在のカルチャーシーンを代表するコンテンツとして成長した。そしてその世界は音源だけではなく、コミカライズやゲームアプリ、アニメ、3DCGライブなどメディアミックスで展開され、その世界観は拡張し続け、遠心力を増している。
6ディビジョンがラップをつなぐ「Rule the Stage wiz 6 mic」
メディアミックス展開の中で、キャラクターや世界観を共通させながら、同時に新たな世界線を提示しているのが、「ヒプマイ」の舞台「『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage」だ。2019年11月にスタートした「ヒプステ」は、原作CDシリーズの声優キャストとは異なるキャストがステージで「ヒプマイ」の世界観を構築するプロジェクト。原作CDシリーズと同様、ぴあアリーナMMなどで公演を行っている。さらに「ヒプステ」だけのディビジョンやキャラクターが登場し、原作CDシリーズとは異なる物語が舞台上で繰り広げられていることでも話題を呼んでいる。“ラップ”が作品の中心になっているのは「ヒプステ」も同様であり、これまで行われてきた公演の中でも数々の音源が制作され、物語を推進し、観客を沸かせてきた。
その音源は「ヒプステ」のBlu-rayやDVDに付属するCDにも収録されてきたが、その中で未収録だった音源や、新たに録り下ろされた楽曲も含めて構成された、初のフルアルバム「Turn Up the Stage」が4月27日にリリースされた。その中でも注目するべきは、メインとなる6ディビジョンのフロントマンが顔をそろえた楽曲「Rule the Stage wiz 6 mic」だろう。イケブクロ・ディビジョン“Buster Bros!!!”の山田一郎(演:高野洸)、ヨコハマ・ディビジョン“MAD TRIGGER CREW”の碧棺左馬刻(演:阿部顕嵐)、シブヤ・ディビジョン“Fling Posse”の飴村乱数(演:安井謙太郎)、シンジュク・ディビジョン“麻天狼”の神宮寺寂雷(演:鮎川太陽)、オオサカ・ディビジョン“どついたれ本舗”の白膠木簓(演:荒牧慶彦)、ナゴヤ・ディビジョン“Bad Ass Temple”波羅夷空却(演:廣野凌大)の6人が、2ディビジョンずつ登場し、小気味よくラップをつないでいく。原作CDシリーズで言えば各ディビジョンのリーダー役を務める声優キャストの木村昴、浅沼晋太郎、白井悠介、速水奨、岩崎諒太、葉山翔太の6人が歌唱する楽曲「UNITED EMCEEZ -Enter the HEXAGON-」にあたる曲。リリックにも「UNITED EMCEEZ」という言葉があるように、CDシリーズと「ヒプステ」は平行世界でありながらも、そこには接着点が確実に存在することが楽曲からも感じられる。トラック的にも、ダン・ハートマン「Relight My Fire」を想起するようなリフが印象的なディスコテイストなビートに、アップリストしていくサビというポップな楽曲となっており、アルバムの大団円を感じさせる1曲だ。
ディビジョン、ユニットごとに表情豊かな楽曲
また、原作CDシリーズでもそれぞれのディビジョンごとに楽曲のテイスト、音楽的なアプローチの違いがあったが、それはこの「ヒプステ」のフルアルバムを通しても感じとることができるだろう。まずイケブクロは原作CDシリーズと同じように、80年代のラップを感じさせるようなオールドスクールなスタイルが印象的で、イケブクロの楽曲「Counterfeit Busters」はヒップホップの黎明期にリリースされたThe Treacherous Three「Feel the heartbeat」や、ヒップホップの古典映画「Wild Style」で使用された「Down by Law」を意識させるようなビート上で3兄弟がタイトなラップをつないでいく。ヨコハマの「Trigger Off」は“横浜のヒップホップ”の1つのカラーであるGファンクやウェッサイスタイルのサウンドで、3人がタフなシンセビートと拮抗するような力強いラップを提示している。
一方でシブヤの「Trap Of “Fling”」は、ヨコハマとは対称的な縦ノリのスクエアビートと、キャラの立ったラップでカラフルなサウンドアプローチを楽曲に落とし込む。シンジュクの「Blast Wolf」はハードさとポップさが代わる代わる展開する楽曲で、スリリングな聴き応えに仕上がっている。
トークボックスで始まる「オオサカ24金マジック」は、パンジャービーMC「Beware feat .Jay-Z」を思わせるリフに、キックとベースが同じ音で構成される、いわゆるベースミュージックの手法で作られた楽曲で、そこに吉本新喜劇のセリフまで入ってくるコテコテな構成に。ナゴヤの「B.A.T Strike Back Against」は、バンドサウンドが中心になったロッキッシュなビートへスクラッチが絡み合い、そこに3人が言葉を刻み込むという、00年付近のミクスチャーを想起させるような王道スタイルが心地よいナンバーになっている。
「ヒプステ」のオリジナルディビジョンであるアカバネ・ディビジョン“North Bastard”は、今っぽい不良性感度の高いメンバーのビジュアルとも通じる、TRAP以降のダークかつハードなトラックに、言葉を吐き捨てるようなラップとの組み合わせが印象的な仕上がりに。同じく「ヒプステ」オリジナルディビジョンであるアサクサ・ディビジョン“鬼瓦ボンバーズ”は、三社祭を感じさせるような「セイヤ! ソイヤ!」というかけ声に、和楽器や和太鼓を取り入れた、ジャパニーズトライバルな楽曲でオリジナリティを表現した。また、アルバムにはアカバネとアサクサがタッグを組んだ、KEN THE 390制作による「Guess Who‘s Back」も収録。「ヒプステ」のオリジナルキャラクター・道頓堀ダイバーズはイケブクロと同様、カーティス・ブロウ「The Break」などのオールドスクールをオマージュしながら、トラックはブレイクビーツではなく、マン・パリッシュやMantronixといったエレクトロファンク方面のオールドスクールヒップホップなことも興味深い。そして同じくオリジナルキャラクターの糸の会のナンバー「幸福世界・粘糸」はズブズブとリスナーを惹き込むようなアバンギャルドな作風で異彩を放つ。
ほかにもメインの6ディビジョンが集結した「Hypnosis Delight +」や「Battle of Pride」、2月に東京・TOKYO DOME CITY HALLで千秋楽を迎えた「『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage -track.5-」で披露された「Shout Out to the Revolution -Rule the Stage track.5」など、全15曲で構成された「Turn Up the Stage」。これまでの「ヒプステ」を振り返るためにも、今夏に上演される新作公演「『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage -Mix Tape1-」「『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage -Rep LIVE-」、そして9月に始まる「ヒプステ」の“次章”に向けて期待を高めるためにも、本作で改めて「ヒプステ」の音楽を聴いていただきたい。
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ディビジョンリーダー6人のキャストコメント