プレイヤー人口1億人を超えるRiot Gamesのオンラインゲーム「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」の世界を描いた全9話のNetflixアニメシリーズ「Arcane アーケイン」。11月20日に最終章となる第7~9話の配信がスタートした。
「Arcane」の舞台は、科学力で繁栄する進歩的な都市・ピルトーヴァーと、その下層に位置するディストピアのような地下都市・ゾウン。2つの都市の確執が再熱したことをきっかけに、大きな渦に巻き込まれていくヴァイとパウダー(ジンクス)の姉妹の運命が描かれている。本作には吹替キャストとして上坂すみれ、小林ゆう、花江夏樹らが参加。サウンドトラックにはImagine Dragonsやスティング、プシャ・Tといった世界的アーティストが名を連ねている。
ナタリーではコミック、映画、音楽の3ジャンルで「Arcane」を特集する横断企画を実施中。第3弾となる今回は、名だたるアーティストとともにサントラに参加し、声優キャストとしても本作に携わっているMIYAVIにインタビューした。2人の娘を持ち、ヴァイとジンクスの生き様に「感情移入しまくりました」というMIYAVIに、楽曲に対する思い入れや「Arcane」のテーマの1つである「ガールズパワー」についての自身の見解、英語と日本語の両方で声優に挑戦した手応えなど、たっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 黒田隆憲
父親としての株も上がる(笑)
──まずはMIYAVIさんが「Arcane」のサウンドトラックに参加することになった経緯からお聞かせいただけますか?(参照:MIYAVIが「リーグ・オブ・レジェンド」アニメシリーズの音楽に参加、サントラ配信決定)
アメリカの僕のマネージメントから「Riot Gamesさんとやりとりをしている」という連絡が入って。Imagine Dragonsやスティング、プシャ・Tなどそうそうたるアーティストが参加するサントラに、「MIYAVIもどうか?」というお話をいただいて。二つ返事で引き受けました。
──MIYAVIさんご自身は、ゲームはお好きですか?
子供の頃は「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」「ストリートファイター」など夢中でやっていましたね。ただ、やり始めるとゲームって時間を取られるじゃないですか。数年前、映画の撮影でロンドンにいたときに娘たちと「フォートナイト」をちょっとかじったんですけど、時間を忘れて熱中してしまい、「これは危ない」と思ってすぐ止めました(笑)。コロナ禍になってからゲームを解禁したのですが、Riot Gamesの「VALORANT」というゲームに娘ともども爆ハマりしまして(笑)。同じRiot Gamesが手がける「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」のアニメに今回関わることになり、アーティストとしてだけでなく父親としての株も上げられるんじゃないかと(笑)。
──なるほど(笑)。
いよいよeスポーツがオリンピックの公式競技として扱われることになりましたが、それによりスポーツの定義が見直されたと思うんですね。何をもってスポーツなのか。例えば、同じスポーツでもサッカーとアーチェリーだと体力の消費量は違う。同時に、eスポーツ、ひいてはゲームそのものが文化として成熟し、重要なコミュニケーションツールであることも広く認知されたと思うんですよね。メタバースの中で人と人とが出会うってすごく未来的だし、そこに新たな可能性を感じます。
──では、「Arcane」の魅力はどんなところにありますか?
まずは、やはりメディアミックスとしての面白さですよね。これまであった小説や映画、音楽などのディメンションに、新たに“ゲーム”という要素が加わったことによって、その作品世界の中に僕らプレイヤーが登場人物の1人として参加することができるようになった。これってすごいことだと思うんですよ。ある意味ではバーチャルリアリティに近いものがありますよね。没入していくというか。そこで繰り広げられる物語の痛みや喜びを、さらにリアルに感じられる。そこも含め、作品自体のエンタテインメントとしてのあり方自体が非常に新しいし、そこが最大の魅力かなと思います。
──確かに。今までさまざまな映画や小説に触れてきて、「ああ、この作品世界の中に住むことができたらいいのに」と思うことも何度かあったのですが、ゲームという媒体を通してついにその夢も半分叶ったような気がします。
そうなんですよ。住めちゃうんです! そこが非常に危険なのでハマりすぎないよう注意が必要ですね(笑)。
娘たちに言い聞かせたこと
──物語は、メインキャラクターであるヴァイとパウダー(ジンクス)という姉妹の関係性が軸になっています。2人の娘がいるMIYAVIさんとしては、感情移入する部分もありましたか?
感情移入しまくりでした(笑)。娘たちと一緒に作品を観たのですが、2人とも泣いていましたね。実際、彼女たちのキャラクターも、ヴァイとジンクスみたいなんですよ。長女の愛理はバキバキにトムボーイ(お転婆やボーイッシュの意)で、自分の意見をはっきり言うし責任感も強く、こうと決めたらとことんやるタイプ。僕にちょっと近いですね。次女の希理はどちらかというと妻のmelody.に似ていて、おおらかでポジティブなハワイアンという感じ。バレエをやっていて絵も描くからアーティスティックな部分もあって、そういうクリエイティブなところもジンクスに似てる。
──作品ではヴァイとジンクスの気持ちにすれ違いが生じて……他人事とは思えなくなりそうですね。
「Arcane」で描かれている物語は、僕たちの世界でも起こりうると思うんですよ。大きな格差のある社会、みんなより明るい未来を探してもがいてる。誰しも自分なりの正義を信じているがゆえに、その思いがどんどんすれ違ったり絡まったりして、結果的に誰も望んでいない事態を引き起こしてしまう。そのもどかしさ、切なさというものは、観ていて本当に胸を締めつけられるような気持ちでした。観終わったあと、娘たちには「ちゃんとコミュニケーションを取ること」を改めて言い聞かせましたね。この不確かな世界において、友人でも恋人でも、たとえ家族であったとしても何が起きてもおかしくない。そんな中で、常に対話をして、すれ違いや心の摩擦はなるべくなくしていくことが、健全な人間関係を構築していくうえでとても大切なことだと僕は思うんです。
──時の流れとともに人の心が変わっていくのは当然で、だからこそお互いの関係性をよりよいものにするためには日々の“メンテナンス”がとても大事だと僕も思います。
めちゃくちゃ大事です。ちょっと話は逸れますが、現代のコミュニケーションにおいては、文脈や行間を読み解くことってめちゃめちゃ重要だし、そのスキルが常に問われていますよね。会って話したり電話でやり取りしたりする以外にも、メールやラインなどテキストでのコミュニケーションもものすごく増えている。そこで自分の気持ちをどれだけ伝えられるか、逆に相手の気持ちをどれだけ受け止められるかはとても大事なこと。
──人と直接会うのが難しくなってしまったコロナ禍ではなおさらです。
テクノロジーが発達して、ステイホーム中でも僕らはそれこそ地球の裏側にいる人とも気軽にやり取りができるようになりました。今や絵文字やスタンプの使い方でも、気持ちのニュアンスが伝えられるわけですから(笑)。なのに、そういうことはまだ学校では教えてもらえないのはもどかしいなと思っていますね。
──また、作品中のピルトーヴァーとゾウンという2つの世界の描き方は、世界中にある格差や貧困問題のメタファーだと思います。難民問題に深く携わっているMIYAVIさんは、まさにそうした問題を目の当たりにすることも多いのではないかと。
おっしゃるように、本作はそういった諸問題を鮮明に表現していると思いました。ピルトーヴァーとゾウンに象徴される格差や貧困は、この現実世界でも日々感じることです。今、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の親善大使を務めさせてもらっていますが、世界中の難民キャンプで見る景色と、東京やロサンゼルスで見る景色はやっぱり全然違う。今一緒に仕事をさせてもらっているGucciとの仕事(MIYAVIは広告キャンペーン「Gucci Off The Grid collection」に日本人アーティストとして初めて選ばれ、昨年6月よりブランドアンバサダーを担当している)でも、そういった部分はすごく意識しながら活動させてもらってるし、Gucci自体も難民問題や環境問題に非常に強い関心を寄せて、問題解決のための活動も積極的に行っています。世界中で格差は広がる、その要因も白か黒かではっきり分けることはできない。黒にも白にも、それぞれにグラデーションがあるんですよね。物語のキーとなる“ヘクステック”技術にしても、なぜこの力を発明し何のために使おうとしているのか、登場人物それぞれの思惑がある。いろんな国、人の思惑が入り混じっている現実社会も同じ。そこは深く考えさせられました。
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ギターで伝えるガールズパワー