メンバー3人を意味する「III」(さん)と名付けられた本公演のチケットは即日ソールドアウト。羊文学は満員の横浜アリーナにバンドの歴史を刻むように、2時間にわたるステージで新旧織り交ぜた全17曲を熱演した。
満員の横浜アリーナ、3人で鳴らした轟音
定刻を少し過ぎた頃、数年前まで羊文学のオープニングSEとして使用されていたThe xx「VCR」が優しく鳴り響き、この1日が特別なものになると確信したであろうファンたちの高揚感で場内は満ちていく。1万2千人分の拍手と歓声に迎えられた羊文学がスローナンバー「予感」で轟音を鳴らし、高らかにライブ開始の狼煙を上げると、ステージ後方の巨大モニターには「III」の文字が映し出される。羊文学は塩塚モエカ(Vo, G)のノイジーなギターを合図に「Addiction」で演奏を一気に加速させると、「踊らない」「ロマンス」といったインディーズ時代の楽曲を満員の横浜アリーナに力強く響かせた。次に披露されたのは、バンドの名を音楽シーンに広く知らしめた2018年発表のクリスマスソング「1999」。イントロから歓声の上がったこの曲では、観客たちが両手を掲げたり、ともに歌ったりと3人の演奏を全身で楽しんでいた。
場内を彩る美しいライティングや、ダイナミックなカメラワークなど巨大モニターを用いた映像演出が目を引いた本公演。その中でぼんやりと灯る照明のもと披露された「若者たち」もハイライトの1つだったと言えるだろう。音楽ナタリーが昨年行った最新アルバム「12 hugs (like butterflies)」のインタビューで、河西ゆりか(B)は「大きなステージに立っても初心を忘れないように、羊文学としての柱をしっかり立てたい」と本公演に臨む心境を語っており、インディーズ期の楽曲である「若者たち」をこの大舞台で3人だけでじっくりと演奏する姿からは、河西の言うバンドの“初心”を十分に感じ取ることができた。
「皆さんの希望になれたら」
塩塚は満員の客席を眺めながら「高校生のときにバンドに誘われて。ミュージシャンになりたくてバンドに入って12年経ちました」「『III』というタイトルで、3人でこの日を迎えられて……みんながいたから迎えられました。ありがとう」と感慨深そうに語る。河西はライブに携わるスタッフに感謝を伝えたのち「今まで聴いてくれた皆さんと、今日も来てくれた皆さん、そして今日は来れなかったけどいつも聴いてくれている皆さん、本当に本当にありがとうございます」とオーディエンスに呼びかけた。羊文学は開放的なバンドサウンドがさわやかな空気を生む「永遠のブルー」でライブを再開すると、ファン人気の高いインディーズ期のレア曲「恋なんて」、壮大な楽曲展開がドラマチックな「光るとき」などをパフォーマンス。真っ赤なライトを浴びながら「FOOL」をエモーショナルに披露してステージをあとにした。
アンコールで羊文学が再びステージに現れると、会場は万雷の拍手と歓声で包まれる。その光景を見た塩塚は思わず涙し、言葉を詰まらせながらも「自分の人生じゃないみたいだな、と思いました。こんなに広いのにみんな1人ひとりが側にいるような気がして。私たちを観に来てもらったのは間違いないんだけど、みんなに支えられたって感じがずっとしていて。ここまで応援してくれて本当にありがとうございます」とコメント。この日初めて口を開いたフクダヒロア(Dr)はバンドの歩みを振り返りつつ、「皆さんの希望になれたらいいなという思いです。『こんなダメな大人もいるんだよ』ということを知っていただいて。気軽に音楽を聴いて生活を過ごしていただきたいです。いつでもライブに来てください。ありがとうございます」と自身の思いを語った。最後は河西が「気をつけて帰ってください」と笑顔で呼びかけると、3人で「夜を越えて」を力強く届け、大盛況の中で初の横浜アリーナ公演を終えた。
現在Apple Music、Amazon Music、Spotify、LINE MUSICでは、本公演のセットリストで構成されたプレイリストを公開中。
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セットリスト
「羊文学 LIVE 2024 “III”」2024年4月21日 横浜アリーナ
00. 予感
01. Addiction
02. 踊らない
03. ロマンス
04. 1999
05. honestly
06. mother
07. GO!!!
08. 人間だった
09. 若者たち
10. マヨイガ
11. 永遠のブルー
12. 恋なんて
13. OOPARTS
14. more than words
15. 光るとき
16. FOOL
<アンコール>
17. 夜を越えて
Takeshi Urayama @urayama
【ライブレポート】羊文学、満員の横浜アリーナに響かせた3人の轟音「自分の人生じゃないみたいだ」 https://t.co/RcfJ6Dv1X1