「敵」主演の長塚京三、50年のキャリアで「初めて自分の姿、声に感動しました」

映画「敵」の舞台挨拶付き先行プレミア上映会が本日12月11日に東京・テアトル新宿で開催され、キャストの長塚京三、瀧内公美、河合優実、黒沢あすか、監督の吉田大八が登壇した。

筒井康隆の同名小説を映画化した本作は、妻に先立たれた元大学教授・渡辺儀助のもとに「敵がやって来る」という不穏なメッセージが届く物語。長塚が儀助を演じたほか、瀧内が清楚で妖艶な魅力を持つ教え子の鷹司靖子、黒沢が死んでなお儀助を支配する妻・渡辺信子、河合が儀助を翻弄する謎めいた大学生・菅井歩美に扮している。

第37回東京国際映画祭のコンペティション部門にて、東京グランプリ / 東京都知事賞、最優秀監督賞、最優秀男優賞の3冠を達成した本作。河合・黒沢から花束を受け取った吉田は「東京近郊の街の小さな家の中でコツコツ作っていた映画が、あんなに華やかな場所で褒めてもらえるなんて。映画にはこういう夢があるんだなと、改めて思いました」としみじみ口にする。長塚は「（授賞式の会場で）並んで座っていた監督と飛び跳ねました。出演した自分が言うのもおかしいですが、50年この仕事をやってきて初めて、自分の姿を見て自分の声を聞いて感動しました。おとなげないですが、いい気なもんですね」とほほえんだ。

筒井の20年ほど前の姿を思い浮かべながら脚本を執筆したという吉田。初稿ができたあとに長塚のキャスティングを思い付き、オファーに至った。長塚は「かねてから、歳を取って人生を閉じていく人間の役をやる責任があるんじゃないかなと思っていました。また、コロナ禍で役者としての活動を終えるのを余儀なくされるかもしれないと考えていた矢先（のオファー）でしたので、喜んでお受けしました」と明かした。

自身の役柄について瀧内は「鷹司靖子は、実在はしていながらも儀助にとっての理想像のような女性。彼の後ろめたさや、隠蔽したくなるようなことを発現させる女性でもあります。そのキャラクターのイメージは大八さんからいただいたお言葉をもとに作っていきました」と回想する。吉田は「自分が口に出すのはおこがましいかもしれないですけど、儀助の世代にとってのアイコンとして原節子さんのイメージだとお伝えしました。衣装を着た瀧内さんがカメラの前に立った瞬間に、スタッフ全員息をのみました」と、瀧内の存在感を称賛していた。

黒沢は出演が確定する前に行われた吉田との面談を回想し「どうしても、儀助と信子の浴室でのシーンだけはやりたいと思っていました。現在若くはない私がそのシーンを長塚さんとご一緒することで、若いときとは違う形で表現ができる期待感があったんです」と脚本への思い入れを語る。実際に演じることになった信子に関しては「亡き妻ということで、演じるにあたって幽霊であることを意識したほうがいいのかお聞きしましたが、監督からは『ごく普通に演じてください』と言われました」と伝えた。

河合は「長塚さんの目や体からにじみ出るものを受け止めて、すごく集中力を使った1日でした。完成した作品を観ると、映画の主人公としてもとても魅力的でしたし、長塚さんのお芝居・表現に感動して、素晴らしい役者さんとご一緒できていたんだなと思いました」と撮影を振り返る。長塚は彼女たちとの共演について「緊張しましたがすごくいい勉強をさせていただきました。力のある女優さんたちがぶつかってくるわけですから、受け止めるのに一生懸命で（笑）。素晴らしい共演者たちと恵まれた環境で芝居させていただいて、監督どうもありがとう」と感謝する。吉田は「長塚さんがそれぞれの女性たちと接しているときの表情が、全部ちゃんと違うことに感動しました」と述懐した。

最後に長塚は、観客に「ゆっくり楽しんでください。そして、どこかでお会いしましたら、僕に感想を言ってみてください」と呼びかけ、イベントの幕を引いた。

「敵」は1月17日よりテアトル新宿ほか全国で公開。

映画「敵」予告編