伊織(からし蓮根)

私と音楽 第41回 [バックナンバー]

からし蓮根 伊織が語る西野カナ

“恋愛の教科書”から“人生の教科書”へ

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各界の著名人に愛してやまないアーティストについて話を聞く連載「私と音楽」。第41回となる今回は、お笑いコンビ・からし蓮根のボケ担当、伊織に西野カナについて語ってもらった。

西野は2019年2月に活動を無期限で休止し、今年6月に活動再開を発表(参照:西野カナが活動再開、新曲リリース&横アリワンマンに「毎日ワクワクしています!」)。5年以上の時を経ての活動再開は多くのファンを驚かせたが、伊織も突然の報せに驚いたファンの1人だ。念願の活動再開を知ったとき、彼は何を感じたのか。そしてこの5年間、どのような思いを胸に過ごしていたのか。西野カナへのほとばしる愛を思う存分語ってもらった。

取材・/ 石井佑来 撮影 / 塩崎智裕

みんな同じ気持ちで待ってたんやな

活動再開を知ったときですか? それはもうひたすら泣きましたよ。めちゃくちゃ泣いてました。京セラドームでホークス対オリックスの試合を観ていたら、急に西野カナさんのXアカウントから通知が来たんです。今年に入ってからもミュージックビデオ公開とか新グッズ発売のお知らせとか、Xはちょいちょい更新されていたから「今回はなんだろう?」と思って見たら、まさかの活動再開で。見た瞬間に「うわ‼︎」って大きな声が出ましたね。試合そっちのけであそこまで泣いてたの、ドーム中で僕だけだったんじゃないかと思います(笑)。それこそ新しいグッズが出たり、15周年のときに本人からのメッセージが公開されたり、いろいろ動きはあったから「いつか復帰するやろうな」とは思っていたけど、まさかこんなにすぐだとは……びっくりですね。

5年前に活動休止が発表されたときは、もちろん悲しい気持ちもありましたよ。でも、何より本人が幸せなのが一番じゃないですか。「旅行が好き」というお話をよくされていたけど、めちゃくちゃ忙しかっただろうから、行くチャンスもあまりなかったと思うし。「カナやんが幸せなら僕らはそれだけで大丈夫だし、いつでも待ってますよ」という気持ちで送り出したんです。活動休止後に結婚を発表されたときも、生放送中にめちゃくちゃ泣きました。結婚の報せを聞いて「うわっ!」と思ったそのテンションのまま収録が始まったから、うれしさのあまりつい泣いちゃって(笑)。それぐらい、僕らファンはカナやんの幸せを願っているんです。

伊織(からし蓮根)

伊織(からし蓮根)

でも、活動再開に対するファンの皆さんの反応を見ると「やっぱりみんな同じ気持ちで待ってたんやな」と思いますね。しかも、活動再開だけじゃなくて新曲リリースとワンマンライブ開催の発表もあったから、頭の整理が追いつかなくて1回呼吸ができなくなりました(笑)。とりあえずマネージャーに「すいません、ライブの日だけはオフにしてください」という連絡はすぐにして。9月に発売されるEP「Love Again」もすぐに予約したし、新曲「EYES ON YOU」がリリースされるときは配信が始まる5分前にアラームをセットしました。

新曲がリリースされると知ってからずっと「どんな曲になるんやろ?」と気になっていたんですよ。活動休止前はけっこう重めの恋愛ソングが多かったから、結婚されてお子さんも生まれて、どういうふうに変わっていくんやろ?と思っていたんです。でも、いざ新曲を聴いたら5年前と全然変わってなかった。それがめちゃくちゃうれしくて、曲を聴いてまた泣きました。ご本人も「激重です」とコメントされてましたけど、確かにこれは重めやな……と思います(笑)。もちろんそれ以外もたくさんあるけど、やっぱり激重の恋愛ソングこそが西野カナさんの真骨頂だと思うので。

西野カナ「EYES ON YOU」ミュージックビデオ

高校生からカナやんひと筋

僕が西野カナさんを好きになったのは2011年、自分がまだ高校生の頃でした。僕の地元・熊本にツアーで来ていて、その公演のチケットを取っていた友達が誘ってくれたんです。それまでも「会いたくて 会いたくて」とか代表的な曲は聴いたことがあったけど、正直、西野カナさん自体に特別な感情は特に持っていなくて。ライブも「その日は空いてるし、まあ行ってみようかな」ぐらいの感覚でした。それが、ライブを観て一発で大好きになってしまったんです。とにかく歌がめちゃくちゃうまくて。生歌を一度聴いたら、みんな好きになると思いますよ。あと、カナやんのことを深く知らなくても「どっかで聴いたことあるな」という曲がすごく多い。だから初心者でも楽しめるんです。お客さんが参加できるような演出がたくさんあったり、本人が客席近くまで来てくれたり……とにかくみんなライブに行ってみてほしいです。そもそも自分は人生初のライブが、そのカナやんのライブで。だから余計にのめり込んでしまった。当時はAKB48ブームの真っ只中で、周りの男子はみんな「AKBで誰が好きか」を話していたけど、自分はその頃からずっとカナやんひと筋でした。

伊織が所有している、西野カナのグッズやCDなど。

伊織が所有している、西野カナのグッズやCDなど。

それからも大阪城ホールや京セラドームをはじめ、いろんな会場にライブを観に行ったけど、どこもお客さんは女性ばっかりなんですよ。それで心が折れそうになることもありました(笑)。あと、アリーナ席が当たってしまったときは、ちょっと申し訳ない気持ちになりましたね。僕は身長が187cmあるので、後ろの人の視界を完全に塞いじゃう。でも、立って楽しみたい気持ちもあるじゃないですか。だから間を取って中腰で、なるべく後ろの人の邪魔にならない体勢で観るようにしてました(笑)。

恋愛において大事なことは、すべてカナやんに教えてもらった

女性からの支持が圧倒的に強いけど、男からするとカナやんの曲は学ぶことが多いんですよ。僕はカナやんの書く歌詞を、本当に“恋愛の教科書”だと思ってますから。カナやんの曲はよく「重い」と言われるけど、その“重い女性の曲”をずっと聴いてきたおかげで、それが自分の中で基準になっているんです。「こういう思いはさせないようにしよう」と思って女性に接するようになるから、めちゃくちゃまめになる。恋愛において大事なことは、すべてカナやんの曲に教えてもらったし、実際、カナやんの曲を聴くようになってから、恋愛がうまくいくようになったんです。むしろ「え、そこまでしてくれるの?」と思われることのほうが多いくらいで。例えば「トリセツ」なんかは本当に取説として勉強になりますからね。男からしたら「重い」と思うかもしれないけど、そこに大事なことが詰まってる。この曲は、いろんな人にアンケートを取って、その回答をもとに書いたらしくて。だから世の中の女性の考えてることが、実際に反映されているんです。

伊織(からし蓮根)

伊織(からし蓮根)

例えば「Darling」の冒頭の歌詞「ねぇ Darling ねぇ Darling またテレビつけたままで スヤスヤ どんな夢見てるの? ねぇ Darling 脱ぎっぱなし 靴下も裏返しで もー、誰が片づけるの?」。これを聴いたら、こういうことはしないでおこうと思うじゃないですか。それが自分のまめさにつながる。一方で、カナやんの曲に出てくる女性が好きすぎるあまり、同じことを思われたいという気持ちもあるんですよね(笑)。やりすぎたら怒られるのはわかってるけど、カナやんの曲に出てくるシチュエーションを自分も体験してみたくなっちゃう。「Darling」には「嫌よ嫌よも好きのうち」という歌詞もあるので、それを聴いて「なるほどなー」と思ったり。とにかく教えてもらうことばかりです。「あなたの好きなところ」という曲のミュージックビデオが、トランプ1枚1枚に恋人の好きなところを書いてめくっていくという内容なんですけど、それを真似したこともあります。観た瞬間に「これだ!」と思って(笑)。だから本当に自分の人生や行動に大きな影響を与えられているんです。

西野カナ 『あなたの好きなところ』MV(Short Ver.)

「Happy Time」を聴くのがルーティン

好きな曲は本当にたくさんあるので選ぶのが難しいですね……。「好きな人ができたときはこの曲がグッとくる」「遠距離恋愛しているときはこの曲が刺さる」とか、自分が置かれている状況によって聴きたくなる曲が変わってくるんですよ。学生時代は「Best Friend」をよく聴いていたし、大阪に出てきたときは「Together」をリピートしていました。離婚したときは「Rainbow」とか「Stand Up」をずっと聴いて、元気をもらってましたね(笑)。有名な曲ももちろんいいけど、個人的にアルバム曲とかシングルのカップリング曲に好きなものが多くて。「Dear Santa」「バスタイム・ソング」とか、どれもかわいくて、聴くだけで元気が出ます。「M-1」の予選みたいな大事な仕事の前は、必ずカナやんの曲を聴くようにしていて、中でも「Happy Time」を聴くのがルーティンになっています。この曲を聴くと「よし、がんばろう」って思えるんですよね。すごく士気が上がります。ほかにも、単独ライブの客入れのBGMを全部カナやんの曲にしてもらったり、出囃子に使わせてもらったり、仕事にもカナやんの要素を入れ込ませてもらってます。

実は僕、西野カナさんの活動休止中に吉本から曲をリリースしたんですよ。「私の好きになった大きな人」という曲なんですけど、歌詞を自分で書いていて。カナやんみたいな曲にしたいと思ったので、やけに具体的な描写を入れてみたり、作詞の手法はだいぶ真似させていただきました。カナやんの曲は主人公の女性の目線で描かれたものが多いと思うので、その目線の定め方もオマージュさせてもらっています。

からし蓮根伊織「私の好きになった大きな人」【unofficial】MV

念願の西野カナとの初対面

一度だけ西野カナさんにご挨拶させていただいたことがあって、そのときのことは強烈に覚えています。一時期、レギュラー出演していたラジオ番組で西野カナさんの曲を毎週かけていて。たまたま局に来ていたソニーの方がそれを聴いて「好きなんですか? 私担当なんでよかったらライブにご招待しますよ」と言ってくださったんです。招待だったので、初めて関係者席で観させていただいたんですけど、グッズTシャツを着て、ペンライトとタオルを持って浮かれてるのは僕だけでした(笑)。

で、そのライブのあとに初めてご本人にお会いして、ご挨拶させてもらったんですけど……もう、めちゃくちゃ優しくて。初めて会う僕なんかにも普通に接してくれたのがすごく印象的でした。僕はほとんど何もしゃべれなかったんですけど、「本当にずっと大好きで」というのと「NGK(なんばグランド花月)で単独ライブをするときはゲストで出てください」とだけお伝えしました。そしたら「ぜひ!」と言ってくれて、それもめちゃくちゃうれしかったですね。同じ会場での次の日のライブも自分でチケットを取っていたので、次の日は一般席で思う存分はしゃぎました(笑)。お会いしたのはその1回だけなんですけど、一度だけ僕らがやってるラジオにメッセージを送ってくださったことがあるんです。アルバムリリースとライブ開催の告知を兼ねてのメッセージだったんですけど、めちゃくちゃうれしくて。そのときの音源はいまだに大切に取ってあります。

銀テープやコラボカフェのオリジナルコースターなど、貴重なコレクションも。

銀テープやコラボカフェのオリジナルコースターなど、貴重なコレクションも。

これからは“人生の教科書”へ

改めて復帰してくれて本当によかったです。活動休止する前と今とじゃ音楽を聴く環境とか、流行りのアーティストとかも変わっていると思うけど、西野カナさんはなんていうか、すごく“強い”から、まだまだファンが増えると思うんですよ。カナやんのことが好きな人はそう簡単に離れていかないと思いますし。みんなカナやんと一緒に人生を歩んでいっているような気がするんですよね。10代の頃からファンで、今はお子さんがいらっしゃるという方もたくさんいると思うけど、カナやんもこれから、お母さん目線の曲を出すかもしれないじゃないですか。今までは恋人について歌った曲が多かったけど、これからは夫婦の関係を歌った曲とかも作られそうですし。カナやんの手にかかれば、旦那さんへの愚痴だって曲になると思うんですよ。それを聴いて世のお父さんたちがどう思うんやろう、というのもまた楽しみです(笑)。今までは恋愛の教科書として、カナやんの曲を聴いてきたけど、これからはもっと広く“人生の教科書”になるんじゃないかなって。それがすごく楽しみです。

あ、最後に1つだけいいですか? カナやんのスタッフさんに1個だけお願いがありまして……もし可能でしたら、グッズTシャツのサイズをXLまで用意してもらえないでしょうか。僕のこの体だとLサイズは小さいんですよね……。僕以外に買う人がいるかはわからないですけど、少なくとも僕は絶対に買うので、検討してもらえるとうれしいです。とりあえず、11月の横アリ公演までにはがんばって痩せようと思ってます(笑)。

伊織(からし蓮根)

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プロフィール

伊織(イオリ)

1993年生まれ、熊本県出身のお笑い芸人。2013年に高校の同級生である杉本青空とお笑いコンビ・からし蓮根を結成し、2019年に「ytv漫才新人賞決定戦」で優勝。同年の「M-1グランプリ」で決勝進出を果たした。現在単独ツアー「火の国MAKE UP」を行なっており、8月11日に大阪・よしもと漫才劇場にて最終公演を開催。9月から10月にかけては、静岡、宮城、愛知、埼玉にて単独ツアー「火の国CHANCE」を実施する。熊本朝日放送では毎週火曜深夜に冠番組「カラシコンボ」を放送中。

からし蓮根 伊織 (@karashi_iori)・X

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